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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第八章 事務連絡と工房巡りは浜焼き前哨戦

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第四節 色ガラスの準備ができて風壁は魔道具

 ボリアナ製材工房はリューウェンの街並みの中で最上層に工房がある。これは搬入される丸太の置き場と重量を考えた結果である。


 そのためほぼ横の移動で子爵邸マナーハウスに戻れるので昼食に戻る。またもやガゼボに移動してヴィオナは軽く身支度するため本館に入る。


「ニロン、アルフォンスさん達がガゼボを好む理由が分かってきたよ。ニロンたちの手入れをして身支度で本館に入るのが億劫なんだと思う」


 ルクレイはナンニの手入れも済ませガゼボで一息ついていた。湾内を動く船は少なく海から吹く風でさざ波がキラキラと陽の光を反射させていた。


「加えてこうして会話のようなことができるから落ち着くんだろうな。異変対応ってどう考えても過酷だもん。常に落ち着く空間を求めるんだろうな」


 ルクレイは街中をバタバタしただけで落ち着く空間に居たいと思う心の動きを感じていた。このガゼボは心まで寛ぐと海を眺めていた。


 ヴィオナがグレアル子爵とガゼボに入り昼食を一緒に取った。グレアル子爵が北方の丸太が少ない点の改善が難しいとこぼした。


「レオナールさんに頑張ってもらいましょう。送った荷は巻上魔道具を模したものです。実用にはもう少し工夫が必要と感じてるので考えてるとこです」


「ルクレイも動いてたんだったな。大人が弱気を見せていいもんでもなかった」


 グレアル子爵は頭を掻いた。


「いえ、リドルは製糸工房を任されたと胸を張ってましたよ。大人になっても悩むんだという気付きは糧になると僕は思ってます」


「アルフォンスもだがルクレイも考え方が大人寄りというか落ち着きがあるな。いや、これは持ってる特質か……本質を感じ取る感性かもしれんな」


 グレアル子爵は席を立ち領務を再開するため本館に戻った。


「レイがグレアルさんと話してるときの表情はとっても素敵よ。工房主さんとのときは幼い表情が出て可愛いし。メダルさんとは親子みたいで可愛さ爆発ね」


 昼食が終わり再びニロンにお願いして二人で子爵邸マナーハウスを後にした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「すみませーん」


 ナンニル製糸工房に到着しルクレイはいつものように声を掛けた。


「これはルクレイ殿、お久しぶりです」


「ナンニルさん久しぶりー。彼女は婚約者のヴィオナ。今日は撥水糸の話を聞きに来たんだけど時間大丈夫?」


「大丈夫です。教えて頂いたコロコロのおかげで在庫の厄介草は減ってますし人手も余りました。おかげで糸の生産に回せて順調に進んでいます」


 ナンニル工房主はスッキリした笑顔で答えた。


「それは良かった。次の手配をリドルとうちの双子が進めてるから楽しみにしてね。交流も増やして楽しい製糸工房を目指して欲しいかな」


 ナンニル工房主は「すでに楽しいです」と満面の笑みを浮かべた。


「白い粉を回してもらったので試してみたの。中々に手作りは難しかったよ。それでさ撥水糸のレシピってどんな感じになってる?」


「あれを手作りですか! 凄いですな。うちの工房では誰も作れませんでした。白い粉の在庫は多いので全自動製糸魔道具で量を作っています」


 ナンニル工房主は交代制でずっと作っていると白状した。手間は掛からないにも関わらずナンニル製糸工房は交代制の不夜城と化していた。


「撥水糸のレシピは王都から届きました。至急、書き起こしてお渡しします」


 ナンニル工房主は従業員を呼び撥水糸レシピを書き起こすように指示を出した。


「そうすると後はガラスですな」


 ナンニル工房主は顎を触りながら思案顔になった。


「ガラスは原料が送られて来たからリガレアで試作してみたの。キメランさんに見せようかなってこの後に行く予定だよ」


 ナンニル工房主は「先に進めますな」と朗らかに笑った。


 工房を後にしたルクレイとヴィオナはニロンと一緒に乾燥果物を摘みながら街中を楽しそうに歩いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「すみませーん」


 キメラン硝子工房に到着しルクレイはいつものように声を掛けた。


「これはルクレイ殿。先ほど近所の者がルクレイ殿がリューウェンに来てると話題を持ち込みましたぞ。教会前の広場は盛り上がったそうですな」


『ぐはっ……伝達速度が半端ない……』


「いやー、飾り針が可愛かったのでヴィーにプレゼントしたら騒ぎになってビックリしました。あっ、彼女が婚約者のヴィオナです」


「お初にお目にかかります。当工房のキメランと申します。噂はお聞きしてます。以後、お見知りおき頂けると幸いです」


 キメラン工房主はヴィオナに挨拶をした。


「聞いたんですけどガラスの需要が増えて王都にまで送っているとか。なんかカラフェが原因らしいと聞いたのですが大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。王都はまだ大変みたいですが貴族絡みで大変なだけです。うちは皆さん待ってくれますので生産を再開しました」


