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10/12

虫

私の足元をムカデが横切る。


「うわ。ムカデ」


「ディッシュ様。殺しましょう」


「別に殺さなくて良い。益虫だってハシが言ってたから」


「わかりました。いつでもお呼びください」


「ねぇ。ムカデとか蜘蛛とかいるじゃない。こういうのを一つの壺に入れて、共喰いさせる呪術ってあったよね。あれ報復にどうかしら」


「ディッシュ様。その呪術は見破られると、術者に返ってきます。ディッシュ様がおやりになってはいけません。御身に危険が」


「そうなの。それは大変。この案は却下ね」


「やるなら、誰か別の者にやらせましょう」


「別にしなくても良いから」


「そういえばムカデを油に漬け込むと、虫刺されの薬になると、村の老婆が言ってました」


「そうなの?」


「あげようか?と言われましたが、ドロドロに溶けたムカデが入った油と聞いて、断わりました」


「さすがに、私も無理かも」


「しかし、なんでも活用することは、さすがに難しいですね」


「そうよね。活用できると考えると、色々アイデアは出るけど、抵抗があるのも多いわ」


「世界からの恵みは多いけど、活用しきれないから、未活用な部分もあるのかもしれませんね」


「そうね。活用することが、既存の方法より効率が悪ければ、採用されなくなるものね」


「もしかすると、そうやって、廃れていったものは、多いのではないでしょうか」


「そうかもね。おばあちゃんの知恵的な、あれおばあちゃんのおばあちゃんの知恵とかもあると思うのよ。それを十代とか重ねると、ほとんどその当時の知恵は残っていないんじゃない」


「そうですね。このムカデは焼くと美味しいと聞きましたが、他の食料がある現状。食べたいと思わないですものね」


「代替可能なものは、より便利なものに代わって、単一化されていく。農業と同じね」


「でも、そこに危険性があるから。全てではないにしろ。活用する道は残しておいたほうがいいのかもしれませんね」


翌朝、私達はハシと土地を見て回る。

ハシの言うように、たしかに使われていない土地はかなりあった。

感覚では、全体の三割……いや、場所によっては四割くらいはありそうだった。


「ずいぶん多いわね」


「ワシもここまで多いとは思わなんだ」


「上手く活用できそう?」


「ちょっと自信がないな。どう使えばいいか見当がつかない」


家に戻ると、見知らぬ少年が私達を待っていた。

「ディッシュさん、申し訳ございません。小作人は足りてると断わったのですが」

小作人の一人が頭を下げる。


小作人志望にしては、小奇麗な恰好をしている。


「あなた。名前は?」


「シュガーです」


「小作人希望なの?」


「小作人というより、ここに置いて頂きたいのです」


「置く?私に何かメリットがあるの?」


「僕は力仕事は苦手です。でも頭を使うのは好きです」


「頭を使うのが好き……。あのね。今私が悩んでいるのが、土地の事なのよ」


「土地ですか」


「うん。広い農地を持っているのだけど、三割くらいは未活用なの。もったいないと思わない?」


「そうですね。それは多少の余裕を取った上での三割ですか?」


「どういう事?」


「道で例えると、道の幅はギリギリ馬車一台分通ることができれば、足りますよね」


「まぁ足りるわね。でもそれは現実的ではないわ」


「それは?」


「余裕がないと、人や他の馬とすれ違えないでしょ」


「そうです。では道の幅を広くしすぎると、どうなりますか?」


「そうね。今度はムダに費用がかかるわ。工事もタダではないし」


「その通りです。広い農地をお持ちでも、それをすべてギチギチまで使うと、その余裕がなくなります」


「あなたの望みは?」


「食事と寝るところ。あとは本。いろんな人の話も聞きたいです」


「お給料とかは?」


「払いたくなったら、払ってください」


「わかったわ。でもまったく力仕事なしはダメよ。多少はやってもらう」


「はい」

シュガーは嬉しそうに笑った。


それからサラにシュガーを紹介させた。

それからシュガーは農場のあちこちを見て回っていた。


数週間後の事。

「ディッシュさん。お話良いですか?」


「あぁシュガー。どうしたの?」


「ひとつ提案があります」


「何?」


「鶏を何羽か分けて頂きたい」


「それで?」


「それと運搬場の掃除を任せて頂きたい」


「するとどうなるの?」


「養鶏ができます」


「説明してくれる?」


「はい。今の麻袋は目が粗く、運搬場では多量の穀物が落ちています。この穀物をより分けて、食料にするのは困難です。しかし鶏が食べる分には関係ありません」


「なるほどね。それでどれくらい飼えそうなの?」


「常に百羽程度はいけるかと」


「常に百羽というのは、鶏は卵用途だけじゃないという事?」


「はい。卵を産めなくなった鶏は肉質が堅いらしく、あまり美味しいものではなさそうですが、じっくりと煮込んでスープにすれば、良い出汁が取れ、使用人達で消化できると思います」


「今卵を産めなくなった鶏はいるの?」


「はい。見つけています」


「調理はできる?」


「はい。できますが、鶏を捌いたことがありません」


「サラ。手伝ってあげて」


「はい」


二人は厨房に向かった。

五時間後。


「できました」

シュガーとサラはスープを持ってきた。


一口すする。

「わかったわ。その案を採用しましょ。スープは晩御飯ね」


晩御飯が始まる。

使用人達の目が輝いている。


「これは最近入ったシュガーの提案でできたスープよ。皆飲んでみて」


皆目を輝かしてスープを飲む。

「これは美味い」

あちこちから声が聞こえる。


「これは卵を産まなくなった鶏を捌いてスープにしたものなのだけど、養鶏の分野を少し拡大して、たまにこのスープが飲めるようにするわ」


「どれくらいの間隔で?」

フォークが尋ねた。


「週に1~2回程度かと」

シュガーが答える。


皆盛り上がる。


「これからどうするか。皆に説明できる?」


「はい」

シュガーは説明しだした。


皆頷いている。


「じゃあ。これもったいないんじゃないかって思ったら、シュガーに言えばいいのか?」

声がかかる。


「えぇそうよ。シュガーに言って。シュガー。あなたでもできない事はあるわ。困ったら私や皆を頼りなさい」


「はい」


「じゃあ、冷めないうちに食べましょ」


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