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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十一章 繋がる声と心は土木魔法で景色を変える

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第二節 ルクレイの好きな土木と双子たちの鍛錬

 メルカド伯爵邸マナーハウスの庭園をルクレイがエスコートしてヴィオナと一緒に歩いていた。朝食が終わり離れの工房に向かっていた。


「リオとリクはリドルくんと一緒にガゼボにいるみたいですね」


 ヴィオナは周囲に探知を広げて双子とリドルの居場所を確認した。


「今日は授業ないのかな?……そういえばリューウェンで鍛錬の時間を取らなかったね。今日は少し鍛錬しようか?」


 ルクレイはガゼボと聞いて鍛錬の時間が減っている事を思い出した。洞窟で冒険をするのに鍛錬の時間を減らすのはリスクになると考えた。


「リューウェンではウロウロしてましたね。早朝はガゼボからの風景が楽しみで鍛錬を失念してたわ。ユミナ、乗馬服に着替えるのでお願いね」


 ヴィオナも鍛錬をした方が良いと気が付き着替えのためユミナと本館に戻った。


 残されたルクレイはクスッと笑い工房に向かって歩いた。工房に置いてあるルクレイとヴィオナの棒を回収してガゼボに向かった。


「この後、ヴィーと鍛錬を少しするけどリオたちはどうする?」


「鍛錬するー」「やるやるー」


 双子は鍛錬と聞いてやる気を出して武器を取りにガゼボから駆け出して行った。リドルも「僕もやろっと」と双子を追って駆けて行った。


 ルクレイはガゼボに一人になったので鍛錬場に細工をする事を思いついた。


「ふふ、この端を使えば良いから地面に細工しておこう。土属性は水属性より使ってないからこういう時こそ使う機会だよねー」


 悪戯顔のルクレイは土属性の魔力を鍛錬場に流した。


「分かり難いデコボコを適当に配置して足場の悪さを演出しよう。石は邪魔だから魔力で包んで……水壁で抜き取る感じで良いか」


 ルクレイが石を処理し始めると地面から石が沢山飛んできた。


「ほいほいっと。思ったより石が多かった。水壁で抜くと顔に向かって飛んでくる仕様は何とかならないのかな。まぁ、掴んで捨てれば良いんだけど」


 飛んでくる石を手で受け止めながら地面に石の小山を作っていく。そしてルクレイは「石が抜けた分だけ緩んだ?」と地面の状態が悪い事に気が付いた。


 ルクレイは肩を竦めて「手順を間違えた……」と呟き水壁で地面を叩き始めた。


「レイは何をしてるの?」


 ドスンドスンと音がしている鍛錬場に到着したヴィオナが目を丸くした。


「えっ?……鍛錬場に手を入れてたんだけど地中の石を取り過ぎちゃって緩んじゃったの。少しへこんじゃっから違う手入れも後でしないといけないよね」


 突然声を掛けられ驚いたルクレイは状況の説明をヴィオナにした。


「手入れですか……。そういえば土属性なら造土というのがあるそうですよ。授業で四属性の基本を学びましたが土属性は別名『土木魔法』というみたいです」


 状況を特に気にしていなかったヴィオナは話の流れを違う方に進めた。


「そうなの? 魔法は結局まだ習ってないからなぁ。その『土木魔法』って面白そうだね。土木魔法の解説書みたいのはないのかなぁ」


 ルクレイは土木と聞いてテンションが上った。前世の記憶によると大きな重機は買ってないが小さなショベルカーや小さな耕運機は買って楽しく遊んでいた。


「ありますよ? 属性毎に大全というシリーズがあります。魔法の勉強用というよりも網羅する事に力を入れた本です。わたしなら『風属性魔法大全』ですね」


