第一節 池のモチーフと庭園に作り出した砂浜
メルカド伯爵邸の造園予定地でルクレイとヴィオナが楽しそうに話していた。土属性魔法の発動結果に関する途中経過の共有である。
「池を作るのに役立ちそうな土属性の魔法は確認が終わったね。粉砕だけおかしかったし危ないし土が回収できないから使わない事にする感じでいいね」
「妥当です」
ルクレイとヴィオナの結論として粉砕のみ造成から除外となった。
「後は魔法の規模を拡張する件だね。……その前に土が水壁の上に乗せられるかを確認しよう。ヴィーの風壁も確認したいから手伝ってね」
ルクレイは平らな水壁を発動した。発動時のイメージはヴィオナと一緒に上空で夕陽を見る時の水壁である。ルクレイは一緒に桶も発動して準備した。
「桶で土を掬って……水壁に乗せる……大丈夫だな」
ルクレイはヴィオナに風壁を発動してもらった。同じように土を乗せて土が落ちないことを確認した。
「これで土の運搬は目処が立ちそうだね。ただ重さがなくなるわけではないから……力技かな。誰でも出来るようにできるかは保留にしておこう」
『この重さを感じる点が今ひとつ理解が難しいな。自分を起点に防御用の水壁を展開した場合は防御の反動が自分に届く? 反射がどう作用するかも不明瞭か……』
ルクレイは水壁の仕様を理解しようとするがカチッとハマらなかった。
「やったー。レイ、土を掬えたよ!」
ヴィオナの歓声にルクレイが振り向くと風壁の上に土が乗っていた。
「これ面白い! 風壁の通り抜ける面を土の山に被せるの。そうすると土の山を突き抜けるでしょ? で、突き抜けた後に持ち上げるの」
ヴィオナが風壁を上げると土が乗っていた。
「んー、……採用。深く考える必要がなかった。考えてみれば桶を海に入れて海水を取り出せた。それと同じ原理って事だよね」
ルクレイは再びヴィオナを賛美し始めた。頭を撫で撫でしながら賛美しているとヴィオナが真っ赤になり俯いた。
◇ ◇ ◇ ◇
ルクレイは資材置き場で木材から八本の支柱を切り出した。薄めの帆布を二枚とロープなどを持ち込みタープを張りテーブルを置いて休憩所を設置した。
ユミナが工房から加熱魔道具や冷却保管箱など拠点に必要な物を従僕たちに指示して整えた。ヴィオナの希望で木材やレジン粉も持ち込んできた。
「しばらくはここを拠点にしましょう。レイは池の造成を中心に作業しますよね? わたしは風壁のドリルビットを鍛錬するのとレジンを作りますね」
ヴィオナは土木では出番が少ないので小物作りを中心に時間を潰す事にした。テーブルも休憩用と工作用の二つに分けて配置した。
「サンダーやカットソーも試してみて。僕は扱う木材が大きめだから小物に使った事がないからね。その辺りの調整をヴィーにお願いしたいな」
ルクレイは小物作りが好きなヴィオナに精度が必要な使い方の確認をお願いした。ヴィオナは頷いて木材にドリルビットで穴を開け始めた。
「掘削とかの拡張は大きさの指定でイケると思う。確認だけ進めて本格的な掘削は小山を作る場所が決まってからにして土を運びながら小山を造成しようね」
「土の運搬はわたしも手伝うからね。重さを感じるなら腕力とバランスの鍛錬になるから丁度良いし」
ルクレイは池と小山を同時に作る方向で考えていた。その方が土の中間置き場が不要になり作業の簡略化が見込めた。
「池の手前側……工房のある方は浅くして砂浜みたいにしようと思うんだ。奥側を深めにしてサップや小型推進魔道具の確認に使おうと思うけど、どうかな?」
ルクレイは池の形をヴィオナに伝えた。
「池に砂浜! とっても良いと思います! 先にその部分を作りませんか? どんな砂浜になるのか気になります」
ヴィオナは庭に砂浜と聞いてテンションが上がった。
「そう? 手前側の土は奥側に仮置きすれば問題はないから作ってみるか。浅瀬は深くても腰ぐらいまでだよね。中心近くまで……」
先に造成しようというヴィオナのお願いにルクレイは問題ないと答えた。そしてヴィオナにイメージを伝えていて言葉が止まった。
「この池のモチーフに『小島の湖』を取り入れて小島を作らない?」
ルクレイは中心部の案で新たな物をヴィオナに提示した。
「素敵です! 神秘さの演出は難しいけど小島は楽しそうです。出来れば木を植えたいです! そこに小島にあった転生礎石を置きましょう」
ヴィオナは『小島の湖』と聞いて神秘的だった湖を思い出した。ルクレイと訪れた記念の湖をモチーフにすると聞き嬉しくて少し暴走した。
「ん?……それは良いね。女神様から連絡が来るまでの間は小島に保管しておくのは安全だね。ヴィーはアイデアの宝庫だよね〜」
ルクレイはニコニコとほぼ無意識でヴィオナを撫でた。
『話として聞きましたが転生礎石というのは本当にあるのね。ヴィオナ様はルクレイ様に許可を頂いて色々と話してくれたわ。将来は冒険する話も……』
ユミナはヴィオナから将来の冒険に帯同するか尋ねられた。ユミナはヴィオナの専属侍女になる時に一生を共にすると決めていたので帯同を希望した。
