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M-374 2人の先の御妃様


 ヒルダ様に概要を説明して資料を渡せばそれで解放されると思っていたのだが、3日程離宮に滞在するようにと指示を受けた。

 言葉は丁寧なんだけど、王族の言葉に逆らうなんてことは出来ないからね。とりあえず連絡をいつでも受けられる状態にしたところで、アオイと一緒に王都を散策することにした。

 帰ったならお土産を期待している連中が沢山いるからなぁ。

 先ずは酒店や王都の大きなお店に入り、エリー達へのお土産を物色することにした。


「ワインと蒸留酒はダースで買い込めば良いんだな。だいぶ買い込んだが、まだ買い込むのか?」


「アオイだって別荘に2ダースはいつでも常備しておいた方が良いぞ。誰が何時やってくるか分からないからな。その時に、上等なワインを提供できなければ嫁さん達の矜持が保てんだろう」


「そう言う事か! なら少し高価なワインも買い込んでおくか」


 貴族という肩書があるからなぁ。他の貴族に後ろ指を指されたくないから、いろいろと考えないといけない。だけどこれってかなりの散財なんだよねぇ。散財は貴族の務めという事らしいけど、限度があるよなぁ。


 酒以外のお土産に、2人悩むことになった。

 お菓子の詰め合わせでもあれば良いんだけど、生憎とそんな物は無いんだよなぁ。

 平民向けのクッキーやケーキの詰め合わせはあるのだが、これを買えば良いんだろうか?


 小さな公園のベンチに2人並んで屋台で買ったコーヒーを飲む。

 タバコに火を点けたけど公園に灰皿は無いから、携帯灰皿に灰を落としながらの一服だ。


「こんなことを悩むとはなぁ……記憶の遥か彼方に似たような境遇があったような気がするんだが……」


「ある意味贅沢な悩みなんだろうね。少なくとも命の危険性は無いからな」


 アオイがそう呟いて、タバコを携帯灰皿に投げ込むとポケットに仕舞い込む。

 楽天的な彼でも、お土産選びは得意ではないらしい。


「とりあえず、さっきのお店のお菓子の詰め合わせを幾つか買っていこう。メープルさん達に渡せば上手く処理してくれるだろう。問題は妻達だな」


「あぁ、さすがにドレスは無理だな。化粧品だって俺達があの売り場に向かうのはねぇ……。かといって武器は持っているからなぁ」


 公園の出口付近に店を出していたクレープモドキを買い込んで、腹を満たしたところで離宮に戻ることにした。

 コーヒーは離宮の方が美味しく頂けるからなぁ。

 ゆったりとソファーに背中を預けて、外の景色を眺めていれば案外良いアイデアが浮かんでくるかもしれない。


 思い足取りで離宮のリビングに入ると、ヒルダ様が2人の御婦人と歓談していた。

 慌ててご婦人方に頭を下げると、ヒルダ様が俺達を手招きしている。

 俺達を紹介するのだろう。この離宮の持ち主のヒルダ様に従っていれば、相手がうるさ型の貴族の御婦人であろうと問題は無いはずだ。

 

「始めてお目にかかります。ヴィオラ騎士団の騎士リオです。隣は同じ騎士団の騎士アオイになります。共に貴族の端に叙せられておりますが、貴族の礼儀作法も出来ておりません。言葉使いも粗野そのものですから、我等の言動でヒルダ様に向ける目を控えて頂ければありがたいところです」


 2人で騎士の礼を取って、俺が自己紹介をする。

 アオイも自分の名を俺が言ったところで小さく頭を下げているから、まぁ最低限の礼は取ったということになるだろう。


「どうぞお座りください。こちらは先王陛下のお后、セレーネ様とエーオス様です」


 2人のご婦人が席を立ち、優雅な礼をしてくれた。

 ヒルダ様が、少し引いているように感じるのは、未だに先王のお后様という立場がしっかりと王宮内に根付いているに違いない。


 空いているソファーにアオイと並んで座ると、直ぐにネコz区のお姉さんが俺達にコーヒーを運んで来てくれた。お后様達には改めて紅茶が出される。


「戦姫を自由に動かす騎士が現れたと聞いて驚きました。御活躍は私達の別荘にも聞こえてきましたよ」


「フェダーン様の指示で動いただけです。俺達が動きやすい状況を作って頂けたことでの成果ですよ」


「王国の戦艦よりも大きな旗艦をお持ちとか……。一度お邪魔したいとエーオスと何度も話をしたことがあるのですよ」


「何時でもご招待いたします。でもその時には、俺達が騎士団であることをあらかじめご承知おきください」


 さすがに風紀が乱れているとは言い出せない。もし、来るときがある時には、カテリナさんをリバイアサンから離しておけば何とかなりそうだな。

 俺達の暮らしを話題に話をしていたが、段々と王国に係わる情報の誤差が多いという話になってきた。


「今年の麦は大豊作だと言われても、それを具体的に示すことが出来なかったのです。王国に入る税に変化はありませんでした。それに豊作があるなら凶作もあるでしょう。ですが侍女たちの話と、貴族の話は違っていましたね」


 凶作の年でも税を軽減することは無かったということかな?

