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ECCENTRIC ORBIT  作者: きんかん


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第24話 想定外の破損

 パティは、今日の作業予定を前席へ送った。

 外部設備の点検、船体補修の支援。それぞれの項目に、使う工具と固定具が付いている。


「見慣れた仕事ばっかりだが、こういうのが一番いい」


「地球へ行く前と、担当範囲は変わっていません」


「向こうでも、こういう仕事でよかったんだけどな」


 グレアムが座席へ収まった。

 パティは外部装備の確認を進める。隣の待機区画では、サルースCも準備を終えつつあった。


『こっちも出られます。先に行きますか?』


「そっちの確認が終わったなら出ていいぞ」


『終わりました。今、聞いてる間に』


「人に話振ってから片付けるなよ」


 ダリオが笑った。

 通信の向こうで、エレナが最後の確認を読み上げている。


 そこへ管制からの通信が割り込んだ。


『救難出動要請が出た。試験往還機が飛行中に後部船体を喪失、推力なし、大気圏へ落下の恐れあり』


 グレアムの手が止まる。

 パティは作業予定を閉じ、事故機の航跡を開いた。




 試作旅客往還機、XPS-01【メルクリウス】。


 機体図は、翼と胴体の境目が曖昧な、幅広い輪郭をしていた。

 約200名を乗せ、火星地表と軌道を結ぶための原寸大試作機。まだ営業には使われていない。


「搭乗者36名。操縦、技術、運航評価の試験要員です」


 地表から上がり、軌道を飛び、再び降りる。

 その反復を重ねた機体が、今回は宇宙空間でMMRと主推進を同時に高出力へ上げていた。


 通信記録が、後部喪失の時刻を示した。

 図面の後ろ半分が、観測された船体形状と一致しなくなる。


「主推進器は船体破壊により脱落。残存RCSでは姿勢を回復できていません。予測近火点は大気圏内です」


「その形で降りるのは無理だな。最短で行く」


 主推進器を失っても、試験で得た速度は失われない。

 船体は回りながら、火星へ戻っていく軌道を進んでいた。


 パティは接近と減速、その後の作業余力を計算する。

 サルースCと到着を揃えれば、速い方の機体を待たせることになるからだ。


『グラディヴス先行。サルースCはそれに続け。専門救難隊、収容艇も出す』


「了解」


『追いつくまでに、手を付ける場所を残しておいてくださいね』


「お前の分までやってられるか」


 グレアムが推力を上げた。

 四本の推進アームを後方へ揃えたグラディヴスが、先に待機区画を離れていった。






 最初に見えたのは、翼の切れた端だった。


 太い機首が回り、その向こうから、何もないはずのない空間が現れる。

 後部客室も主推進器も、そこにはなかった。


 パティは光学像へ距離と運動を重ねた。

 残存船体。大きく離れた後部残骸。その間に広がる、外板や構造材の破片。


『こちらメルクリウス、コクピットです。救難機を確認しました』


「こちらMRSS所属、グラディヴスです。区画ごとに人数と状態を知らせてください」


 前方の船内回線は生きていた。

 コクピット、その後ろの上級客室、中級客室。閉じた非常隔壁の両側から、それぞれ声が返る。


『こちらは動けます。中級区画には怪我をした者がいますが、隔壁が開きません』


『こっちは、声は聞こえてます。今、隣の人を見ます』


 パティは応答者と在室記録を照合した。

 本人の声が取れない者は、そばにいる搭乗者から状態を聞く。試験中の医療計測記録も受信した。


「前方3区画、30名生存。気密は維持しています。酸素の急減はありませんが、循環、CO₂除去、温度管理の能力が落ちています」


 別の画面に、人の形をした目標が映った。

 パティは識別信号を呼び、無線でも応答を求めた。


 返答はなかった。

 事故記録に残る後部区画の破壊と、拡大した画像に見える身体の損傷は、救命を見込めるものではなかった。


