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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第七章 DIYは工具が命でガラスの溶かしすぎ注意

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第五節 馬車の設計は頼み歯車は動くが止められない

 早朝の朝陽が差し込むガゼボでルクレイはメモに何かを書き込んでいた。用意した紅茶は少し冷めていたが気にせず口にしてメモに馬車の設計案を描いていた。


「やっぱり3mだと厳しいけど4mに延長すれば何とかなりそうだ。側面にあるメインの扉は正直なところ邪魔なんだよね。メインの出入りは後部にしちゃえ」


 ルクレイは馬車の設備で一番邪魔で制約が大きいのは扉だと思っていた。


「乗馬服なら700mmぐらい幅があれば良いけど……ドレスだと800mmは必要なのかな。元の馬車の扉が800mmぐらいだよな。乗馬服なら600mmでいけるか?」


 ルクレイがメモに描いた扉は客室の前方左右に少し狭い扉と、後方に広めの扉の三つだった。なぜか邪魔と言いつつ扉の数が増えていた。


「馬車って前側は馬がいるから何気に反対側に回るのが面倒そうなんだよな。扉は邪魔だけど端に寄せれば空間的に許容範囲に……なると思うんだよな」


「おはよー、レイは今日も早起きさんだね」


 メモと格闘していたルクレイにドレス姿のヴィオナが挨拶で声をかけてきた。


「おはよー、ヴィーは今日もお洒落さんで可愛いね。今度、髪留めをプレゼントさせてね。その髪型はヴィーに凄く似合ってる」


 ルクレイはハーフアップにしているヴィオナに笑顔を向けて答えた。


『また呪いが……。本当にルクレイ様は照れもなく言い切ります。言ってることは普通なのは確かですが……なぜ糖度だけ上がっていくのでしょうか……』


 ヴィオナの髪型を整えているユミナとしては褒められている姿を見るのは誇らしかった。しかし、挨拶だけであっという間に空間が甘くなるのが不思議だった。


「レイは何を書いてるの?」


「馬車の案って感じかな。今は扉の位置を考えてたんだ。メインの出入りは後方にしようかなって思ってるんだけど、どうかな?」


 ヴィオナは「後ろですか?」と顎に指先を当てて首を傾げた。


「うん、側面に扉を付けるとどうしても客室内に制約が出るから。馬車の幅でいうと半分ぐらいの幅で扉を付けようかなって思ったんだ」


 ルクレイは大体の広さを手を広げて表現した。


「それは随分と広いですね。ドレスを着ていても余裕で通れそうです。後方に扉のある馬車は見たことがありませんので見慣れるか気になりますね」


 ヴィオナは想像してくすくすと小さく笑った。


「後方は制約が緩いんだ。馬車が通った場所だから障害物が絶対にないよね。外開きの制約もないしステップも大きく出せると思うんだ」


「言われてみれば確かにそうですね。側面だと内開きにする場合もあるわ。外開きだと街中とか困るときがあります。それもあって両側に扉が付いていますね」


 ヴィオナは後方の利点に納得してうなずいた。


「とりあえずは冒険デート用なので普段は乗馬服だと思うんだよね。だから、前方の方に少し狭い扉を左右に付けようかなって思ってる」


 ヴィオナは「扉だらけです」と目を細めてクスッと笑った。


「元から北方木材で作られてる構造材はそのまま使うけど他は南方木材を使う予定なんだ。軽くできるし手直しもできるから試してみるつもり」


 ルクレイは材質を入手しやすい南方木材にすると伝えた。


「ふふ、レイが作る馬車はとっても楽しみだわ。行き先の『深緑の湖』はザルム町から南下して二日で野営地のある峠だそうです」


「準備不足で向かうと不測の事態に弱くなっちゃうから準備は念入りにするよ」


 ルクレイは席を立ちヴィオナをエスコートして朝食のため本館に向かった。


 ルクレイは執事にリゾリカ木工工房に顔を出してからカンコール魔道具工房に向かうので先触れを両工房に出すよう頼んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 リゾリカ工房に着いたルクレイは工房内に声を掛けた。


