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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第八章 事務連絡と工房巡りは浜焼き前哨戦

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第三節 楽しい買い物が英雄になり工房巡りに戻る

 漁師ギルドを後にしたルクレイはヴィオナに買い物を先に済ませる提案をした。


「あら、ギルドの人と漁師さんたちと話して疲れてしまいましたか?」


 ヴィオナは楽しそうに目を細めルクレイを揶揄り始めた。


「まぁ、そんな感じかな。普通に殿なのは落ち着くんだけど……ちょっとね」


 ヴィオナはくすくすと笑いながら頷いた。


 街中をゆっくりと進んでいく。あちこちで声を掛けられながら教会近くの広場にある以前カラフェを購入したガラスを扱う商会に向かった。


 商会に入ると沢山のガラス製品が並べられていた。壊れ物なので手に取れる店作りではないが商会主がルクレイに気が付きササッと近寄ってきた。


「これはルクレイ殿、当店にお立ち寄り頂き感謝します。先日購入されましたカラフェの件が広まり購入者が押しかけてしばらくは大商いになりました」


『いきなり暴露大会が始まった……。何気に商いに関しては情報をポンポンと出してくるよね。まぁ、大商いになったのは良かったということだよな……』


「もしかしてカラフェは待ちが出てます?」


「あーはい。王都にも話が流れたようで……あちらもカラフェが品薄状態です。冷却保管箱も増産が追いつかない状態と聞いています……」


『ちょっ、何その需要爆発……。えっ? もしかして俺が原因なの?……それってどっちの二つ名? 愛し子でカラフェに幸運を期待とかないよね?』


「キメラン硝子工房もガラスを増産して王都に送っているようです。色ガラスのカラフェも出し始めてましたが身動きがとれないと泣きつかれました」


 店主は楽しそうにガハハと笑い出した。


『そこ笑うとこ?……なんであちこちストロングスタイルなんだよ。添加物が送られてこなかった理由はたぶんこれだ。余力がなくなったんだ……』


「レイがプレゼントしてくれたカラフェはとっても素敵よ。あれは売れて当然の品です。部屋に飾って見ると心がとても温かくなる幸せの塊だよ?」


 ヴィオナがカラフェの話をしていると思えない感想をぶつけてきた。後ろに立つユミナが目に手を当てて首をフルフルと振っていた。


 店主が「こちらの方は?」と小さい声で聞いてきた。


「紹介が遅れました。僕の婚約者でヴィオナです。隣のメルカド家の令嬢です。カラフェを飾ってたので普段使い用のカラフェを買いに来たけど……」


 ルクレイは無い袖は振れないし振らせたくないと諦めた。


「品薄では仕方がないですね。普段から一緒に行動してるので僕のカラフェで何とかなります。それよりキメランさんのとこにも顔を出してみます」


 その後はガラス製品を見てグラスを家族にと予備を加えてかなりの個数を買い込んだ。梱包したものは港への搬送をお願いして商会を後にした。


 広場に戻り賑わっている雑貨屋に向かう。髪留めなどが有名な雑貨屋と子爵家の侍女から入手しヴィオナの髪留めを求めてやってきた。


 お店の中は落ち着いた区画とキラキラ区画に分かれていた。ルクレイは最初に落ち着いた区画にヴィオナをエスコートした。


『あー、店内の空気が変わった。凄く注目度が上がってる……。これって、ヴィーに選んだものが需要爆発とかないよね?……ないと良いんだけど……』


 いくつか似合いそうな髪留めを当ててユミナの意見を聞いていく。超可愛い系のヴィオナでも落ち着きのある髪留めはとても似合いキープが増えていく。


 キラキラ区画に移動するとヴィオナの空気が変わった。好みとしてはこっちと知っていたのでルクレイは似合う髪留めを探しユミナと相談する。


 すでにキープした髪留めは十個を超えていた。


「どれも似合う……選ぶのは諦めてユミナに着ける髪留めを日々選んでもらった方が良いな。ということでキープした髪留めはすべて購入します」


 ユミナは悟った顔で頷き会計を済ませた。


 雑貨屋の店員に『飾り針』について尋ねると広場の露店が有名と教えてくれた。広場では注目度がかなり高くなっていたが目当ての露店に向かった。


 露店に着くとヴィオナからキラキラした空気が吹き出した。確かに『飾り針』はカラフルで可愛い物が大量に並べられていた。


