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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十二章 庭園と小山のコラボとお洒落さん

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第三節 鍛錬デートと土の運搬は危険な小山?

 早朝のメルカド伯爵邸マナーハウスの鍛錬場で金属がぶつかり合うような音が響いていた。その中にまるでガラスが割れるような音も混ざっていた。


「もう……風壁を割っちゃダメです! 強度は普通なはずですよ?」


 空中を駆けるヴィオナがルクレイに追撃を掛けながら指摘した。


「まだヴィーがいつも出してる風壁より硬さが弱いよ? 移動用の風壁から防御用の風壁への切り替えは凄く良くなってるけどあと一息って感じ?」


 ルクレイは新たな水壁を展開して移動する軌道を変え追撃を避けた。追撃で発動された風刃は地面に衝突し小さな土煙を上げて消えていく。


「えー、レイの判定が厳しいの! 使い終わった風壁を消すのも大変なんだよ?」


 ヴィオナは風壁の配置を変えてルクレイの上空に入り「突風」と発動言語を呟きルクレイを巻き込む形で地面に向けて風魔法の突風を発動した。


「ドォーーン」


 突風は強力な風をぶつける魔法で地面に辺り周囲に風を撒き散らした。


「あーずるーい。防御用の水壁を出したでしょ?」


 ヴィオナが突風の中でも平然と動いたルクレイを見て苦情を言った。今回のルールではルクレイは防御用の水壁が禁止となっていた。


「ふふ、今のは移動用の水壁だよ。突風を受け止めないで受け流したから移動用でも壊れなかったんだよ」


 ルクレイは移動を続けながら解説した。突風に対して斜めに複数の水壁を展開した事で突風の軌道を逸らした事を教えた。


「えー、その使い方を後で教えてくださいよー」


 ヴィオナはルクレイが急旋回してコロコロ棒の戦闘距離に入った事に気が付いた。足元の風壁を増やし突きを主体にした棒術で攻撃を始めた。


 再び金属音が響き渡り近距離で二人が目まぐるしく位置を変え攻防に入った。


『ヴィオナ様とルクレイ様の模擬戦という名のイチャイチャは早朝の風物詩です。最近は戦闘侍女になるため体術を習ってますが……二人のはおかしいです』


 ガゼボから椅子を持ち出し座って見守るユミナは呆れ顔を隠してなかった。


「こりゃまた二人の攻防は見応えはあるけどイチャイチャ感が強いの」


 本館から見学に来たイゼルダ前伯爵夫人が楽しそうに声を掛けた。ユミナの横に置いてある椅子に「どっこいしょ」と年寄ムーブで腰掛けた。


「おはようございます。大奥様は今日も見学に来られましたのですね。もうすぐ鐘一つぐらいになりますので終わるかと思います」


 侍女のユミナが座っているのはヴィオナの指示である。座って見る代わりに模擬戦の流れや感じた事をメモをするように指示されていた。


 イゼルダ前伯爵夫人もメモを見て「座っとれ」とユミナに指示していた。


「挨拶しとると模擬戦の流れを見逃すぞ。観戦メモはユミナの目を鍛えるための指示なのは分かっとるだろ。そこを全うするのが専属侍女として責務じゃ」


 イゼルダ前伯爵夫人はユミナがヴィオナに同行するため戦闘侍女の役職を得ようとしている事を知っている。そのため模擬戦観戦中の挨拶は不要としていた。


 ルクレイとヴィオナの模擬戦は空気感が変化していた。二人ともコロコロ棒は使わずヴィオナが風刃や突風を嫌がらせのように発動する動きになっていた。


 そしてルクレイがヒョイッと避けヴィオナを横抱きにした。


「あー、捕まってしまいましたー」


 横抱きになったヴィオナは魔法の発動を止めてルクレイに微笑んだ。ルクレイは階段状に水壁を展開して鍛錬場まで降りるとガゼボに向かった。


「お祖母様、おはようございまーす」


 ヴィオナは横抱きのままイゼルダ前伯爵夫人に朝の挨拶をした。嬉しそうに小さく手を振るヴィオナは大人しい小動物のようだった。


「相変わらず二人の模擬戦は面白いのぉ。あれだけ風刃や突風を連発してるにも関わらずこっちには飛んで来ないのは凄い見切りじゃな」


 イゼルダ前伯爵夫人がユミナからメモを受け取り目を通しながらヴィオナに答えた。これはメモの内容がユミナの鍛錬として十分かどうかを確認していた。


「ユミナは随分と目が良くなってきたな。体術で目は重要じゃからこれからも鍛錬は続けるんじゃぞ。だが時間配分は騎乗訓練に移すようにな」


 メモを読んだイゼルダ前伯爵夫人がユミナの評価を下した。