 キメラン工房主は苦笑いを浮かべた。


「色ガラスのカラフェを作り始めたと聞きました。ちょっと気になったけど中身は見える? 中身が見えないと不安とかありそうな気がする」


「それは考えてませんでした。希望者に聞き取りしてより良い製品を目指します」


 キメラン工房主は笑顔を見せ伝えることを思い出した。


「そうでした。添加物ですが一通り集まりました。帰られるときに持っていってください。添加のレシピと原料も港に運んでおきます」


 ルクレイは原料という言葉で思い出した。


「あっ! 忘れるところでした。リガレアで試しにガラスを作りました。ちょっとトラブルがあり破片の状態ですが見てください」


 ルクレイは荷物からカレットを取り出してキメラン工房主に渡した。破片が出てくるとは思わなかったキメラン工房主は目を丸くしてカレットを見た。


「これは……随分と透明度が高いですな。かなり高温にできる魔導炉を使ってます。この透明度だと正直なところ製品にするのが難しいのです」


 キメラン工房主は透明度を上げるなら高温で溶かすことになると話した。そして高温すぎて型が耐えきれないことが多々発生すると説明した。


「この透明度の破片ですが……溶かして使うと透明度が高い製品になりそうな気がします。破片ではありますがどうやって作りましたか?」


「この破片ですが……ほぼ事故と言ってよい状態でした。鍛冶師が後工程を考えずにかなりの原料を溶かしてました。水魔法のゴリ押しで冷やしました……」


 キメラン工房主は「それは……」と絶句した。


「後工程が決まるまでは溶かすのを禁止しました」


 ルクレイは苦笑いを浮かべ頭を掻いた。


 ルクレイは持ってきた見本のカレットをキメラン工房主に渡して工房を後にした。街中を移動してリベラン魔道具工房に向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「すみませーん」


