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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第九章 メルカド領に戻ったルクレイとヴィオナの浜焼き

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第二節 湾の東端は岩場があって水壁で生け簀を作成

『うわー、ヴィーのポニーテールってめちゃ可愛い。ちょー似合う』


 代官屋敷から出掛けるためニロンにお願いしてルクレイは二人乗りの馬具を付けていた。荷物も括り詰めて準備が終わる頃にヴィオナが馬房に現れた。


 少し恥ずかしそうなヴィオナとやりきった感が漂うユミナが歩いてくる。


 ヴィオナは近くまで来ると「おはよう」と声をかけクルッと回り「どう?」と声をかけてはにかんだ笑顔をルクレイに見せた。


 ヴィオナは薄紫の髪をポニーテールに結ってキラキラ系の髪留めを付けていた。普段と違い活発系な容姿に変わったヴィオナにルクレイは見惚れた。


「可愛い! すっごく可愛い!」


 ルクレイはヴィオナの腰を持ってクルクルと回った。回転する度にポニーテールがふわふわと揺れヴィオナは満面の笑みで「きゃぁ」と声を上げた。


『アウトですが……ヴィオナ様が可愛いのが悪いのです。しかし、朝の顔合わせからこれですか……。あの髪型だと活発そうに見えるのが不思議です』


 ユミナはクルクル回っている二人を眺めていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ヴィオナがポニーテールになっている理由は昨晩の糸作りが発端となっていた。可愛い円柱で盛り上がった後にヴィオナが作ってた糸の発表となった。


「一番硬いレシピの糸が難しかったの。曲がり難くて糸として纏まらない感じ? ソフィの注釈に糸として微妙って書いてあったの実感しました」


 ヴィオナは棒をピコピコ振りながら力説した。ルクレイは首を傾げヴィオナから棒を見せてもらう。


「あっ、なんの棒かと思ったけど一番硬いレシピの糸がこれか!って棒? これは糸と言えないよね……。さすがソフィア王女は妥協しないね」


 ルクレイは針金のような糸に目を丸くした。


「あと一番柔らかいのはビョンビョンして糸としては失格だと思うの。ちょっと簡単に伸びすぎ。まぁ、フィアだからレシピに残したんだと思う」


 ヴィオナは別の糸を手にして伸び過ぎることをアピールした。


『ヴィーが可愛すぎる。小動物がゴムを引っ張って……ゴム? その伸びたり縮んだりって……ゴムだよね?……白い粉ってなんなの?』


 ルクレイはゴムのような糸に目を丸くした。


「それ……良く伸びるね。引っ張ったら切れるのかな……って伸ばさないで。切れたら痛いから。それ痛いやつだと思う。そんなに伸ばしたらダメー」


 ルクレイがヴィオナから糸を奪おうとするとヴィオナがスイっと避けた。それほど広くないラウンジで無駄に二人で糸の争奪戦を始めた。


『ヴィオナ様……目が凄く楽しそうですね。口角も上がってます。ルクレイ様も明らかに手を抜いて単にイチャついてますよね?……二人でソファーですか』


 争奪戦に見せかけたイチャつきにユミナの目が細くなる。そして二人は仲良くソファーに座り糸の検分を始めた。争奪戦をしていた名残は欠片もなかった。


「この糸は面白いね。……ほらこれぐらいの長さで両端を結ぶと輪になるでしょ? 伸び縮するのって使い道がありそう。こんな感じの物って見たことある?」


 ルクレイは前世の記憶にある輪ゴムのようなものを作ってみた。


「んー、……見たことないかな。ユミナは?」


 ヴィオナがユミナを見るとユミナは首を左右に振った。


「ありません。伸びたり縮んだりする糸はありません」


 ルクレイは『ポニーテール!』と閃いた。どうやら前世はポニーテールが大好きだったようでルクレイはポニーテールのヴィオナが見たくて仕方がなかった。


 ルクレイはポニーテールを実演した。それほど長くない髪ではピョコンとなったがヴィオナには少し刺さった。可愛いを連呼して触って喜んでいた。


 お揃いと約束してポニーテールのヴィオナが誕生した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「髪飾りはリューウェンで贈った物だね。髪形で活動的な雰囲気になってるからそのデザインは合ってる。ユミナはヴィーを可愛くする天才だね」


