第五節 取水と排水の経路と二人の踊りの場
ルクレイは一人でテクテクと池の拠点に向かい歩いていた。歩きながらルクレイは土木魔法に関して考えていた。発動言語も雑だが成果も雑な点が気になった。
「造石は石を造る。そこは問題ない。問題は石の定義がおかしい点だ。標準だと堆積岩みたいだけどこれは組成が一番良くある物だから……そう考えられる」
造石で作った石をルクレイが分析すると『堆積岩?』となっていた。試しにルクレイはいくつかの種類を指定して造石して成功していた。
「石を良く知ってるわけではないから花崗岩と玄武岩は出せた。意外だったのは石灰岩だな。これを加工すれば石灰にできるし消石灰も作れるよな」
王国内では消石灰が石灰として流通している。産地も多く比較的安く手に入るのでルクレイが作る意味は薄いので重視はしていないが石という点は気になった。
砂浜に色々な大きさの岩を出して配置していった。ヴィオナも楽しそうに配置に参加して結構な数の岩が砂浜の上に置いてあった。
その時に分かった事はヴィオナは花崗岩を好んだことである。反対に玄武岩はとにかく呪われると嫌がった。砂浜から玄武岩は排除されていた。
「粉砕魔道具は布と木は粉砕の対象にならないから入れ物で使える。ガラスの粉砕が増えるから容器は木製で統一するのは決定事項で良いよな」
ルクレイの思考が少し粉砕に関する方向に逸れた。粉砕も土木魔法だが威力がおかしいため現状は封印され造成には使わない方向で考えていた。
「ただ造石で作った石が粉砕対象になるのかは確認しておきたいとこだ。転生礎石は粉砕されないだろうけど仕舞うにしても頑丈にしたいからなぁ」
転生礎石は小島に設置しておく方向で考えていた。設置するに当たり頑丈さを考えて金属か石で包んでおく方向でルクレイは考えていた。
ルクレイは造石で作った四種類の石に関しては粉砕魔道具で粉砕されるか確認する事にした。これは休憩中にでもヴィオナと一緒にやろうと考えた。
池の拠点に着くと庭師が先に到着して待っていた。
「待たせたかな。取水場所にちょっと問題があると聞いてる。その辺りの話をしながら向かおうと思うから出発しよう」
取水場所の確認で池の北側にある森の中に入った。木の密度はそれほど高くなく小道が作れそうな雰囲気だった。そして水音が聞こえてきた。
「この先に小川が流れています。ちょうど小さな堰が出来てまして取水に向いていると判断しました。ただ……この場所は木の密度が高いのです」
庭師がルクレイに説明した。ルクレイはここまでの経路は起伏もそれほどなく水路を結ぶのに問題は感じなかった。小道にしても良いぐらいだった。
ただ先を見ると水音が微かに聞こえてくるが木々が邪魔をして視界を塞いでいた。今までの森の密度からするとかなり木が多く密集していた。
「確かにこの周辺は木が密集してるね」
木の間を抜けると小川が見えた。堰と言っていたのはちょっとした段差だった。綺麗な水が段差を落ちて小さな水飛沫を上げていた。
「ここは……なんというか雰囲気が良い場所ですね。小川で風も抜けてますし木陰も暗すぎず明るすぎすでちょうどいい」
「ここから取水すれば水路として問題ないと思うのですがどうでしょうか?」
庭師の言葉にルクレイは道筋の傾斜を頭の中で再確認してみた。傾斜として問題ないと判断できたのでルクレイは「問題ない」と庭師に答えた。
「小川自体は幅が十五単位ぐらいだね。ここから抜くから水路は……五単位ぐらいで十分だろう。流れ続ければ池の循環もある程度は大丈夫だと思う」
ざっと軽く試算してルクレイは水路の幅を決め庭師に提示した。
「はい。あの大きさの池は経験がありませんが水量の多寡が問題でなく流れる道筋を整えれば大丈夫なはずです。後々に手を入れる部分となります」