 ヴィオナは澄ました顔で大全シリーズの話に繋げた。


「おー、なんかカッコ良い名前の本だね。僕だと『水属性魔法大全』と『土属性魔法大全』になるのかー。読んでみたいな」


「残念なことに『土属性魔法大全』はありませんよ?」


 ヴィオナの口角が少し上がりながらもルクレイに悲しいお知らせを伝えた。


「えー、やっぱり土属性は人気がないとか?」


 目を見開きルクレイは土属性の人気が気になった。


「いえ、なぜか土属性だけ『土木魔法大全』という名前になっているのです」


 ヴィオナの口角が上がって楽しそうにルクレイに告げた。ルクレイは目を丸くして口角を少し上げた。


「さすがヴィーは凄いなぁ。魔法を習うのは三歳の時って聞いてるよ。その頃のことをしっかりと覚えてるなんてヴィーはすご〜い」


 ルクレイは褒め称える方向に舵を切った。


「えっ……えっ? いえいえ、大全シリーズは八歳の頃ですよ? ほんの少し前なので覚えてるだけですよ? 三歳の頃は……」


 手放しで褒められたヴィオナは真っ赤になってルクレイに答えた。


『さすがルクレイ様ですね。中々の返しです。三歳という言葉で意識を引きずってヴィオナ様の羞恥心を引っ張り出すとは天然でないときも見応えあります』


 からかっていたはずのヴィオナが形勢逆転となった状況にユミナは気配を消しながら楽しんでした。しかし糖度だけが上がってる事にも気が付いていた。


「おー、魔法は八歳でも習うんだね。祝福の儀が十歳だから事前準備って事になるけど属性が分からない状態で習うのも中々大変だよね」


「そうなの! どれを覚えれば良いか分からないのに本を読むのよ? 本当に大変だったの。最大の敵は突然襲ってくる睡魔だったわ」


 ルクレイの優しい言葉にヴィオナは愚痴のスイッチが入った。


『ヴィオナ様……。それは愚痴る方向性がおかしいです』


 思わずビクッと肩を揺らしてしまったユミナは演出に突っ込みを入れた。


「睡魔かー。めっちゃ強敵だよね。リオとリクも睡魔には惨敗してるよ?」


「分かります。リオとリクはとても頑張っているわ。でも睡魔は手加減してくれません。ただ、一番怖いのはお母様ですけど……」


 最後の一言にルクレイは『ダメなやつ』と頭を撫でる仕草で誤魔化した。


「「準備おわったー」」「ルクにぃ」「勝負なのだー」


 鍛錬場に双子とリドルがそれぞれ着替えて棒を持って戻ってきた。その場の空気は気にせず双子はルクレイに鍛錬をお願いした。


「おかえりー。……って僕の方がいつもの棒しか持ってきてなかった」


 ルクレイは笑顔で三人を迎え入れた。しかしルクレイが手にしている棒は戦闘で使うかなり硬い棒で三人を相手にするには硬すぎる物だった。


「「ルクにぃの棒」」「コロコロ棒」「軽くて硬い!」


「あー、うん、コロコロ棒ね。これ硬すぎてリオとリクが打ち込むには向いてないんだよね。反動が硬すぎて手首を痛める可能性があるんだ」


 ルクレイは『命名されてたっけ』と思い出した。


「前にも聞いた気がする」「なんで硬いんだっけ?」


 双子は忘れてしまったので首を傾げた。


「えっ?……このコロコロ棒なんだけどね分析で見ると『頑丈』と『軽量』って情報が見えるのね。たぶん『頑丈』が原因だと思うんだよね」


「頑丈だと硬い?」「頑丈ってなんだっけ?」


 双子は習った言葉の中に頑丈というのがあったか考え始めた。


「そういえば言ってましたね。この棒は本当に軽いですよね。振った感触がとても薄くて持ってるのを忘れそうになります」


 棒をブンブンとヴィオナは振り回していた。


「それは『軽量』が原因だと思う。何にせよ柔らかい棒を……いや、手で受ければ良いか。よしよし、今日は拳士を相手にした時の動きを見ていくよー」


