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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第九章 メルカド領に戻ったルクレイとヴィオナの浜焼き

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第六節 慰労会的な浜焼きと結局は物作り三昧

 日が昇り帆船が出発していく港町レベナから少し離れた湾の東端にザワザワと喧騒が響いていた。普段は人気のない岩場に多くの人が集まっていた。


「今日は突然の参集ですみません。明日、リグリアに戻るのでレベナでお願いを沢山している皆さんに感謝を込めて急ですが浜焼きを企画しました」


 ルクレイが少し高い岩の上で挨拶をした。


 レベナの浜焼き場と予定している磯場に製糸工房、造船工房、そして漁師たちと代官たちが集まっていた。昨日の夕方に突然話が舞い込んできた。


「この岩場をリューウェンで流行っている浜焼きができる浜焼き場にしたいと思います。食べる食材は自由でエビやカニは目の前の海から獲ります」


 ルクレイは海を指差した。


「管理は代官さんにお願いすることになります。できればリューウェンを見てきて欲しいです。浜焼き場が家族や仲間と楽しく遊べる場になって欲しいと思います」


 ルクレイがペコリと頭を下げると「任せてくれー」といった喧騒に岩場が包まれた。浜焼きに関してはレベナでも話題になっていて興味が強かった。


「リューウェンだとエビやカニを捕獲して売ってる人たちがいるので便利なのですが……ここにはまだいないので捕獲する人を後で募集します」


 ルクレイは一通り説明をしたら竈の設置を進める。石はまだまだ自然石がゴロゴロしているので作れる人にお願いして竈作り教室が始まった。


 ルクレイは漁師たちと子どもを集めて捕獲に関する話をすることにした。作ってきた防寒魔道具を配りながら注意点を話していった。


「籠は全員分はないので休憩を取ったり食べたりする時は置き場に戻してね。あと、大きな魚には本当に注意して。当たると痛いで済まないからね」


 今回も生け簀を組む時間はなかったので窪んだ場所にルクレイが海水を詰めた。右手に紐付けた水壁の大きなバケツで海水を投げ入れていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 漁師たちに子どもを任せルクレイは救護用の道具を作ることにした。樵をしていた老人と森林に入り間引くべき木を選定し水壁のカットソーで切り倒した。


 岩場に近い場所のみ整えてルクレイは木を引きずって岩場の隅に並べていく。最初は注目されたが数本運び終わる頃には竈に火が入り始める。


「枝打ちするから隅に除けてね」


 見学してる子ども達にカットソーで落とした枝を片付けてもらう。何人かの男性が枝を細かくし始め女性陣が乾燥魔道具で枝を乾燥させていった。


『いつの間にか枝置き場が薪置場になってる。やっぱり手際がいいなぁ。木の皮を剥き出した人もいるし人手があると色々と進んでいくのが気持ち良いよね』


 チラリとヴィオナを探すと女性陣にタコの下拵えを指導していた。漁師の一人が締めて女性陣にタコを渡していた。かなりのタコが調理されていた。


 枝打ちが終わったルクレイは場所を借りて水壁の縁を高くした作業用マットを展開する。皮の付いた木を一本置いて4m位で切り丸太サイズに整える。


「あれは何で木を切ってるんだ?」


 周囲に人が集まり観察し始めたがヴィオナが魔法だと簡単な説明をした。


『サーフボードぽいのはアルフォンスさんが作ったみたいだから真似しても良いだろう。三本ぐらい作って海に浮かべとけば活用してくれるよね』


 ルクレイは水平にカットソーを50mm間隔で四つ並べ回転させ丸太を通してカットした。端材は置き場を決めて置いておく。


 右手に紐付けた大きめのトリマーで切り出した板を粗めに削り進める。見た目がサーフボードぽい物を削り出していく。


『荒削りは終わったから魔力くん確認……杉?はいつも通りで25kgぐらいか。たぶん浮いてくれると思うけど確認だけはした方が良さそうだな』


 ルクレイは一枚だけサンダーで綺麗に磨き上げた。ドリルビットで穴を開けロープを通す。板を持って波打ちぎわに向かうと見学の子ども達もついて来た。


「この板を投げ入れるから捕獲に使えそうか確認してみて。ロープで岸に繋いでおくから沖には流されないよ」


 顔を出してる漁師に声を掛けてサーフボードを投げ入れる。サーフボードは海面にプカプカと浮かび漁師の男性が受け取り「分かりました」と答えた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ルクレイは作業場に戻る時に乾燥魔道具を一台借りた。作業用マットの上に移動してサーフボードを試しに乾燥魔道具で乾燥させ始めた。


