第七節 グレアル子爵と再会して涼風の旋律と会った
ノルド子爵領の領都にある子爵邸の門にルクレイが現れた。門兵はルクレイの訪問を歓迎し先触れを出し入門を許可した。
『相変わらず待遇がVIPぽくて落ち着かない件』
グレアル子爵に伝える必要があるので本館に向かって歩いていく。門から先触れを出されてしまった事で駆け抜けるという選択肢が封じられてしまった。
玄関先には執事が待っていてラウンジに案内された。待つほどの時間もなく扉がノックされグレアル子爵が入室してきた。
「おぅ、久しぶりだな。ルクレイだけ一人でこっちに来たのか?」
「お久しぶりです。今回はメルカド伯爵家のヴィオナ嬢と来てます。リドルは製糸工房の詰めがあるのでメルカド領に残りました」
「話は聞いてる。工房主たちの評価が高くて親として誇らしい。ルクレイに感謝だが報告を聞く限りメルカド伯爵家の双子が大きく関わってるみたいだな」
「ですね。兄弟分ができて同じ目標で動けているというのが双方に良い影響を生み出してます。三人で考え行動して結果を残すのは大きなプラスです」
ルクレイは嬉しそうに考えを話した。
「話は変わりますが冒険者パーティー『涼風の旋律』が港に着いていました。港で合流して今はヴィオナ嬢と一緒にここへ向かっています」
「おっと、その連絡は助かる。パーティー全員が来てた感じか?」
「正確な構成は知りませんが女性五名でした。子どもが男の子二名、女の子一名。双子ぐらいの子は肩車されてましたがカノンさんの息子は体調不良です」
「ん、フェリの情報通りだな。カノンの息子は魔力障害らしいが回復中と聞いてる。その構成で客間を用意しよう。後はヴィオナ嬢と侍女だな?」
ルクレイはグレアル子爵に頷きで答えた。
ルクレイはガゼボの使用許可を取ったのでガゼボに移動した。迎えに行こうかと思ったが憧れの冒険者パーティーと話す機会に介入は無粋と判断した。
「日はもう落ちるか。街中に広がっていく灯りが幻想的だよな。もうヴィーは到着する頃だし門まで迎えに行くか」
ルクレイは席を立ち門に向かって駆け出した。
門に到着するとティアーヌが門兵と話していた。ルクレイが声を掛けグレアル子爵が受け入れ準備を進めているから通すように話した。
「ルクレイくんはノルド家に顔が効くのね」
ティアーヌが不思議そうな顔でルクレイを見た。
ルクレイは「ちょっとばかり」と苦笑いを浮かべた。
「ティア、貴方は相変わらずボケるときはボケますね。ルクレイくんとヴィオナ様の容姿で答えは出てますよ?」
女の子を肩車している女性がティアーヌに突っ込みを入れた。
「えー、ルナは分かったの?」
「もう玄関に着いたわ。執事さんが困っていますよ。ティアーヌが挨拶して入れてもらいましょう」
ルクレイはニロンからクラムを降ろしカノンに渡した。そして断りを入れてヴィオナを乗せたニロンを連れてガゼボに向かった。
「勝手に入って良いの?」
ガゼボに着きヴィオナをそっと降ろしガゼボに誘導して座らせた。
「使用許可は取ってあるから大丈夫だよ。本当は日が沈む時に見せたかったけど街を見てごらん」
促されたヴィオナがリューウェンの街を見下ろして息を呑んだ。月に照らされた海原と斜面に建てられ灯りが瞬く建物たちは幻想的だった。
景色に見惚れているヴィオナに見惚れながらルクレイはニロンの寛ぎ空間を設置して軽く手入れを行った。ニロンに感謝の果物を渡す。
「幻想的で素敵な街ね。リガレアやレベナでは望めない景色だわ。湾がとても大きい。海の民が住み着いたのは当然と納得する景色ね」
ヴィオナに淹れた紅茶をそっと渡したルクレイは隣に座った。
「心が揺さぶられる景色だと思う。リューウェンで一番の場所はここだと思うな。夕陽の景色は明日のお楽しみだね。朝陽も見ないとだから寝坊厳禁ね」
ルクレイはヴィオナの手にそっと手を添えた。
「おぅ、待たせて悪かった」
少しするとグレアル子爵が本館から訪れて声を掛けた。
ルクレイとヴィオナは席を立ちヴィオナは腰を下げカーテシーの体勢を取った。
「メルカド伯爵家長女のヴィオナと申します。お隣にも関わらず挨拶が遅れたこと誠にすみませんでした」
「ノルド家当主のグレアルだ楽にしてくれ」
グレアル子爵もテーブルを囲みルクレイが真っ先に話し出す。
「僕とヴィーは婚約しました。以前は決まる前なので言葉を濁しました。これからもお隣ですし色々とお手数掛けますがお願いします」
ルクレイの言いようにグレアル子爵は笑い出した。
「ヤベェ、ルクレイがお願いを確定事項で伝えてきた。事前通告するだけアルフォンスよりマシだが……クックック……面白すぎだ」
グレアル子爵は笑いを止めて「すまん」と謝った。
「二人とも婚約おめでとう。前に来たときリドルがやらかして二人のことは薄々気が付いてた。貴族として言葉にはできないがな」
リドルが二人の婚約をグレアル子爵に伝えなかった点は判断が難しかった。ルクレイは慎重な態度で評価すべきとグレアル子爵に伝えた。
「先ほど玄関でティアーヌさんにメンバーが話を通せ的に言ってました。冒険者パーティーが普通にマナーハウスに来るのも気になったんですけど?」
