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ブイヨン杯

「いえいえ。そういうのは結構です。しかし投石大会は、表現がよろしくない。何かもっと弱そうな」


「名前ですか?石当て大会とかはどうでしょうか」


「あぁそれなら、刺激的ではないですね。あとそうですね。領主様の名前をつけられますか?」


「それは……、ブイヨン様のお名前を?」


「そうですね。ポテト村石当て大会~ブイヨン杯のような恰好で」


「ご支援いただけるのですか?」


「いえ。領主様はあくまで名前をお貸しするだけ。あとはそちらでおやりなさい」


「はい。わかりました。では名前をあらためます。大会にはご参加されますか?」


「いえ。多忙なお方ですから」


「以上でよろしいですか?」


「あと槍の稽古は?あれも害獣駆除」


「もちろん。村に突然現れる事もあり、怪我人も出ていますから」


「まぁ、知ってはおりますが、なにぶん人数にも限りがありますから、自衛できる分は自衛なさい。ある程度は任せても良いと考えても?」


「いざという時には使用人一同、村をお守りするつもりではおりますが」


「それは感心ですね。わかりました。領主様にお伝えしておきましょう」


使者は帰っていった。


「帰った?」


「はい。馬車に乗り込むのをちゃんと見ました」


「誰も隠れてない?」


「調べます」


一時間後


「隠れてはいませんでした。ディッシュ様、ディッシュ様」


「はっ。寝てたじゃない。どれだけ探してるのよ」


「そりゃもう徹底的に」


「それで。あれで良かったのかしら」


「領主から自衛まで任されましたからね。驚くべき結果です」


「任されたというより、やりたくない仕事を、押し付けられたって事じゃないの?」


「もちろんその通りです。向こうも経費が下がりますからね」


「あれ。なんで名前を貸したのかしら」


「村人がディッシュ様の虜にならないようにでしょうね」


「どういう事?」


「この祭りを開催できるのは、領主様のお陰だと表面的には見えるでしょ」


「なるほどね。それで名前だけ貸したわけか」


「はい。セコイですね」


「金は出さないが、口だけ出すの典型だわね」


「ディッシュ様。そんな事……、言っては……」


「そんなに笑ってたら説得力ないじゃない」



名称は、ブイヨン杯に決定し、第一回大会が開始された。


大会はシンプルだった。

農場にある木の枝に紐をつけ、そこに薪をつけ、投石で命中させる。

当たれば勝ち進み、

勝ち進んだ連中は、

さらに遠くから投石をする。

それをくり返し、

最後まで残った者が勝者となる。


「でも、これだと三位までしか賞品がないわね」


「ディッシュ様。普通なのでは?」


「それだと、強くないと勝てないでしょ。運だけでいけるのも何か欲しいわ」


「賞品は?」


「なにかの不要品」


「あのイノシシの頭蓋骨が残ってますけど」


「あれは砕いて肥料に使うでしょ」


「あのディッシュ様が、昔に読んでいた恋愛小説なんかは?」


「あれね。わかった。あれを賞品にしましょ」


「それで、どうやって決める」


「クジでいいんじゃない?」


「わかりました。ご用意します」


そんな訳で、

クジで当たる『運がよかったで賞』がプラスされる事になった。


一位二位三位が決まり、

それぞれ賞品が渡される。


「それで最後『運がよかったで賞』は68位の方。誰かな?」


「私です。ソルトです」

女の子が手をあげる。


「はい。これ小説よ」


「ありがとうございます」

ソルトは、

じっとその場に立っている。


「どうしたの?」


「実は私……字が読めなくって」


「ディッシュ様……」

サラが私の方を見る。


あぁ、サラは私が教えましょうと言っているに違いない。


「わかったわ。じゃあ、サラが教えましょう」


「本当ですか?ありがとうございます」

ソルトは頭を下げる。


「私も」


「オラも」


「俺も」


次々と手をあげる。


「わかったわ。サラ頼んだわよ」


「ディ、ディッシュ様……」


……


大会は無事終わり、

私達は後片付けをする。


「しかし、サラも偉いわね。識字率が低い事を知ってて、わざと私に小説を勧めたんでしょ」


「えっ?何のことですか?」


「さっきのソルトだったかしら、あの子のことよ。まさか面倒くさがりやのあなたが、先生を買って出るなんて思いもしなかったわ」


「いえ、私はそんなつもりは」


「またまた謙遜して。良いところあるのね。見直したわ」


「ディッシュ様が?私を?またまた」


「何を言ってるの?サラ!あなたは私にとってなくてはならない存在よ。」


「ほぇ。そ、そうなんですか?」


「何変な声だしてるの?あなたは優秀だし、勉強だって、あなただから任せられたのよ」


「やるからには、徹底して!」


「そこまで頑張らなくてもいいわ。基礎だけでいい。それに生徒同士で教えあうように促しなさい。勉強まで教えてるとなると、また警戒されるわ」


「そうですね。しかし色々と気をつかいますね」


「まぁ、こういう立場だからね。サラがいるから私は平気よ」


「ディッシュ様」

サラは泣きそうな顔をしていた。


それから、

村では勉強がブームになった。

サラの授業は毎回村人がほぼ全員参加。

サラはサラ先生と呼ばれ、戸惑っていた。

勉強熱は収まらず、

私は本を貸してくれとせがまれる。

ただ、

王宮には本がたくさんあったが、

今は亡国の身の上。

本は提供できなかった。


私は領主の元に、

挨拶がてら支援を求めることにした。


「ポテト村の農場主のディッシュです。こちらはサラ。先日はお名前をお貸しいただきありがとうございました。こちらはささやかながら、野兎を燻製にしたものです」


「君がディッシュ君か。私がブイヨンだ。野兎の燻製とな。それはぜひ食べてみたい。すぐに食べても?」


「えぇ、もちろん」


「おい。料理長にこの燻製をワインと共に出せと申しておけ」

領主は侍女に指示する。


「畏まりました」


しばらくして、燻製とワインが用意される。


「では頂くとしよう」

ブイヨンは燻製にかぶりつく。


「これは美味いな。肉が新鮮だし、血抜きも上手い。あとこの匂いは?」


「それはカエデの皮で作った燻製です」


「カエデか……」


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