『真ん中近辺をまずは乾燥させてみよう。自然水までの乾燥なら多少の収縮で済むはず。……これぐらい? 歪みは出たけど割れてはいないな』


 ルクレイは勘頼りでサーフボードを乾燥させていく。


『もう少し乾燥速度を落とせば歪みは小さくなりそうだな。結合水は加熱した方が樹脂も抜けるから追加乾燥は要検討って感じで保留にしておくか』


「レイは何を作ってるの?」


 ヴィオナがルクレイが作業している作業用マットに入り込んで覗き込んできた。どうやら浜焼きの指導が終わり手が空いたようだった。


「海に浮かべて掴まれる場所? アルフォンスさんが作ったことがあるらしい。これはサーフボードって言うんだけど伐採直後の木は重いから乾燥してたの」


 ヴィオナは「サーフボードね」とニッコリした。


「乾燥は終わったからもう少し削って形を整える。木屑が飛ぶから少し離れててね。サーフボードを投げ込むときに声かけるね」


 ヴィオナは「はーい」と作業用マットから出てテーブルに戻った。


 ルクレイはサーフボードをサンダーで磨きドリルビットで先端にロープ穴を開けた。ルータービットで片面を適当に削り込んで面取りをした。


「ヴィー完成したよー。海に浮かべるから一緒に行こう」


 ルクレイはサーフボードを片手で抱えヴィオナをエスコートして波打ちぎわに向かう。ヴィオナの後にきゃぁきゃぁ騒ぐ女の子たちがついてきた。


「それが湖を渡る道具ですか?」


 ヴィオナが抱えているサーフボードを見て尋ねた。


「似てるけど少し違うかな。これだと浮く力が弱いのとバランスが取りにくい。横幅が倍以上を予定してるのと作り方も違うかな」


 ヴィオナの不信の目を感じてルクレイは苦笑いを浮かべた。


 波打ちぎわに着くと最初のボードに子ども達が乗っていた。立ち上がってバランスを崩し海に落ちた子が楽しそうに笑っていた。


 ルクレイは漁師に声を掛けて投げ入れる。ロープは近くの男性に渡し最初のボードと同じように固定してもらった。


 ルクレイはヴィオナと話しながら三枚目を仕上げて海に投げ込んだ。片付けのために作業用マットへ戻ると女性陣が掃除して木屑を集めてくれていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 桶に集めてあった大量の木屑を見たルクレイは記憶に引っ掛かるものがあった。木屑の桶をもらいニロンたちのいる拠点に戻った。


