第二節 造成は区切りがついて新しいギアと傘
メルカド伯爵邸の小山造成地でルクレイとヴィオナは造成の境界作りに戻っていた。掘削で穴を掘り造石で岩を落としていた。
「だいぶ手直ししないで済むようになりましたね。レイのその真摯な鍛錬は素敵です。もう少しで境界はできますから昼食まで少し時間ありますけど何します?」
ヴィオナは次の作業をルクレイに尋ねた。
「そうだなー。ブカゾールさんにお願いしたいのがあるの思い出した。どっちも支柱を改造した感じの部品なんだよね。午後はちょろっと行ってくるね」
ルクレイは先に午後の割り込みを伝えた。
「そうですか。それならわたしはリランのところに顔を出して来ます。レイの言ってた細くしたレジン糸を撚り合わせる相談をしてみる」
ルクレイがお出かけと聞きヴィオナは服飾師に相談をしようと思った。
レジン糸はドレスなどにはあまり向いていなかった。ルクレイとの雑談で『撚ってない』のが糸として滑りすぎるのではとひとつの結論に至った。
その話を検証するためヴィオナは空いた時間に細いレジン糸を試作していた。ユミナと細さと硬さを確認して試しに撚ったりして楽しんでいた。
「これで終わり。出入り口とかの調整は後日にやれば良いね。水路を渡る橋は少し拡張を考えてるからそれ次第なのでこっちも保留だよ」
ルクレイがヴィオナに終了を伝えると「拡張するの?」と首を傾げた。
「あとで図にしてみよう。描くことで頭の整理ができるしヴィーに伝わる。昼食まで少しあるから池の方の拠点に移動して休憩しよう。あっちの方が本館に近い」
ルクレイはヴィオナを誘って池の拠点に向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「レイ……あの小島の土台? 禍々しい石が出てませんか?」
拠点に着くとヴィオナは目敏く花崗岩から突き出た玄武岩に気が付いた。ヴィオナは目を細めルクレイに視線を投げた。頬が少し膨らんでいた。
「あっ……あれは……転生礎石を仕舞える場所を考えたら……ああなったんだ。ホントに僕も驚いたんだよ? 何ていうか……一体化してるみたいなんだ……」
「もぅ……レイが作るから呪いがないのは理解してますよ? でも禍々しいのは紛れもなく事実です。なんとか隠してくださいね」
ヴィオナは見えないように細工するようルクレイにお願いした。
「そこは大丈夫! 仕舞ったら埋めて目立たなくするよ。ただ深く埋めると支障が出るかもしれないから浅めで花崗岩で蓋する感じ?」
ルクレイの言い訳にヴィオナは「許します」と大人びた言い回しを使った。
「良かったー。あれを見た時に『しまったー』って思ったんだよね。あれホントに不思議な付き方をしてるの。あれは……たぶん僕でも引き抜けないと思う」
ルクレイの言葉にヴィオナは目を丸くした。
「ブカゾールさんにお願いしたら池を掘って土を運び出そうと思う。小山の方に運べば池は小石と砂を敷いて水を入れて落ち着くのを待つだけ」
行き当たりばったりで始めた造成だが終わりが見えてきた。
「その後は庭師さんに仕上げてもらおうね」
ルクレイは池の畔に過ごしやすいガゼボのようなものも構想していた。とにかくヴィオナと快適に過ごせる環境のためなら手を抜く選択肢はなかった。
「そうだ! ヴィーが楽しめるボルダリングの壁も考えないと。高さは抑えめで景観を損ねない案を庭師さんに相談しよう。リオとリクも使うかな?」
「わたしが楽しんでて二人が見てるだけはありませんね」
ヴィオナは双子が強請る姿を想像してクスッと笑った。
本館から侍女が呼びに来たのでルクレイとヴィオナは身支度のため本館に向かった。ヴィオナはユミナに午後は騎乗訓練に時間を使うように指示した。
◇ ◇ ◇ ◇
「こんにちはー、ブカゾールさんいますかー」
いつものように工房にルクレイの声が響いた。
「うぉっ……ルクレイ殿か。今日はどうされましたか?」
作業台の上で支柱の検品をしていたブカゾール工房主はビックっとなった。魔導炉を見ていたヨルダムは軽く会釈して「こんにちは」と挨拶した。
「あっ、ヨルダムの作ったガラスは綺麗だったよ。あれなら色ガラスにしてもたぶん大丈夫って感じ。角も取れてたしこの短期間で凄いね」
「ありがとうございます。機会を頂けてとにかく楽しいです。鍋で転がす工夫も勉強になっています。ルクレイ様の砂はとても綺麗に溶けました」
ヨルダムは報告をして軽く頭を下げた。
「そっかー。色ガラスも始めてるんでしょ? 疲れると普段ならあり得ないミスをするから睡眠は削らないこと。これはホントに大事だから忘れないでね」
ルクレイの言葉に「分かりました」と答えた。
「ブカゾールさんにお願いがあって来たの」
本題をルクレイは話始めた。支柱と同じ筒で硬度を高めた物が欲しいこと。支柱を事前に組み合わせ帆布を被せて座りたいと絵を描いて説明した。
「折り畳める椅子ですか……。確かに絵の通りに繋げれば折り畳めますな。帆布と支柱であればタープと基本的に同じ感じになりますから作るのも楽です」
