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26 マイケルが消えた


 クインスか姿を消した後のカフェで、エメリー、ディックとショーンは考え込んでいた。


「…モノクル男。聞いたことねぇ。」


 ショーンはそう呟いて腕組みをした。


「俺、これでも王都の警備はしっかりやってるつもりだし、情報も集めてるんだけど」


「お前、精神感応力を駆使して情報集めてるもんな。そんなショーンでも引っかからないか、モノクル男…」


 ショーンは首を振る。

 ディックは眉間に皺を寄せつぶやく。


「元王族が絡んでるっていうところが、嫌な感じを大きくしてるな。一体何がしたいんだろう。クインスの彼女を何に使おうとしてるんだよ」


「とりあえずは情報を集めましょう。マイケル司令官とサイモン秘書官にも相談してみる」


「そうだな。気軽に口にできる事じゃない。行動は慎重にしないといけないな」


 しばらく沈黙していると、パンとコーヒーいるかい?と階下から長閑な声が聞こえてきた。随分と長い時間話し込んでいた事に3人はようやく気づいた。




 御屋敷に戻ったエメリーは、部屋で執事の仕事をしていたマイケルにクインスから聞いた話をした。


 モノクル男と黒髪の女性。

 女性の名前はローズマリー スカーレット。

 モノクル男はローズマリーの事を 'イザベラ様' と呼んでいた事、ローズマリーが別人の様に性格が変わってしまった事などを話すと、マイケルは腕を組み、椅子の背もたれに身体を預けた。


「ローズマリー スカーレット。…シュメール領にいる、と聞いた覚えがある。あの事件は王家の意向であまり知られていないからね。

 実はね、旅行から帰ってからサイモンに色々と調べてもらってはいたんだ。あの2人、怪しすぎただろう?でも、手がかりがなくて、サイモンでも何も見つけられなかった。

 元王族が絡んでいるとなると、何かが起こる前に阻止せねばならないね。これはもう、俺とエメリーだけの話ではなくなった。

 この後、自衛軍に戻ることになってるから、サイモンと話してみる。

 ありがとう、エメリー」


 マイケルは腕を組んだまま黙って考え込んでいたが、エメリーを見てにっこりと笑った。





 それから数週間、マイケルはサイモンと出掛ける事が増え、エメリーと一緒に過ごせない日々が続いていた。 


 そんなある日。

 久しぶりに御屋敷で過ごす時間が重なった夜にマイケルが突然、一緒に風呂に入ろうと言い出した。


(えっ?いいけど?)

 

「俺、ここの所忙しくって、俺の中のエメリーが足りなくなってる!エメリーを補充させてくれ!」


 エメリーが頷くと、マイケルはいそいそと部屋のバスタブに湯を張り、旅行で買ってきた花のオイルを垂らした。


 エメリーをサラサラと裸にしてバスタブにそっと入れ、自分もさっと裸になってドボンとバスタブに入った。


 マイケルに背中を抱え込まれたエメリーの頭の上にはマイケルの顎が乗っている。


「やっぱ、エメリーの体は柔らかいなぁ。ずっとこうしていたい」


「のぼせちゃうよ」


「エメリーは本当にかわいいね。俺のそばにずっといておくれ」


 花のオイルでピンク色になった湯はほんわかと体を温めてくれる。ふうっ、とマイケルが息を吹きかけると、ホテルの時と同じ様にたくさんの花が湯に浮かんだ。


 エメリーはくるりんと前に向かされた。


「エメリー。エメリーが大好きだよ」


 エメリーの顔を両手で包んでキスをすると、マイケルは言った。


「愛してるって言って。おれだけだ、って言って」


「愛してる。マイケルだけを愛してる。私はマイケルだけのものだよ。そうでしょう?」


 マイケルは少し震えながらエメリーを抱きしめた。


「不安になるんだ。ものすごく。エメリーが遠くに行ってしまいそうで、怖いんだよ。こんなにそばにエメリーがいるのにね」


「私とマイケルはいつも一緒だよ。だから、大丈夫」


 そうだな、とマイケルは力無く笑ってエメリーを見つめた。


「愛してる。愛してる。愛してる。エメリーだけを愛してる」


 その夜、マイケルはいつまでもエメリーの体を離そうとしなかった。

 

 そして、次の日。


 朝、サイモンが部屋を離れたほんの少しの間に、マイケルの姿が消えた。


 





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