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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第七章 DIYは工具が命でガラスの溶かしすぎ注意

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閑話 ルクレイ不在でもメルカド領の工房主は忙しい

 執事長の過酷なダンス教室を終えたマルセリオとフィリクスはアユナと騎士を伴ってブカゾール鍛冶工房を訪れていた。


「「たのもー」」「滑車が」「欲しい」


「これはマルセリオ様とフィリクス様ではありませんか。鍛冶工房は危険な場所ですぞ。お付きの方々、目を離さぬようお願いします」


 ブカゾール工房主は挨拶と注意を伝えた。


「それで……滑車ですか? 滑車は木工工房が手掛けてますぞ」


「「ルクにぃが」」「鉄製の滑車」「頼んでるはず!」


 マルセリオがアユナに視線を投げる。


「ブカゾール工房主様、こちらがルクレイ様が作られた滑車です。これと同じ鉄製の滑車が欲しいとのことです。鉄で作ることは可能でしょうか?」


 アユナがテーブルに置いたのはルクレイが双子たちに滑車の説明で使った六連装の滑車ブロックであった。


「はぁ?……なんで六個もくっつけたんだ? いやしかし綺麗に並べて作ってあるな。……これはひとつずつ軸をずらしてあるのか……」


 ブカゾール工房主は軸をずらしている意味は分からなかった。ただ、構造的に面白そうだったので双子の依頼を受けることにした。


「すみませーん」


「おぅ、……って製材のとこの坊主か。何か壊れたか?」


 ゴリゾン製材工房の三男が訪ねてきた。


「いや……実はガラスを作るって聞いて……やりたいなって思ったのですが……ダメですかね?」


「ダメはねえが……ゴリゾンに話したのか?」


 ブカゾール工房主は眉を寄せた。


「親父に啖呵を切って門前払いだと……悲しいのでまずは話を聞きに……」


「それもそうか。もう言ったがダメはねえぞ。ワシはガラスより金属が好きだからな。ガラスも工房を構える時には魔導炉を入れるからうちはそれまでの繋ぎだ」


「良いんですね! 親父に話してきます!」


 三男の少年は踵を返してすごい勢いで工房を後にした。


「まぁ、三男だからダメはないだろ。ひとまず人手が増えるのは良いことだ」


 ブカゾールは腕を組んでうんうんと一人頷いていた。


「「ガラス志望」」「しかと」「聞き届けー」


 双子は「「また来るねー」」と工房を後にした


「「たのもー」」「暇だから」「様子を見に来たー」


 リゾリカ木工工房に暇な勇者が現れた。ダンス教室は厳しかったがルクレイとリドルがいないため教師役が不在で工房巡りになっていた。


「これはマルセリオ様とフィリクス様。どうされましたか? ルクレイ殿に頼まれた馬車の設計は順調といえば順調ですよ。馭者席は揉めてますがな」


 リゾリカ工房主はルクレイから希望が出ていない馭者席だけが揉めていると暴露した。希望がなかったことから好き勝手な案が噴出し揉めていた。


「「ルクにぃ」」「馬車の設計」「頼んでたの?」


「厳密に言うと構造の相談を受けただけですが中々に面白いので設計をさせてもらってます。客室を南方木材にするのでゴリゾンに声を掛けてますな」


「「ルクにぃの馬車は」」「離れで」「バラバラ」


「あー、はい見ました。作業が早いですな。綺麗に解体されてました。客室の長さを変える採寸などでお邪魔させて頂いてます」


「ん?……客室伸ばすの?」


 マルセリオは言葉に疑問を持ちリゾリカ工房主に尋ねた。


「ルクレイ殿は座席以外にも考えているようで少し広くするそうです」


「「なるほどー」」


「そう言えば、木材の調達でゴリゾンと話しましたが大きな板をルクレイ殿が探していたそうです。大きさを聞きましたが大きかったですな」


「「大きな板?」」


「繋がないと無理な大きさでしたから板の繋ぎ方を弟子が教えにいってますな」


「「製材工房に行ってみるー」」


 双子は声を上げると手を振りながら工房を駆け出した。


「「たのもー」」「とっても大きい板」「検分にきたぞー」


 ゴリゾン製材工房に可愛い勇者たちの声が響いた。


「これはマルセリオ様とフィリクス様ではありませんか。お付きの方は……おりますね。本日は……大きな板でしょうか? ルクレイ様がご希望された?」


 出てきたのは奥さんだった。


「「それそれ」」「ルクにぃ」「頼んだ?」


「どうなんでしょうか。旦那は木の太さより幅があるからとリゾリカさんに相談してましたよ。お弟子さんが来て旦那と何かしてますが……何してるんだか」


 工房主の奥さんは「楽しそうでなによりさね」とケラケラ笑った。


 双子は奥さんに案内されて乾燥作業場に連れて行かれた。そこにゴリゾン工房主と数人の男性が厚い板を削ったりしながら作業していた。


「これはマルセリオ様とフィリクス様ではありませんか。今日はリドル様はご一緒ではないのですね。何か御用がありましたでしょうか?」


 ゴリゾン工房主は挨拶をして用事を伺った。


「「大きな板を作ってると聞いたー」」


「ルクレイ殿に聞きましたか? 前に来て頂いたときに質問されました。欲しいという話でしたのでリゾリカに手伝ってもらって作ってみてます」


「「大きいの?」」


「この板ですが大きいです。かなり重くて正直なところ一人では持てません。しかし、ルクレイ殿が欲しいのであれば頑張って用意いたします」


 ゴリゾン工房主はガハハと笑いながら胸を叩いた。


「馬車も修理されるとリゾリカから聞いております。こちらも準備を進めてます」


 ルクレイは冒険デートの準備を進める前段階として情報を収集していた。しかし、すでにc。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 双子と別行動を取っているリドルはレベナの町中を相棒のヘラムに騎乗して移動していた。騎乗鍛錬を兼ねて工房を見に来ていた。