 お后様達の話を聞いていると、直轄領地の作物の出来高を基に税を加減してはいるらしい。だけど王国に入る税は貴族領地の税の1割だ。半分を取る領主貴族の取り分を減らさないと領民が飢えるに違いない。


「生産から消費に至る過程で、かなりの中間搾取が行われているかもしれません。国王陛下は『自分達の責任でもある』と言って、今までの罪は見逃すとまで言っております。ですが、これからも同じように振舞えば……」


 お后様達が、セレーネ様の言葉に大きく頷いている。

 陛下が見逃しても、お后様達は見逃すつもりが無いということかな?

 さすがに、陛下の裁可を覆すことは出来ないと思うんだけどなぁ。


 先の御后様達に促されて、王国民に対してどのような観点の調査を行うかを、アリスたちが纏めてくれた国税調査票を仮想スクリーンに表示しながら説明すると、ヒルダさん達まで感心して俺の説明を聞いてくれた。


「私達が考えていたよりもかなり深く調査を行う事になりそうですね。ですが、それによって得られた情報は膨大な数になります。国民1人1人の情報が1枚のカードになるのですからね。1つの町だけで、木箱1つでは足りなくなるでしょうし、それを使っての評価ともなると……」


「人力でも可能でしょうが、少しマシな方法を提供することにします。1人の情報をカードにすることは変わりませんが、このような方法でパンチカードを作成します」


 今度はアオイが説明を始める。

 使うカードは貴族内でよく使われているパーティ―の招待券を模したものだ。さすがに紙の材質は劣るけど、魔法による複製で容易に数を用意できる。

 そのカードに横80縦12の欄を設け、欄に穴を空けることで情報を記録する。


「1人の情報を80文字にすることが出来ます。文字の種類は現在使われている文字の2倍ほどに増やすことが可能です。住んでいる場所、名前で20文字ほどは必要でしょう。残り60文字で個人の情報を記録することが出来ます。カードの穴あけ作業は、このパンチングマシンを使います。調査班を幾つ作るか不明ですが、とりあえずは5班を想定して提供したいと考えております」


 パンチングマシンの簡単な操作方法がアニメで映し出される。

 文字キーを押して行けば自動的に穴あけが行われるのを面白そうな表情で御后様達が見ているんだよなぁ。


「このような作業を行うことで円滑な情報収集は可能と判断します。……問題は、この後です。膨大な情報をどのような観点で利用するか。場合によっては俺達が調査しようと考えている項目をさらに増やすことも可能です。このような大掛かりな調査は、その利用方法を実施前に十分に考える必要があります」


「私は、リオ殿から説明して頂いた調査項目で十分に思えますが、拡張性があるというなら、次の調査を行う際にそれを追加すれば十分に思えます。先ずは初めることが大事に思えます」


 アオイが、うんうんと頷いている。

 俺達で纏めることは容易だけど、それをやるのはさすがに騎士団の仕事には思えないからなぁ。だけど協力は惜しまないつもりだ。


「それなら次に、どのように情報を整理するかについて説明します……」


 各地で作成したパンチカードを読取り機を使って計算機のメモリーに納める。さすがに初期の計算機のメモリーでは足りないようで、アリス達は20Gバイトのメモリーを付加したようだ。

 王国の住民の総数が詳しくは分からないけど、さすがに3千万人は超えていないだろう。その10倍を超えるメモリーがあるなら当座は問題ないだろうし、メモリーが併設されているから、バックアップすることで破損時の対処も可能だ。


「情報の解析は、この計算機を使って行います。集めたパンとカードを全て読みこめば、王国の住人の男女別人口、年齢別人口、職業別人口等は直ぐに確認できます。さらに、特定の調査を行おうとするなら、その指示を計算機に行うことで可能です。とはいえ口頭での指示は出来ません。計算機が理解できるように、このキーボードを使って指示を与えることになります……」


 初期のプログラミングだな。

 これは数学を学んでいる学生を使えば直ぐに行えるに違いない。


「解析結果はこのモニターに表示できると共に、このプリンターを使って紙に印刷することが可能です」


 かなりアニメを多用した説明だけど、概要を伝えるには十分だ。

 アオイの説明が終わったところで、ヒルダ様が侍女にお茶を運ぶよう伝えてくれたから、空になったコーヒーカップが下げられて、改めてマグカップでコーヒーが運ばれてきた。

 ヒルダ様にタバコを見せると、小さく頷いてくれたから先ずは一服。お后様同士が小声で話し合っているのは、理解できないところがあったのかもしれないな。

 タバコを灰皿で消した俺達に、お后様達からの質問が始まった。

 先ずは俺が答える事になる。後ろにアリスが控えていてくれるから、回答に詰まるようなことはない。

 ひとしきり質疑が終わると、先の御妃様が俺達に改めて顔を向ける。


「中々面白そうな取り組みですね。ここまでしていただけるなら、後は行動するのみです。調査項目とその分類についてもう少し考えたいと思いますが、その変更は可能ということですね?」


「可能です。ですがこの調査には文章を記載することが出来ない事を、あらかじめご承知おきください」


 文章なんて入れたら初期型の計算機では解析なんて出来ないからね。

 俺の言葉に、しっかりと頷いてくれているから理解してくれたに違いない


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