第四節 二人で海中散歩と心地よいタープと伐採
「おかえりー。エビさんをたくさん連れてきたね」
ヴィオナは竈の火の具合をユミナと確認していた。近くには持ってきた薪が置いてあった。ユミナは竈の口の前に石を置いて風の通りを調整していた。
ルクレイは「ただいまー」と水壁から飛び降りた。
「エビは桶に入れとくね。生け簀は使わなくても何とかなりそうな気がしてる。食べたいものは言ってね。ササッと捕獲してくるよ〜」
ヴィオナは「そう?」と答えクスッと笑った。
「食べたいものはレイにお願いするのね」
ルクレイは「そうそう」と答えた。
ユミナは大丈夫と判断してエビを鉄板の上に並べ始めた。ヴィオナも楽しそうに乗せ始めた。あっと言う間に在庫がなくなったのでルクレイはエビ捕獲に出た。
ルクレイはエビ以外にもカニやカイを集めて桶に入れて行く。のんびりと食べながらタコも見つけたので捕まえぶつ切りで焼いていく。
「レイ、このカイ? 焼いたのも良いけど乾燥させたて炒めたものも美味しいね。カニはレイがほぐしてくれるから食べやすくて嬉しい」
ヴィオナもニコニコしながら少しずつ食べていた。
「そういえば、乾燥させたカイを水に浸けてるのはなぜ?」
乾燥させたアワビを戻しているとヴィオナが首を傾げて尋ねてきた。
「これは後でスープにするとき使うの。カイの味が水に染み出して風味も良くなる感じなのかな。乾燥エビも味がギュッとしてるでしょ? あれと似た感じだね」
また中休みを入れる空気になったのでルクレイがヴィオナに話しかけた。
「あっ、海底散歩だけど散歩はちょっと難しい。なので僕がヴィーを抱っこして回る感じでいくね。感覚に慣れたらヴィーも自分でできると思うよ」
ヴィオナは頬をわずかに染めて「抱っこが良いな」と答えた。
「良いよー。少し海の中を覗きに行こう」
ルクレイはヴィオナに手を差し出し波打ち際までエスコートしていく。
『ヴィオナ様もルクレイ様も本当に自然体でイチャイチャし続けます。海底散歩は無理だからと海底抱っこは微妙です。明らかにヴィオナ様も立てますよね……』
ユミナは波打ち際に歩いていく二人を眺めながら会話の微妙さに奥歯の奥が疼いた。二人が離れてもニロンの視線が向いているのでエビを焼き続けた。
◇ ◇ ◇ ◇
二人が波打ち際に到着するとルクレイは躊躇いもなくヒョイッとヴィオナを横抱きにした。そして防御用の水壁を発動した。
「飛び込むよ」
ルクレイは波打ち際から海中に飛び込んだ。
「わぁー、とっても綺麗だわ。海の中は魚さんがたくさん泳いでいるのね。そう言えばレイが釣ったシイラはいるのかしら……当たると痛そうよね」
ヴィオナはキョロキョロと周囲を見渡した。
「あれは生身で当たったら痛いでは済まないかな。あの頭だから吹き飛ばされて気絶しかねないよ。海の中で気絶したらまず助からないからねぇ」
ヴィオナは「それもそうね」と答えた。
「この感じだとレイの石を拾いに行けそうですね」
「問題があるかな。たぶん深いから時間が掛かると思う。その場合は息苦しくなってダメだと思う。空気はヴィーにお願いするしかないかな〜」
ルクレイは水壁内の空気が持たないと説明した。風属性の魔法で空気を作れば何とかなると話した。
「空気を作るの?……良く分からないわ」
「今すぐはできなくてもヴィーならできるようになるよ。どうせ、目的の場所は女神様に聞かないとだし船もないからね。帆船は建造するからね」
ヴィオナは目を丸くして「帆船を?」と尋ねた。
「うん。連絡船と比べたら小さくなるけど二人で動かせて自由に行きたいところに行ける帆船。僕は欲しいんだよね。ヴィーと海を冒険したい」