「はい。ご指導ありがとうございます」


 模擬戦が終わった時点でユミナは席を立ち侍女としての立ち位置に戻っていた。ユミナはイゼルダ前伯爵夫人に指導の感謝を伝えた。


「ユミナは借馬のナンニを池の拠点に連れて来なさい。池の周囲や森の小道を使って騎乗訓練をするように。お世話の侍女は二名選定して拠点に配置して」


 イゼルダ前伯爵夫人の指導を聞いたヴィオナが次の指示を出した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「庭師からの報告だと小山を造成する場所は決まったらしい。ロープを午前中に張るという事だ。あと池の取水路と排水路は少し問題があるから検討中だそうだ」


 バルテア伯爵が朝食の席でルクレイに状況を伝えた。


「分かりました。手前側の掘削をしたので土が邪魔になるので小山の造成地に運びます。池に小島を作るのでそちらを先に進めます」


 話を聞いたルクレイは造成予定を簡単に説明した。


「報告書は読んでみたが魔法は難しいな。それにしても造砂や転圧がなぜ大全にないのか不思議になるな。どちらも読む限り普通の魔法だし発動言語も普通だ」


 造成の話は区切りがついたのでバルテア伯爵は報告書に話を移した。


「魔法が今の形になったのは随分と昔ですよね? 転圧がないのは整地でやりたい事が賄えたからって思います。転圧は地面のでこぼこが残るので不便ですよ」


 転圧は整地に組み込む事で整地の利便性が高まり使われなくなった可能性を指摘した。ルクレイの考えとしては便利な方だけが残ったと話す。


「砂を作る造砂も使用頻度が低く忘れられたと考えてます」


 ルクレイの解釈にバルテア伯爵は「そんなものか」と答えた。使わない物は忘れてしまうという話に心当たりもあり特に疑問には思わなかった。


「領内に土属性の魔法士はいませんか? 追加の検証を実施しておきたいと思っています。造土や整地が発動する魔法士なら発動は可能性だと思います」


「うちにも小さいが魔法局はあるぞ。局長と副局長に事務員しかいないけどな。普段から領内を移動してる変わり種だから事務員に話しといた」


 バルテア伯爵は局長と副局長が戻ってくれば突撃して来るから相手してくれとルクレイに頼んだ。二人は魔法好きな夫婦だとニヤリと笑みをこぼした。


 報告書は伝令に託されてレベナを経由して王宮に届けられるよう手配された。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 朝食の後は執事に小山の造成予定地を聞き池のヴィオナをエスコートするルクレイは拠点に向かって小道を進んでいた。


「あれ? 馬車止めにもタープが張られてる? 池の方の拠点も規模が大きくなってるような気がする。ユミナは何か知ってる?」


「はい。出陣や馬車移動などを含めて拠点の設営は重要な技能にまります。定期的に訓練をしていますがタープは今後の事を考えて訓練に加える事になりました」


 ルクレイに尋ねられてユミナが現在の状況を簡単に説明した。


「タープはまだ数が揃っていません。そのため馬車止めの帆布も訓練で使わさせて頂いてます。拠点の撤収で設置方法を確認していますので問題ないようです」


 ルクレイが設置し放置していた拠点の撤去を訓練として実施していた。今日から本格的に拠点設営の訓練を従僕や侍女たちが行っていた。


「なるほど。お義父さんたちが移動する時は確かに必須な技能だね。ユミナにお願いなんだけど設営する時にどんな形でタープを使いそうか情報を集めて」


 ルクレイはユミナに拠点設営を通したタープに関する情報の収集をお願いした。


「使う状況でタープの形や布の材質や厚みが変わってくる。そういった使う場面を考慮して準備してみたいかな。そういうのを考えるのも面白いからね」


 ルクレイの脳内では野営をキャンプ的な物と捉えている。必要そうなキャンプギアを前々から作りたいと思っていて良い機会と捉えていた。


「そうだ、帆布を縫える人っているかな? 帆布の形を整えて布端の処理ができると助かるんだよね。ある程度できればタープの見本も作れる」


「執事長と侍女長に確認します」


 製布工房があれば頼めるがリグリアにはないためルクレイは内部に人材を求める事にした。ルクレイは帆布を縫えなくもないが道具しだいなので逃げた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 池の拠点でルクレイとヴィオナは軽くお茶をした。ユミナは拠点に置かれた設備を確認し不足している物を従僕や侍女に指示して拠点を整備していた。