「船外へ放出された者を確認。後部区画の6名は、事故発生時に死亡したと判断されます」


 前席のグレアムは、画面から目を離さなかった。


「先に残ってる30人の方だ。取り付くぞ」


 パティは死亡者の目標を追跡に残し、船体の構造図を開いた。


 破断面の近くへは力を掛けられない。

 残ったフレームへ荷重を渡せる位置を示すと、グレアムはその中から、少し前寄りの支持点を選んだ。


「ここを使う。向こう側は空ける」


 グラディヴスが、回る船体へ近づく。

 触れる前に相手の運動へ合わせ、右の作業機構を支持点へ沿わせた。固定が成立すると、反対側のアームが開く。


 パティは推力の配分を変えた。

 残骸へ噴射を当てず、固定した場所をねじらず、船体の回転を落とす。


 画面の中で回っていたメルクリウスが止まり、代わりに火星の縁が流れ始めた。

 回転は小さくなったが、軌道の線はまだ火星へ入っている。


「姿勢、保持可能です」


「そのまま持ち上げる。人が動いてないか確認してくれ」


 船内へ呼びかけ、負傷者と周囲の者の固定を確かめる。

 グレアムはゆっくり推力を足した。


 自機のMMRは使えても、メルクリウスを包んで軽くすることはできない。

 大きな船体を動かす力は、グラディヴスの推進器から固定部を通って伝わる。パティは熱と荷重を並べ、出力を増せる余地を探した。


 グレアムがさらに押す。


「その先は、後ろの支持に偏ります」


「じゃあ、ここまでだ。このまま続ける」


 固定部の荷重は増えても、軌道の変化は小さい。

 パティが観測を更新するたび、予測近火点が少しずつ変わった。


 次の周回で再突入する予測を外したところで、彼女は前席へ告げた。


「救助のための猶予を、数時間程度まで延長できました。しかし長期に維持できる軌道ではありません」


「十分だ。ダリオは?」


「接近中です」


 グレアムが推力を絞る。

 パティは保持を続けながら、取得した事故機の記録を開いた。


 構造が切れる前に、後部MMRの電流が増えている。

 温度が上がり、出力が崩れ、それから破断の記録が続いていた。


「ログによると後部MMRの異常が先です。支持構造の検査と過去の飛行記録を照合すれば――」


「パティ。それは俺達の仕事じゃねえ。まず、こっちだ」


 グレアムが示した区画では、CO₂濃度の上昇が続いていた。

 船内から、負傷者についての追加報告が入る。


 パティは原因解析の続きを保留し、各区画の環境維持時間を更新した。


「了解しました。生存者30名の搬出条件を優先します」


『こっちで負傷者と合わせるわ。パティちゃん、区画の値を送って』


 エレナは到着前から、メルクリウスの船内と医療班をつないでいた。

 自力で動ける者。介助を要する者。先に環境が悪くなる区画。

 届いた搬出順には、その違いが織り込まれている。


『隔壁を無理に開けなくていいわ。区画ごとに外から入る。そこにいる人の状態を、続けて教えて』


 パティは船内の情報を彼女へ渡し、船外の追跡へ戻った。

 外へ放出された四人の位置は、もう一つの小さな範囲には収まらなくなっていた。




 サルースCは、グレアムが空けた側へ入ってきた。


 同じ場所へ並ぶのではなく、少し離れた支持点へ固定具を下ろす。エレナが固定を確認する間に、ダリオは機体の向きを決めていた。

 グラディヴスがどの方向へ力を掛けているか、説明を求める声はなかった。


「持てるか?」


『もう持ってますよ』


 パティの表示に、サルースCからの荷重情報が加わった。

 グレアムが推力を減らす。その分だけ、相手の支持が働く。


 メルクリウスの姿勢は動かなかった。


 パティは、固定を外せると告げた。

 グレアムが片側を離し、続けてもう片側を抜く。その途中で支えが偏る時間まで、ダリオは先に受け止めていた。


 最後の固定表示が消えた。

 前席はもう、別の方向を向いている。


 後続の救難艇が接舷へ入った。

 船内には専門救難隊が進み、気密の分かれた区画へ、それぞれ搬出路を作り始めた。エレナの声が、接続の確認と人の移動を整えていく。