ヴィオナは「行く!」と満面の笑みで答えた。
「まだまだ先の話だよ。まずは成人の儀までは旅には出れない。準備の時間はある。準備はコツコツやるけど当面は冒険デートが優先だからね」
ヴィオナは「そうだよね」と答えた。
「レイは準備を頑張ってくれてる。物作りは苦手だからできることを見つけて頑張る。まずは鍛錬と魔力ちゃんと魔法だよね。ワクワクしてきた」
両手をギュッと握りフンスと気合を入れた。
「二人で補い合って安全に冒険をする。僕はこの形が良いと思ってる。しばらくはニロンも手伝ってくれるしね。ユミナもヴィーが鍛えて上げて」
ヴィオナに「ついて来たがるよ」とルクレイはユミナのことを指摘した。
「そうね。幼少期の専属侍女は違うけど、本来の専属侍女はずっと一緒に生きていく側面が強いわ。嫁ぐ時もついてくるのが専属というものですから」
「ユミナが婚姻して残る可能性はあると思う。でも、ついてくる選択肢を提供するのはヴィーの義務でもあるからね。良く話して未来を考えてね」
ヴィオナは「分かった」と真面目に答えた。
「少し息苦しくなってきたね。戻ろう、そう言えば帆布を持ってきたから日除けを設置してみようよ。あと試したいことがあった」
「ふふ、レイは試したがり屋さんね。そんなレイはとっても素敵だと思うわ。髪を留めている糸も改良してくれるんでしょ? とても楽しみ」
ルクレイは「任せて」とヴィオナの頬に軽くキスをした。突然のキスにヴィオナは真っ赤になり「もう、いきなりはダメです」と抗議した。
「ごめんごめん。あまりに可愛かったからつい」
ルクレイは目を細めて揶揄りつつ海中を出て空中を駆けて拠点に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇
ヴィオナとユミナはエビの乾燥を始めることにした。それを見たルクレイは足りなさそうなのでエビとタコとアワビを集めてきた。
「日除けを立てるのに棒を探すよ。あと、少し試したいのが木材を繋ぐのに良い感じの魔法を確認したいかな。棒は適当な長さで大丈夫だよ」
ルクレイはやることを簡単に説明した。
海の反対側の森林は手入れの気配を感じなかった。下草もかなり生えていて落ちた枝などもそのままの状態だった。
「これだけ枝が落ちてたら乾燥魔道具があれば薪の持ち込み不要って感じだね。あそこには倒木もあるし燃やせる材料の宝庫だよ」
ルクレイの表現にヴィオナはくすくす笑った。
「魔法は試さないの?」
「ん?……先に試しても良いか。何となく気分は森林デートになってた。まぁ、森林デートなんだけどね。試すのは小さな棒を打ち出して繋ぐやつなんだ」
ルクレイが考えていたのはネイルガンだった。釘のような物は木工工房で見ていたがネジは見当たらなかった。そこでネイルガンならイケると踏んでいた。
『まずは水壁を打ち出す感じだけど穴が空いて終わりの可能性が高いかな。まぁ、ものは試しと言うし試すだけ試そう。サイズは2mmぐらい』
ルクレイは手近な木に向かいネイルガンを撃った。
「……レイ? 木に小さな穴が空いたけど……反対側まで穴が空いてるよ?」
ヴィオナができた穴を覗き込みルクレイを刺しに来た。
「あー、ちょっと威力が強すぎたかな。もしかすると細すぎたのかもしれない。もう少し太めで威力を落としてみようかな」
ルクレイは頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
『魔力くんまずい失敗したよ。撃ち出した威力が高すぎたみたい。棒が細すぎたかもだから次は少し太めにして5mm位でいこう。威力は落として撃ち出そうね』
ルクレイは位置を変えてネイルガンを撃った。