「「おおー」」「いくぞルクにぃ」「野菜のかたきだー」


 ルクレイの開始と判断した双子はルクレイに攻撃を開始した。双子は左右に位置をズラしてルクレイに連携した攻撃を仕掛けていった。


「おー、良い連携だよー。……リクは足元がお留守番だよ」


 ルクレイは両手を使い双子の攻撃をいなした。そしてフィリクスの足元に魔力を流して少し地面をへこました。


 態勢を崩したフィリクスは半歩ほど飛び退りテンポを変えてルクレイに仕掛けた。


「ほら、リドルも見てないで身体を動かしてー。連携は目線で伝えられないなら今は声に出しても良いよ。でもリオとリクは何となく分かるでしょ?」


 リドルが促されて戦線に入り双子と連携しながらルクレイを攻めていく。しかしルクレイの手がスッと差し込まれ棒はいなされ弾かれた。


「ルクにぃの手は」「ぜったい多い!」


 双子はかなり連携を使い連打していくが有効打は皆無で疲労だけが積み重なっていった。リドルも連携に加わるが双子の連携に乗り切れてはいなかった。


「動くだけじゃないよー。自分のした攻撃で僕をどう動かすかも考えて。動いた先に仕掛けるのも連携の一つだから頑張ってー」


 ルクレイは動きを全体的に合理的な動きに変えていった。


「リドルはとにかく先読みする事を続けて。リオとリクの動きに合わせるのも良いけど二人の動きを先読みして動きを補助してみて」


 攻撃のリズムが悪くなっているリドルに先読みする事を優先させた。


 鍛錬は鐘半分ぐらい続くと双子がぱったりと倒れた。リドルも足が止まり肩で息をしながら動きを止めた。


「もうだめだー」「ダンスより疲れたー」


「動きはとっても良くなってるよ。体力は大きくなれば増えるから今の身体の動かし方を維持するように頑張るんだよ」


「「かしこまりー」」


 ルクレイは双子をヒョイッと抱えてガゼボの長椅子に寝かせた。双子のお付の侍女に世話を頼んだ。


 ガゼボに入ったリドルも椅子に座り「ルクにぃは異常」と感想を口にした。


「後半はルクにぃって動きを単純にしたよね? 動く先の先読みがしやすくなったけど有効打は全然出なかった……」


「動きが変わった事に気が付いて対応を進めたのは良いね。最初から声を掛け合って仕掛ければだいぶ違う形になったと思うよ? 途中からは難しいね」


 相手の動きを見ているリドルの観察眼をルクレイは褒めた。


「なんて声を掛ければ良いのか分からなかった」


「ふふ、騎士団の鍛錬もさ、ここから見てると掛け声の練習もしてるよ? 掛け声も技術なんだよ。だからリドルも指示ができる掛け声を身に着けないとね」


 ルクレイが解説しリドルは指導の意味が分かり「分かった」と答えた。


「ヴィー、鍛錬を始めようねー。風壁を使って上空での戦闘鍛錬にする? それとも最近サボり気味の棒を使った鍛錬にする?」


 ガゼボから出たルクレイが鍛錬場の横にいるヴィオナに内容の確認をした。


「棒を持った状態で回避する時の動きを見たいです。レイが攻撃に回ってわたしが防御と回避をするわ。風壁も使うけどレイの水壁はお休みね」


 ヴィオナは攻撃でなく回避の動きを確認するとルクレイに伝えた。


「じゃ、僕は地上にいるからヴィーは空中のステップも使って。その方が鍛錬として良い感じになると思う。その代わり魔力は見ないで感じる方にしよう」


 ルクレイは目に頼らず風壁を活用するようヴィオナに提案した。風壁はほぼ透明のため魔力を見ない場合は認識がとても難しかった。


 ヴィオナは「そうしましょう」と提案を受けて鍛錬場に入った。


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