ブカゾール工房主は検品していた支柱を魔法で穴を開け二本を組み合わせてみた。ピンで繋ぎルクレイの説明通り動くことを確認した。
「うわー、ブカゾールさんの鍛冶魔法は何度見ても凄いよね。目的の場所だけ柔らかくしたり形を変えたり凄すぎる。僕も土属性で金属を扱えるように頑張ろ」
ルクレイは両手を握り気合を少し入れた。
「聞いた話では土属性は分析までの魔法師が多いようですな。形を変えられる人はほとんどいないそうですぞ。魔法局で資料を取り寄せるのが良いかと」
「あー、魔法局に報告書を送った時に資料請求もしておけば良かった」
ルクレイは以前にもリドルに魔法局から資料をもらえばと言われていた事を思い出した。王都を離れた直後だったので聞き流していた事に気が付いた。
「こんな感じでどうですかな? 図に描かれた物とだいたい同じ感じになりましたぞ。思いのほか小さくなるもんですな」
ブカゾール工房主は仕上がった骨組みをルクレイに手渡した。
「うわー、凄いすごいよー。この絵から飛び出したみたいにそっくり。でもこれにブカゾールさんが座ったら壊れるよね。僕とヴィーは大丈夫だけど」
ルクレイは受け取った骨組みを検分した。注意深く分析しながら圧を掛けていった。強度的にメルカド家ではバルテア伯爵だけがダメと判断した。
「壊れますな。ドワーフ族は基本的に重いですから。だから海や川には近寄らないようにしてますぞ。落ちると助ける方も大変ですからな」
「リューウェンで魔導具師のドワーフが酔って海に落ちたって聞いたけど大変だったのかも。落ちても浮かぶ道具があれば安心できそうだね」
ルクレイが骨組みを返そうとしたらブカゾールは二個目に取り掛かっていた。その心遣いに感謝しながらもルクレイはもう一つのお願いを描き始めた。
ガラスの材料に添加物を慎重に加えたヨルダムは二人のやり取りを見ていた。雑談しながら新しい製品を作り上げたにも関わらず二人は違う事をしていた。
そしてルクレイがまた違う物を描いてると気が付く。
『ルクレイ様は不思議だよな。色々な事を破綻せずに進めていく。強度不足と分かっていても別に咎める気配もない。見本や試作と付けば何でも受け入れてる』
ヨルダムにしてみるとルクレイのやりようは適当とも思えた。しかし確実に前に進んでいる手応えが見えていた。
『僕が作ったガラスはまだまだ未熟。魔導炉にかなり助けられてる。でもルクレイ様は凄いと評価してくれた。その時の全力を評価してくれてるのが嬉しい』
ヨルダムはガラスを炉に入れるとブカゾール工房主に声を掛け許可をもらった。冷却設備の準備も確認し持てる範囲の材料でガラスを溶かすため炉に向かった。
「ブカゾールさん、次のお願いなんだけど絵を見てくれる?……これは日除けなの。支柱に手で持つ持ち手を付けて反対側は骨を付けるの」
ルクレイの絵には八本の骨が付いた傘だった。骨は可動で留め金が支柱に付いていた。ブカゾール工房主は首を傾げて絵をジッと見ていた。
ルクレイは身ぶり手ぶりでブカゾール工房主に傘の形や大きさを伝えた。留め金の意味と構造案も伝え撥水性の布を付けると説明した。
「このような構造は作った事がありませんな。聞けば構造は分かりましたので試作してみますぞ。撥水性の布は見たことありませんがあるのですか?」
「帆布としてリューウェンで作ろうとしてるよ。うちには製布工房がないからリューウェンのレブコンさんにお願いかな。王都のドリアンさんでも良いのか」
ルクレイは少し考えてタープを頼んだドリアン製布工房向きの話と考えた。試作品が出来たらまたドリアン製布工房に送る話をブカゾール工房主にした。
「分かりました。タープを送って繋がりができてますので試作品はうちから送ります。伯爵邸にも試作品を送りますので確認をお願いしますぞ」
ブカゾール工房主はルクレイに試作品の見分を頼んだ。
「それは助かる。当面は従来の布を被せて使い勝手を見てみるよ。あと、ヨルダムの方も色ガラスが出来たら回して。色ガラスはヴィーが喜ぶ」
ブカゾール工房主に礼を伝えたルクレイはヨルダムに色ガラスが出来たら届けて欲しいと頼んだ。
「あっ、藍色と青色は届けないでね。僕とヴィーの色だから僕が作ってヴィーに見せるから。でも配合は時間取れた時に確認してくれると助かる」
「分かりました。その二色に関しては注意します」
しっかりと個人色は持ち込まないようにルクレイは釘を差した。
「お願いね。あっ! ブカゾールさん。小型の魔導炉ってガラスを溶かせるのありますか? あと、ヨルダムが独立する時に大型は相談しましょう」
「ヨルダムの件は了解ですぞ。小型でそこまで温度を上げるならバストリアの製品ですな。魔導炉ですとバストリアの産業局が取りまとめてますぞ」
ブカゾール工房主はルクレイの質問に答えた。
「分かった! お義父さんにお願いすれば良さそうですね。船舶用の風壁魔道具を作って資金を確保してみます。今日はこれで帰るね〜」
ルクレイは手を振り工房を後にした。その手には二つの骨組みがしっかりと握られ笑顔で伯爵邸に向け街中を駆け抜けた。




