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強さとは

「そうね。あなた達に危険な事はさせないけど、襲ってきた時に、ただ逃げるより、戦えたほうがいい場合もあるわ。

でもね。

基本的には逃げる事を忘れないで、私はここにいる誰にも怪我をしてもらいたくないから」


「はい」


それから、毎日十分程度の訓練が始まった。

田舎は娯楽が少ない。

訓練は十分程度と決まっているが、

暇な時間を見つけては、訓練を行う者も出てきた。


「ディッシュ様。皆、訓練に励んでますね」


「ちょっと拙いわね」


「どうかされたのですか?」


「どうかも何も。私達は農家よ。私兵を鍛えていると思われたら、どうするのよ」


「たしかに厄介ですね。あっ、グラスが来ました。相談してみましょう。グラス!ちょっとこっちに来て」


「はい」


「あの、グラス。皆が訓練に励んでいるわね」


「はい!士気も高く、これなら」


「これならじゃないわよ。私達は農家。私兵を鍛えてるって思われたら、余計な火種を増やすでしょ」


「では人里離れた場所で、稽古させますか?」


「なおさら怪しいでしょ。何か策はない?」


「そうですね……」


「サラはどう?」


「うーん……」


「何もアイデアがないわけ?」


「ディッシュ様は?」


「私もないわよ」


「ディッシュ様も考えてください」


「うん。面倒だわね」


「ディッシュ様が言い出しっぺなんですよ」


「そうだけど」


「あの……、投石に関しては、投石大会を開いたらいかがですか?」

グラスは呟いた。


「何それ?」


「投石を表向き遊びにするのです」


「たしかに警戒されにくいかもね」


「そして村人達にも、投石を私が教えます。練習しておけば、村人も何かあった時に、戦力になりますし」


「賞品とかはどうするの?」


「そうですね。つまらないものがいいでしょう」


「なぜ?」


「賞品が豪華だと、目立ちます。これはあくまで偽装が目的ですから」


「じゃあ麦を一月分とかにしましょうか」


「はい。それで十分かと」


「投石はそれでやるとして、槍はどうする?」


「ディッシュ様。私達が行っているように、害獣に襲われた時、立ち向かえるようにする訓練という名目にしたらいかがですか?」


「なぜ?」


「実際に害獣に襲われてケガをするケースが増えています。ここの領主も警戒をしていますが、領主はあまり力を持っていないのか、騎士達の巡回も多くはありません。村長に話を通して、害獣対策教室みたいな形で無料の教室を開くのはいかがでしょうか?」


「私もサラさんのアイデアに同意します。一応、開いてしばらく経ってから、領主に報告をすればいいかと思います」


「まぁ既成事実を作れば、やめろとも言いにくいわね」


「領主にとっても、巡回を増やせと言われるより、楽でしょうし」


「そうね。じゃあ、グラスに任せても良い?」


「私一人ですか?」


「サラも手伝ってあげて」


「畏まりました」


それから、

グラスは投石大会と、

害獣対策教室で動き出した。


とはいえ、

投石大会は張り紙をしただけ、

投石の指導も、面倒なので害獣対策教室で教える事にした。



「いやぁ、大変でした」

グラスが珍しく疲れた表情を見せた。


「あなたが疲れた顔なんて珍しいわね」


「村人達のやる気がすごくて、あんなに士気の高い連中を見たのはひさしぶりです」


「どれくらいなの?」


「そうですね。私達の世界で士気が高いのは、仇を討ちたいという連中。借金を返さないとヤバいという連中なのですが、それに近い士気の高さがあります」


「なんで士気が高いの?害獣が仇だから?」


「それもあるでしょうが、皆、こんなに楽しい暇つぶしはないぞ、と言ってましたから、暇なのでしょう」


「刺激に飢えていたと」


「そうですね。あの猪肉祭りを、またしたいと叫んでいる方が多かったです」


「はは……」


「それで村人はどれくらい集まったのですか?」

サラは尋ねた。


「おそらく全員。普段は家でじっとしている老婆までもが、参加していました」


「そんなに?身体は大丈夫だったの?」


「はい。私が元気がなかったのは、退屈だったからだと言われていました」


「へぇ。そんな事もあるんだ」


「私は今回思い知りました」


「なに?」


「強さですよ」


「どういう事?」


「えっと。上手く言えません」


「強さとは、暇さかもしれないという事ですか?」

サラは尋ねた。


「そうです。そうです。私は今まで、強くなりたいという気持ちが、世の為とか、お家の為などと思っていました。しかし、暇つぶしになるからという、不純な……、いや不純でもないのかもしれませんが、意外と強いのだなと」


「たしかに、それはあるのかもね。私達のうちでも暇だから訓練に励んでいるわけだし」


「そうですね。忙しい連中は、そもそも強くなるための時間も少ないですから」


「そっか……」



……

それから数か月して、領主の使者が訪れた。


「私、この地域を統括する領主の使者、ブーケガルニと申します」


「初めまして、私はこの農場の主、ディッシュと申します」


「早速ですが、色々と興味深い活動をされておられますが、ご説明頂けますか?」


「興味深い活動と申しますと……、猪肉を振る舞ったことですか?」


「いえいえ。そうではありません。投石大会です」


「投石大会ですか。娯楽のためです」


「娯楽?軍事訓練では?」


「軍事訓練?石を投げることがですか?」


「はい」


「滅相もございません。娯楽と、あとは……」


「あとは?」


「実はこの辺り、野生の獣が出ますゆえ、それを追い払うという効果もあるかなとは思っています」


「あぁ、野生の獣ね」


「領主様さえよろしければ、定期的に獣の討伐を行ってくだされば、助かるのですが」


「定期的に獣の討伐?うん、まぁ、考えてみないこともないですが……、あの、その投石とかでも、獣を追い払う事はできそうなのですか?」


「何体か駆除もできたようで、肉の振る舞いをしています。もしよければ、お誘いしましょうか?新鮮なうちしか食べられませんが」


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