「ちらっと見たんだけど固着した小石の山は崩れてたよ。時間経過で固着の効果は消えるみたいだね。あれは固着してる間に固める使い方をするって事だね」


「固着しているしている間にですか?」


 土木魔法の固着は時間経過で効果が切れると確認できた。ルクレイの説明を聞いてヴィオナは固めるという点に首を傾げた。


「リューウェンで竈を作った後に運搬用するから固めたでしょ? あれも石灰を使ってるんだけど塗るためには形が出来てないと難しいから固着が使えそう」


「あーあの少しベトベトしてる竈に塗った物ですね。確かに竈も固着して塗れば作るのが簡単そうです。リオとリクの分はその辺りも考えましょうね」


 竈を運搬できるように固めた事を思い出してヴィオナは頷いた。


 一息入れたルクレイとヴィオナは席を立ち土の運搬を開始した。浅瀬部分の土だが広さが結構あるためちょっとした小山になっていた。


「移動ルートの状況が分からないから軽めで運ぼう。どうやら小さな森の横を通るみたいなので横幅の制限があるかもしれないよ」


 ルクレイは両手に長さ2mで幅が1m程度の水壁を発動した。途中に小道があったとしても幅が1mであれば通れると考えた。


 ヴィオナもルクレイの真似をして風壁を発動し二人は土を乗せて歩き始めた。


 手隙の従僕も荷車を持ち出し土を運ぶ手伝いに参加した。荷車は大きくないため多くは運べないが数は結構用意されていた。


『ルクレイ様の水壁は見えるのでギリギリ理解でき……ます。それに対してヴィオナ様の風壁は見えないので土が浮いて移動しているようにしか見えません』


 小山の造成地にも拠点を作る話になっていたのでユミナも場所を確認するためついて来ていた。確認したらナンニを呼びに行く予定としていた。


「やっぱり小道があったね。長い方は木にぶつかるから注意が必要だよ。木の上を進むのもアリだけど……バランス感覚を鍛えるなら小道が良さそう」


 森の横を抜けると聞いていたが小道が木々の中を抜けていた。目算で幅は150cmぐらいと余裕は多くなかった。距離は長くないが小道はうねっていた。


 森を抜けると大きな広場になっていた。何本か小川も流れていてそのまま造成するのは難しかった。


「これは……小川の流れを水路で変える作業も必要だね。小道も幅を広げた方が良いと思うから庭師さんに確認してもらうか」


 ルクレイは平原とも言えそうな広場を眺めて追加作業を考えた。


 ルクレイとヴィオナはロープ内で土を置けそうな場所を確認して土を降ろした。ユミナは場所を確認したので断りを入れてナンニを迎えに行った。


 従僕たちも広場の入口付近のロープ内に土を置き荷車を引いて戻っていった。


 ルクレイとヴィオナは張られたロープを確認しながら広場を歩いていた。小川はヴィオナを横抱きしてルクレイが飛び越える。


「小川は残せないけど水は水路で流さないとだね。小川を束ねて入口側に誘導しよう。小さな橋を掛けて小山にアプローチする感じなんてどう?」


「んー、中々に素敵な感じに仕上がりそうな気がします。入口の小道は鍛錬場に繋げられますし。小山はどんな感じの作りにするのですか?」


「そうだねー。直線路だと直ぐだからグルグル回す感じで距離を作るしかないかな。あとは岩壁とか作ると鍛錬に使えるかも? へこみをジャンプで飛ぶとか」


 ヴィオナに聞かれたルクレイは適当に小山の要素を上げていった。ただ、頭の中では障害物だらけの城のようなイメージがふわふわと占領し始めていた。


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