第四節 馬車の説明よりためになる話とお任せトイレ
「「お姉様とルクにぃ」」「レベナに」「行ってくるねー」
マルセリオとフィリクスはそれぞれ相棒に騎乗して出立の挨拶をルクレイとヴィオナにした。横でヘラムに騎乗したリドルも「行ってきます」と伝えた。
出立を前に時間を湯当たりで双子がぐてんとなっている刻に戻してみる。
湯当たりした双子だったが懸命な手当てとヴィオナの涼しい風で復活した。涼しい室内に双子は喜びヴィオナにくっついてお礼を言っていた。
「まだ魔導冷風機を出してなかったから助かったぞ。それにしても涼しいが寒くないのは良いな。魔道具だと寒くなる時があったんだ」
湯当たりしたと聞き駆けつけたバルテア伯爵はラウンジを見渡した。
「風属性の魔法だからそれほど冷たい風は出せないと思います。ヴィーは魔力が潤沢なので頑張り過ぎるとまずいかもしれませんがヴィーなので大丈夫です」
「そうなのか? よく分からんがヴィオなら確かに大丈夫な気がするか」
簡単に説明したルクレイにバルテア伯爵は頷いて同意した。
マルセリオとフィリクスは今度は身体が冷え過ぎないよう注意しながら冷えた果実水を美味しそうに飲んでいた。
キリもよく準備も終わっていたので昼食のためそのまま全員で食堂に移動した。エスコートしているルクレイに双子がレベナでする事を話していた。
「そういえばゴリゾン製材工房から使いが来て木材を持って来てたぞ。離れの馬車止めに運んでおいてもらったから後で確認してくれ」
「了解しました。工房から物が動いているのですが費用の扱いが適当になってますので文官さんに整理して欲しいのだけど大丈夫ですか?」
ルクレイは気になっていた点をバルテア伯爵に尋ねた。
「ん?……確かに請求とかが滞ってるな。手隙な文官は……あまりいないがちょっと指示しておく。レベナの方も動きが大きそうだし確認しておくぞ」
「ありがとうございます。あとリドルの方もリューウェン分をちょっとお願いして良い? 送られてきた原料とか物は動いてるのにお金が動いてない」
ルクレイの話にリドルは苦笑を浮かべ「分かった」と答えた。
「まぁ、ルクレイは金額の事は気にするな。うちでまとめて処理しておくからルクレイの作業に集中してくれ」
バルテア伯爵は笑いながらルクレイに作業優先を許した。
「助かります。一通りの予定はそれぞれの工房で動き出しました。レベナとの間の輸送が増えてくると思いますので荷馬車の手配もお願いします」
ルクレイはサラッと輸送の手配も頼んだ。
「いいぞ。最近はルクレイたちが動いてくれて色々と活性化してる。物流は整理中だから安心してくれ。ガルディア伯爵とも書簡でやり取りしてるぞ」
バルテア伯爵はいつの間にか他家との遣り取りもしていた。東方街道は物流の道でもあるのでガルディア伯爵の発言権はかなり大きかった。
「ちなみに『爽快の実』の取り扱いも言質は取ったからうちから王都に送り出す予定だ。思ったよりも収穫量が多いから商会にも声を掛けた」
バルテア伯爵はザルム町に集まる『爽快の実』もバルテア伯爵家で輸送する道筋を作っていた。中央南部の防衛戦以降は貴族家の連携が強化されていた。
「そうだ、リオとリクはリドルくんと出会って成長している。是非ともこれを広げたいと考えてる。ルクレイには手間かもだがお願いして良いかな?」
バルテア伯爵は構想していた子どもたちの他家訪問を持ち出した。
「考えてるのは隣のハールベン伯爵家とアルデン侯爵家だ。同年代の子がいるしどちらも海岸に領都があるから会いやすい」
移動を考えバルテア伯爵は海岸航路に領都を持つ貴族に限定した。
「アスグレイヴ侯爵家は領都が少し内陸だから移動がちょっとな。そっちは書簡を送って理解を求めておく事にするから気にしなくて大丈夫だ」
