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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第九章 メルカド領に戻ったルクレイとヴィオナの浜焼き

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第七節 マジメさんが集結し浜焼きしたけど慰労会?

 昼食後にルクレイはヴィオナと浜焼き場を見て回った。


 議論を進める造船技師たちを見かけたルクレイは声を掛けた。やはり取り外し可能なマストと静索の位置や留め方が話題の中心だった。


「あっちの隅に皮剥ぎの終わった木があるよ。木材の形に切り出せば試せると思う。あれ計画外で伐採したのだから使っていいよー」


 造船技師たちは「やってみるか!」と明日からの作業担当の割り振りなどを始めた。ゾルバン工房主はそんな風景を楽しそうに眺めていた。


 次に見かけたのは交代して浜焼きをしている漁師たちだった。子ども達が捕獲に参加しているため監視を任せているので中々に忙しい状態だった。


「子どもの面倒を見てくれて助かってる。ホンル肉は食べきったけどコネ焼きはかなりあるから食べてね。果物もたくさん運んでもらってるよ」


 ルクレイが労いの言葉を掛けた。漁師たちは子どもが海で遊ぶ姿は懐かしくて楽しいと口々に話した。子ども達の遊び場を整備したいと手を挙げた。


「あっ、安全にと言うならサーフボードを用意するのはどうです? あれが浮いてるだけで随分と危険は減るように思いますよ」


 ヴィオナの意見に漁師たちが「確かに」と頷いた。実際に使ってみてかなり安全性が高まると話し始め子どもに話を聞きに行く者も出てきた。


『なるほど。確かに掴まれる物があるのは良いか。救助用のペットボトルみたいのとか……オールか! いや、パドルがあれば汎用的に使えそうだ』


 考えが纏ったルクレイはヴィオナに待ってもらい端切れ置き場に駆けて行った。そしてボード用に板を切り出した残りの木材と桶とロープを持って戻った。


「少し工作するね。これも付けておけば安全性が高まる」


 ルクレイは作業用マットを展開して木の棒を四本ほど切り出してロープを結んだ。そしてダブルブレードのパドルを作りこれにもロープを結んだ。


「よーし、できたからサーフボードに付けてみよう」


 ルクレイはヴィオナをエスコートして波打ちぎわに向かった。漁師たちも後に続きゾロゾロと岩場を歩いていった。


 ルクレイはサーフボードで遊んでいる子どもからへこみのあるサーフボードを受け取った。


 作業用マットを展開してドリルビットで四つ穴を開けロープを通した。パドル用のロープは短めでやはり穴を開け留める。


 ついでに岸に渡しているロープを通している穴にロープを通した。先端に手頃な石を結び簡易のアンカーみたいな感じで取り付けた。


 ルクレイはへこんだところに棒や石を置いて海上にいる漁師に渡した。そして棒の使い道と石の使い方を伝えて試してもらった。


「棒は軽いので余り遠くには投げられません。でも意図は分かりましたので調整します。石はサーフボードが流されないので便利です」


 漁師が使用感を伝えている間にサーフボードは子ども達に占拠された。ルクレイは最後にパドルを渡して子どもに漕いでみてもらった。


「漕ぐと前に進みますー」


 見届けたルクレイは漁師たちに木工師のベリーナさんに頼めば作れると伝えた。そしてまだ間伐が必要な木はあるので間伐して材料を揃えることを勧めた。


 ルクレイとヴィオナは波打ちぎわから離れた。海産物をリガレアに運ぶ手段の話をしながら女性陣が多い場所に近づく。


「この貝殻は近辺でかなり見つかると思います。お腹を壊すので食べちゃダメですよ。後はこの葉っぱも染料にできます。結構美味しいので食べても良いです」


 ひとりの女性が女の子たちに染料の材料を教えていた。テーブルに染料や色染めの道具が置かれていた。女性がルクレイたちに気が付き挨拶をした。


「ビットの妻でリンダと申します。色染めと聞きお手伝いさせてもらってます。色染め仲間も声を掛け合って参加していてとても楽しくやっています」


 ビットの妻と聞いてルクレイは理解した。


「あぁ、色染めを主導して進めてるんですよね。ちょっとイゴルトさんに染料のことを聞いたら話が広がったみたいで……。色染めはとても助かります」


 情報収集のつもりが既に動き出している事態に驚いていた。


「そう言って頂けると嬉しいです。この貝殻は藍色の基本色になります。淡さを出すには工夫が必要なのでもう少し時間を下さると助かります」


 ルクレイは目を丸くして頷いた。


「青色は鉱石から染料を作るのですが手元にないので王都の以前勤めていた工房に手紙を出しました。ノルド家の連絡船が届けてくれるとかで驚きました」


 ルクレイは再び頷くしかなかった。横にいるヴィオナはそんなルクレイを見ながらくすくすと笑っていた。ルクレイはパワフルな女性に弱かった。


「あのテーブルで新しい糸を作る体験をしてます。まだ成功者はいないようなので従来の糸で色染め体験をこのテーブルでしていたところです」


 どうやら浜焼きだけでなくワークショップのような体験教室を開いていた。これにはヴィオナも目を丸くしていた。


「あー、あの糸は魔力制御がかなり高くないと無理みたいだよ。リューウェンでも無理みたい。今は試作の製糸魔道具で何とか量産してたよ」


 ルクレイはリンダを誘いヴィオナをエスコートして製糸体験教室のテーブルに向かった。そこには眉を寄せたイゴルトさんがいた。