「それは同意だな。意図的に生物を入れる事はしないけど住み着くだろう。その辺りの基本的な調整はお願いね。水流は場合によっては魔道具を使う」
ルクレイの魔道具に触れた点で庭師は目を見開いた。しかしルクレイが持っている二つ名を思い出しそういう考え方もアリと意識を切り替えた。
「取水する経路を決めよう。この景観はできるだけ保全したいから段差から少し離れた位置から分岐させよう。分岐の部分は後で作業してもらって良いかな?」
「勿論です。取水の分岐は多くでやっていますので問題ありません。問題は取水した先の水路で……木が邪魔をしていている点なのです」
庭師が言いたい事はルクレイも気が付いていた。水路を引く道筋に木が生えていた。小川を完全に目隠ししていた木々が行く手を阻んでいた。
「実質的に邪魔をしているのは三本という感じだな。直ぐには水路を繋がないから木だけ伐採しておこう。伐採した木の枝打ちを頼んでおいてくれ」
ルクレイは庭師に声を掛け木を伐採すると伝えた。水壁のカットソーを発動して水路の邪魔になる木を三本ほど伐採し邪魔にならない場所に置いた。
「水路に接続するのは池側の受け入れ準備が終わってからだね。池まで戻るルートは軽く転圧して固めとく。水路の掘削は後でやっておく」
ルクレイは庭師に池へ戻る指示を出した。ルクレイは戻りながら水路と小道に出来そうな空間の地面を転圧して移動した。
池まで戻りそのまま排水路の確認にルクレイと庭師は向かった。
「排水場所は取水場所の小川の下流になります。あの小川は小山を造成している広場に繋がっています」
排水路の予定経路を歩きながら庭師が取水排水の情報をルクレイに伝えた。
「なるほどー。小川から取水して排水するから下流側の水量は大きく変わりませんね。ただ、池に溜まるまでは……んー、造水でズルしますか」
「えっ?……魔法で池に水を溜めるのですか?」
ルクレイの思考に慣れていない庭師はルクレイが話す言葉に混乱していた。
「ふふ、気にしなくて良いです。排水路は特に問題ないですね。排水場所の確認が出来たので池に戻りましょう。こちらも転圧しながら戻りますよ」
ルクレイは楽しそうに池に戻るため来た道を転圧しながら進んだ。
『あの取水場所は素敵な場所です。明日の早朝にヴィーを連れて行こう。絶対にあの場所は気にいるはず。環境保全にも注意しないといけないなー』
◇ ◇ ◇ ◇
拠点に戻るとヴィオナがテーブルに木箱を置き中を検分していた。
「ただいまー」「おかえりー」
ルクレイは庭師に手を振り拠点のテーブルに駆け寄った。ヴィオナが覗いていた木箱の中をルクレイも覗くと中身はガラスのカレットだった。
「工房に届いていたレイの砂で作ったガラスですよ。そのまま作ったガラスと分離魔道具を通した砂のガラスもわたしには区別がつきません」
「了解。思ったよりも早く届いたね。ガラスの具合はどんな感じ?」
「わたしは見てるだけですよ? 尖った部分がほとんどないのと透明で綺麗な事ぐらいしか分かりません。レイが作る砂から作ったガラスは綺麗ですよね」
ヴィオナは澄ました顔で検分はルクレイに任せた。
「これを見る限り造砂の砂はガラス作りに問題ないのが確認できたね。分離魔道具で除去する不純物もないし助かるかな。高機能な小型魔導炉が欲しくなるね」
ルクレイは分離魔道具を使わなくても品質が落ちていない事を確認した。これにより造砂でガラスの原料が手に入ることが確認できた。
ルクレイは考えていた石の粉砕を行うことにした。ユミナに粉砕魔道具の準備を頼み器の形で花崗岩と玄武岩を造石した。
「もう……また禍々しい石を出しましたね」
ヴィオナは並べられた器の中に漆黒の玄武岩が混ざっているのに気が付いた。