 パティは、漂流する四人の軌道を前席へ出した。


「4名とも応答はなく、死亡の判定に変更はありません」


「分かってる。近い方から拾えるか」


「離れる速度の大きい対象を先にした方が、回収後の経路を短くできます」


「そっちでいこう」


 グラディヴスは、人のいる船体から離れた。

 パティは回収用の装備を選び、前席の進路へ合わせて展開した。




 人影が、ゆっくりこちらへ顔を向けた。

 自分で動いたのではない。船外へ出た時の回転が、そのまま続いている。


 パティは目標の周囲を走査した。

 外板の破片が一つ、接近経路を横切る。グレアムは先にそちらを通し、人影と並ぶ位置へ機体を入れた。


「相対速度、ほぼ一致。回転に合わせます」


「ああ。手は急がなくていい」


 近接画像が鮮明になった。

 呼びかけにも動作の反応はなく、確認できた損傷からも救命処置の対象にはできない。

 パティはその確認を記録した。


 作業機構が、回収用の包材を広げる。

 グレアムは回る身体を途中で止めず、受け止める側を同じように動かした。パティがその意図を、腕の角度と微小な推力へ振り分ける。


 支えが入り、回転が落ちた。

 布の縁が浮かないよう押さえ、身体とともに固定する。


「確保しました」


「外へ出っ張らないように収めてくれ」


 回収装備の外部固定を確認した。

 機内へ通す場所はない。帰路の噴射や作業アームに触れない位置へ保持し、その分の質量と重心の変化を制御へ加える。


 グレアムは確認表示を一度見て、次の目標へ向かった。


 その間に、エレナから最初の搬出が終わったと連絡が入った。


『次の人を出す前に、受け取り側の固定を見て。こっちの区画は、そのまま待機していて』


 応答する声が重なる。

 さっきまで事故機の船内回線から聞こえていた人の声が、今は救難艇の回線に載っていた。


 パティは二人目を確保し、三人目へ向かう経路を修正した。

 人影だけを追えば、回っている構造材へ近づきすぎる。グレアムは遠回りを選び、パティもその内側へ詰める案を出さなかった。


 四人目は、大きな破片の影に入っていた。

 光が届かなくても追跡は切らず、直前の運動から出てくる位置を絞る。作業灯に肩が映ったところで、観測値を更新した。


 最後の固定を終えると、前席から声がした。


「後ろの二人は?」


「脱落した後部区画です。残骸を追跡しています」


 今度の目標は、人影よりずっと大きかった。

 主推進器と推進剤系を抱えた構造物が、メルクリウス本体とは別の経路を漂っている。


 パティは残存系統の遮断状態を確認した。

 熱源と漏出を調べ、噴射口の正面と、まだ不確かな配管の先を経路から外す。


「接近できます。右側の破口から内部を確認します」


 作業灯の先に、客室の一部が残っていた。

 椅子、計測機材、床へ固定されたダミーウェイト。重さだけを載せていた場所の隣に、人がいた。


 パティは名簿と座席位置を照合し、近接画像を記録した。

 残っていた二人も、すでに死亡していた。


 グレアムは回収経路を確かめた。


「こっちの縁を持つ。中を動かせるか?」


「できます。先に座席側を支えます」


 外側を押さえ、内側を支える。

 曲がった構造材へ身体を引っ掛けないよう、通す向きを変えた。パティが画面へ示した経路より少し手前で、グレアムが一度止める。


「そこ、まだ触ってる」


 別の角度から見ると、衣服の端が座席へ残っていた。

 外してから、続きを動かす。


 最後の一人を残骸から出したところで、パティは名簿の照合を完了した。


「6名、全員確保しました」


「よし。戻る」


 グレアムは推力を掛ける前に、外部の回収装備をもう一度見た。

 パティも各部の固定を確かめ、帰路を通した。




 メルクリウスの付近へ戻ると、救難隊の作業灯が増えていた。


 サルースCは、取り付いた時と同じ側にいた。

 船体を支えたまま、救難艇が離れるための空間を残している。


『30名、搬出完了。収容側との照合も済んだわ』


 エレナの報告に、グレアムが息を吐いた。


「そっちは終わったか?」