次に聞かれた事は戦闘侍女として鍛錬するかだった。戦闘侍女でない場合は戦闘が想定される場所への帯同が制限される。
線引きは防衛拠点になり得る馬車などの有無である。ヴィオナ本人は戦闘に参加する意向である。その時に身を守れる場所がない限りは帯同が許されない。
リューウェンの『小島の湖』に帯同が許されなかった理由がこれだった。
帯同が許されなかった時からユミナは考えていた。ヴィオナと行動を共にするため最低限は自力で身を守れる事が求められる戦闘侍女の道に進むことを。
ヴィオナに戦闘侍女に挑む事をユミナは伝えた。
ヴィオナは父親と王都にいるユミナの両親に許可を求め受け取った。ユミナは定期的に戦闘侍女として教練を受けていて身を守る術を身につけようとしていた。
「手前側から形にしてみようか。残土は中央側に集めて仮置きするしかないね。少し掘削して砂を敷くまでをやってみるからヴィーは具合の確認をしてね」
ルクレイはヴィオナに声をかけ工房側を手前と定義して作業に入った。ロープから50cmは空間を取り庭師に池の縁へのアプローチを頼もうと考えた。
そこから段差を5cmとして30cmまでは1mの間隔で深さを増した。中央側に寄せた土はヴィオナが中央付近に移動して小さな山にしていった。
「小石を敷き詰めて砂を被せるね。小石の時点で少し転圧して具合を見ていこう。ところでこの段差はどうかな? 緩めにして悪くないかなって思うけど」
浅瀬の取っ掛かりをヴィオナに見せた。
「まだ砂浜のイメージが分かりませんがそのぐらいの深さが良いかなって思います。思ったよりも大きいというのが率直な感想ですね」
「それじゃ小石を撒くね。小さめにしてみる。標準で50gだったから小石の重さは20gとして厚さは2cmで撒く感じで『造石!』……こんな感じでどう?」
小石が撒かれた状態を見たヴィオナは「良い感じです」とルクレイに賛辞を送った。評価を聞いたルクレイは移動して小石を敷き詰めていった。
「この後は砂を敷いて砂浜と言ってましたが……土木魔法は土と石しか作れませんよね? 小石を小さくしていくのですか?」
小石を敷き終えたルクレイにヴィオナが作業で疑問に思っていた事を尋ねた。
「土も石も本来は色々な物が含まれてるよね。その辺りには触れずに土と石は造れるとしてる。この曖昧さは砂も一緒で砂を造る魔法はあると思ってる」
ルクレイは考えていた事をヴィオナに伝え発動言語を呟いた。
「造砂!」
空中に砂が現れ地面に落ちて舞った。
「あら……また土木魔法大全にない発動言語ですか……レイは見つけ過ぎだと思うわ。王都魔法局が大全シリーズを編纂してるのに可哀想ですよ?」
「収録するかは魔法局の人たちが決めてくれるよ。土属性の話だからそれほど大きな話にはならないと思うんだよね。ちょっと便利になるだけだし」
ルクレイはそれほど問題にならないだろうと楽観していた。確かに内容は微妙だが話がどうなるかはヴァルディス国王の動向次第な点を完全に失念していた。
もう一つ理解していなかった点は発動言語そのものを見つけたという点である。実は風壁や水壁は厳密に評価すると発動言語として機能していない。
起きる事象を見て聞いた風壁と存在だけ聞いた水壁は発動言語が存在していない。魔法陣の知識が深いアルフォンスたちだけが風壁を発動言語に出来ていた。
水壁はリュミエールの中では発動言語であり魔法陣が構築されている。しかし魔法陣が複雑でアルフォンスに伝えていないため結果として存在していない。
発動言語として定着するには魔法陣ありきである。魔法は魔法陣を覚え発動言語を唱えて発動する。リュミエールは水壁の魔法陣を描ききれていなかった。
つまり近年で発動言語を見つけたのはルクレイだけとなる。このネタをヴァルディス国王が見逃す道理はなかった。悪戯を仕掛けてくるのは必然といえた。
「石も作るなら土木魔法の固着も使ってみようか。大全の説明だと石同士をくっつける効果らしい。仮止め効果って書いてあったのが面白いと思ったんだよね」
ルクレイは作った小石を積み上げて山の形にした。その小さな山を意識しながらルクレイは「固着」と発動言語を呟いた。
「見た目は全然変わらないのか。……確かにくっついてる」
小石の小山を持ち上げると一塊となっていた。ルクレイは何となくブンブン振ると「バキッ」と小山がバラバラになり小石が散らばった。
「プフッ……コホン。バラバラになりましたね」
ヴィオナはルクレイの目を丸くした姿を見て思わず吹き出していた。
「固着の効果が時間なのか外部からの力なのかは後で確認しよう。固着した小石の山を資材置き場に置いておけば時間かどうかは確認できるよね」
ルクレイは肩を竦めて小石を積み直して固着した後は資材置き場に放置した。
その後は小石の上に砂を3cmほど敷き詰めて軽く転圧を掛けた。砂は小石の隙間に入り込み砂浜の感触が良くなった。ヴィオナと二人で砂浜デートになった。




