第五節 巻上魔道具の発送と王都にテントの発注
メルカド伯爵邸の離れにある馬車止めにブカゾール工房主が案内され訪れた。
「突然の訪問で誠にすみませんぞ。ルクレイ殿に頼まれていた物が完成していても経ってもいられず……訪問してしまいました」
ブカゾール工房主は頭を搔きながらペコペコしていた。
「いやいや、お願い事を聞いてくれて仕上げてくれたんだから問題ないよ? というか……昨日の今日でもう完成したの? ほんとに?」
ルクレイは昨日頼んだ物ができたと聞き目を丸くした。
「勿論ですぞ! 材料は全て揃っとりますし型が取れるルクレイ殿お手製の部品の数々ですから軽いものです。あと、何でしたっけ……棒? も持ってきました」
「棒?……それってタープの支柱? 早くない? ちゃんと寝た?」
二つ目に頼んだ支柱までブカゾール工房主は作っていた。
「寝てますぞ! むしろヨルダムの方が寝るのが遅かったですぞ。鍋の中にガラスを入れてクルクル回して具合をみてましたからな」
回していくと綺麗になるので回してたとブカゾール工房主はバラした。
「そうなの? ちゃんと寝るように言ってね? 寝不足でガラスとか作ったら事故まっしぐらだからちゃんと注意しておいてね」
ブカゾール工房主は「了解しました」と答えガハハと笑い出した。
従僕が荷物を馬車止めまで運んできた。ルクレイはテーブルに置いてもらった。少し大きい木箱が一つだった。ブカゾール工房主が木箱から荷物を取り出した。
「うわっ……凄い! この短時間で巻上魔道具が金属で完成してる。やっぱりブカゾールさんは寝てないのでは?」
寝たというのは怪しいとルクレイは思った。
「寝てますぞ。多くは鉄で作っとりますから簡単なものです。巻き上げ部分は前に沢山作りましたからな。小さくするだけなら寝ながらできるぐらい簡単ですぞ」
ブカゾールさんは恥ずかしそうに頭を掻きながら説明を始めた。鋼にしたのは歯車と軸のみとして残りは鉄にしたと強調していた。
「元にした巻き上げ機は人力で回すので軸が付いとります。外すと軸を支える部分にも影響するんで軸は残しとります。回るだけのおまけですな」
「あー、棒を差し込む軸の部分かぁ。手回しも考えたけど保留したんだよね。今回は歯車基盤で回すからそのままで良いか。それにしても早い……」
ルクレイは職人の底力を感じた。あちこち手抜きの見本が製品と言ってよいほどの仕上がりになっていた。
ルクレイは資材置き場からロープを持ち出して巻上魔道具にセットした。
「ヴィー、僕がロープを持つから巻上魔道具を持ってもらって良いかな?」
ルクレイがお願いするとヴィオナは「良いよー」と巻上魔道具を受け取った。
「この構造だと歯車基盤の三倍で巻き上げるからちょっと力が強いよ。なのでヴィーは手袋に魔力を渡して腕力強化を活性化させて持っていて」
ヴィオナは「分かったわ」と答えて手袋に魔力を渡し始めた。ルクレイもロープを保持してブカゾール工房主に巻上魔道具の起動を頼んだ。
起動された巻上魔道具の巻取部分が回転したが直ぐに止まった。
「思ったよりトルクが大きいな。滑車の個数を調整するか歯車基盤の回転速度の調節は必須な感じだからメモに書いておこう」
ルクレイは引かれる力が想定より強かった事で調整事項とした。
「ロープを出していくから巻き取るところを確認しよう。ブカゾールさんは巻取りの補助をお願いね。ヴィーはそのまま巻上魔道具を保持していて」
声をかけたルクレイはロープを出していく。手袋は手を保護するという機能が基本機能として付いている。ロープを滑らせても怪我をしない優れ物だった。
ブカゾール工房ぬは棒を使いロープが出来るだけ整頓するようにロープを誘導した。巻上部分のドラムにロープがどんどん巻き取られていく。
「すごいよブカゾールさん! めっちゃスムーズに動いて巻き取られた。停止するスイッチもちゃんと反応するし見本の域を超えてる!」
ルクレイが手放しで絶賛するとブカゾール工房主は照れて頭を掻いた。
「レイ、巻上魔道具はレオナールさんのところに送るんですよね?」
「そうだね。後で滑車を組み込んで馬車を引っ張ってみようと思う。それで問題がなければ送っちゃおう。試す時のお手伝いをお願いね」