「イゴルトさんこんにちは。まさか体験教室が開かれてるとは思わなかったよ。リンダさんに聞いてびっくりしてるとこ」


 ルクレイは製糸工房のイゴルト工房主に挨拶をした。


「これはルクレイ殿。教室をしてますがたくさん食べてます。乾燥エビは美味しいですな。お酒を飲みたくなりますのでお土産でお願いしました」


 イゴルト工房主はガハハと笑った。


「海の傍で飲むと危ないって聞くよ。この前、リューウェンで飲んで海に落ちた魔道具師がいたよ? 寝込んでリベランさんが頭抱えてた」


 イゴルト工房主は目を丸くして「気をつけます」と頭を掻いた。


「新しい糸に色染めしてみたいから作っていい?」


「えっ? ルクレイ殿は作れるのですか?」


 イゴルト工房主が食い気味に問い掛けた。


「えっ? 試すから白い粉……イゴルトさん、あの白い粉に『レジン』って名前つけてみたよ。で、僕とヴィーは糸を作れるよ。ヴィーの髪は糸で留めてる」


 イゴルト工房主は「えっ?……レジンですか」と呟いた。気を取り直したイゴルト工房主は食い気味にルクレイにお願いした。


「もし可能であれば作ってみて頂けないでしょうか。話に聞きましたのでバストリアに魔道具を発注しようと思ってるのですが立て込んでいて出来ていません」


「良いよー。ヴィーはリンダさんにどんな糸に色染めしたいか聞いてみて。作れそうならお願いね。僕は標準の糸を作ることにする」


 ヴィオナは「任せて」と答えリンダと話し進めた。ユミナも混ざり希望の硬さを聞いてレジン液を作り始めた。


「製糸魔道具は僕の方で頼んでおくよ。そうだ、従来の糸を十巻ぐらいリガレアに届けて欲しい。あと、布ってメルカド領では難しいのかな?」


「ほぼ厄介草がなくなり作業を糸作りに変えているので大丈夫です。厄介草は後少しでこちらに出荷すると連絡がありました」


 メルカド領の製糸に関しては再開の目処がついていた。


「製布は難しいです。レベナに小さな製布工房がありましたが歳で閉じました。声は掛けてみますが……腰を痛めてるので難しいかと……」


 イゴルト工房主は気まずそうに答えた。


「腰痛は大変ですね。腰痛はポーションとかで治らないの?」


「通常のポーションで痛みは減らせるそうです。治るか? と言うと治らないらしいです。すみません、私もよく知りませんので……」


 イゴルト工房主も知らないと聞きルクレイは首を傾げた。


「あれ?……ヴィー、リガレアに調薬師っていないんだっけ?」


 誰かに聞くしかないとルクレイはヴィオナに尋ねた。


「リガレアの調薬師は歳で隠居しちゃったから今はいないよ」


「そっかー。ヴィーは腰痛の治し方って知ってる?」


 ルクレイの問にヴィオナは首を振った。


「製布は保留で腰痛の話を隠居した調薬師さんに聞いてみよう。ちなみに……治療局や調薬師ギルドは?」


「分からないわ。お母様に聞いてみるしかないです。部局のことは余り習ってません……。教師陣がそれより少し前に舐めた態度を取り始末しましたので」


 ルクレイは「そっかー」と眉を寄せた。


「その教師陣がどうなってるか調査することは可能かな? 逆恨みしてるようなら物理的に始末しないとダメかもしれないね」


「それもお母様に聞くしかないかな。たぶん大丈夫だと思うよ。在地貴族に引導渡された人を匿ったり支援したら王宮が乗り出して処罰する案件になるよ」


 貴族社会において上位貴族を蔑ろにする行為は王国を不安定化させる。王家と王宮が出張る理由は不安定化の抑止であり制裁を徹底するためである。


 横で聞いていたリンダとイゴルト工房主は『怖すぎる』と心で思いつつ聞かないふりで流すしかなかった。腰痛から派生した話にしては物騒だった。


 イゴルト工房主が慄いたのは話だけではなかった。こんな話を撹拌棒でかき混ぜ糸を作りながらしている二人に対してであった。


『手元も見ずに二人で難しく物騒な話をしてるのに正確に恐らく均一の糸を作ってる……。糸を作る魔力制御を自然体でこなせるだけの鍛錬をしていると……』


 話も一段落したのかヴィオナは再びリンダから要望を聞いて別のレジン液を用意して糸を作っていた。


 ルクレイは同一の濃度のレジン液を別の鍋に作ってもらい補充しながら糸を作っていた。たまに手の空いたヴィオナがルクレイに乾燥果物を食べさせていた。


 リンダは新しい糸を手にして色染めに挑戦していた。発色を良くするには自然乾燥を選ぶのが常識だが乾燥魔道具で色の定着を確認していた。


「色の入りはとても良いです。ただ、入りが良い時は抜けるのも早い場合があるので注意が必要です。定着させる方法も確認していく必要があります」


 リンダはルクレイとヴィオナに色染めの状況を伝えた。


「撥水糸に関しては色染めしてからガラスと融合する方法と色ガラスを融合する二種類があるみたい。融合魔道具とガラスはリガレアから提供するね」


 リンダを中心に撥水糸の加工法による差を検証してもらうことにした。結果に差がある場合は商品として区別する必要があるためである。


「今のところ王都とリューウェンは色ガラスで進めるみたい。レベナとしては色染め方式を確立したいなって思ってるの。リンダさんお願いしますね」


 ルクレイの言葉に「任せて下さい」と力強く答えた。


『今日は慰労の浜焼きなのに……マジメさんが多過ぎました。慰労というより決起集会にしか見えません。そしてニロンが乾燥エビを強奪してます……』


 ユミナは一部始終を見た感想として慰労会ではないと判断した。そして、ニロンの海産物に対する執着にも気が付いていた。


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