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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第八章 事務連絡と工房巡りは浜焼き前哨戦

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第五節 エビの捕獲は物理で光が溢れてもいつも通り

「うわー、波止場や桟橋と違って岩場って楽しそう。レイ、あちこちに水場がありますよ。生け簀のようなものもありますね」


「ヴィー、足元に気をつけてね。転ぶとかなり痛いと思うよ。ポーションは常備してるけど気を付けてね。危ない場所は抱いて移動するから言ってね」


『お二人は楽しそうに甘い空気を撒き散らしてます。ヴィオナ様はさっそく危なそうな場所をわざわざ探してます。別に危なくなくても言えば良いだけです』


 ユミナは甘い空気に慣れたことで平穏を得た。二人は先に進むが子爵家の侍女と竈の確保で別行動を始めた。ニロンが広めの場所に向かい歩き始めた。


「わー、エビさんがいっぱいいるわ。レイ、たくさんエビを食べれますよ。ここは天国に違いありません。あら? レイ、あれは何でしょうか?」


 ヴィオナが指差すのをルクレイは「どれ?」と覗き込む。


『あれは……タコだな。生け簀に入れてるということは食べる文化があるのか? 後はカニもいるな。これそこで獲ったんだよな……ガザミぽいの美味そう』


「底の方でクネクネしてるやつ?」


 ヴィオナは「それそれ」と笑顔で頷く。


 ルクレイは生け簀の番をしている男の子に聞いてみた。たまに獲れるが買う人はいないと暴露した。子どもが遊んで海に戻すと説明された。


『アルフォンスさんはタコに反応しなかった? 醤油は見たことないし魚醤ぽいのもないな。直ぐに思いつくのは……アヒージョぐらい?』


「気になるなら後で試しても良いかも? カニもいるし魚もいるね。前に漁師ギルドで名付けたコチもいるし持ち込みのホルン肉もある……多すぎかな」


 ルクレイはメニューの品数が多いことに気が付いた。


「捕獲用の漁具の話をしてたけど潜ってるよね……。まだ寒いような気がするんだけど。漁具ぽいのは糸みたいだね。まだ試行錯誤してる段階?」


 ヴィオナが手をかざし「寒そうには見えないわ」と答えた。


 ルクレイが素潜りしている男の子たちに近づき話を聞いた。すると、簡易防寒魔道具を付けていると寒くないと教えてくれた。


「バルモンさんのところで話に出た防寒魔道具か。まさか海に入っても効果があるとは思わなかった……。ヴィーも知らなかったよね?」


 ヴィオナはフルフルと首を振った。


「ナンダル船長に聞いて未装備だったら配らないとダメなやつだった。カンコールさんにも伝えて在庫を整えとかないとだね」


 何箇所か回り話を聞く限りは潜る一択な空気感だった。カニやエビは獲っても次の日にはいるらしくルクレイは生態系の確認をどうするか思案した。


「ねぇレイ。気になったんだけど風壁や水壁を纏って海に入るとどうなるのかな? 浮く? 沈む? 息が苦しくなるのかな?」


「試さないと不明……」


 ルクレイは首を傾げ答えた。色々と試すなら準備も必要だからレベナで試そうとヴィオナと話した。漁師のビットに案内してもらうことで話はまとまった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「おーい! ルクレイ!」