歴史的経緯で領都が内陸にあるアグスレイヴ侯爵家だけ除外した。
「分かりました。海岸航路であれば往復の移動だけで六日ほどですね」
バルテア伯爵の提案にルクレイは了承した。
「リドルは製糸工程の改善案を上げるよね? 王宮の反応は情報を戻すようグレアルさんにお願いして。王宮次第だけど改善案を持って訪問しよう」
ルクレイはリドルに改善案を持って現地で広める話を伝えた。
「分かった。相変わらずルクにぃは少し先を考えて行動計画を立てるよね。訪問の件も父上に話しておくから連絡船含めて整うかなって思う」
リドルもルクレイのやり方に慣れ大きな案件にも関わらず請け負った。
◇ ◇ ◇ ◇
「リドルくんは面白いわね。会った時は五歳に見えなかったのにレイと関わって五歳に見えるようになったのよね。そして今はリオとリクのお兄さんよ」
ヴィオナはくすくすと笑った。
「元からしっかりしてたけど伸びたよね。グレアルさんに頼られたのがかなり大きいと思う。そしてリオとリクに良いところ見せたいという想いも感じる」
笑うヴィオナに少し見惚れたルクレイがヴィオナの話に答えた。
「三人とも領地を良くしたいという共通した想いが繋がりを強くしてる」
ルクレイの言葉にヴィオナも頷き「わたしとレイもね」と微笑んだ。
ラウンジの扉がノックされ「リゾリカ工房主がお見えです」と告げられた。ルクレイは離れに誘導するよう指示してヴィオナに手を差し出した。
◇ ◇ ◇ ◇
「ルクレイ殿、ヴィオナ様。本日もよろしくお願いします」
離れに着くとリゾリカ工房主が先に到着し待っていた。ルクレイとヴィオナも挨拶を返しテーブルを囲んだ。
「ルクレイ殿から話を頂いた乾燥魔道具による木材の乾燥を見てきました。詰める部分はありますが十分に活用できると確信しています」
リゾリカ工房主は早々に本題に入り木材の乾燥に関する検分の結果を報告した。本来の乾燥より品質は低いが乾燥そのものに問題はないと話した。
「あれは乾燥魔道具の水分を抜く設定が強いという感触です。元々、一年掛けて抜く水分をあっという間に抜くので無理が掛かっていると思っています」
「僕もそう思うんだよね。ほんとは乾燥魔道具の設定を変えたいけど……」
リゾリカ工房主の見解にルクレイも同意した。ただ乾燥魔道具は複数の機能区画がありとても複雑なため設定を決める知識がルクレイになかった。
「設定のやり方が分からないので当面は職人さんの目利きに依存です」
ルクレイが胸を張り人任せで当面はやっていくと宣言した。
「ふふ、乾燥を見てましたが従業員のやる気が凄かったです。上手く乾燥できると従業員たちが盛り上がって本当に楽しそうでした」
活気のある工房は良いものとリゾリカ工房主はうんうんと頷いていた。
「おまけに手隙の時に端材で木工して遊んでるのを見て目を見張りました」
リゾリカ工房主はガハハと笑って木工が流行ると良いと楽しそうだった。
「話が逸れてしまいましたな。木材ですが使う場所を考えれば大丈夫です。間伐材から取った物は見習いの習熟用に回し安く出そうと思っています」
「それは良いと思う。間伐材の処理もしっかりと進みますよね」
間伐材を木工工房が使ってくれると聞きルクレイはホッとした。
「若い従業員の修行にもなりますし販売すれば自信に繋がります。勿論、売った物に対する責任感も育てられますのでうちにも大きな利があります」
「間伐材が溢れる前になんとかしたいよね。リゾリカさんたちが使ってくれれば間伐材も資源になる。森林管理が適切化するまでそれで乗り切りたい!」
リゾリカ工房主の言葉に嘘はないと感じルクレイは協力を要請した。
