第六節 浜焼きを堪能して釣りは弾丸キャッチ
ルクレイたちは一巡して休憩に入った。侍女たちも食べ始めニコニコと話し合っていた。まったりした空気が浜焼き会場を包んでいた。
「レイ、クネクネしたのは試さないのですか? 休憩中ですし見てみましょう」
ヴィオナに指摘されルクレイは忘れていたことに気が付いた。
ルクレイは蓋をした桶を手元に寄せて中を見る。
「ヌルヌルしてるね」
「ほんとだわ」
「んー、なんかヌルヌルしてるのは塩を使うと取れるって聞いたことがある。塩を使ってみようかと思うけど良いかな?」
ヴィオナはタコを突きながら「良いよー」と答えた。
『ヴィーはこういったことには頓着しないよね。突きながら目を細めるところとか可愛いし。口角が上がってるから何気に気に入ってる? でも食べるよね』
ルクレイは塩の壺を受け取りタコに振りかけギュッギュッと揉んでいく。少し水を水魔法で出しながら粘液を削ぎ落としていく。
「んー、こんなもんかな。ヌルヌルはなくなったから水で流すね。その後はバラバラにするから切る準備をお願い。後は熱を入れる感じだね」
ルクレイは少し離れた場所に移動して桶に水を出して流していく。ジャブジャブと洗い目と目の間に水壁のドリルビットで締めておく。
「バラバラにしたらどうする? やっぱり焼く?」
「んー、加熱魔道具に浅い鍋を置いて油でコロコロさせて熱を通そう。味付けは……塩と魚粉、あとはウル粉を試してみよう。焼くのは竈でいいね」
ルクレイから手順を聞いたヴィオナと侍女は準備を始めた。ユミナがタコを奪い取り足などをバラバラにしていく。ルクレイは手持ち無沙汰になった。
「さっきのは停泊してるとたまに船に上がってくるやつだな。あの丸い奴がへばりつくと取るのが大変なんだよ。あれ食べれるのか?」
メダル船長はタコの存在を知っていた。
「食べれるか……それを確認するためにバラバラにしてるんだよ」
ルクレイは悪戯する顔でメダル船長に答えた。
ユミナがタコをバラバラに解体したことに気が付きルクレイは近づいた。
「焼く分と炒める分を取り分けておいて。焼く方は僕に渡してくれれば並べていくよ。鍋で炒める方は……少し小麦粉をまぶした方がくっつきにくいかも」
ユミナは「なるほど」と頷き取り分け始めた。
侍女たちに仕事を奪われたヴィオナが近寄ってきたのでテーブルに誘い冷えた紅茶で一休みすることにした。リアン夫人はそんな二人を楽しげに眺めていた。
「レイはあのクネクネしたのって美味しいと思う?」
「どうだろう、触った感触はプニプニしていたから食感は面白いと思うんだよね。熱を入れるから少し硬くなるとは思うけど」
「楽しみだわ。この後は何をします? 素潜りは準備してませんし……さすがにわたしは怒られてしまいます。レイはギリギリ怒られませんよ?」
「潜るのはレベナにしておく。そうだなぁ、どうせするなら探知の練習なんてどうだろう。ヴィーは風属性、僕は水属性で海の中を探知してみるの」
ヴィオナは「海の中ですか?」と首を傾げた。
「探知は基本的に生きているものを感知するでしょ? エビやさっきのクネクネみたいなのがいるのは分かってるから分かりやすいかなって」
「そっか、いるのは分かってるから分かりやすいかも」
ヴィオナはどちらかというとタコに興味を示していた。
「まっ、ゆっくりする方便みたいなところもあるけどね。ついでに釣りをしてみようかなって思ったんだ。といっても糸に釣り針をつけて流すだけ」
ルクレイは荷物から糸を取り出してヴィオナに見せた。
「さっきナンニルさんのところで貰ってた糸がそれ?」
「うん、試しで作った分を貰ったの。少し白く濁って完成度という点では失敗作って言ってた。でも、海水に浸けてみたけど濡れた感じしないよ」
ルクレイは糸を海水の入った桶に浸けてヴィオナに渡した。