「あっ、メダル船長。思っていたよりも早かったね。獲り方をみてたの。結局は潜って獲ってたからビックリだよ。防寒魔道具は凄いね」


「あー、説明なしで渡してたな」


 メダル船長はラフな装いだが海の男らしくガッチリとしていた。周囲の人たちはルクレイたちがゆっくりできるよう干渉は避けていた。


「ふふ、あれは工房の宝箱に仕舞ってあるよ。釣り針も仕舞っちゃった。そうそう、メダル船長が言ってた『飾り針』は恋愛成就のお守りだったよ?」


「ははは、すまんすまん。その話をリアンにして俺も笑われたよ」


 メダル船長とルクレイは声を出して笑った。


「あの二人はホントに親子みたいね」


 リアン夫人が目を細めてメダル船長とルクレイを見ていた。


「こんにちはリアンさん。気持ちは親子なんです。レイが子どもしてる姿はメダルさんだけです。わたしの家族もレイの家族だけどお父様は義理の父です」


「こんにちはヴィオナちゃん。確かにそうね。メダルもうちの父には緊張感が漂うわ。まぁ、手続きはあくまでも手続きですから関係ないものね」


 ヴィオナとリアン夫人も晩餐で話が合い気安い会話をするようになっていた。連絡船と波止場が遊び場だったリアン夫人も十分に冒険派だった。


「レイ、竈は用意されてるみたいだけど自作体験もできるみたいよ。ふふ、竈を一緒に作って美味しくエビを焼きましょうね」


 ルクレイは「分かった」とヴィオナをエスコートする。場所取りをしているユミナを探してメダル船長たちと海沿いから離れた。


「あそこにナンニがいるわ。ニロンが見えないから寛いでるのかしら。何気にニロンは馬たちのリーダー的存在ですよね」


「まぁ、お祖母様の相棒だからね」


 ユミナたちと合流してルクレイは竈体験の話を聞きに向かった。竈体験では設置場所に制限はなく完成度が高いとそのまま再利用されると説明された。


「竈の持ち帰りも問題ありませんよ。最初に作り始めて持ち帰ったのはアルフォンス様です。婚約者様の記念にと持ち帰りマナーハウスに飾られてるとか」


 竈コーナーの案内人が持ち帰りの説明をしてくれた。


「婚約者が作った竈を持ち帰るのは良いですね。もしかして持ち帰りのお願いとかもできるのですか?」


「街の人で手すきの者がやるので輸送料は掛かりますが可能です。先ほどの話が広がり婚約者の竈を持ち帰る方は結構いてブームになってます」


 案内人は楽しそうに自分も持ち帰ったと惚気た。


 竈用の石は自然石がほぼ枯渇したので産業局が委託して補充されてると話した。持ち帰る場合は粘土質の土で補強する事を勧められた。


 案内人は自前で用意しても良いし自由に楽しんで欲しいと話を締めた。


 ルクレイはひとつ分の竈用石を荷車に乗せて皆がいる場所に戻った。


「ヴィー、一緒に組み上げようね。完成したのは港まで運んでもらって持ち帰ろうよ。離れの傍に設置してたまに外で食事とか良いと思うんだよね」


 ルクレイの言葉にヴィオナはコクコクと頷いた。


『さらっと共同作業と記念の持ち帰りをアピールしてます。そして外で竈を使って食事とかお砂糖不要の空気しか想像できません……』


 ニコニコしながら二人で竈を相談して組み上げていく周囲は激甘空間としか言いようがなかった。手が触れ合う度に聞こえる声は糖分過多で奥歯が疼いた。


 ユミナはそんな二人を見て奥歯の痒みに耐えながら子爵家の侍女をチラ見すると目がキラキラして嬉しそうに見ていた。


『子爵邸で生まれる噂話が楽しみです』


 最近は二人の噂話が多岐にわたり収集しているユミナは噂集を作り始めていた。イゼルダ前伯爵夫人が結構楽しみにしていることを二人は知らなかった。


 二人の竈も完成したので浜焼きの準備に取り掛かった。ダラダラと焼いて食べて休憩して焼いてという流れが浜焼きスタイルとメダル船長が宣言した。


 メダル船長が竈の火を管理することになった。ルクレイとヴィオナが桶を持ち食材調達係となり生け簀に向かって歩いていった。


「エビさんは確保です。食べきれずとも乾燥すれば日持ちします。お祖母様たちの分も確保して確保しますよ。もしかして桶が小さかったでしょうか?」


「大丈夫、ヴィーとユミナが乾燥させてる間に僕が調達するよ。それよりも持ち帰り用の木箱はほとんど持ってきてなかったね」


