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33 謁見の間で






 エメリーは宝石を散りばめた様な光が点々と広がる漆黒の闇にいた。


 ああ、これはマイケルと空を飛んだ時に見た景色だ。宝石の様に点々と広がっているのは街の灯りで、マイケルが選んでくれた黒のドレスはこの景色のイメージだって言ってた。

 ほら、向こうにはキラキラと光る空間が広がっている。マイケルがあれは雪と氷だって言って、そこまで連れて行ってくれた。あんなに積もった雪は初めて見た。

 あの時はそう、少し寒かったみたいでくしゃみが出た。風邪かもしれない、風邪なら明日は何もできないよ、ホテルで暖かくしてなくちゃいけない、ってマイケルは意地悪なこと言ってた。でも、お花が浮かぶお風呂で暖めてくれたから大丈夫だったんだ。

 でも…あれっ?

 どうしたんだろう?

 マイケルはどこにいるんだろう?

 すごく寒い。何故だろう?私、ブルブルって震えてる。

 マイケル、寒いよ。暖めてよ。寒い、寒いよ。

 マイケル。どこにいるの?返事してよ。

 マイケル…。ねぇ、マイケル。


 …どこ?

 



 


*** *** *** ***





 エメリーが漆黒の闇にいる間に、全ては終わっていた。



 今回の事件を公にしたくない、と国王陛下は仰って、最小限の人数でレイモンド達に立ち向かう事になったが、それが功を奏した。部隊を動員していたら、レイモンドは今回の策を見抜いていたかもしれない。


 全てはマイケルが体を乗っ取られながらもショーンに送った情報のおかげだった。敵の弱点を突き、あっという間に事態を収めることが出来た。


 サイモンの考えた策は意表をついて、見事に決まった。 


 レイモンドの誤算もサイモンは読んでいた。レイモンドの知る若い頃のセオドラ王太子は '腰抜けのヘタレ野郎' と呼ばれていたが、国王となった今はレイモンドの想像を超えた魔力の持ち主となっていたのだ。レイモンドはその事を知らなかった。

 

 レイモンドの遺体はセオドラ陛下の力で未来永劫葬り去られた。


 哀れなカラムの遺灰は壺に集められ、故郷のシュメールにある墓所に埋められることになるだろう。


 蘇らされたイザベルとミハエルの魂はアレックスの魔力で拘束された。セオドラ国王は2人の魂の前に跪き、先祖の悪行を真摯に詫びた。2人の魂は新しく作った墓に入る事になっている。墓は王族とその婚約者に相応しい物で、そこで2人の魂は安らかな眠りにつくであろう。


 


 ローズマリーはクインスの手で元に戻った。胸の 'クインス' という赤い文字も浮かび上がった。しかし、元に戻ったローズマリーは半狂乱になった。イザベラとしての記憶も残っていたのだ。


 セオドラ国王はローズマリーを眠らせた。そして、ローズマリーの記憶を消しても良いかとクインスに尋ねた。


 クインスはローズマリーの頬をそっと撫でた。


「ローズマリーは数ヶ月の間、病気で意識がなくなっていたのです。だから、何も知らない。何も覚えていない…ということにしてください。

 …陛下、お願いいたします」


 クインスは国王陛下に頭を下げた。

 頷いた国王陛下は、ローズマリーの上に手を翳した。煌めく力がローズマリーを覆って消えていった。


「明日の朝、目覚めるようにしておいた。ひとまず、ローズマリーを連れてシュメールに帰りなさい。改めて謁見の日を設定し、その時に星の刺青を消そう。お前達2人の婚姻の話は、その時に話そうか。それで良いな?」


 そう言った国王陛下に、クインスは片膝を付いて右手を左胸に当て、泣きながら礼をした。


 ショーンとディックが離れた場所からクインスに祝福の笑みを送った。


 そんな中、エメリーだけがなかなか目覚めなかった。エメリーが強く握りしめていた魔剣はエメリーの手からなかなか取れなかった。マイケルは元に戻っていたのに、エメリーだけが目覚めなかった。


 ミハエルが振り降ろした小さな剣はエメリーの首に突き刺さっていたため、城で待機する様に指示されていた治癒魔力を持つティムがすぐさま呼ばれ、治療をした。


 エメリーの傷は治った。

 急所は外れていたし、騎士服の襟が分厚かったから大した傷ではない、とティムは言ったが、それでもエメリーは目覚めなかった。


 サイモンは体を震わせ泣いていた。


(私のせいだ。私の読みが浅かった。

 エメリー大佐、申し訳ありません)


 サイモンの心を読んだショーンが、サイモンを落ち着かせるように背中をゆっくりと撫でた。


 ディックはサイモンの肩を抱き、大丈夫だから、エメリーは大丈夫だから、と言い続けた。 


 謁見の間にいる皆がエメリーを見つめていた。





 エメリーは漆黒の闇で1人漂っていた。



(マイケル…どこにいるの?

 一緒に小舟に乗って空を飛んでたのに。

 私を置いて、どこかに行っちゃったの?

 あ…。あれっ?

 私、マイケルを魔剣で刺したんだよね。

 元に戻って欲しくて。

 あれっ?魔剣は?魔剣はどこ?持ってない!

 えっ?あんなに握りしめてたのに…。

 ない!持ってないよ!

 私、離しちゃったの?うそだ!離しちゃったの?

 あんなに離すなって言われてたのに。

 どうしよう!ねえ、どうしよう!魔剣がないよ。

 どうしよう…!私、手を離しちゃったんだ)


『エメリー』


(マイケル、私、手を離してしまったの。魔剣がないの。

 ごめんなさい。ごめんなさい。

 離すなって言われていたのに…)

 

『エメリー』


(マイケルの声だ!

 ねぇ、マイケル。ごめんなさい。

 私ね、手を離しちゃったの。ごめんなさい)

 

『エメリー』


(どうしよう。ごめんなさい。

 私が助け出すって決めたのに。

 絶対助けるって決めたのに!

 マイケル。寒いよ。暖めてよ。そばにいてよ)


『エメリー、ゆっくり目を開けて。

 俺は大丈夫だよ。元に戻った。だから、目を開けて。

 俺のエメリー。俺を助けてくれて、ありがとう。

 エメリー、目を開けて。俺を見て』


(本当に?元のマイケルに戻ったの?本当?)


「ほら、大丈夫だから。

 目を開けて見てごらん」


 エメリーはその声を聞いてゆっくりと目を開けた。


 そこは城の謁見の間だった。エメリーはマイケルの腕の中にいて、マイケルの虹色に輝く瞳がエメリーを見つめていた。


「エメリー、俺を助けてくれてありがとう」


 マイケルはエメリーを抱きしめた。そして、ありがとう、ありがとう、と何度も繰り返して耳元で囁いた。

 

 エメリーはマイケルの顔をそっと撫でた。


「マイケル、お帰りなさい」


 エメリーはその他の事を考えるのはやめた。

 今はただ、マイケルの腕の中でマイケルの匂いに包まれて幸せを感じていたかった。





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