『救出はね。船はまだここよ』


 ダリオが回線へ入った。


『そっち、全員ですか?』


「ああ。6人」


『了解。引き渡し先を送ります』


 パティは、回収した者の記録を送った。

 確認した場所、状態、固定。受け取り側の返答が来てから、グレアムが機体を寄せる。


 生存者を載せた艇は、医療班の指定した条件で現場を離れ始めていた。

 六人は、その経路を空けてから引き渡した。


 パティは名簿を閉じた。

 未確認者の欄には、もう誰も残っていなかった。


「後始末、任せっきりだったな」


『いつもですよ』


「おい、俺が先にこいつを止めたんだぞ」


『じゃあ、今回は半分で』


 グレアムが肩を揺らした。


 空になった回収装備を畳む。

 メルクリウスを無人のまま保持する手順が整い、サルースCも自分の固定を外し始めていた。




◇




 帰還後、ダリオは出動記録へ確認を入れた。


 発進、現場到着、保持の引き継ぎ、搬出完了。

 順に見ていくと、最初の救難要請より前に、六人の死亡推定時刻があった。


 到着時刻をどれだけ前へ動かしても、要請を聞いて出る限り、そこには届かない。

 グラディヴスより速い機体があったとしても、それは同じだ。


 ダリオは事故発生時の記録へ戻りかけた。

 指が止まり、結局、出動報告の画面を閉じた。


「出した?」


 エレナが隣から聞いた。


「はい。こっちは終わりました」


「じゃあ、あとは引き渡して帰りましょ」


 ダリオは頷き、端末を持ち上げた。

 閉じた画面の時刻は、まだ頭に残っていた。






 ヴィクターが調査結果を持ってきたのは、その後だった。


 ダリオとエレナが部屋へ入ると、グレアムは先に席を取り、パティと何かを確認していた。

 画面には、四つに分かれたMMRモジュールが出ている。


「後部が先に落ちた、というところまでは皆も聞いているかね?」


「現場で、パティが言ってたな」


 グレアムが答える。

 ヴィクターは、後部の区分を囲んだ。


「その順序で合っている。前部、後部、左右の翼。独立した4系統のうち、後部で電気的な損失が増え、局所温度が上がった。電流と冷却の制御では追いつかず、クエンチした」


 機体全体の図が表示された。

 強く質量を軽減していた各部のうち、後部だけが急速に通常質量へ戻る。


「質量が戻るだけで、船が吹き飛ぶわけではない。速度も、その瞬間に変わりはしない。問題は、まだ最大推力で加速していたことだ」


 ダリオは、推進器の位置から支持構造へ目を移した。

 軽い部分と重い部分を、一つの機体として動かし続けようとしている。


「後ろを支えるところへ、荷重が寄ったんですね」


「そこに、前からあった損傷が重なった。主構造が破断し、与圧殻も持たなくなった。後部客室、主推進系、翼の後ろまで引き剥がされたというわけだ」


 破断の線は、ダリオが現場で見た機体の縁と重なった。


「元の傷は、いつ入ったんですか?」


 ヴィクターは、表示されている記録を以前の飛行記録へと戻した。


 予定着陸地点の周囲に、ダストストームが出ていた。

 メルクリウスは横へ進路を変え、別の着陸場へ降りようとしている。


「この機体は、MMRで軽くして、薄い火星大気からも減速と揚力を取る。推進剤を使って押し戻すだけの往還機より、降りる場所を選べる。これはその能力を使った飛行だ」


 だが、代替の着陸場も穏やかではなかった。

 最終進入で機体が振られ、MMRの軽減率が下げられる。


「低いところでは、軽すぎると風や乱流に振られる。だから重くして安定を取ったが、接地までに垂直速度を落としきれなかった」


 着陸脚が地面へ触れた。

 大きな胴体が沈み、その後も滑走を続ける。


 ダリオは、停止した画像の脚を見た。

 折れてはいなかった。


「脚は設計の範囲で耐えた。目に見える変形もなかった。だが、その力を受けたのは脚だけじゃない」


 脚の取り付け部から、胴体下部のフレームへ線が伸びた。

 後部与圧区画の下へ続き、その近くにMMRの閉殻や電極、冷却系が収まっている。