「すごい! 糸に海水が染み込んでいないわ! これ小物用に欲しい!」
「ふふ、リガレアでガラスを作ってレベナで糸を作るから用意できるよ。ただ、イゴルトさんのところに色付けの経験者が実はいないみたいなんだよね」
ヴィオナは「楽しみすぎるー」と実際に撥水糸を触り興味が出てきた。
ルクレイは釣りをするには木材が必要なことを思い出した。ヴィオナに断って木材を手に入れるため竈石コーナーの案内人に話を聞きに向かった。
「すみませーん。枝とか木材が欲しいんですけどあります?」
案内人は薪場コーナーに漂着した木材が置いてあることを教えてくれた。薪場コーナーの案内人に声を掛ければ貰えると聞いて移動した。
「すみませーん。漂着した木材が欲しいのですけどありますか?」
薪場コーナーの案内人は薪置場の横に置いてあると教えてくれた。そして、木屑が出たら集めて木屑入れに入れて欲しいと頼まれた。
「木屑が散らばると火事などの危険性があるため集めてます。もし出たらこちらに持ってきてください」
案内人の説明にルクレイは頷き木材を選んで戻った。
「その木材をどうするの?」
タコを焼く準備が終わったようでヴィオナが竈の鉄板に並べていた。
「考えてるのは糸を支えておく棒と糸が沈み過ぎないように浮かす物かな。まぁ、釣れるかすら分からないから単なる工作かな」
ルクレイは地面に薄めのマット状態で水壁を発動し座り込む。細い棒状にできそうな木材をトリマーの水壁で表面を削っていく。
「レイ、マットの端が出っ張ってるみたいだけど?」
「ん? あぁ、木屑が出るから飛ばないように少し形を変えただけだよ。木屑は薪場コーナーで集めてるんだって。火を熾すのに配ってるとも言ってた」
多少曲がっていても気にせず削り棒にしていくルクレイは出っ張りは気遣いといった感じでヴィオナに答えた。
「わたしも形を整える練習をするー。イメージはレイのを見て分かってるわ。魔力ちゃん頑張りましょう」
さすがに地面に座ると怒られるのでヴィオナは椅子に腰掛け地面に風壁を発動する。魔力を見て首を傾げ再び発動して首を傾げるを繰り返していた。
「あの子たちは見ていて飽きないわね。ルクレイくんは何かを作ってヴィオナちゃんは……あれは何をしてるのかしら。首を傾げる仕草をしてますね」
「会話を聞いた感じだとヴィオナ嬢はルクレイが座ってる水色の板を真似して風壁を発動しているみたいだよ。恐らく魔力が見えてるんじゃないかな」
リアン夫人は「見えるの?」と驚いた顔をメダル船長に向けた。
「アルフォンス殿たちは魔法を発動して風壁があることは分かるらしい。風壁の上を駆けてたからね。あの子たちの才能はかなり高いみたいだ」
「不思議な子たちね。ルクレイくんは何をしている分かるのにどうやってるのかまったく分からないわ。木を削って棒にしてるのは何故かしら……」
「釣りと言って糸を見せてたから釣りなんだろね。あの棒が必要な理由は分からんが……。どうやら棒はできたみたいだよ……繋ぎ始めた」
ルクレイは削って磨いた棒を糸で繋ぎ始めた。多少の不格好は気にもせず繋ぎ先端をV字の形にした。糸を引っ掛けて満足そうに頷いていた。
「これで糸を少し岸から離れた位置に留められる……と思う。後は釣り針をつけると。……そして木の浮きをとりあえず適当な深さに付ける……」
ルクレイはブツブツと独り言を言いながら仕掛けを仕上げていく。まさに適当なやっつけ仕掛けだが楽しそうに工作していく。
「ふふ、レイは楽しそうですね。見てください! 少し縁ができましたよ」
ヴィオナがルクレイに途中の成果を披露した。
「ホントだ。それだけ縁があればさっきの作業で木屑を飛ばさないよ。ヴィーは凄いな見ただけで形を整えるなんて。ヴィーが想えば自由自在だよ」