 リベラン魔道具工房に到着しルクレイはいつものように声を掛けた。


「おぉ、ルクレイ殿。リューウェンに来られてましたか」


「彼女は婚約者のヴィオナ。今日は船舶風壁魔道具の基盤を買い取って欲しくて顔を出したの。あと基盤の設定方法を聞いてなかったから教えてー」


 ルクレイは頬をポリポリと掻く仕草をした。


「おぉ、それは助かります。陸揚げ可能な連絡船が増えてきまして綱渡り状態でした。事実上、陸揚げ可能な隻数と生産数が拮抗してました」


 リベラン工房主は誰かが海に落ちたら穴が開くとガハハと笑いながら話した。


『ここも不夜城になりそうだよね……。工業化が進むとは思えないからなぁ。魔道具師が増えないことには解消しない脆弱点だよな』


「船舶風壁魔道具は二個で貰った外装に入れあるよ。収まりも見て欲しいかな。リガレアの木工工房に外装はお願いしてるから完成したら持ってくるね」


 リベラン工房主は「助かります」と答えた。


 リベラン工房主が確認するタイミングで設定に関する説明を受けた。船舶風壁魔道具は船尾と船底を別物として扱う形で基盤に二つの陣図が描かれていた。


「設定は船尾と船底で別の指定方法になってます」


 船尾は基準点を魔道具からの相対位置で大まかな形状と大きさが指定されていた。風壁が後方側に影響する形の展開となりはみ出しは許容とされていた。


「多少はみ出していても良いという緩さがアルフォンス殿の癖ですな。実際にはみ出していてもほとんど影響がありませんでした」


 リベラン工房主はアルフォンスの緩さは勉強になったと告白した。厳密にするほど陣式が複雑で大きくなる点を緩さでバランスを整えていると話した。


『緩さと表現してるけど合理的とも言えるな。つまりアルフォンスさんは厳密に言うと職人ではないってことになる。DIYのやっつけ系ということだ』


 ルクレイの前世の記憶はソロセイラーである。ヨットはハマるほどにDIYになりやっつけになる。やっつけにならないと乗り続けられない世界であった。


『ドキドキするけど船体にドリルで穴を開けられる時点で色々とおかしい。まぁ、アルフォンスさんがどの位置かは分からないけど……やっつけ系だろうな』


 船底の基準点は驚くことに竜骨との話だった。リベラン工房主も構造材が指定されているとは考えなかったと首を振った。


「指定できることをこの基盤で知りましたぞ。とても応用範囲が広く難解な方法です……。これは竜骨に風壁が掛からないための方便と言ってました」


『目的のために視点を変える柔軟性なのか? たぶん少し違いそうな気がする。オランド号のジブステイにビットを選んだのは単に目に付いたからだろう』


 ルクレイは設定のメモを書きながら考えていた。


『基準点を探してるときに竜骨に気が付いた。そして点に拘る必要性が欠片もなかった気がする。成功体験に引きずられない……色々やらかすはずだ……』


 ルクレイなりのアルフォンスの評価が決まった。


「設定に関しては分かった! 船底は大きさだけを調整する感じだよね。船尾は基準点の調整って感じになるよね。この調整ってどうやるの?」


 最後の課題である調整の話を持ち出した。


「普通は陣式を削り取って描き直しです。アルフォンス殿は固まった溶剤を溶かし書き換え固めてます。正直なところ意味が分かりません」


『溶剤は魔力を通すと固まる。あれは鉱物を溶かして作ってるから土属性が関わってそうだな。後で魔力くんと相談しよう』


「ところでアルフォンスさんは目視なしで調整してますよね? それって他にできる人はいないのですか? 技術的な話ならできそうですけど……」


「アルフォンス殿は魔力を流して構造を把握してるそうです。こちらもまったく理解不能で意味が分からない感じですな」


『魔力を流す?……非破壊検査みたいな感じか。あれか……風属性の探知のように情報を戻すようにしてるのかもしれない。……これも魔力くんと相談だな』


「たぶん技術的なんだろうけど難しい感じなんだね」


 ルクレイは船舶風壁魔道具の設定に関するメモをリベラン工房主に見せた。間違いがあるとリューウェンまで来る必要があるので念には念を入れた。


「これは分かりやすいですな!……写させてもらっていいですかな?」


 ルクレイは「良いよ」と軽く答えた。


 一区切りついたのでヴィオナを見るとニコニコとルクレイを見ていた。区切りに気が付いたヴィオナはトコトコと近寄り隣に腰掛けた。


「あのね、冒険に役立ちそうな魔道具ってリベランさんに聞いてみない?」


 ルクレイは「そうだった」とうなずく。


「確かに一般的に必要なものとかあるかも。……リベランさん、僕たち洞窟に行く予定なんだけど持っていた方が良い魔道具ってありますか?」


 船舶風壁魔道具を確認していたリベラン工房主は目を丸くして振り向いた。


「洞窟に行くのですか? 確かに近くにありますが危なくないですか?」


「行くのは別の洞窟ですけど大丈夫ですよ。ソフィア王女もヴィーに勧めてましたから。実力的に無理なら止めるでしょう」


 ルクレイはリベラン工房主の懸念を打ち消した。


「そうですか。洞窟は中が広いようで野営が必須と聞いてます。ですので加熱や給水魔道具ですな。後は休憩するのに風壁魔道具でしょうか」


「通常の風壁魔道具があるのですか?」


 ルクレイは船舶用以外が存在することに驚いた。


「あー、ソフィとリサが風壁は必須でわたしが覚えるかレイが作るかって話してたよ。風壁は覚えて使えるけどレイの魔道具に護られるのが良いな〜」


 ヴィオナが頬を染めてルクレイに伝えるとルクレイは「作る!」と即答した。


「風壁魔道具は洞窟や亀裂で活動する方に渡してますな。リューウェンの洞窟なら予備がありますが別だとないので後で渡しましょう」


 リベラン工房主は渡す形で話を決めた。


「設定はメモを参考に作ってみます。用意ができたらリガレアに送ります」


 ルクレイはリベラン工房主に頷いた。


「そう言えば、吹き飛ぶ魔道具ってどうなりました?」


 ルクレイは忘れられていた魔道具を思い出した。


「あー、頑強吹飛魔道具でしたか。試しては見ましたが本当に吹き飛びました。念のため崖に向かって起動したら……崖にめり込みました」


 ルクレイは「それは……」と驚きヴィオナは目を丸くした。


「確認したところ風魔法の突風をそのまま陣式にしてました。かなり強い魔法のままで小さな箱ですから当たったら痛いでは済まない威力ですな」


「突風は設定値を指定できないのですか?」


 ルクレイは疑問に思いリベラン工房主に尋ねた。


「いやいや、設定ありきが本来の陣式です。弱めて連続で発動するようにして送風魔道具などにしますぞ。あそこまで割り切った陣図は久しぶりに見ました」


 リベラン工房主はガハハと笑い声を上げた。


「突風も設定メモにして送りますので楽しんでください」


 ルクレイはリベラン工房主の気遣いにお礼を言った。


 工房を後にしたルクレイとヴィオナはニロンに騎乗して子爵邸マナーハウスに向かい坂をゆっくりと上がっていた。


「やっぱり回りすぎたね。そろそろ夕方って時間になっちゃった。戻ったらゆっくりしようね」


 ルクレイは前席に座るヴィオナに労いの言葉を伝えた。


「でも、これで逆に明日は午前中から海岸に行けますよ。メダルさんに午前中から岩場で遊んでると連絡を入れておけば良くありません?」


 ルクレイは「そうしよう!」と声に張りが戻った。


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