ルクレイがヴィオナの質問に答えお願いするとヴィオナは頷いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「次はタープの支柱だね。中空だから面倒だと思ったんだけど早かったよね」
ルクレイは木箱から支柱を取り出した。支柱は一本が五単位ぐらいの長さだった。支柱の橋が別の支柱に差し込めるようになっている。
「支柱同士を差し込む箇所も綺麗な仕上がりだ。四本繋いでもぐらつかないよ?」
ルクレイは四本繋いで端を持つがしなりはしたが接続部はまったくぐらつかなかった。ブカゾール工房主は少し胸を張った。
「鉄であればドワーフ族の魔法で簡単に加工出来ますからな。鋼は少々コツが必要ですが加工できますぞ。前に見せた魔鉄は無理ですがな」
ブカゾール工房主は胸を張りガハハと笑い声を上げた。
「レイ、これがタープの支柱になるのね。レベナで作っていた棒はこれの代用品という感じなのですね。さっそく組み立ててみませんか?」
「良いね。タープに関してはちょっと考えてるんだけどまずは張ってみよう。小さな部品をいくつか用意したいんだけどブカゾールさんにお願いしていい?」
ルクレイはブカゾール工房主にお願いの確認をすると頷きが返ってきた。
ルクレイは支柱の先にロープを結びやすくする部品と地面に当たる部分の部品をメモに書いてブカゾール工房主に渡した。
ルクレイはロープと足場を用意した。ブカゾール工房主が作る部品を支柱に付けて帆布をレジン糸で縛りつけていく。
「帆布に支柱と繋ぎやすい加工は必要だなぁ。この辺りはレブコンさんにお願いすれば良いのかな? テントでも使いたいけどテントってどこで扱ってるの?」
ルクレイは支柱に帆布を縛り付けながらヴィオナに尋ねた。
「テントですか? ちょっと分からないです」
王都滞在が少ないヴィオナは冒険派でもテントを扱う工房を知らなかった。
「テントでしたら王都のドリアン製布工房が一番ですな。あそこのテントは使い勝手や物持ちがとにかく良いですぞ。ワシのテントもドリアン工房です」
ブカゾール工房主が助け船を渡してくれた。
「試しに支柱とタープの形状案を送ってみるか。ブカゾールさん、支柱をドリアン製布工房に送っても良いですか?」
ルクレイはしっかりした製品のタープが欲しかったので発注を考えた。
ルクレイは横流しの確認をすると「良いですぞ」とブカゾール工房主は軽く返した。支柱を作るのはドワーフ族で誰でも作れるからと笑っていた。
「それじゃレオナールさんに巻上魔道具の試作品を送る時に一緒に出すか。これってお義父さんに一筆書いて貰ったほうが良いかな?」
発注すると決めたルクレイは勝手の分からない王都の工房に依頼するに当たって後ろ盾を確認した。
「不要ですよ。王都ではお父様よりレイの方が有名人ですから。どちらかというとブカゾールさんに一筆書いて貰ったほうが信じてもらえそうです」
ヴィオナは王都の認知度ではルクレイを超える人は極一握りという認識だった。そして工房主なら貴族より同じ工房主を信用すると思っていた。
「それではドリアン製布工房とグレナン鍛冶工房にルクレイ殿の紹介状を書かせて頂きます。まぁ、どちらも顔見馴染みなので問題はありませんぞ」
ブカゾール工房主は胸を叩いて請け負った。ルクレイは微妙に不安の種があったが諦めて「よろしくね」と笑顔でお願いする事にした。
帆布に支柱を縛り支柱をロープで固定してタープが張り終わった。ロープを留めるためのペグもブカゾール工房主に作ってもらった。
「ほぉ、支柱とロープだけで自立しましたな。今ある日除けやテントと似た構造ではありますが日除けで自立する物は確かなかったはずですぞ」
「そうなの?……まぁ、自立してくれた方が使い勝手が良いからね。もちろん、テントや馬車とかと組み合わせて使えるように……テントあったっけ?」
ルクレイはタープの評価が自立という点に疑問を感じたが流した。その代わりにテントを確保していない事に気が付きヴィオナに尋ねた。
「探せばあると思いますよ? そういえばソフィがテント必要って言ってた気がするの。折角ですしドリアン製布工房に注文してしまうのはどうです?」
ヴィオナはどうせなら新調してしまえば良いと提案した。
