逃走と闘争
「姫様、ここは私に任せてお逃げください」
「何言ってるの!一緒に逃げるのよ」
私はサラの手を引く。
「私は侍女!あなた様の手足です。ですが、あなた様に何かあれば、御家の再興もままなりません。だから私の事はお捨てください」
サラは目を逸らす。
「サラ!あなたバカなの?」
「バカって失礼な!感動的な場面じゃないですか」
サラは私をじっと見た。
「バカよ!あなたは手足でしょ。私一人じゃなにもできないじゃない」
「たしかに」
ポカンとするサラ。
「そうでしょ!私に生活力あるとでも思ってるの?」
「思いません!では一緒に逃げましょう」
サラと私は王城から隠し通路で逃げ出した。
「姫様……、やはり戦って死んだほうが良かったんじゃ」
サラはずいぶん気落ちしている。
「走って逃げるのも闘い争うのも、同じとうそうよ。言い方が同じだから、別にいいじゃない」
私は燃えさかる王城の炎を見て呟いた。
「同じとうそうですか……、たしかに別に気にするほどの事もないですね」
「でしょ。それより、資金は持ってる」
「もちろん。姫様の宝石箱と貯金箱から失敬……、いえ、いざという時の備えとして、持ってまいりました」
「そう、わかったわ。じゃあその半分持って、どこかへ行きなさい」
「姫様何を?」
「こんななりした二人が逃げてたら、どう考えても怪しいじゃない。
あなたはメイドとしてレベルが高いから、どこでも雇ってもらえるわ。
私は働く事は苦手よ」
「ひ、姫様……、そこまで言ってくださるとは、サラは感動しました」
「そうでしょ。さっきから考えていたの」
「では、姫様。ここでお別れです」
「えぇ、ってちょっと待ちなさいよ。本当に行くつもり?」
「それは主人の命令ですから」
「そこは、いいえ。姫様。私は姫様と共に……とか言う感動的な場面でしょ」
「あぁなるほど。では……いいえ。姫様。私は姫様と共に……。こんな感じでよろしいですか?」
「はいはい。それで良いわ。それで、これからどうしよう」
「そうですね。それは主人である姫様が決める事では?」
「相談くらい乗りなさいよ」
「はい。たぶん追手が来ますので、バレないようにどこかに隠れて生活すべきでしょうね」
「例えば?」
「山の中の一軒家で自給自足の生活をするとか?」
「こんな美少女が、山の中でメイドと二人で自給自足の生活してるとか、どう考えても、亡国の王女っぽくない?」
「姫様が美少女かどうかは置いておいて、優秀なメイドと二人で自給自足生活しているのは、少し怪しいですね」
「ずいぶん引っかかる言い方だけど、まぁ良いわ。商売を始めるとかは?」
「資金の出所を探られそうですね」
「じゃあ農家は?」
「農家だと疑われにくいかもしれません。姫様が畑を耕すイメージはないですもの」
「えぇ、私もやるの?」
「もちろんです」
「偽装は必要です」
「じゃあ、まず何からしましょう」
「王都から離れた村で、農地を買いましょう」
「しかし大金を持ってたら怪しいわよ」
「そうですね。あなたの父は商人で、田舎暮らしの夢を持っていた。父が亡くなり、最後に私の夢を叶えてくれというので、ここにやってきた。農家をしたい。みたいなので良いのでは?」
「父の夢が田舎暮らし?それで私が?いや、ちょっと設定に無理がありすぎない?」
「大丈夫ですよ。田舎の土地を買いたいなんていう人はそうそういませんから、疑いませんって。それはそれは……、と売ってくれますよ」
「そんなものかな?」
そこから、私たちは二十日ほどかけ、荷馬車を乗り継ぎ、南方の村にやってきた。
「姫様。ここなら、大丈夫そうでしょう。雪も降らないそうですし、雪掻きの心配がありません」
「雪とか別にいいでしょ。雪合戦できるし」
「姫様は頭が悪いのですか?あっ失礼。雪掻きというのは、ムダに労力を食うのです。それに冬の間はお出かけできないのですよ」
「それは困るわね。わかった、ここにしましょ」
「では村長のお宅に行きましょう」
私たちは村人に尋ね、村長宅へ向かった。
「失礼します」
サラは言った。
「ほい。はて、見かけない顔じゃな。あなたは?」
「私はサラ。こちらはディッシュ様。ディッシュ様は父君の意思を引き継ぎ、こちらの村へ参られました」
「父君の意思ですか?」
私は会釈をする。
「お初にお目にかかります。村長様。私はディッシュです。実は父は商人でして、その父が生前より田舎暮らしをしたいと言っておりました。私は父の意思を引き継ぎ、田舎で農家をやってみようとやってきました」
「あぁなるほど。父君思いの方ということですね。それで?」
「はい。土地を売って貰いたいと」
「土地ですか……、いえ、売れるのは売れるのですが、知り合いが二人いないと、売れないのですよ」
「そんな決まりが?」
「以前はなかったのですが、帝国の領土になってから、厳しいらしく。まぁ形式上のものですが」
「しかし、この村は初めて来た村……」
「待ちなさい。サラ」
「失礼しました。お土産を忘れていました。こちら、お土産です。キュロット地方で取れた真珠で、奥様に……」
私は真珠を差し出した。
「いや。こんなに高価なものは」
奥さんがチラチラ見ている。
「あの、村長の奥様。こういう物はお嫌いですか?」
奥さんが近づいてくる。
「いや。女だし。嫌いじゃないよ。良いものじゃないか」
「父が商っていた商品の在庫なのです。父が生前よく言ってました。心の美しい女性にしか真珠は似合わないと。そして真珠の似合うお友達を探しなさいと。一度身に着けていただけませんか?」
「まぁ、身につけるだけなら」
奥さんは鏡の前で合わせる。
「とてもお似合いです。それは今日という日の記念にお持ちいただけませんか?」
「いいのかい?」
「はい。もちろん」
「ディッシュちゃんだっけ。私はスプーン。なんでも頼りな」
「はい、スプーンさん」
「それであなた?」
「なんだい?」
「私はディッシュちゃんの友達。知り合いだけど、私の友達って事は、あんたも知り合いだよね」
「そりゃもちろん」
「じゃあ土地は?」
「もちろん問題ないさ。ようこそポテト村に!」
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