第四節 小山の造成を始めたらリランが暴走してた
池と小山の造成予定地の間をルクレイとヴィオナは雑談しながら土を運搬していた。ヴィオナは左右の土の量を変えてバランスの鍛錬も兼ねていた。
ルクレイは板状の水壁を大きな桶状にして土を詰めて運んだりと工夫していた。
「レイの桶は大き過ぎです。それ一杯で池側の残土がかなり減りましたよ? わたしの鍛錬分がなくなってしまうのでレイは小道を広げる作業をお願い」
鍛錬用の土が減り過ぎとヴィオナがルクレイに指摘した。代わりに鍛錬のバリエーションを増やすために小道の拡張をお願いした。
「そう?……分かった小道をちゃちゃっと広げちゃうね。ついでに水路を掘って小川を調整する準備もしちゃうね。……ていうか小山を水路で囲むか」
「囲むのですか?」
ルクレイがまた設計変更を思い付いた。ヴィオナは変更自体には慣れていたので囲むという言葉の意図を確認した。
「それほど勾配はないから小山の周囲を水路で囲めると思う。小川は水路に繋げて排水路から水を出せば良いよね。ロープの外側を巡らすなら楽だよ?」
「小山を囲む水路の位置を決めてしまえば小川それぞれの事を考えなくて済むという事ですね。排水路の位置は決まっているのですか?」
囲む理由が個別に考える事が面倒だったと理解したヴィオナは頷いた。そのため排水側をどうするかだけをルクレイに確認した。
「大きめな小川を数本使えば排水できると思うよ。小さいのも活かそうと思えば多分活かせると思う。水路はとりあえず15センチぐらいで掘る事にするね」
ルクレイは大雑把ではあるが水路の方針を決めていった。
「んー、妥当なように感じますね。囲んだ水路に小川が繋がった後でも手直しは可能ですし。あっ、この水路も小石と砂を敷き詰めませんか?」
「それ良いね。水を綺麗にできるし石とかで補強するよりは良さそう」
ヴィオナも水路を想像して妥当と判断し小石と砂で整える案を提示した。
◇ ◇ ◇ ◇
運搬していた土を降ろすとルクレイは小道の拡張をするため伐採を始めた。ヴィオナと従僕たちは次の土を運ぶために移動していった。
「本数的には……二十本ぐらいだから枝打ちは後でお願いしよう。並べておけば枝打ちも楽だし丸太はゴリゾンさんのところに運べば良いよね」
ルクレイは小道の横にある木をカットソーで伐採し始めた。木を倒したら森から出して並べていく。一通り伐採してみると小道は3m程度まで広がっていた。
「根っ子は後で考えよう。確か土木魔法大全にちらっと書いてあったから魔法で抜けると思う……たぶん。それより小山の水路を掘っていこう」
排水側の小川を再度確認したルクレイは数本の小川を排水用とした。
小川と繋がらないようにロープから50cm程度離した場所に幅を100cmで深さを18cmとした水路を掘削で掘り進んだ。
水路に敷き詰める小石は花崗岩と玄武岩を20gで混ぜた状態とした。造石で厚みを2cmとして敷き詰め上から砂を3cmほど敷き詰めた。
「ずいぶん水路ができてますね」
ヴィオナが近寄り声をかけてきた。土の運搬が終わり入口付近の拠点も完成したからとルクレイをお茶に誘った。
「もう土の運搬は終わったのかー。こっちの水路は排水用に小川は選定してあるからまずは繋げちゃう。排水側を繋げて少し様子をみようと思う」
ルクレイは水路の作業を後少しで一旦終わらせる予定とヴィオナに話した。
「午前中はそこで終わりにしましょう。伐採した木は枝打ちをしたようなので並べ直してくださいね。どう扱うかはお父様にお願いしちゃいましょう」
ヴィオナは頷き午前中の作業は手仕舞いする方向で話を進めた。
「そうだね。なんか間伐木材ってゴリゾンさんが追加で送って来てるみたい。順調に増えてるみたいだから丸太は当面使わないよね」
「ユミナに聞いたけど間伐木材は従僕たちが色々と使ってるみたいですよ」
ゴリゾン製材工房では間伐材を製材し乾燥魔道具で乾燥させている。出来具合などを含めて良い物をどんどんと伯爵邸に送り込んできていた。
お茶で喉を潤したルクレイはヴィオナと水路を作成している場所に戻った。
残していた小川の部分を掘削で掘り小川を水路に接続した。水路内に水が流れ込んでいく。排水側の全ての水路を掘削で繋いでいった。
「排水側の小川の調整は庭師さんに見てもらってから手当になるかな」
「そうですね。排水側が整ったら取水側も繋げますよね? 小川の流れを切った後に広場に土を積んでいけば作業としては次のステップですね」
広場の小川に対する対策を優先した二人は満足げに本館に移動した。
◇ ◇ ◇ ◇
本館に戻り二人は身支度で別れた。軽く汗や埃を落とすために湯殿に向かうルクレイに執事が声を掛けてきた。
「先程、ブカゾール鍛冶工房から荷物が届きました。ガラスとタープの支柱が届きましたので工房に入れました。タープの支柱は訓練で使用して良いでしょうか?」
執事の報告を受けてルクレイは支柱の使用を許可した。
「ガラスも作るのは軌道に乗ってきた感じだな。どのタイミングで硝子工房に分けるかはお義父さんに任せた方が確実だよなー」
湯船に浸かりルクレイはガラス生産の方向性を考えていた。透明なガラスのカレットはレベナに輸送を始めていた。工房用の製糸魔道具は頼んだばかりだった。
「想定してた流れより遥かに早く動いてる。即席魚粉、製糸、造船は完全に動いてる。レジン糸は工房用の製糸魔道具待ちだけどガラスは用意できてる」