「うわっ……なんか酷くなったよ? 結構抉れたし……反対側まで穴が空いてる。この木は切り倒してあげた方が良くない?」
ヴィオナはルクレイの心を抉りにきた。
「確かに……ここまで傷がついたら切り倒した方が安全だね……。とりあえず水壁だと威力が出すぎるから土属性にしてみる。少し離れていてね」
ルクレイに頼まれヴィオナは「はーい」と少し離れた。
『魔力くんまずいよ。どうやってもダメみたいだから土属性で物理的にいこう。できればステンレスかアルミが良いんだけど鉄でも鋼でもいいよ?』
ルクレイは土属性はほとんど使っていないため何ができるか良く分かっていなかった。ほぼ魔力くんに丸投げした状態で木にネイルガンを撃った。
「ベキベキベキ……ドーン!」
ヴィオナは目を丸くして「伐採?」と呟いた。
『やべぇ……水壁のときより跡が酷い。表皮が完全に吹き飛んでかなり抉れてる……なんで思ったよりも遥かに高威力なの?』
「結果的に伐採になったね……。これは少し考えてみるよ。威力が高すぎて工作には使えそうにない。威力を落とす方法を考えないと……」
ルクレイは今回の実験は完全に諦めた。木も手に入ったのでヴィオナを促して伐採した木を引きずりながら拠点に戻り始めた。
「さすがわたしのレイだわ。あれなら魔物も瞬殺よ」
ヴィオナは嬉しそうに笑顔でトドメを刺した。
◇ ◇ ◇ ◇
拠点の近くまで木を引きずってきたルクレイはカットソーで枝打ちをした。枝から良い感じの長さの物を集めトリマーで削り二本の棒を作った。
小枝をペグ代わりに使いロープで帆布を留めて日除けを設置した。木の下に拠点を作っていたので効果はあまり変わらないが雰囲気が変わった。
「わぁー、なんかすごく良い感じ。風の通りも良くなったように感じますよ」
ヴィオナは日除けが展開され拠点の雰囲気が変わったことを喜んだ。
『うんうん。タープがあるだけで結構雰囲気変わるからね。もう少し大きいヘキサタープを作っておくと良いかもしれない。個人的にはサブボールも欲しい』
ルクレイはヨットとデイキャンプはある意味でセットだと思っていた。入り江にアンカーリングして上陸。デイキャンプして夜はヨットに戻る。
『あー、アンカーリングして奥さんと良くデイキャンプしたなぁ。元気かなぁ。戻れないから今世はヴィーと生きていくと決めた……でも会いたい想いは残る』
ルクレイとして生活する中で前世の記憶にある妻との思い出は辛かった。でもヴィオナと一緒にいることで辛さは減り懐かしさが増えていった。
『前世も今世も素敵な人と生きられる。これは女神様のおかげかもしれないな。前世の世界では違う女神様だとは思うけど……』
ルクレイは隣で寛ぐヴィオナの存在に感謝を捧げた。
「レイ、その丸太はどうするの?」
感傷に浸っていたルクレイは現実に呼び戻された。
「あー、運ぶしかないかな。いや、代官屋敷まで持ってくのは特に問題ないんだけど……リガレアまで運ぶのは大変かなぁ。輸送方法を代官に聞いてみるかな」
「そう言えば伐採直後の丸太を欲しがっていましたよね?」
ヴィオナが目を細め横目でジッとルクレイを見た。
「いやいや、あれは事故だよ? 欲しくて伐採したわけではないよ? ヴィーだって見てたよね。真面目なお試しがちょっと破壊的だっただけだよ?」
ルクレイの慌てる姿にクスッとヴィオナが笑った。
「分かってるわ。お試しだったけど魔力くんが気を利かせてくれたのよ。丸太を確保するのにちょっとマシマシにしてくれただけよ」
ヴィオナはくすくすと笑い出した。あまりの言いようにルクレイも一緒に笑い出した。――果たして魔力くんが気を利かせてくれたのかは謎として残った。