『これは釣り針云々を置くとして……集めたくなる感じの商品だな。ヴィオナの空気は全種類を集めたい感じだよな。木箱に入れて展示したら相当映える』


 ルクレイは露店の店主に全種類を揃えて子爵邸マナーハウスに届けて欲しいと頼んだ。可能であれば木箱に敷布を入れて並べて欲しい旨も伝えた。


 ルクレイは『飾り針』をいくつか見てみた。


『返しがある針とない針が混在してるのか。材質は鋼?と……それ疑問形いるか? 軸の長さや大きさも違うものが混ざってる。不思議な商品だな』


「つかぬことを聞くけど針ってどこで作ってるの?」


「うちの針はゼルトラ鍛冶工房さんとこにお願いしてるよ。綺麗な針だろ? リューウェンでも筆頭の鍛冶工房だからね。成就したって声も多いよ」


 ルクレイは「成就?」と首を傾げた。


「ありゃ、知ってて全種類頼んだかと思ってたよ。さすが『露店広場の英雄』様だなって。この『飾り針』は恋愛成就のお守りだよ?」


『ちょっ、ここでその二つ名が来るの?……まて、広場の露店で飾り針を全種類買ってヴィーにプレゼントって……さっきのどよめきはそれかっ!』


「レイったら。最初から成就してるんだよ? でも全種類なんてとっても嬉しい。ふふ、お姉さん、わたしたち婚約してるし婚姻も決まってるよ」


 ヴィオナが逃げ場のないタイミングで暴露し広場が爆発的に騒がしくなった。


『ヤベェ、周囲には聞き耳しかいなかった件……』


 周囲から「おめでとう」の嵐が吹き荒れていた。ニコニコとお礼を言い手を振るヴィオナと口に手を当て肩が震えているユミナをルクレイがチラ見する。


 ルクレイは「工房に行きますのでー」と近づいてきたニロンにヴィオナを乗せて広場から出る。ユミナもナンニに騎乗して広場を後にする。


 ルクレイはゆっくりと強い意志で教えてもらったゼルトラ鍛冶工房を目指した。


「すみませーん」


 ルクレイが工房の中で呼び掛けるとドワーフ族の男性が手を拭き顔を出した。


「おぉ、これはルクレイ殿! このような場所に来て頂けるとは感謝に堪えません。工房をしてるゼルトラと申します」


『初めてきた工房でもこれか……俺ってどんだけ人物特定しやすいんだろ……』


「ルクレイです。彼女は婚約者のヴィオナ。実は広場の露店で売ってる『飾り針』で聞きたいことがあって来たの。時間あります?」


「もちろん時間は腐るほどありますぞ。何せドワーフ族ですからな!」


 ゼルトラ工房主はガハハと笑った。


『種族ジョークなのか判断できない……。いや、カンコールさんたちは言わなかったからゼルトラさんの持ちネタということにしておこう……』


「この針だけど……棘があるのとないのは理由とかあるの?」


「あー、棘みたいなのがある方が元のやつです。話によると、アルフォンス殿が針を作って婚約者の方々が刺繍糸を結んだそうです」


『この飾り針はアルフォンスさんたちのやらかし!』


「流れてきた時期を考えると恋愛成就というのは微妙な気もしますが楽しそうなので良いと思いますな。ただ、外れにくいと棘のないものも出たわけです」


 そっとゼルトラ工房主は顔を近づけ囁いた。


「ここだけの話、絶対に逃がしたくない人は棘付きを選ぶとか……」


 ルクレイとヴィオナは微妙な表情になった。


「この棘付きってどうやって作ってるんですか?」


「最初は手作りでしたが需要に追いつかず鋳造でやってますぞ。小さいので型を作るのが大変でしたが何とか間に合わせてますわ」


 ルクレイは鋳造と聞いて耐久性を確認した。


「これを本来の釣りに使いたいのですが鋳造で大丈夫だと思いますか?」


「それは大丈夫ですな。しかし釣りですか……確かに逃がしにくい構造……というか元から釣り針でしたな」


 ゼルトラ工房主は針を見てガハハと笑って誤魔化した。


「この棘で釣りやすいかもとゼルトラさんから漁師ギルドに声を掛けてみてください。僕が絡むとちょっと話が変な方に転がりそうなので」


 ゼルトラ工房主は「了解しました」と苦笑を浮かべた。


「あと、これをリガレアかレベナで作りたいのですが型の提供って可能ですか?」


「ん?……釣りで使うならそれがいいですな。今はレベナの漁師たちもこっちで買ってると漁師ギルドに聞いてましたわ。そりゃ不便すぎるってもんだ」


 ゼルトラ工房主は型ができたらリガレアに送ると約束した。運ぶのは連絡船が出てるのでノルド家に声を掛けるように伝えて工房を後にした。


「すみませーん」


