# 第十六章 # 「春菜の答え」
# 第十六章
# 「春菜の答え」
夕焼けの遊歩道。
修司の告白の後。
時間が止まったようだった。
風だけが吹いている。
春菜は、
しばらく何も言わなかった。
修司は怖かった。
断られるかもしれない。
困らせたかもしれない。
今さら、
後悔もしていた。
でも。
伝えられたことだけは、
よかったと思った。
やがて。
春菜が小さく笑った。
涙を浮かべながら。
「ずるいです」
「え?」
「そんな顔で言われたら」
修司は固まる。
春菜は少し俯いた。
そして。
静かに言った。
「私も……好きです」
修司の思考が止まる。
一瞬。
意味がわからなかった。
「……え?」
春菜は照れながら笑う。
「だから」
「好きです」
「高瀬さんのこと」
修司は言葉を失った。
四十年間。
こんな気持ちになったことは、
ほとんどなかった。
嬉しい。
ただ、
嬉しかった。
春菜は続ける。
「でも」
修司の胸が少し緊張する。
「東京の話は、ちゃんと考えたいです」
「はい」
「夢だから」
「はい」
修司は頷いた。
春菜の夢も、
大切だった。
だからこそ。
「待ちます」
修司は言った。
春菜が驚く。
「え?」
「春菜さんが悩んで出した答えなら」
「ちゃんと受け止めます」
春菜は少し泣きそうな顔になった。
そして。
小さく言った。
「ありがとうございます」
二人は並んで歩き出した。
手はまだ繋がない。
でも。
心の距離は、
確かに近づいていた。
その数日後。
春風マンション。
朝から大騒ぎだった。
「シュージさん!!」
ラジェスが走ってくる。
「どうした!?」
「テレビ!!」
「テレビ?」
管理人室へ駆け込む。
そこには。
地域ニュース。
映っていたのは――
春風マンション。
「え?」
修司は固まる。
画面には、
子ども食堂。
交流会。
夏祭り。
住民達の笑顔。
アナウンサーが話している。
『多文化共生のモデルケースとして注目されています』
『地域交流の取り組みが評価され――』
修司は言葉を失った。
田村も映っている。
ラジェスも。
ミラも。
子ども達も。
そして。
少しだけ自分も。
その日の午後。
管理会社。
黒田が興奮していた。
「高瀬さん!」
「はい!?」
「補助金の話、本格化しました!」
「え?」
「市と県が興味を持ってます!」
修司は耳を疑う。
さらに。
黒田は続ける。
「売却案、再検討です」
修司は立ち上がった。
「本当ですか!?」
「まだ確定じゃない!」
「でも可能性が出てきた!」
胸が熱くなる。
住民達の顔が浮かぶ。
諦めなかった結果だった。
その夜。
中庭。
住民達が自然と集まっていた。
ニュースを見たからだ。
みんな嬉しそうだった。
「私テレビ出てた!」
「三秒だけな」
「三秒でもテレビよ!」
笑い声が広がる。
子ども達も走り回る。
春菜もいた。
修司と目が合う。
少し照れながら笑う。
二人だけの秘密が、
そこにあった。
その時。
田村静子が大声で言う。
「みんな聞きなさい!」
全員が振り向く。
「春風マンションは!」
田村は胸を張った。
「まだまだ終わらないわよ!」
大歓声。
拍手。
笑顔。
修司は空を見上げた。
昔。
ここは問題だらけだった。
孤独だった。
毎日が苦しかった。
でも今は違う。
帰りたくなる場所がある。
支え合う人がいる。
好きな人がいる。
そして。
追いかけたい夢もある。
その時。
春菜が隣へ来た。
「高瀬さん」
「はい?」
「教師の勉強」
「続けてくださいね」
修司は笑った。
「もちろんです」
春菜も笑う。
「約束ですよ」
「約束です」
二人は夜空を見上げた。
夏の星が、
静かに輝いていた。
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# 第十六章 完
## 次回予告
# 第十七章
# 「教員試験の日」
四十歳の挑戦。
母の介護。
マンションの未来。
そして恋人になった春菜。
たくさんの支えを胸に、
修司は人生最大の試験へ挑む――。
**物語は、いよいよ最終章へ。**