◇ ◇ ◇ ◇
「馬車の客室は十単位ほど延長しました。ここは北方木材なので強度は出ています。繋ぎ方は船の竜骨を繋ぐ方法にしましたので頑丈で歪みませんぞ」
馬車の説明をリゾリカ工房主が始めた。
「竜骨を繋ぐための技法?」
ルクレイは前世の記憶に大航海時代でも帆船の大型化や木材不足でキールは繋いでいたと知っていた。リゾリカ工房主は昔からやってると教えてくれた。
「王国内ですとセトリアナ大河まで丸太を運ぶ事が前提となります。そうなると大型の丸太は北東部から運ぶしかありません。実は産地が狭いのです」
リゾリカ工房主は北方木材の背景を説明した。
「それで竜骨を繋ぐのに強固な繋ぐ技法が確立したのかー」
必要に駆られ繋ぎの技法が育ったことにルクレイは納得した。
「それでですが馬車の組み立てに若手の従業員を出して手伝わさせて良いでしょうか? 馬車を仕上げる仕事は少ないので良い機会ですのでお願いしたい」
リゾリカ工房主は若手の従業員に経験を積ませたいと願い出た。
「良いの?……手伝って貰えると助かる! 最初の外板は標準的な手法でやりたいし後部の扉も建付けはぜひ見て欲しかったんだ」
ルクレイは手伝いの申し出を受けた。そして考えていたトイレの作成もリゾリカ工房主にお願いする事にした。
「ちょっと作りたい物があるの。用を足すための設備なんだけどリゾリカさんのところにお願いして良い?」
「その話をお聞かせください」
リゾリカ工房主は話に乗ってきた。ルクレイはレベナで作ったトイレの数値を思い出しながらメモにトイレの構造図を描き寸法を書き込んでいく。
「ここに書いた『センチ』というのは一単位を十等分した一つに付けた名前なんだ。一単位より小さい場合に使う事で寸法を伝えやすいかなって思うんだよね」
トイレの構造図を書いたルクレイはリゾリカ工房主に渡した。
「なるほど……木工はその場合わせが基本ですから長さそのものはあまり重視しません。しかしこのように書けばどういう形かも大きさも分かりますな」
リゾリカ工房主は話と構造図から作るものを想像してみた。想像した物を作って答え合わせするのも面白そうだと考えた。
「分かりました。これを見せて若手に作らせてみる事にします。うちの連中がこの図をどう解釈して物にするか結果が楽しみになってきました」
リゾリカ工房主はニヤッとしてルクレイに了承を伝えた。
「よろしくね。この箱の中には木屑を入れて使う予定なんだよ。消臭と調湿の魔道具を組み込んで臭いとジメジメを解消するつもり」
「木屑ですか?……確かに木屑は水分を吸い取りますな。消臭魔道具は今では必須になってきてますし調湿魔道具はうちでも使ってるから分かります」
ルクレイの構想を聞いて理解できる組み合わせにリゾリカ工房主は頷いた。
「魔道具はカンコールさんのところにあるからお願いね」
ルクレイが魔道具部分でカンコール工房主の名前を出すと「プフッ」と息が漏れる音が小さく響いた。振り返ると澄まし顔のヴィオナが紅茶を飲んでいた。
「それにしても凄いですな。構想を聞いて意図が理解できましたが実現性はとても高く実用性も十分に考えられています。直ぐにで売り出せそうです」
「そう?……伯爵邸で検証したいので完成したら持ってきて。リゾリカさんのところでも検証できそうだったら使ってみて欲しいかな」
ルクレイのお願いにリゾリカ工房主は「任せてください」と胸を張った。
本館から執事が離れに現れ「ブカゾール工房主がお見えです」と伝えてきた。ルクレイは離れに通すように指示をした。
「今日はブカゾールさんが来る予定あったかな?……思い出せない」
ルクレイが首を傾げて考えていると「頼んだ物では?」とヴィオナが指摘した。




