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23 誕生日の夜に



 夕方、エメリーはマイケルが予約をしてくれていたヘアメイクサロンにいた。


 皆がエメリーの持ってきたドレスを見て、おおおぉ!と眼を輝かせた。


 されるがままに時間が過ぎ、黒のドレスを着てヒールの高い靴を履き鏡を見ると、そこには自分とは思えない別の女が立っていた。


「こ、こ、これ!わ、わたし…?」


 ようやくサロンから出ると、そこにマイケルが待っていた。


「迎えに…き………た…」

 

 マイケルは目を大きく開けてぱちぱちとさせ何も言えないでいる。


「エメリー…」


「どうしたの、マイケル?」


「あ、あぁ!

 綺麗すぎて、何も言葉が出なかった」



 部屋に戻るとマイケルはエメリーの額にそっと口付けて抱きしめた。


「エメリー、お願いだ。今夜は俺のそばから離れないで。誰かに攫われてしまいそうで、不安になる。あぁ!もう、エメリーを俺だけしかいない世界に閉じ込めてしまいたい」


「大丈夫よ。だって私はマイケルだけのものでしょう?」


 マイケルはエメリーを抱きしめる腕に力を込めた。


「今夜だけじゃなくて…ずっと」



 長い時間エメリーを抱きしめていたマイケルの腕の力がふっと抜け、エメリーに渡すものがあるんだとネックレスとピアスをポケットから取り出した。


「これは母さんからエメリーに。若い頃に父さんからプレゼントされたものらしい。ぜひエメリーにもらって欲しいんだって」


 ネックレスとピアスはマイケルの瞳と同じ虹色に輝いている。


「父さんも俺と同じ瞳の色だったんだ」


「そんな大事なお品…いただけないよ。ロレイン様が大事に持っていないと…」


「大事なものだからエメリーに持っていてもらいたい、って押し切られた。だから、受け取ってあげてほしい」


 ひんやりとしたネックレスは、首につけると少しづつ暖かくなり、なぜか輝きを増していく様だった。


「そしてこの髪飾りは、エレノア様からエメリーに。楽しんで来てね、って伝言を頼まれている」


 白い花の髪飾りをつけてエメリーの支度は整った。


 マイケルもさっとタキシード姿に変わった。耳にはエミリーの瞳の色、蜂蜜色のピアスが光っていた。


「今日はエメリーの色を身につけたかったんだ」


 エメリーはマイケルに近づき頬をそっと撫で、蜂蜜色のピアスを触った。そして、潤む眼でマイケルを見上げた。


「キスしてくれないの?」


「ものすごくキスしたい。したいに決まってるじゃないか!今すぐエメリーの事、抱きたい。でも、そんな事したら、俺、手加減なんかできないと思う。メイクがめちゃめちゃになってしまうだろ?」


 エメリーはマイケルの唇を人差し指でそっとなぞった。


「…あのね、さっきサロンで言われたの。キスしてもお化粧は落ちないんですって」


 マイケルに息が苦しくなるほどの貪るようなキスをされて、エメリーの頬に涙があふれた。


(愛してる。マイケル、愛してる)

 



 2人がメインダイニングルームに現れると、あたりが一瞬しーんと静まり返り、ゆっくりとざわめきが起きた。


 マイケルはエメリーの肩を抱く様にして歩く。エメリーは時々マイケルの顔を見上げて微笑む。ダイニングルームにいる誰もがため息を吐いた。


 ディナーの最後にバースデイケーキが運ばれてきた。

 18本のキャンドルライトの向こうにマイケルの微笑みが揺れる。


 ふうっとキャンドルを吹き消したエメリーの手の甲にマイケルがキスをして囁いた。


「18歳の誕生日、おめでとう」 


 ボールルームに移った2人は甘い香りに包まれて踊っていた。闇の中に街あかりが煌めくようなドレスを着たエメリーはホールの誰よりも幸せに輝いていた。


 2人で抱き合って踊っていると、マイケルの鼓動が伝わってくる。


 ……とくん……とくん……とくん……


「ねえ、マイケル」


「ん?なに?」


「さっきの指輪…」


 とくとくとく…。

 

 マイケルの鼓動が速くなった。エメリーの鼓動も速くなる。


「私ね、マイケルが好き。大好き。

 いつもそばにいたい。いつもマイケルを感じていたい。マイケルを独り占めしていたい。愛してる。

 …だから…だからね…」


「エメリー…」


 2人は抱き合ってキスしたまま、ゆらゆらと踊り続けた。




 ボールルームの片隅にはそんな2人を見る男と女がいた。透き通るほどに白い肌と漆黒の髪を持つ女は、斜め後ろに控える様に立つモノクルを付けた男に言った。


「ジェラルド。お前の言う通りね。あの男、連れてきなさい」


「はい、イザベラ様。御心のままに。

 男を連れてくるのは少し時間がかかりそうです。1月ほどお待ちくださいませ」


「ふん」


 2人はそっとボールルームを後にした。




「マイケル、今の…何かしら…」


 何かの気配を感じたエメリーが言った。


「こんな所で俺たち2人を狙ってるらしい。度胸があるヤツだね。やれやれ、こんな楽しい夜に…邪悪な気配とはね。

 あの2人の顔はちゃんと見て覚えたよ。

 気配は消えた。あんなもの忘れて踊ろう。

 だって、今夜は…。2人の夜だ。そうだろ?エメリー」




 汗ばんだ体をくっ付けて、マイケルとエメリーはベッドの中にいた。マイケルはエメリーに唇を這わせる。


 愛してる。

 私も愛してる。


 愛してる。

 俺も。


 もう何度も同じ事を囁き合って、気がつけば空がうっすらと明るくなっていた。


 2人は向き合って座り、見つめ合った。

 

「エメリー…」


 マイケルは指輪をそっとエメリーの指にはめた。

 エメリーもマイケルの名を呼び、マイケルの指に指輪をはめた。


 2人は口付けをするとゆっくりとベッドに横たわった。


 三連休最後の日は穏やかに過ぎていった。



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