 イゴルト製糸工房に顔を出すとイゴルト工房主に相談を持ちかけられた。


「ルクレイ殿に染めたい色があるので染料を教えて欲しいと尋ねられました。現在、うちの工房に色染めできる者がいないため答えられず……」


 恐縮しきりのイゴルト工房主が答えた。


「そこは気にしなくて大丈夫。でも、色染めはできた方が商品価値が上がるよね?……レベナに色染めしたことがある人がいるのでは? 確認してみよう」


 リドルはレベナで色染めの経験者を探すことにした。


 レベナの広場にイゴルト工房主とリドルは向かった。リドルは『愛し子』の件で町中の情報伝達速度がかなり速いことに気が付いていた。


『リューウェンもだけどルクにぃの殿呼びは凄い勢いで広がった。そもそもルクにぃと街中で認識されまくっていたのも凄かった……』


 リドルはある意味で情報伝達の速度に慄いていた。迂闊なことをするとあっという間に広がると知ったことで口を滑らせないよう更に注意するようになった。


 広場でリドルとイゴルト工房主が手分けして色染め経験者を知らないかと聞いて回った。勿論、二人はルクレイが色染めしたいらしいと情報に混ぜた。


『ルクにぃの宣伝効果は絶大……っぽいから情報を出したけど……話し掛けた人が既に色染めの人を探していることを知ってるんだよな……怖いって』


 情報の流れは確認できていないが確実にリドルの想定より早く広まっていた。


 イゴルト工房主と情報の流れを確認して二人は工房へと戻った。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「淡い藍色と濃い青色って話だよ! 藍色はこの辺りだと貝殻を使うから拾っといで! 青は鉱石だったはずだからちょっと難しいかもしれないねぇ」


 イゴルト製糸工房から流れてくる会話と空気は染色工房になっていた。


 数人の女性が工房内のテーブルを囲んで染料を作る作業の割り当てを行っていた。イゴルト工房主とリドルは唖然と工房の入口で固まっていた。


 色染めをイゴルト工房主に任せたリドルは工房を後にした。町中をヘラムと一緒に歩き起きたことを語りながらフラフラと代官屋敷に向かった。


 代官屋敷には厨房の傍に屋根の付いた作業場が作られていた。


「これはリドル様! 今度は色染めを始めると聞きました。いやー、レベナも色々と活気が出てきましたな。魚粉もやってみたいという若者がいました!」


『情報が速い速いよ。なんで代官屋敷で作業してるビットまで知ってるの!』


「いやー、手伝いに来てくれてた嫁さんが色染めと聞いてすっ飛んで行ってしまいました。嫁に来る前は王都にある色染めの工房にいましたからな」


 ビットはガハハと笑いながらサバの下拵えを続けた。


『えっ? てことは工房にビットの奥さん居たのか?……あのパワフルな女性……だろうな。染料の材料とか指示出してたし』


「即席魚粉はどんな感じ? サバが獲れ難くなってるんでしょ? ルクにぃが何とかしてくれるとは思うんだけど……湾が小さいのも理由のひとつ?」


「湾が小さいと言っても漁場としては十分だと思います。ルクレイ殿が河川船と驚いていた理由を考えてましたが湾のほんの一部でしか漁をしてませんでした」


 気にしてなかったリドルは「そうなの?」と驚いた。


「河川船で潮に流されたら戻れません。流されない場所だけで漁をしていては先細りしかありません。櫂船を頼もうと思っているところです」


「櫂船に関してはルクにぃが戻ってから相談だよ」


 ビットは「分かりました」と笑顔で頷いた。


 ビットたちや侍女たちを集めて昼食を取った。レベナはかなり盛り上がり町全体が活動的になっていると侍女たちも声を揃えた。


「先代様が亡くなってレベナの住民は気落ちしました。常に気にかけてくださる素晴らしい方でした。突然の訃報で当代様も大変だったと思います」


 ベリオナル前伯爵はレベナを良くしようと尽力してくれていた。


「ルクレイ殿は先代様の意志を継いでくださると話されました。もうその気持だけで本当に嬉しいんです。まさに海から来た愛し子様です」


『止まっていたメルカド伯爵家の時間が動き始めた感じだもんな。リオやリク、そしてヴィオナ嬢も行動的だけどルクにぃが中核なのは間違いない』


 代官の話を聞きながらリドルは少し違うことを考えていた。


『そしてノルド家もアル兄さんと違う形でルクにぃの影響を受け始めてる。王国が揺らいでるこの時期に出てきた二人は愛し子といっても言い過ぎではないよね』


 冒険デートのために邁進しようとしているルクレイ。しかし、周囲は連鎖反応を起こしてルクレイの知らない場所で勝手に動き出していた。


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