 ルクレイはレブコン製布工房に到着し工房内に入り声を掛けた。


「これはこれはルクレイ殿! お久しぶりです」


 工房で作業していたレブコン工房主は糸くずを払い挨拶を交わした。


「久しぶりです。彼女は婚約者のヴィオナ。今日は帆布が欲しくて来たんだ。って、小物が売られてる! レブコンさんどうしたの?」


 ルクレイは製布工房内に小物コーナーが作られているのを見て驚いた。帆布を使った色とりどりの小物が並べられていた。


「いやー、王都のリンドラから勧められて始めてみました。女性陣が楽しそうに作ってますぞ。なんでも、アルフォンス殿に『小さいシリーズ』を聞いたとか」


「あっ、それソフィとリサに聞いた。王都に『小さいシリーズ』を扱う商会があるんだって。レイ、次に王都へ行ったときに連れてって〜」


 ヴィオナがお強請りしたのでルクレイは連れて行くと約束した。


「ヴィーは欲しい小物があるかチェックして。僕は帆布の相談をしてるよ。そう言えば、ヴィーは帆布を使う? 他にも布はあるけど」


 ヴィオナは「んー」と考えたが今は不要と断った。


「帆布が欲しいんだけど染めたものって大丈夫かな?」


 ルクレイはこれを機に個人色で試しに染めた帆布が作れそうか尋ねてみた。


「色染めすると防水が弱くなりますが大丈夫ですか? 撥水糸の帆布は試作段階でまだ量が取れません」


「実物を見たいからお願い。淡い藍色と濃い青色の二色で連絡船の帆ぐらいで二枚ほど欲しい。連絡船はたしか四枚だよね? 四枚単位ならそれでも良いよ」


 レブコン工房主は「分かりました」と答えメモした。


「あと、防水してる連絡船用の帆布も四枚ほど欲しいんだ。どれくらいで納品できる? レベナまではノルド家の連絡船が出てるから話を通しとくよ」


 レブコン工房主が顎に手を当て納期を計算した。


「白い帆布は直ぐに出せます。こちらは港に届けておきます。色染めは一週間程度でしょうか。色味を優先する場合は自然乾燥させますので」


 ルクレイは了承して料金を前払いで渡した。


『船舶風壁の基盤のおかげで買い物が気にせずできるのはやっぱり助かる。何と言ってもヴィーにプレゼントできるのは大きいよね』


 ルクレイはヴィオナと合流して小物を物色した。ヴィオナは小物入れや敷布を沢山選んでいた。お揃いの敷布と防水の小物入れをルクレイは選んだ。


「すみませーん」


 ルクレイはボリアナ製材工房に移動して工房内に声を掛けた。


「はーい……ルクレイ様ではありませんか? お越し頂き光栄に思います」


 奥から出てきた女性が深々と頭を下げた。


「ルクレイです。彼女は婚約者のヴィオナ。言葉はいつも通りでね。今日はちょっと木材の追加乾燥の話が聞きたくて来たけど忙しいかな?」


 ルクレイはササッと本題に逸らして尋ねた。


「旦那はいつでも暇してます! ルクレイ様のためなら十日でも大丈夫です!」


「あっ、そこまでは……。追加乾燥のやり方と考え方を聞きたいだけです。現場を少し見て話を聞ければそれほど時間は……掛からないと思います」


 ルクレイは時短の方向に舵を切った。そして奥さんに追加乾燥している作業場まで連れて行ってもらう。


 ボリアナ工房主が駆けてきてルクレイと挨拶を交わす。少し前まで閉鎖となっていたので最大生産を続けていると忙しそうにしていた。


 ルクレイは搬入直後の丸太と自然乾燥が終わった丸太を一本ずつ都合して欲しいと頼んだ。ボリアナ工房主は首を傾げたが了承した。


 丸太は港のノルド家専用区画に運ぶよう頼んだ。追加乾燥の説明は詳しい作業員を紹介してもらいボリアナ工房主とは別れた。


 作業員の説明では窯のような空間に丸太を詰め込むこと。加熱した空気を乾燥室に送り込むことで丸太を加熱して乾燥させると釜を前に話した。


「この辺りの木は五日ほどです。予備加熱が一日、本加熱が三日、熱抜きに一日って感じです。窯は五つで毎日十本ほど作れます」


 作業員によると一本は四十単位が目安というので大きさを見せてもらうと4m程度だった。注文があれば最大百単位までなら窯に入ると説明された。


『なるほどねぇ。4mの板が多かった理由は追加乾燥時のサイズから来てるのか。ただ、すべて追加乾燥してるみたいだけど用途は製材工房の考慮外なのか』


 ルクレイは追加乾燥は好ましいが薪の消費量が多い点が気になった。森林管理に問題は出ているが木材にする工程で使う薪もまた森林資源と考えていた。


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