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32 光り輝く剣に全てをかけて






 ローズマリーの謁見の日が来た。


 エメリーは目覚めるとカーテンを開け外を見た。雲ひとつない空には赤い月と青い月が輝いていて、鳥の囀りが聞こえる、いつも通りの朝だった。


 エメリーは二つの月に向かって跪き、月の姫君に祈りを捧げた。


(月の姫君、私はマイケルをこの手で取り戻します。どうぞ見守っていてください)

 

 

 何も知らないエレノア姫とアメリア姫は、今日はお母様が1日いらっしゃるのよ、と機嫌がいい。


 エメリーとアレックス爺の代わりに、強い魔力をを持つ王妃ゾーイ様が姫達を護るためにいらっしゃるのだが、2人はそんな事は知らない。はしゃいでいる2人の姫君をエメリーは微笑んで見た。


(姫様、私とマイケルは戻ってまいりますからね。待っていて下さいね)

 

 エメリーはマイケルの部屋に戻り深呼吸をして、微かに残るマイケルの香りを心に纏った。


(マイケル、待ってて。必ず助けるから)


 そして、眩しいほどの光を湛える魔剣を取り出して見つめた。


(私がこの手で、あなたを必ず助け出すから)




 

 スカーレット城の謁見の間に続く廊下は、真っ直ぐに伸びていた。しんと静まり返った廊下は寒かった。


 廊下の角を曲がり、ローズマリーが男にエスコートされて現れた。2人は一瞬見つめ合った。


 ローズマリーは髪を結い上げ、頸の小さな星の刺青を見せていた。胸の大きく開いたドレスから見える素肌には、あるはずの 'クインス' と刻まれた赤い文字はなかった。


 青みがかった銀色の髪を持つ男は愛しげにローズマリーを見て微笑んでいたが、虹色であるはずの瞳はどんよりと曇っていた。


 2人の後ろにはモノクルをつけた男が俯き気味に歩いていた。その男からはうっすらと怪しげな気配が漂っていた。


 そこにサイモン秘書官が現れ、3人の前で礼をした。


「ここから先はセオドラ国王陛下との謁見を許可された方のみが許される場所でございます。お付きの方は別室にてお待ち願います」


 ローズマリーがサイモンを睨む。


「後ろにいるのは、わたくしに長年使えてくれた従者のジェラルドよ。労をねぎらう為に一緒に入ります。わたくしが許可いたしましたけど?」


 サイモンはローズマリーを睨みつけた。


「では、ローズマリー様の隣にいらっしゃる方はどなたでしょうか」


 ローズマリーは、つっと顎を上げサイモンに言った。


「わたくしの婚約者のミハエル。一緒に陛下にお会いして、婚約のご報告を致します。

 あなたこそ誰なの?名乗りなさい」


 失礼いたしました、とサイモンは深々と礼をする。


「自衛軍で秘書官を務めますサイモンと申します。」


 ローズマリーはふんと鼻でせせら笑った。


「秘書官?お前如きに文句は言わせないわ」


 ミハエル行きましょう、とローズマリーは廊下を進んで行く。謁見の間のドアに3人が着くとサイモンが前に進み、お入りください、と礼をした。


 ギギギ〜 


 2名の騎士の手でドアが中から開けられ、そして、閉じられた。


 部屋の中は右も左も分厚いカーテンが降ろされていて薄暗かった。天井からたくさんぶら下げられている大きなシャンデリアは微かな陽の光を受けて輝いていた。


 奥は一段高く、国王陛下と王妃殿下の座る椅子が置かれていて、椅子から少し離れた後ろ側には護衛の騎士が2名立ち、ローズマリー達を見ていた。


 ローズマリーはサイモンに手で示され場所に立ち、ミハエルは一歩後ろに立った。


 ジェラルド殿はこちらで…と言われた場所に立ったジェラルドは国王陛下の座る椅子を睨んでいた。



「国王陛下、自衛軍副司令官ノア殿。入られます」


 サイモンの声が響くと廊下側の扉が開き、セオドラ国王、続いてノアが入室した。セオドラは椅子に座り、ノアは後ろに立った。


 片膝を着き礼をしていたローズマリー達3人は、国王の楽にせよと言う言葉で立ち上がった。


「久しいな、ローズマリー。元気にしていた様だな」


 国王陛下が穏やかにローズマリーに声をかけると、ローズマリーは、お陰様で…と笑った。


「共の2人はジェラルドとミハエル、で合っているな?」


 左様でございます、と答えたローズマリーがセオドラ国王を見ると、国王陛下はくつくつと笑った。


 サイモンは国王陛下に頷くと右手を挙げた。すると、今まで引かれていた分厚いカーテンがスルスルと開き、城の庭に面した窓からは燦々と陽が差し込んだ。反対側の壁は一面の鏡になっていて、シャンデリアとともに陽の光を反射した。