「造石した石が粉砕魔道具で粉砕されるかを確認しておきたくて。木皿の上に置いて粉砕してみてくれる?――『造石』……この石灰岩もお願い」
ルクレイは粉砕魔道具に石器を並べるのを手伝った。ヴィオナが粉砕魔道具を起動して結果をテーブルの上に並べていった。
「残ったのが禍々しい黒い石の器って嫌がらせでしょうか……。それにしても粉砕魔道具は石でもお構いなしに粉末にしてしまうのね」
ヴィオナは玄武岩で出来ている石器をユミナの前に置いた。
「見た目が禍々しいのは確かです。でもルクレイ様が作ってヴィオナ様に預けている時点で呪いはないと思います。危ない物をヴィオナ様には絶対に渡しません」
ユミナはヴィオナに安全と断言しルクレイは苦笑いを浮かべた。
「それでお義母さんと服飾師さんの方はどうだったの?」
話の流れを変えるためルクレイはヴィオナが顔を出していた方に逸らした。
「ふぅ、リランが暴走状態でした。あれは……まぁ仕方がありません。仮縫いのドレス風乗馬服を試着して調整したわ。これから本縫いに入るんだって」
ヴィオナは色々と諦めた風に状況の説明をルクレイに始めた。
「リランの厄介な点は型紙から完成度が高い事なの。仮縫いから本縫いで作り直しがないから針子たちは大変なのよ。小さい時からあの苦労は見てるわ」
本来であれば仮縫いから本縫いに移るまでに多少なりとも時間が空く。針子たちは適度な休憩を取れる事になるがヴィオナは取れないと断言した。
「夜会用ドレスではないけど乗馬服でも普通は仮縫いして試着するわ。普通はそこで修正が入ってから本縫いをするの。最低でも十日は掛かるわ」
ヴィオナが服作りの話を進めた。夜会用のドレスならば最低一月掛かるとヴィオナは補足情報をルクレイに伝えた。
「それを一日で仮縫いと本縫いよ? 普通に無理。でもリランは型紙から調整までほとんどやり直しがないわ。もう針子さんたちの努力のみで期間が決まるの」
首を振りヴィオナは苦笑を浮かべた。
「子どもの時から針子たちの苦労は見てきたわ。うちの針子たちって結局は全員が武闘派なの……。リランについて来れるのが武闘派のみなのか……」
新人騎士が受けるレベルの鍛錬を針子たちも余裕でこなす。こなせるようになる鍛錬メニューをリランが作る。服飾師と針子がなぜか武闘派と扱われた。
ヴィオナは「体力勝負は圧倒的なのよ」と呆れた声でルクレイに教えた。
「明日にはお披露目できるからレイは期待していてね」
満面の笑みを浮かべたヴィオナがルクレイにお披露目を告げた。
「楽しみだな。淑女のヴィーと活発で冒険派のヴィーの両面を見せる事ができるリランがデザインしたヴィーだけの服だよね」
スッと席を立ちルクレイはヴィオナに手を差し伸べた。
「僕のお姫様。明日の予行演習でステップを踏みませんか? 執事長に鍛えられたステップを是非とも披露させて欲しい」
ルクレイの手を取りヴィオナが席を立った。ルクレイはヴィオナをエスコートして造成中の砂浜に降り立った。
エスコートを解きルクレイとヴィオナは向かい合った。ルクレイは胸に手を当て姿勢を整えヴィオナに礼の姿勢を取る。
ヴィオナは微笑みながら乗馬服ではあるがカーテシーの礼を取った。
二人は手を取りステップを踏み始める。足場の悪い砂浜の上とは思えないほど二人のステップは安定しダンスは綺麗に流れていた。
「ふふ、なかなか機会がなかったけどヴィーとダンスが踊れて嬉しい。そうだよねー。機会は待つものでなく作るものってすっかり忘れてたよ」
ルクレイはスッとヴィオナの腰に手を当てふわっとターンした。ヴィオナは流れに身を任せそっと地に足をつけるとステップを踏み直した。
二人は笑顔で会話しながら砂浜の上で踊り続けた。