ルクレイに称賛されたヴィオナは満面の笑みで鍛錬を再開した。その視線には真剣さと楽しさが同居していた。
「さて、とりあえず完成したよ。不格好なのはどうしようもないし釣れたら幸運だよね。ヴィーは見に来る? 来るなら椅子を持っていくよ」
ルクレイに誘われヴィオナは「行く!」と席を立った。
ルクレイは糸と棒を片手に持ち椅子も持って海岸べりまでヴィオナと移動した。工作を見ていた子どもたちも後をついていく。
「ルクレイ様は何をするの?」
「釣りをしてみようかなって思ったんだよ。今日は浜焼きだけどずっと食べ続けられないから遊びだね。まぁ、釣れるかどうかは分からないけど」
ルクレイは子どもに答えて笑顔を向けた。
海岸べりで潮が掛からない位置に椅子を置き座面に水壁を発動しておく。ヴィオナはニコニコしながら椅子に座りルクレイがすることを眺め始めた。
ルクレイは近くの岩に糸を結び棒が流されないように結ぶ。そして潮あたりが良さそうな場所に仕掛けを投げ入れた。
「これだけだと糸が潮に流されるから棒で掬うの。そうすると糸が海面の影響を受けなくなるんだよね。後は待つだけだから探知ぽいことを試そうかな」
「そうでした。海の中を探知してみることを忘れてました。……レイは分かります。子どもたちは何となくですが分かる気がします。これは進歩です」
しばらく静かな時間が過ぎた。子どもたちがルクレイに棒を持っていいか交渉を始めた。ルクレイは結構重いと伝え子どもたちに棒を渡した。
『やっぱり棒先は安定しないよね。バランス最悪だから子どもには重い……でも楽しそうだな。楽しいなら問題ないな。棒が流されても別に良いし』
ルクレイは棒から解放されたのでヴィオナの隣にマットを発動して座った。釣り糸は握ったままヴィオナの風壁を見て感想を言い合っていた。
「おわー」
子どもの声が上がりルクレイが見ると棒を手放して数人の子が男の子を支えようとしていた。
飛び出したルクレイは男の子の手を取りふわっと力を入れて引き寄せ立たせた。その時、掴んでいた糸がグンッと引かれ糸が出ていった。
「えっ? 何か掛かった?」
ルクレイは男の子を確認して大丈夫そうなので糸を操作して掛かった魚の取り込みを開始した。ヴィオナも楽しそうに近寄り観戦を始める。
『走り回ってるから回遊魚か……根に潜らないなら可能性はあるな。正直なところ手釣りでこの引きは無理ゲーなんだけど……』
ルクレイは糸を出し入れしながら魚の疲労を待つ形で引きを楽しんだ。手袋は糸の摩擦を問題なく無効化して手の保護機能が効いていた。
『走りが弱くなったけど……ん?……魔力くん、糸に魔力を流して釣り針を補強できないかな? バレるとしたら口が切れるのもあるか……』
ルクレイは糸に魔力を流し込んでいく。
『魔力を流すと糸の状態が情報として戻ってきた?……浮きは吹っ飛んだみたいでなくなってる。だけど釣り針はまだまだ大丈夫だな』
ルクレイは引く力が弱くなったタイミングで糸を一気に回収し魚を岸に寄せた。近づいたことで魚の様子が魔力から戻ってきた。
『デカい。1.5mぐらいの万力?ってシイラ?……こんな岸付近を回遊?……魔力で包めた。魔力くん、逃げれないように水壁で封じ込めよう!』
「スッポーン」
水壁で包んだ瞬間に魚が抵抗なく海中から引き抜かれた。魚は一直線に空中を飛びルクレイに向かい吹き飛んできた。
「ちょっ……」
ルクレイは飛んでくる魚の軌道が背後のヴィオナに向かう可能性に気が付いた。ここで止めると決めて飛んでくる魚を見つめた。
「パシッ」
ルクレイが片手で魚の頭を掴んだ。
「「「えぇーーー!」」」
大きな魚を片手で受け止めたルクレイの非常識さで目を剥いて叫び声を上げた。
「きゃぁー、レイ素敵ー」
ひとりだけ驚きでない称える歓声が岩場に響いた。