 謁見の間は陽の光で一杯になり、眩しくて目も開けていられないほどになった。そして、足元にある暖房の吹き出し口からは高熱の水蒸気が湧き上がっていた。


 室温は一気にあがった。


 国王陛下やサイモン達はサングラスを胸ポケットから取り出してかけた。


 イザベルとミハエルはあまりの眩しさに身動きが取れずにいた。ジェラルドは眼を両手で隠し唇を噛んだ。


 3人とも茹で釜の中にいる様な暑さに言葉も出ない。


 3人を前にサイモンが語る。


「謁見の間は最近改修工事を致しましてね。太陽の光で溢れているのです。ジェラルド殿を先程ご案内しようとした部屋は今までと同じ部屋でしたのに、こちらを選んでいただいて良かったです。

 あぁ、サングラスはご持参頂いてないのですか?申し訳ありません。予備はありません。

 じつは、ある情報を得ていましてね。皆様はシュメール領に長くお住まいでしたので光と熱に弱いとか…。

 ジェラルド殿、強い光の中ではあなたは身動きが取れませんね。幻術が使えないあなたは私達の敵ではありませんよ。

 室温もどんどん上がって来ましたね。

 これもどうぞ」


 サイモンがまた右手を挙げると、ジェラルドの上にシャンデリアが勢いよく降りて来て、ジェラルドを中に閉じ込めた。シャンデリアはさらに輝き、火の様に熱を帯びてジェラルドの皮膚が焼る臭いがし始めた。


 ジェラルドの叫び声が謁見の間に響き渡った。


 倒れて焼け焦げたジェラルドに代わり、1人の男がシャンデリアの中に現れた。男の額には黒々とした大きな星型の刺青があった。

 ジェラルドの体を乗っ取っていたレイモンドだった。


 レイモンドがカッと目を見開いた瞬間、シャンデリアが粉々に砕け散った。


「ミハエル。何をしているのだ。さっさとやれ!恨みを晴らせ」

 

 茫然として動けなくなっていたミハエルが、魔力で国王とノアに稲妻で攻撃をした。しかし、攻撃は見えない壁にぶつかってミハエルに跳ね返った。

 

 サイモンがくっくっくっと笑う。


「ああ、すみません。そこには壁があるのでした。透明なのです。あなた達が生きていた頃には、そんな物はありませんでしたね。ミハエル殿、残念ですね」


「バカが!秘書官の分際で!身の程を知れ!」


 憤怒で顔の血管を浮かび上がらせたレイモンドがサイモンに手を向け稲妻を落とそうとした。


 するとドアの側に立っていた騎士がさっとシールドを張ってサイモンを護ると、レイモンドに向かって走り出した。


「レイモンド、バカはお前だっ!」


 騎士がサッとセオドラ国王の姿に変わり、聖剣でレイモンドの首を刎ね飛ばした。それは一瞬の出来事だった。


「案ずるな。お前の娘ローズマリーは俺が後見になって幸せを見届けてやる」


 レイモンドの首はコロコロとローズマリーの姿をしたイザベルの足元に転がり、イザベルが怯んだ。


 椅子に座っていた方の国王が片手を前に向けると、爆音と共に透明な壁が砕けた。


 サイモンが大声で叫んだ。


「今だ!」


 国王陛下の椅子の後ろにいた2人の騎士が、腰に刺していた光り輝く魔剣を振り翳した。


「マイケルを元に戻して!」


「ローズマリーを元のローズマリーに戻してくれ!」


 2人はそう叫びながらマイケルとローズマリーの心臓を目掛け魔剣を突き刺した。


 ミハエルは激しく抵抗した。魔剣を引き抜こうとしたが出来ず、エメリーの首を締め始めた。エメリーは耐えた。


 イザベルは眼を見開き、クインスを見て言った。


「下郎があ!」


 クインスは叫んだ。


「元に戻れ、ローズマリー。元のローズマリーに戻れ!」


 サイモンは声の限りに叫び続けた。


「魔剣を絶対に離すな!

 離すな!離すな!」


 その時、エメリーはミハエルの眼を見ていた。くすんでいた瞳が少しずつ虹色に輝き始めた時、エメリーの耳にまたサイモンの叫び声が聞こえた。


「エメリー大佐、手を離さないで。まだです。まだ魔剣は光っている!光を失うまで手を離すな!刺し続けろ!強く刺せ!」


 ミハエルは襟に刺していた飾りを引きちぎって握った。飾りは小さな剣だった。ミハエルはその剣を魔剣を握り続けるエメリーの首筋に勢いよく振り下ろした。


 エメリーは目の前が暗くなった。







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