金貨一枚
「では土地の話をしようか?」
「はい村長様」
「その村長様というのは、やめてくれんか?なんか照れくさいわ。村長か。村長さんで」
「では村長さん」
「あぁ。それでどれくらいの土地が欲しい?」
「これで買えますか?」
私は金貨を一枚差し出した。
「金貨?」
「はい。足りませんか?」
「いや。そうじゃないが……、家とか、農具とかもいるかな?」
「できれば」
「家畜は?」
「それもできれば」
「じゃあ。金貨一枚で限界まで揃えたらいいか?」
「はい。お任せします」
「わかった。じゃあ今からワシは村を回ってくるから、今日はうちに泊まっていってくれ。スプーン。もてなしてくれ」
「もちろんですよ。じゃあ、ディシュちゃんとサラちゃん。ポテトパイ焼こうか?」
「はい」
私たちは頷いた。
村長はその日は戻らなかった。
「姫様。もしかして村長は私たちに勘づいて」
サラは耳打ちした。
「だいじょうぶよ。私はそこまで不運じゃないわ」
「まぁ、でも亡国の第三王女が、片田舎で侍女と農家を始めようとしている時点で、不運っぽいですけど」
「余計な事言わないの」
「これは失礼」
扉が開く音が聞こえる。
サラはとっさに短剣に手をかける。
「あぁ、ゴメンゴメン。さすがに金貨1枚使い切るのは大変だった」
村長はずいぶん疲れた顔をしている。
「あんたお疲れ様。でどうだった」
「農地と、以前いた移住者が建てた住まい。あとは農具と、牛が六頭、ヤギが三頭、ニワトリが六羽、あとは農具かな」
「そんなに?村長さん手数料は取っていただきましたか?」
「もちろん、あんたには悪いけど稼がせてもらった。それに売れない農地とか住まいがあったからな。村長としての顔も立つ。ありがとうよ。村人も感謝していた」
「それなら良いのですか」
「じゃあ、今から案内しよう」
「ちょっとあんた。朝ごはんがまだだろ。食べてから出かけなよ。私もついていくし」
「そうかそうか。じゃあそうしよう」
私たちは朝ご飯を食べ、
農地や住まいを見に行った。
「あのどこまで行くのですか?」
私は尋ねた。
「もうすぐ。あの木の側辺りまでが、ディッシュちゃんの所の土地」
村長は指をさした。
「ディッシュ様。とんでもなく広いですが……」
「そうね。村長。この広さは普通なの?」
「いや……、ここら一帯では大農家になるだろうな」
村長は笑った。
「耕せますかね?」
「小作人を募集したらいいよ。条件を少しよくしたら、すぐに集まって来る」
「普通の条件は?」
「そうだな。小作人の取り分が三割ってところか」
「住まいとかは?」
「それは本人が探す」
それから私たちは、
農具や家、家畜を引き取った。
「また何かあったら、声をかけてくれ」
と村長夫妻は帰っていった。
「サラ。金貨一枚でとんでもない事になったわね」
「はい。いきなり大農家ですよ。目立つじゃないですか」
「そんなの知らないわよ。金貨一枚の価値なんて、私が知っているわけないじゃない」
「まぁ一般常識を知らないですからね」
「サラ。それはあなたもでしょ。金貨一枚は払いすぎですとか、言えたでしょう。なんで言わなかったの?」
「そんなもの。展開が面白そうだからじゃないですか?」
「なによ。イジワルしたの?」
「イジワルじゃないですよ。面白がっているのです。それに常識を姫様に教えたら……」
「教えたら?」
「小さくまとまってしまうじゃないですか」
「サラ。そんな事思って」
「そりゃ当然ですよ。人生暇つぶしみたいなものですから、面白いほうが良いのに決まっている。多少主がポンコツな振る舞いをしたほうが刺激的でしょう」
「なによ。ポンコツって。主に対して失礼じゃない」
「そんな事より。小作人どうします?」
「そうね。あんまり稼ぐ気もないし、半々でいいんじゃない?」
「いやでも……、それは?」
「じゃあ。いざという時は護衛も兼ねるんだったら?」
「それなら良さそうですね。多少軍事訓練をさせておきましょう」
「しかし、亡国の姫を守る的なのはマズいわね」
「野生動物や盗賊から身を守るためという名目では?」
「それ良いわね。あと倉庫とかを改修して、それも家として使わせましょ」
「だったら、全員を使用人みたいな感じにしましょうよ。皆でご飯を食べて。もちろん姫様がお嫌でなければですが」
「そうね。私も一人で食べるの寂しいし、使用人皆で食べるようにしましょうか。安くできるしね」
私たちは、村長に相談し、小作人を募集しはじめた。
小作人の面接に一人の少年がやってきた。
「地主様。私はフォークです。小作人の面接にやってきました」
麦わら帽子の似合う少年で、体中にテントウムシがついていた。
「えっとサラ。何を聞けばいいの?」
「まず自己紹介をして、自分の趣味とかを言えばいいのでは?」
「そうね。私はディッシュ。商人だった父の遺言で、農家を始める事にしたの。それで小作人を募集したの。趣味は読書と音楽鑑賞よ」
「私はフォーク。私も両親はすでに他界しました。ほかの地主様のところで働いていましたが、先日クビになって」
フォークは視線を落とす。
「なぜクビに?」
サラは尋ねた。
「ちょっと。それは傷つくでしょ」
私は止める。
「いえ。大事なことですので。私のテントウムシが気持ち悪がられて」
フォークは手を握りしめた。
「わかったわ。採用」
私は答えた。
「ひ…ディッシュ様良いのですか?テントウムシですよ」
「別にいいんじゃない?あっでも……。私たち皆でご飯を食べる予定なんだけど、テントウムシがご飯の中に入ったりしない?」
「地主様と私が一緒に、そんなとんでもない」
「その地主様っていうのやめてくれる!ディッシュって名前があるの。私はフォークと呼ぶから」
「あぁ、ではディッシュ様。小作人と食事を共にするなど」
「もうめんどくさいわね。サラ」
「はい。なんでしょうか?」
「食事を一緒に摂る事になった経緯を説明しなさい」
「はい。かくかくしかじかということで」
「ちょっと意味がわからないです」
「ひ…ディッシュ様。言葉が通じません」
「もう良いわ。私は一人で食べるのが寂しいから。皆と食べるの。わかった?」
「はい!ディッシュ様」
フォークはとびっきりの笑みを浮かべた。