レベナの工房立て直しは現時点でかなり進んでいた。
「漁業は最初の一隻目が完成したタイミングで資源調査をしながら漁をしてもらえばいい。針の型が届けば釣り針も準備できる」
ルクレイは立ち上げるのに時間が掛かる部分から手当をしてきた。しかし想定より早く立ち上がり予定になかった染色工房の動きも出てきていた。
「先代のベリオナルお祖父様が亡くなって失意に落ちていた。でもリオやリクが動き出してレベナの人たちも顔を上げて前向きに動き出した感じだな」
メルカド伯爵領は先代が急死した事で刻が止まった。五年という月日は長いが心が癒えるには短い。先代の想いをレベナの住民は受け取ると決めたと感じた。
「お祖父様の想いを継ぐと決めたのは僕やヴィーや双子たちだけではない。住民の皆も継いで行くと覚悟ができたんだろうな。お祖父様は本当に凄い人だな」
会うことは叶わなかったがルクレイはベリオナル前伯爵を尊敬していた。
◇ ◇ ◇ ◇
「執事長から聞いたが帆布を縫いたいらしいな。縫える者はいるが道具はレベナにしかない。レベナに道具を回すように伝令を出したから明日には届く」
バルテア伯爵は昼食の場でルクレイに帆布を仕立てる準備を伝えた。
「それは嬉しいです。実際のところ四角だとタープとして使いやすくないです。支柱で支える場合は形を崩した方が日除けとして使いやすくなります」
「そうなのか? タープは王都のドリアン製布工房に回したようだしリューウェンのレブコンに情報を回して帆の手当を頼むつもりだ」
バルテア伯爵は移動時の日除けとしてタープの有用性に気が付いていた。王都を巻き込んでるのでリューウェンも巻き込む算段に切り替えていた。
「お手数掛けます。帆布に関しては他にも作りたいと思ってるので仕立てができる人と帆布が入ってくるのは嬉しいです。冒険デートまでには整えたいなー」
ルクレイとバルテア伯爵がそんな話をしている横ではヴィオナがカリスタ伯爵夫人に話し掛けられていた。
「午後はこちらの作業に参加しなさい。レジン糸も乗馬服もリランが暴走気味になってるわ。針子たちも巻き込まれてるしレジン糸の在庫も切れたわ」
少し疲労感を漂わせたカリスタ伯爵夫人がヴィオナに午後の指示を出した。
「えっ?……レジン糸は昨日かなり作りましたよ? もしかしてあの量を全て使い切ったのですか? で……針子ということは乗馬服の方ですよね?」
「午前中に仮縫いまで終わらせてヴィオに着せてみる算段みたい。あれだけレジン糸で髪留めを作ってるのに型紙まで作ってたわ」
カリスタ伯爵夫人は首を振り「あれは止まらないわ」と諦めの顔をしていた。
「お母様が煽ったわけではないですよね? レジン糸の髪留めにレースを付けるというアイデアが刺さったのですか? ちょっとリランの暴走理由が不明です」
小さい時からの長い付き合いである服飾師のリランの事をヴィオナは大好きである。ただリランはお洒落で暴走しヴィオナは結構な頻度で巻き込まれていた。
「あの子も武闘派でしょ? 動きを阻害する金属の髪留めもお洒落を出し難い乗馬服もあの子の趣味ではないわ。今回はちょっとあの子に刺さり過ぎたみたい」
「あー、言われてみればそうです。お洒落なリランはいつも木製の髪飾りでした。前に理由を聞いて体験しましょうと鍛錬につき合わされた事があります」
武闘派の婦人たちは軽い髪留めや動きやすい乗馬服の話題をお茶会で話し合っている事が多かった。比較的軽量なミスリルが好まれる土壌でもあった。
「それって五歳ぐらいの時ですよね? ヴィオの体力がグングン増えて冒険する範囲が広くなった頃……そう、あれはリランが首謀者だったのですね」
カリスタ伯爵夫人はヴィオナの活動範囲が一気に広がった時期を思い出した。
「でもあれで季節の変り目で熱を出さなくなりましたよ。重さを実感する動きは結構きついですがバランス感覚がとっても良くなりました」
「そうなのよ。あの子はデザインセンスは抜群だし縫製も凄く上手いわ。にも関わらず鍛錬メニューを作るのも上手いのよ。騎士からも尊敬されているわ」
鍛錬は厳しかったが真っ直ぐ遊んでくれたと認識しているヴィオナだった。
「それって騎士団長の夫人だからでなくて?……あー、そういえば騎士たちも巻き込まれてました。あら? その頃はまだ独身でしたよね? 婚姻式は?」
リランは現騎士団長の奥さんである。しかし記憶を紐解くといつ婚姻したのかヴィオナは覚えていなかった。いつの間にか騎士団長夫人になっていた。
「……婚姻式は王都でしたのよ。あの子も両親は王都の男爵家でしたから。今は引退と嘯いて役職から逃げて悠々自適とか言ってるみたいですけど」
「そうだったんですね。少し変わってるところはご両親に似たのですね」
変わり者という認識はヴィオナも持っていたので不思議と納得した。
「レイ、午後なのですがレジン糸とドレス風乗馬服の件で服飾師のリランに会うので遅れます。そっちの話が終わったら池の拠点に顔を出しますね」
バルテア伯爵と工房関連の詰めをしていたルクレイにヴィオナが声をかけた。
「ん?……了解。庭師さんと取水する場所の確認も必要そうだから済ませとく。小島の土台も置いちゃえば掘削でどんどん進められる予定だよ」
ルクレイはヴィオナがいないなら池を中心に作業する事にした。取水場所の確認が終わったら庭師には小山側の水路のチェックをお願いしようと考えた。