ルクレイは話を変えて気になった事を尋ねた。
「ん?……あぁ、ルクレイは知らないか。ティアーヌはアルフォンスの母親だ。リサリアと婚姻するから親戚だな。王都では会ってたが来るのは初めてだ」
ルクレイは「はっ?」と呆けた顔になった。
ギギッと音がしそうな感じでルクレイはヴィオナを見た。
ヴィオナはブンブンと首を振り無罪を主張した。
「そうですか……まさかアルフォンスさんのお母さんに会うとは思いませんでした。正直なところ……アルフォンスさんの関係者が多すぎでは?」
「そりゃ、ルクレイの行動範囲はメルカド領と王都とここだろ? アルフォンスの関係者が多いに決まってるぞ。このガゼボなんて拠点の一つだからな」
グレアル子爵はまた笑い出した。
「言われてみればその通りですね。そうだ、すみませんがレストール伯爵家まで荷物を届けてもらえませんか? レオナールさんに渡すものです」
グレアル子爵は「ん?」と一瞬だけ首をひねった。
「そう言えばレオナールにリドルを紹介されたんだっけか。確かにその流れだと関係者を渡り歩くな。リサの手紙にヴィオナ嬢と親友ってあったしな」
グレアル子爵はクククと喉を鳴らした。
「アルフォンスの周囲は動きが活発だから丁度当たった感じだな。今日の出会いは縁ってやつだろ。明日にはあいつら洞窟向かうしな」
「すごーい。涼風の旋律が冒険者として活動再開なんて素敵! レイ、わたしたちも『深緑の湖』を頑張りますよ。楽しみが膨らみました!」
ヴィオナはフンスと力を込めてルクレイに告げた。
『あー、馬車とSUPを早めに手当てしないとまずそうだ。でもなー漁業やガラス、製材は種だけでも埋めておかないとダメだしなぁ』
ルクレイは冒険デートに向けた準備が色々と渋滞してきている事に目を向けた。見切り発車にならないギリギリになりそうな予感しかなかった。
晩餐は賑やかに行われた。ヴィオナは笑顔満面で涼風の旋律メンバーと楽しく話していた。ヴィオナが探索許可を貰っていると話した事で盛り上がった。
ルクレイは子どもたちと話していた。魔力障害はティアーヌが作った魔力調整ポーションで改善しているとクラムが説明してくれた。
クラムは剣士カノンの息子で八歳、女の子は魔法師ルナリエの娘メリアで四歳、男の子は斥候ミモザの息子エグリアで三歳と自己紹介をした。
三人とも母親が冒険者だった事を知らなかったと話した。今回の旅は快適で楽しいと口を揃えた。食事も美味しくて嬉しいと晩餐を楽しんでいた。
ルクレイは出会いの記念として磨いた歯車を見せた。男の子二人は嬉しそうに受け取った。微妙な顔をした女の子には形の良いガラスのカレットを渡した。
目ざとくヴィオナも欲しがったが個人色に色をつけてからプレゼントすると宣言した。個人色を聞かれたので二人はイヤーカフの色と伝えた。
「アルと似たイヤーカフを持ってたのね。二人のイヤーカフはお揃いなんて素敵ね。婚約も決まったとヴィオナちゃんから聞いたわ」
「ふふ、陛下から婚姻許可書も頂いてます。成人の儀が終われば夫婦なのです!」
ヴィオナの爆弾発言で女性陣の輪がまた盛り上がった。女性陣の輪の中に四歳のメリアも吸い込まれていった。
「ルクレイは陛下に会ったのか?」
「はい。両妃殿下もご一緒にお会いしました。僕は『落とし人』でもあるので興味があったのかもしれません。後は……二つ名でしょうか……」
グレアル子爵は「それかー」と苦笑を浮かべた。
「メダル船長はリューウェンで待機してるから家にいるな。そうだ、明日の晩餐をガゼボで四人だけでしたらどうだ? ルクレイはメダル船長を好きだろ?」
グレアル子爵が珍しく真面目な顔で問い掛けた。
「大好きです。微かにお父さんの空気を感じます。養子を考えてくれた事がとても嬉しかったです。養子にはなれませんが付き合いは続けたいです」
ルクレイはスッと本心が言葉になった。
「明日は早朝と夕方のガゼボを借りますね。朝陽の中を飛び出していく帆船たちと、夕陽に染まったリューウェンの街を一緒に見たいです」
世界が暗くなる中で明かりが灯り照す光景は幻想的であり心が温かくなった。
「ルクレイさんの二つ名って何?」
クラムが剛腕の直球をルクレイに投げてきた。
「二つ名かぁ。ひとつはヴィー……ヴィオナに王都の露店広場で求婚したんだけど『露店広場の英雄』という二つ名が付いた。英雄は凄く恥ずかしいんだよね」
クラムは驚きの表情になりエグリアはキョトンとした。
「ひとつは魔道具を習ったんだけど『魔道具の申し子』という不思議な二つ名が付いた。最後のひとつは……僕は落とし人なんだ」
クラムが「習った……」と絶句した。エグリアは意味が分からず首を傾げた。
「海で浮かんでるところを助けられたんだよ。そして気がついたら『女神様の愛し子』という光栄だけど戸惑う二つ名が付いた」
「その二つ名は全部、王都にいるときに聞いた……。侍女さんたちや治療師さんたちが楽しそうに話していた。それ全部がルクレイさんなのか……」
「残念ながら……僕なんだよね……」
クラムとエグリアはルクレイに話を強請った。ネタの少ないルクレイは帆船に助けられたところからオランド号の話を聞かせた。




