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31 サイモンの想い



サイモン視点

 






 明日はローズマリーの謁見の日。


 サイモンはいつもマイケル司令官がしているように司令官室の窓辺に腰掛けて、司令官の言葉をを思い出していた。



「エメリーに俺は刺せない」


 マイケル司令官は、はっきりとそうサイモンに言ったのだ。


「俺ならエメリーを刺す。迷わない。エメリーを救えるのは俺だけだって知ってるから。

 でもね、エメリーはそんな事出来ないって言うよ。

 俺に対して自信がないんだ。俺がどんなにエメリーだけを愛してるって言っても、エメリーは不安なんだ。その不安を俺に甘えて誤魔化している。

 だから、今のままの自信のない、甘えているエメリーには出来ない。俺を刺せないよ」


 困り顔のサイモンはマイケルに尋ねた。


「では、どうしたら…?」


「エメリーに強くなってもらうしかない。

 何が何でも俺のことを自分の手で取り戻す、って強い心で思える様にね」


 


 サイモンはマイケル司令官が幻術で連れ去られる場所はシュメール領と読んでいた。レイモンドにとってシュメールの古城が一番安全な場所だ。そこしかない。


 だから司令官が消えた後、直ちにショーンをシュメール領に送り、ミハエルに体を乗っ取られたマイケルから敵の情報を得た。マイケルはレイモンドやジェラルド、イザベラの弱点を見つけ出し、ショーンに送り続けていた。


 だが、どんなにエメリー大佐が可愛そうでも嘘をつき、マイケル司令官の情報はエメリーには言わなかった。


 エメリー大佐の不安を増長させ、司令官への想いを強くする為の策だった。

 

 ローズマリーと国王との謁見の1週間前、サイモンは魔剣をエメリーとクインスに渡し、司令官とローズマリーの心臓を刺せと言った。

 クインスはやると言ったが、エメリーは即答を避けた。マイケルの言った通りだった。

 

 そして、その後エメリーは偶然にミハエルとイザベルとなった2人に出会ってしまった。ショーンからの報告を聞いたサイモンは慌てた。



(これでエメリー大佐がどう出るか…)

 

 サイモンは夜空に燦然と輝く赤い月と青い月を見つめ、月の姫君に祈った。今まで祈りなどしたことがなかったのに、サイモンは祈らずにはいられなかった。


(どうか、エメリー大佐に勇気と自分を信じる力を!)




 次の日、エメリー大佐はサイモンに言った。


「やる」


 そして部屋から出て行きかけて振り向いた。


「ショーン隊員は私の護衛から外しても大丈夫よ。今回の事を知っている数少ない戦力でしょう。もっと大事な任務につけないと」


 エメリー大佐の表情は力に溢れていた。





(司令官、明日はあなたの愛しているエメリー大佐に会えます。後少しの辛抱です)


 サイモンはミハエルに乗っ取られた体の中で、エメリーの事を案じているであろう司令官を想った。





 そんなサイモンには気掛かりがあった。

 ミミの事だ。自分はどうなったって構わない。でも、ミミの事は守りたい。愛するミミの事は何がなんでも守りたい。


 サイモンは帰宅するとミミを抱きしめて言った。


「ミミ。明日、俺が帰って来なかったら、すぐ実家に戻りなさい。誰かに俺の事を聞かれても、ずいぶん昔に別れたと言い張るんだ。最近この家で見かけたと言われたら無理やり連れてこられた、俺がひつこく付き纏って困っていたとでも言いなさい。

 ミミには黙っていたけど、明日、俺は命をかける仕事をする事になっている。失敗したら刑に処せられるだろう。もしかしたら、その場で命を落とすかもしれない。

 俺はミミを愛している。愛しているからミミだけは守りたい。

 いいね。俺が帰って来なかったらすぐに実家に戻りなさい。そして、俺の事は忘れるんだ」


 ミミは涙目のサイモンを不思議そうに見つめた。


「サイモンさま…?

 サイモンさまは失敗なんてしません。その場で命を落とすなんて事も起きません。

 だって、サイモンさまは先の先まで読み、見通せるんですもの。そんな事が起きる前に対処するでしょう?

 ミミの大好きなサイモンさまはそういうお方ですもの。

 明日の夕食はサイモンさまのお好きなカレーライスをいっぱい作ります。ミミはいつも通りここでお待ちしていますね」


 サイモンはミミを抱きしめる腕に力を込めた。


 


 朝がやって来た。

 サイモンはいつも通りミミに口付けをして、行ってくるね、と手を振って家を出た。


(大丈夫。

 考えられる事は全てやった。

 あの4人を始末し、司令官とローズマリー嬢を取り戻す。

 そして、俺はこの家に帰ってくる。

 ミミと飯を、カレーライスをたらふく食う!)


 大きく深呼吸をし、サイモンは大股で歩き出した。

 サイモンの目は真っ直ぐ前だけを見ていた。






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