「その木屑をどうするの?」


 テーブルを囲み冷えた紅茶を口にしながら木屑を見て考えているルクレイにヴィオナが尋ねた。


「なんか木屑を見て思い出し掛けたんだよね。木屑……きく……おがくずか。あれだおがくずのコンポスト。そうそうコンポストか……」


 ルクレイはまた難しい顔になった。


 ヴィオナが「こんぽすと?」と首を傾げた。ふとヴィオナを見たルクレイは笑顔を見せた。ヴィオナは少し頬が赤くなった。


「木屑を使った物なんだけど生ゴミとか……あぁ、引っ掛かってた理由が分かった。これはトイレ……えっと『便所』として活用できるのを思い出した」


 ルクレイは声を落とした。浜焼き場の話題として微妙な線だったからである。


「前に馬車に搭載するって話したでしょ? 方法を考えてたんだけど木屑はかなり有力なんだよね。少し食べた後に見本を作ってみるよ」


 ルクレイはヒソヒソとヴィオナに話した。


「馬車の設備なのね。ふふ、楽しみです。後は厨房と洗い場でしたね。どうにも想像ができません」


 ヴィオナは顎に指先を当てた。


「厨房は簡単だよ。加熱魔道具と水場があれば調理はできるでしょ。使いやすさをどう実現するかがポイントになる感じだよ」


「あぁ、なるほどです。確かに浜焼きは竈と水桶とテーブルがあれば調理できます。レイはシンプルにするのが本当に上手いですね」


 ルクレイの説明でヴィオナは理解して頷いた。


「空間的に洗い場は便所と同じになるかな。風壁魔道具辺りを上手く使えば快適に出来るはず。加熱すればサウナも作れるかもしれないね」


 ヴィオナは「さうな?」と首を傾げた。


「暑くて汗をかく部屋かな」


 ルクレイは軽くヴィオナの頭をポンポンした。


「客車は伸ばして南方木材に変えて扉の位置変更だよね。内装の方向性は決まってる。今回の木屑でほぼ揃った感じがするかな。冒険デート楽しみだね」


 ヴィオナも「楽しみよ」と微笑んで答えた。


『話題は硬いし微妙な内容なのに空気だけが甘いままなのが不思議です。それよりも焼き始めて良いのでしょうか?……ニロンの視線が厳しいのです』


 ユミナはニロンの視線に負けてエビを大量に並べて焼き始めた。焼く先からニロンに強奪されるがルクレイたちも焼くのに参加して楽しい昼食になった。


 ルクレイは生け簀からカニを貰い焼いてヴィオナと一緒に食べた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 昼食を食べたルクレイは作業用マットを展開してトイレ用の箱を作り始めた。コーナに設置し狭い空間で使えるように形を整えていく。


 ルクレイの記憶にあるヨットのトイレは工夫は見受けられるがあまり参考にはならない。むしろ山小屋などの特集で見たバイオトイレが参考になった。


「まぁ、見本だから簡易に作っちゃうね。この形は角に置いて座った時に前に空間を多く取るためだよ。で、掻き回すための棒を……いらないか」


 ルクレイは魔道具でどうにでもなると気が付いた。臭いは消せるし湿気は調整できることに気が付いた。そして熱も加えることも魔道具で可能だった。


「なんていうか魔道具は便利だよね。箱と木屑と魔道具で何とかなりそう」


 ルクレイの言葉に「贅沢過ぎますよ」とヴィオナが突っ込みを入れた。


 今回の浜焼きでは色々な確認をすることができた。ある程度は乾燥魔道具で丸太の水分を抜く工程が代用できる確認は大きかった。


「乾燥魔道具はカンコールさんが大型化を進めてる。乾燥度合いの設定を変更できれば少なくとも木材なら乾燥できる。丸太そのものが出来るかは今後の課題だな」


 南方木材で自然乾燥を一年行う。北方木材は最低でも三年は自然乾燥させている。その期間を短縮できれば木材の需給バランスは即時性が高まり安定する。


 少なくとも数年ほど森林管理が破綻し自然乾燥させている丸太が不足気味になっていた。この隙間を埋められれば木材不足は解消の見込みが立つ。


「後はレオナールさんの担当してる丸太輸送が進めば船の建造ペースも上がる。端的に言って巻上魔道具は福音なんだよね。歯車を表に出す名分になってるんだ」


 ルクレイはヴィオナに色々と問題が片付く可能性を話した。


「ふふ、片付けてる中心にレイがいるのにどれぐらいの人が気がつくかしら。気が付かなくてもレイは困らないし良い感じで進んでますね」


 目立ちたくないと無駄な足掻きをしているとヴィオナは思っている。でも、それをルクレイが望んでいるのだから今の立ち位置はきっと良いと思った。


 なお、大型の乾燥魔道具はバストリアで既に作られていた。単に用途がニッチ過ぎて知る人が少ないだけであった。そして作ったのはアルフォンスだった。


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