「ルクレイ殿、今日はどうなられましたか? 船舶風壁の外装を見分してますが良く考えられてます。切り替えにノッチを使っているのに思慮を感じました」


 訪問の先触れのみだったのでリゾリカ工房主がルクレイに話を振った。


「今日は馬車の設計で相談なの、でもちょっと時間なくて説明だけで良いかな?」


 ルクレイの用事にリゾリカ工房主は「大丈夫ですぞ」と答えた。


 ルクレイは客室の延長と扉の変更を話した。木材も構造物だけ北方木材としてそれ以外は南方木材にすると説明した。


「なるほど、後方は確かに障害物はありませんな。扉とステップに制約がないのは大きいです。そして引き出せる手すり案も安全性を高めますな」


 リゾリカ工房主は乗り降りする人、特に女性に対する安全性を高める案に納得した。新しい構想の設計をリゾリカ工房主は請け負った。


「この案を王都の知り合いと話し合ってみて良いでしょうか? あと……装飾は期待に応えられないと思いますのでご承知のほどお願いします」


 リゾリカ工房主はルクレイに頭を下げた。


「話し合いは良いですよ。もし良い案が出てきたら教えてくださいね。冒険デートの後はまた改造することになる予定です」


 ルクレイは軽く答え別れの挨拶をして工房を後にした。荷物を背負ったままルクレイはテケテケと駆けてカンコール魔道具工房に向かった。


「カンコールさーん、おまたせー」


「うおっ……ルクレイ殿か……。いつも元気ですな。毎回カチコミかと驚きますぞ。まぁ、それはいいのですが……あの歯車でしたか?」


「そうそう、歯車の仕組みを完成させようと思ったんだ。歯車に陣図を描いちゃうから確認をお願いね。あと、設定とか分かった?」


 ルクレイは荷物から歯車と鉄棒を取り出して作業台の上に並べた。


「意味合いは分からんが設定してる項目と数値は洗い出したぞ。メモにするから陣図を描いてていいぞ。ワシは船舶風壁の基盤に挑戦しとる」


 ルクレイは「了解ー」と陣図を描く道具を棚から取り出して作業に入る。黙々と陣図を描いてるルクレイをカンコール工房主はチラ見して作業に入った。


 カンコール工房主はメモを仕上げて船舶風壁の基盤に取り掛かった。鐘一つぐらい経ち「ふぅ」と首をほぐした。


『ほとんど終わってチェック中かよ。あの陣図を歯車に……それも小さいのに描いてるのに集中が全く切れんな。ここが最大の武器だな。あと記憶力か……』


「終わったー。カンコールさん終わったよー」


 ルクレイはカンコールにニッコリと笑い掛けた。カンコールは『元気だな』と想いながら歯車を受け取り資料の陣図と見比べてチェックしていく。


「んっ、大丈夫だな。これに魔石を付けるんだが……場所を決めてないな。そういや、資料だと魔石に触れてなかった気がするぞ」


 ルクレイは「えっ?」と目を丸くした。


「魔石と繋ぐ場所は……ここだ。ここが起動と停止の陣式が描いてあるだろ?……ってまだ教えてなかったな……。この二つの陣式が起動と停止だ」


 ルクレイは指された場所を覗き込み「おー」と小さく歓声を上げた。


「あー、ちょっと魔石を置く場所を考えてみる」


 ルクレイは手すきになったので試しに仮組みをしてみて気が付いた。


『ヤベェ。歯車を三個繋げようと思ってたのに仮組みすらできない……。駆動軸と別に歯車を固定する軸が二つ必要だし軸受けもない……』


 ルクレイは足りないものに気が付きカンコール工房主に木板をもらった。歯車の噛み合わせを整え軸を受ける板を水壁のカットソーで切り出した。


『同じ大きさの歯車だから工夫のやりようがないか。まさか資料にないベベルギアとか出すわけにもいかないし……いいや幅は50mmぐらいにしよう』


 ルクレイは『やっつけ仕事』と考えながら鉄棒から二本の短い棒を切り出した。鉄棒の端は水壁のトリマーで磨いた。鉄棒が入る場所もトリマーで削っていく。


「ルクレイ殿は器用ですな……。そこまで水壁を使いこなせるとは驚きですぞ」


 一通り削り終わり仮組みをルクレイがしているとカンコール工房主の呆れた雰囲気と共に話し掛けられた。