「支持構造と、この辺りに細かな損傷が残った。その後も、加速と着陸、MMRの作動と停止、再突入の熱を繰り返した。傷は、飛んだ回数と一緒に育っていたんだ」


 グレアムが顔を上げた。


「その着陸の後、見てねえのか?」


「見ている。構造、気密、MMR作動。全部、決められた検査を受けた」


 合格の記録が並んだ。

 ダリオは、検査の日付を飛行の間へ重ねた。確認は抜かれていない。


「その後の飛行でも、抵抗や発熱、冷却の負荷は許容範囲内だ。通常出力では動いていた。何度も問題なく飛んだ機体を、次の試験に出す判断はできたわけだ。……だが、それらが合わさって破局へと至った」


「機械として動くことと、構造として傷が見つからないことを、別々に確認していたのですね」


 パティが尋ねた。


「ああ。今は、荷重の履歴とMMRの電気・熱特性を合わせて見れば、損傷の進み方が追える。採用されている検査基準には、そこが足りなかった」


 グレアムは腕を組んだ。


「規則は守ってた、ってことだな」


「規則を破った奴はいない。規則の方が、この機体の壊れ方を知らなかったってことになる」


 ヴィクターは声を荒らげなかった。

 次に開いたのは、事故後の検査項目だった。


 強い着陸荷重を受けた後の、MMR閉殻の精密検査。

 構造の荷重履歴と、MMRの電気・熱特性の統合評価。

 高負荷試験前の再検査。

 モジュールごとの劣化傾向の監視。


「今度はこの壊れ方を考慮して、検査と寿命管理に入れる。あの飛行まで問題が見えなかった、という記録も捨てんよ。どこから見るべきだったかを、決め直す材料だからね」


 ダリオは、着陸の画像と新しい項目を手元へ残した。


 ヴィクターは機体の全体図へ戻った。

 失われた後部が再び描かれ、機体は元の平たい姿になった。


「こいつは、地表と軌道をもっと頻繁に行き来できるようにする機体だった。着陸用の推進剤を減らし、大きな専用設備に頼る割合を減らす。天気が悪ければ別の場所へ降りる。宇宙へ出るのを、地球で飛行機に乗るくらいのものにしたかったわけだ」


 グレアムが、画面の中の機体を見た。


「ロケットより、旅客機か」


「そうだね。だから、客室もこうなっている」


 試験用の計測機材やダミーウェイトが消え、営業仕様の座席が表示された。


 コクピットの後ろに、三つの客室がある。

 前方は席同士が広く離れ、中央はそれより狭い。後部には、更に小さな席が細かく詰まっていた。


「ファースト、ビジネス、エコノミー。今のところは図面上の呼び方だ。前から順に、席の密度を上げている」


「地球の便でも、よく見る配置ね」


 エレナの言葉に、ヴィクターが頷いた。


「高い運賃を払う席と、多くの人が乗れる席を組み合わせる。これで一般席の一人あたりの運航費を下げる。便を増やしても、乗れる人間がいなければ意味がないからね」


 ダリオは後部の客室を拡大した。

 今回の試験要員がいた場所を重ねると、そこに六つの印が付いた。


 当然たった六つでは、座席の列を埋められなかった。


「……ここ、全部に人を乗せるつもりだったのか」


 グレアムが言った。


「本営業に入ればな」


 ダリオは資料を確かめた。

 客室ごとの安全基準に差はない。現場で確かめた破断位置が、その図面の後ろを横切っている。主脚の荷重が入る場所も、そこへつながっていた。


 彼は図を前へ送った。

 ファーストとビジネス、それからコクピット。それぞれを閉じていた隔壁が表示された。


「こっちは、機能したんですね」


「ああ。別々の与圧区画にしていたから、前方まで全部失わずに済んだ。閉鎖を維持したまま外から搬出した判断も、それでよかった」


 エレナが小さく頷いた。

 グレアムは客室図をしばらく見てから、椅子へ背中を戻した。


 資料の最後には、人数が記されていた。

 生存30名。死亡6名。未確認者なし。


 ダリオは確認を終え、前のページへ戻った。

 区画を閉ざしていた壁は、営業仕様の図面でも同じところにあった。

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