 ユミナは突然褒められて「恐縮です」と視線を下げて答える。


「僕のはピョコンとしてるから髪を伸ばさないと微妙だよね。伸ばすのは時間で解決するから期待していてね。あと、この糸を工夫して使いやすくしようね」


 ルクレイはクルクル回していたヴィオナをそのままニロンの前席に座らせた。ユミナはナンニに騎乗しルクレイは忘れ物を確認して出発した。


 ニロンはカポッカポッと常歩で進んでいく。


 ルクレイとヴィオナは今日の予定である岩場視察に関して話していた。行き先が分かってるニロンは会話に夢中なルクレイたちを放置して目的地に向かう。


「ビットたちは河口の向こう側にある岩場でエビを獲ってるみたい。昨日、話したように僕たちは湾の東奥に行ってみよう。確か岩場があったはず」


 ニロンは前に双子と緊急出動ごっこをした騎士団の詰所に入っていく。そして伝令が使う通路を常歩のまま抜けていく。


「あっ、ニロンありがとう。ヴィー、この通路が伝令が外に出る通路なんだ。双子と緊急出動ごっこして乗馬訓練で使わさせてもらったんだ」


 ヴィオナは狭めの通路を見て「ワクワクするね」と笑顔で答えた。


 ルクレイは門兵に手を振り「だよねー」と返した。


『前に座るヴィーのポニーテールが揺れでゆらゆらするのも可愛いなぁ。少し高い位置で留めてもらったから髪飾りも映えてる』


 門を抜けると湾の海岸線に沿った小道に繋がっている。ニロンは常歩から速歩寄りに速度を上げていく。時間的に風は海風で右手から吹いてきていた。


「わぁー、この道には来たことなかったけど海がひろーい。風が気持ちいいね。桟橋からの風景と全然違うし気持ちいい〜」


 ヴィオナは背中をルクレイに預け両手を広げて風を受け楽しそうにしていた。


『ニロンの走り方はほとんど揺れがないから大丈夫だけど……両手を離されるとドキドキするんだけど。まぁ、楽しそうだし落ちそうになっても支えられるか』


 小道は広場で終わっていた。広場で一度降り歩いて奥側の木々を抜けるとリューウェンほど大きくないが綺麗な岩場が見えた。


「前に来たときに木々の隙間から見えたんだよね。リューウェンで浜焼きしたらこの場所が浜焼き場に見えるから不思議だよね」


 ルクレイは苦笑交じりにヴィオナに話す。


「この場所は知られてないのかしら。多少の手入れは見て取れるけど……使われてる形跡はありませんね」


 人の手が入っていたリューウェンの浜焼き場に対してこの岩場は自然のままで石などもゴロゴロと転がり漂着物もそのままだった。


「あの小道は湾の監視でしか使ってないみたい。ほら、この岩場の先は何もないって話だし。まぁ、何もないってことはないんだけどね」


 岩場の陸側は緩やかな斜面で森林が控えていた。


 ルクレイは岩場には入らず木々の隙間にニロンとナンニから降ろした荷物を置く。ニロンの寛ぎ空間を広めに設置してナンニも休んでもらう。


「さっ、今日は岩場遊びして浜焼き場として使えそうか確認しよう。濡れても良い服を選んだし防寒魔道具も作ったから確認できるよ」


「わたしは海に入ると怒られてしまうので岩場だけです。レイはわたしを海に入れる工夫を考えてね。一緒に海の中を見てみたいわ」


 ヴィオナはルクレイに海に入りたいと強請った。


「任せて! と言っても水壁が上手くいくかなんだよね。水は遮断できると思うんだけど今のままだとスッポ抜けて海に落ちるからね」


 一緒に海底散歩を想像したルクレイは力強く答えた。


 ヴィオナは「頑張ってね〜」と声援を贈った。


 ルクレイはまず拠点として荷物を置いた場所に組立式のテーブルや椅子を設置した。ヴィオナはユミナと協力して竈作りに挑戦することにした。