「こういった作業が楽しくて練習してました。あっ、でも吹聴は駄目ですよ? 使い方とか少しアルフォンスさんたちと話しておきたいので」


 カンコール工房主は「分かったぞ」と神妙に頷いた。


「風壁と水壁という魔法を作ったのはリュミエールさんですからね。風壁は公開してるそうですが水壁はリドルの話だとしてなさそうなので念のためです」


 ルクレイはカンコール工房主から魔石を付けた歯車を受け取った。仮組みをバラして基盤の歯車を組み込んで試作品を完成させた。


「よし、これで起動すれば……カンコールさん起動のスイッチは?」


「歯車に付けたぞ? 板で隠れてっから見えないだけだろ」


 ルクレイはガックリと肩を落とした。


 ルクレイは横から手を入れ注意しながら起動スイッチを入れた。


「ガラガラガラ」


 想像していたより大きい音が漏れた。歯車の基盤は思った通りに動き軸を模した鉄棒がクルクルと周り始めた。すべて同じ歯数のため変速はしていなかった。


「おぉー、回ってるみたいだな……見えないが」


 鉄棒は回っているが基盤が見えないことをカンコール工房主が指摘した。


「歯車の基盤が隠れてるから今ひとつ達成感がないね……。でさ、思ったんだけど……これ止められるの?」


「そりゃ、停止のスイッチおせ……押せば止まる!」


 カンコール工房主は胸を張って言い張った。


「いや、普通に回ってるから停止スイッチ押せないって。枠をバラせば歯車は取れるけどグルグル回る歯車をどうにかしないと停止スイッチ無理だよね?」


「まぁ、普通に考えれば無理だな」


 カンコール工房主もガックリと肩を落とし二人で頭を抱えた。


「ガラガラガラ……」


「あっ! 止まった。えっ?……カンコールさん、これって自動で止まるの?」


 カンコール工房主は首を左右に振り「知らん」と答えた。


「もしかしたら止める方法が思いつかなくて回る回数を設定に入れてるかも」


 ルクレイは思いつきを言葉にした。一旦諦めたルクレイはカンコール工房主が抜き出した設定に関するメモと設定の陣式を教えてもらい保留とした。


「歯車はこの試作品をレオナールさんに送って一区切りにする。ただ、中途半端だからもう少し考えてみるね。あのね、給水魔道具の基盤を教えて欲しいの」


 ルクレイのお願いに「いいぞ」とカンコール工房主が答えた。


「魔道具の陣図は大きく三つの区画に分かれとる。一つはさっきの起動停止の陣式だな。もう一つが魔道具の機能を実現する陣式。最後が設定の陣式となっとる」


 カンコール工房主は給水魔道具の基盤を例に指差しながら説明した。起動と停止は陣式としては別だが並べることが多いため区別はしないと話した。


「給水魔道具は恐らく水魔法の〈造水〉が元だろう。魔法は発動すると頭の中に魔法陣が現れる。これをメモして陣式にした猛者もいるらしいな」


「陣式は新しく作れる?」


「普通は無理だな。陣式の文様の意味は後付がほとんどだ。改変して試すぐらいだな。そういう意味では給水魔道具が生まれたのは異常とも言えるぞ」


『給水魔道具はレオナールさんの姉のマリナさんが作ったみたいなんだよね。結局はアルフォンスさんの関係者だ。つまり……風壁とかと同じ流れだろうな』


 ルクレイは断って桶を借りて通りに出た。


『魔力くん、水属性魔法の造水って知ってる? 試しに発動言語で発動してみるね。何気に初の試み? サポートをお願いね』


 桶に手を入れ「造水」とルクレイは呟いた。


 桶に水が満たされていった。そして、ルクレイは『なるほどねー』と起きた現象を理解した。頭の中で解析のようなことをしたとき同様に陣図が浮かんだ。


『浮かんだのは陣図そのものでなくて魔法陣だっけ。これを記録して陣図にすれば魔法が魔道具として活用できると……。良くできてるけど微妙とも言える』


 ルクレイは発動言語を使った魔法を少しずつ調べて使えそうなものはストックしようと考えた。ただ、陣図にする方法が不明なので当面は保留とした。


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