「そうするかー。僕用とヴィー用の二つだね。ヴィーの方はユミナも入るから広めで四人用にしちゃおう。馬車か話に聞いたアイテム袋だから荷物にならない」
「四人用は広そうですが……狭いよりは良いので問題ないですね」
ヴィオナはルクレイの提案で進める事に同意した。
ブカゾール工房主は紹介状を書くため伯爵邸を後にて工房に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇
「それでは巻上魔道具の確認をしようか。前回と同じ感じで準備しちゃおう。ヴィーはドラムにこのロープを固定して。今回は余裕みて長めのロープにしたよ」
ルクレイはヴィオナに魔道具側を頼み六連装の滑車ブロックにロープを通していく。通し終わったら片方をヴィオナに持ってもらい反対を木に固定した。
加減が分からないので三つの滑車を使った。そしてヴィオナには馬車の横で巻上魔道具を持ってもらい起動してもらった。ルクレイは馬車を前から押さえた。
ルクレイが抑える力を緩めると馬車が前に進み始めた。
「僕が距離を取ってこの状態でどう動くか確認するね。ヴィーはまずそうと判断したら停止スイッチを押しちゃって。ユミナはヴィーの補佐に入って」
ルクレイの指示にユミナが停止スイッチを押す準備をした。
ルクレイは強めにバックステップを踏み飛び退った。押さえがなくなった馬車が引かれるに任せて勢いよく前進した。
「ちょっと回転速度が速いかもしれないな」
突進してきた馬車をルクレイは受け止めて速度を落とし止めた。停まったのを見たヴィオナがユミナに停止の指示を出した。
「そうか! 確かにその歯車基盤はトルクが高いけど滑車を増やしても影響はないか。六個とも通せば速度は半分程度になるから停止スイッチは間に合うな」
ルクレイは滑車からロープを外して六個全ての滑車にロープを通した。
準備が終わったのでルクレイはテーブルでレジン糸を作って時間を潰していたヴィオナに声をかけた。再び配置についてもらった。
「手順は一緒でやるよー。馬車は押さえておかないから起動したら動き出すけど慌てないでね。馬車が僕の方でも止めるけどタイミング見て停止してみて」
ルクレイの指示にヴィオナとユミナが頷いた。
ユミナが巻上魔道具の起動スイッチを押した。すると前よりは遅い速度で馬車が前進し始めた。しばらく動かして停止スイッチを押して巻上魔道具を止めた。
巻上魔道具を止めても馬車の前進は止まらずルクレイが抑えて止めた。
「これなら見本として十分に完成だな。ドラムはかなり酷い状態だけど想定の範囲内だから置いておこう。それにしても頼んだ翌日にこの品質って凄い」
ルクレイは巻上魔道具をヴィオナから受け取りドラムからロープを外した。ロープを手で引いて滑車ブロックをまとめて回収した。
テーブルの横に置かれた木箱に滑車とロープを仕舞った。念のため巻上魔道具の魔石を新しい物に入れ替えて木箱に仕舞った。
「巻上魔道具の試作は終了だね。ヴィーとユミナは手伝ってくれてありがとう」
その後は紅茶を飲みながらレオナール宛ての手紙を書いた。ドリアン製布工房へ注文もヴィオナと相談しながら書いた。
「実は支柱の中にレジン糸を通したらどうかなって考えてるの。これバラバラだと組み立てが結構面倒だと思うけどどうかな?」
ルクレイに聞かれヴィオナとユミナは二人で支柱を組み立て始めた。
「確かに端の形が違うので分かるけど……目で見て確認していると面倒さを感じるわ。レジン糸を通すと端を見る必要がなくなるってことでしょ?」
「そうだよ。ちょっと通してみようよ」
ヴィオナが作っていた太めのレジン糸を支柱の中を通していく。四本に通し終わったのでヴィオナが繋いだり外したりして確認してみた。
「悪くないと思うわ。レジン糸が長いと結局ブラブラするのが気になるぐらい。両端は……作ってもらった部品に付けちゃう感じで大丈夫そうね」
支柱の両端に付けた部品を戻してレジン糸を無理やり固定した。
支柱も木箱に仕舞った。レジン糸の予備も入れレジン糸は王都で作っている糸で代用可能な事も追記して発送の準備を終わらせた。
長らく工作していたのでルクレイとヴィオナは鐘半分ほどの時間を鍛錬という名の空中の追いかけっこを行い沈みゆく夕陽を水壁に乗り二人で眺めていた。