「ルクレイ殿! 木箱は竈コーナーの先で扱ってます」


 話していると近くの集団から有益な情報を得ることができた。ルクレイはお礼を言って手を振って集団から離れていく。


「ヴィー、さっきのクネクネしてるのどうする? 毒はなさそうだから……食べれると思う。バラしてからどう食べるか考えることになるかな」


 ヴィオナは「んー」と顎に指先を当てて考えた。


「挑戦することに意義があります。ここは挑戦してクネクネの対処方法を考えましょう。良い暇つぶしになります」


 ルクレイは「分かった」と生け簀番の男の子に頼んでエビ多めで桶を満杯にしてもらい皆のところに戻った。


 戻ると作った竈も含めて火が入り準備が整いつつあった。女性陣が持ち込みのホルン肉を切り分けたり加熱魔道具でスープの準備も進んでいた。


 ヴィオナはエビを持って女性陣チームに加わった。メダル船長は竈の火力を調整し始めていた。ルクレイはタコを桶に残し蓋をして再調達に向かった。


 焼き始めるとヴィオナがエビで竈を埋め尽くした。元から三つの竈があり新しい竈にもエビを並べホルン肉や魚を焼くスペースがなくなった。


「きゃぁー、綺麗な色合いで並べたのにー全部赤くなっちゃったー。ねぇ、レイ。これって酷くない? 綺麗な青とかみんな赤なのよ!」


「んー、まぁ仕方ないよ。赤くても並べ方が綺麗だったから可愛く並んでるよ。それより、一気に並べたから食べ頃が一気に押し寄せてくるよ」


 ヴィオナは「そんな……」と目を丸くした。


 ルクレイは苦笑いを浮かべ焼けたエビを取り殻をペリペリと剥がしていった。頭部は皿に並べ殻は桶にポイポイと投げ入れていく。


 ヴィオナが「熱くないの?」と怪訝な顔で覗き込む。


「えっ?……この手袋に魔力流すと熱くないよ。……ヴィーの手袋は魔力を流してなかったような気がする……。しまった忘れてた」


 ルクレイは魔力を流す手順を完全に忘れていた。


「えっとね……『手袋さん魔力をあげます』って考えればヴィーの場合は大丈夫。溢れてる魔力で十分なはずだから。ただ、手袋は見ちゃダメだよ」


 ヴィオナが「見ちゃダメなの?」と首を傾げた。


「流すのが完了した時にめちゃ光って目が痛いの……」


 ヴィオナは「あーなるほど」と揶揄る視線を向けた。


 ヴィオナはルクレイが最初に助けられた時から数回は光で目を焼かれ転がり芸を披露していることを知っていた。想像してニヤニヤと頬が緩んだ。


 ヴィオナのニヤニヤ顔にルクレイが言い訳しようとした瞬間にヴィオナの手袋から光が溢れ出た。周囲が白く光り輝きルクレイたちを見ていた全員の目を焼いた。


「いやー、目が痛いですー」


 ただ一人、ユミナだけが言葉を発した。


 周囲で楽しく観察してた人たちも巻き添えになり目を抑え痛みに耐えていた。


 だいぶ慣れてきたルクレイは目を揉みながら「設計ミスだろ」と呟きエビの殻剥きを再開した。この目が痛いのはどうにもならないと理解していた。


「ちょっとレイ。眩しすぎるわ」


 復活したヴィオナがルクレイに苦情を上げた。


「いやー、小箱から出た手袋だから苦情先がないんだよねー。僕のときは手袋を見てたから世界が白で染まって浄化されるかと思ったよ?」


「小箱さんに苦情を申請する……小箱って亀裂とか洞窟の小箱? ソフィたちが色々と言ってたよね? 情報が多すぎてよく覚えてないけど」


 記憶にないことをヴィオナはしれっと告げた。


「そうそう、その小箱だよ。まだ開けてないのもあるから洞窟で開けてみようね。それより、エビをちょんって触ってごらん」


 ヴィオナは半信半疑で触り「熱くない……」と目を丸くした。


「小箱の手袋はかなり人気らしいよ。魔力を流さなくても手荒れは治るらしいけど魔力を流すと防御力が強くなるらしい……とユリウスさん言ってた」


「そう言えば、ソフィとリサは肘とか膝とかお勧めって言ってた。小箱でそれをお願いするわ。ふふ、洞窟行くのが楽しみ。いつごろいく?」


 ルクレイは「準備がねー」と苦笑いを浮かべた。


 周囲の人たちも復帰したようで浜焼きを再開して今の光の話で盛り上がっていた。――ルクレイは誰もこちらに聞かないのを感心しながら肉を焼き始めた。


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