 ルクレイが付近の自然石で良さそうな石を集めて二人の傍に置いていく。それが終わったら岩場で生け簀になりそうな窪みを探しに向かった。


『さて、生け簀に海水を入れたいけどどうするか……。防御面を内側にした桶みたいな形は作れるよね。防塵ドームの亜種みたいなものだし』


 ルクレイは右手に紐付けて桶のような水壁を発動した。


『たぶん風壁もだと思うんだけど防御効果のない側の突き抜け方が明らかにおかしい。バケツを地面の下に入れても突き抜ける……』


 ルクレイは風壁の元となる魔法の防壁を知らなかった。防壁は両面に効果のある魔法で本当に壁として機能する魔法で各属性ごとに存在した。


 風壁も元はアルフォンスのやらかしである。やらかした結果を魔法局に丸投げした。頑張って魔法局が理論化したものをリュミエールが魔法陣に仕立てた。


 そして魔法陣を陣図に仕立て風壁魔道具が生まれた。風壁が画期的だったのは片面のみ壁として効果を発揮し裏から攻撃が行える点であった。


 それを知らないルクレイがヴィオナの風壁を聞きかじりの見様見真似で再現した。そこに水壁が妙な効果を持ってしまった原因があった。


『まぁ、機会があったらアルフォンスさんたちに効果について聞いてみよう。あれだけ関係者に会うんだからいつかは本人に会えるだろ』


 ルクレイは思考を戻して海岸に近寄り振り回していた桶のような水壁を沈めた。


「あっ……。水壁を沈めると全く目視できない。……魔力を見ると見えるか。あれ?……目視できない状態でもあることは分かったよね?」


 ルクレイは首を傾げた。


「何だろう……水壁が自己主張してる感じ? 『ここだよ』って主張してる感があるな。ていうか水中でブンブン振り回しても抵抗を感じないのが違和感……」


 感触のなさの違和感にルクレイは眉を寄せた。


「レイどうしたの?」


 海岸付近で手をブンブンと振り回しているルクレイが気になりヴィオナが確認にやってきた。


 ルクレイは簡単に状況をヴィオナに説明した。分かりやすいように左手に紐付けた桶を発動しブンブンと振り回した。


「レイはなぜ水壁を地面に埋めようとしたの?」


 ヴィオナは不思議そうにルクレイに尋ねた。


 ルクレイは「えっ?」と指摘に首を傾げる。


「んー……何でだっけ? そもそも埋めようとしたわけではないような。振り回していたら勢い余った?」


 ルクレイにもよく分からなかった。


 ヴィオナはクスッと笑い「海水は汲めました?」と尋ねた。


 ルクレイは海中に沈めていた水壁の桶を右手を上げて海面が出した。離れた位置に発動しているので陸側に回しヴィオナに見てもらう。


「海水は入ってますね」


 ヴィオナは問題ないとルクレイに伝えた。


「良かったー。これで生け簀に海水を入れちゃうね。その後は防寒魔道具を確認しながらエビを探す! 期待してね! いっぱい獲るからね〜」


 ヴィオナは「楽しみ〜」と手を小さく振りながら戻った。


 ルクレイは生け簀と決めた窪んだ場所に海水を流し込んだ。大きな桶にして手抜きをしようとしたら珍しくバランスを崩して海水をぶちまけた。


 二個目の竈を作っていたヴィオナたちの笑い声が聞こえてルクレイは赤くなった。何事もなかった振りをして生け簀を完成させた。


『まさか重さがあるとは思わなかった。腕に負担が全然ないのに重量でバランスだけ崩れるとは思わなかったよ。魔力くん、水壁の効果がよく分からないよ?』


 見様見真似の代償は仕様が不明ということだった。


 ルクレイはこの仕様でヴィオナを水中散歩に連れ出すための使い方を考えた。


 防寒魔道具を起動してルクレイは海に飛び込んだ。


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