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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第七章 DIYは工具が命でガラスの溶かしすぎ注意

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第三節 滑車は分担して軽くヴィオナの欲しい魔道具

「簡単に説明すると重さをロープごとに分担してるんだ。小さな模型でもあると分かりやすいけど……ないので実演をやったわけね」


 ルクレイは双子とリドルを馬車側の滑車のところに呼び寄せる。括り付けた三個の滑車に付いているロープを見せて説明を続けた。


「滑車は一つで二本のロープが出てるよね。滑車は三個だから六本のロープになる。この六本が馬車の重さを分担していたの。リオとリクで引っ張って」


 ルクレイはもう一度双子にロープを引いてもらった。


「「ルクにぃ!」」「さっきより」「おもいよー」


 双子は頑張って馬車を少しずつ動かすが先ほどより動いていなかった。双子とリドルは目を丸くして引いたロープをジッと見た。


「あー。今は六本のロープが分担してるよね。……実はこうして引くんだった」


 ルクレイは双子をヒョイッと縦抱っこして馬車に座らせる。先ほどと同様に落ちないように足は踏ん張ってもらいロープを引かせた。


「ガラガラ〜」


「「ルクにぃ!」」「また」「もや」「「からかったー」」


「アハハハ、ごめーん。実は六本のロープに加えてこの状態だとリオとリクが持ってるロープも分担に参加するんだ。六人より七人の方が力が出るんだよ」


 双子は馬車から飛び降りてルクレイを追いかけ始めた。逃げるルクレイは隙を見て双子を掴みポーンとマット状の水壁に投げ込んだ。


「「ヒャァーーーー」」


 投げ飛ばされた双子は歓声を上げて水壁の上に落ちた。双子はふよふよな水壁の上で跳ねて転がった。


「「だまされたー!」」「でもこれは」「楽しいー」


 ルクレイに誤魔化されたと気がついたが水壁で遊ぶ方が楽しかったことで、双子は水壁の上で揺れる地面の鍛錬を始めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ルクレイは双子とリドルが水壁の上で鍛錬を始めたので、即席魚粉の手順を進めていたテーブルに移動した。ビットが下拵えした魚の身を煮込んでいた。


「放置してすみません」


 ルクレイはビットに声を掛けた。


「いえいえ、ルクレイ様はお忙しいようですし滑車はここから見てましたが楽しそうでした。初めて見ましたが滑車とは凄いものですね」


 ビットは笑顔で答えた。


「帆船には沢山の滑車が使われてるけど普段は見ないか。正直なところ漁が河川船とは思わなかった。小型の櫂船とかは使わないの?」


 ルクレイは首を傾げてビットに尋ねた。


「湾を出ると波も大きいですから近場の漁をしてます。最近はエビが取れれば収入になります。乾燥させる手間はありますが助かっています」


「なるほど。魚粉は乾燥魔道具を使って即席魚粉で始めるよ。乾燥魔道具を使えばエビの乾燥もできる。エビとかは調べたい事もあるけど保留になってる」


 ルクレイの言葉にビットは大きく頷いた。


「お手伝いできそうなことは声を掛けてください」


 時間になったのかビットは加熱魔道具から鍋を降ろし身を取り出し始めた。


「アユナの方はどうですか? レシピの材料が揃いきったのか怪しいと思うけど」


「大丈夫です。基本と書かれた材料は揃いました。最初に煮詰めるのでもう少し時間が掛かります。こちらも冷ますので夕方から再開でよろしいでしょうか?」


 浸け汁の担当は手が空いていたアユナが担当していた。ユミナもいたので調理のやり方をユミナが指導して浸け汁を作っていた。


「そうですね。夕方に浸けて明日の早朝に粉末にしてみよう。荷物が増えるからビットは馬車で戻ってね。当面は代官屋敷で作業する感じで頼むよ」


 ビットは「了解しました」と頷いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 魚粉のテーブルを離れたルクレイは休憩用テーブルの席に着き冷えた紅茶を飲み一息ついた。水壁に腰掛け揺れを楽しんでいたヴィオナが隣に座る。


「三人が動くと不規則に揺れてなかなか楽しいです」


 ヴィオナは笑顔でルクレイに話しかけた。


「あの状態でツルツルにしたら怒られるよね?」


 ヴィオナは「怒られますよ」とくすくすと笑った。


「魔道具の組み合わせだけど、やはり欲しいと思ったのは温かいお湯が出る魔道具ですね。これから暖かくなりますがお湯は助かりますよ」


 ヴィオナは温かいお湯の使い道を並べた。


「給水魔道具と加熱魔道具を使わないといけないのかは知見がないからカンコールさんに聞いてみる。消臭と調湿の魔道具は単に纏めただけだしね」


 ルクレイは「やっつけ過ぎだね」と肩を竦めた。


「リサは氷属性で涼しくできるみたい。氷も作れるし夏に向いた属性ですよね。ソフィたちはとにかく快適性に振ってるの。椅子の座面も魔道具よ?」


「椅子の座面は僕もふわふわにしてるよ。やっぱり根源的な不満点なんだと思う。馬車の座面は風寛魔道具にするか水壁系にするかは考えておくね」


 ルクレイも快適性を求めて座面にふわふわの水壁を展開していた。


「そう言えば、給水魔道具の水は少しだけ冷たいね。水を作り出す時に温度の設定をしてるのかな。温かい水と冷たい水に大きな違いはないはず……」


『水の温度は物理的と考えていいよな……。馬に小川の水でなく給水魔道具の水を飲ませるのは温度の管理がしやすいから。つまり温度は変わらないわけか』


「陣図の基本的なことをカンコールさんに教えてもらうか。以前聞いたときは機能の陣式と起動停止の陣式で後は設定という風に話してたからその先だな」


「カンコールさんを呼ぶの?」


 ヴィオナが何となくルクレイに尋ねた。


「いや、工房の方が足りないものが少ないでしょ? 僕と……たぶんリオとリクが来そうだな。そうするとリドルも来るのかな」


「お母様も戻りましたし二人の教育方針は検討中だと思うわ。レイに任せてたのは暫定という事でしたし。武術と馬術も一旦は手離れしたと思うわ」


 ヴィオナは教師役は一旦解除になるとルクレイに伝えた。


「少しバタバタしてますからレイの時間を二人が潰すのはちょっと良くないわ。教師陣が今一つだったのはうちが舐められた結果ですが報復はしてあります」


 ヴィオナの話では教育態度が舐めた態度だったので物理的な制裁を加えたこと。貴族家で二度と教鞭が取れない状態に潰したとのことだった。


 ヴィオナを担当した教師陣を完全に教育界から排除したことで双子の教師が集まり難い弊害が生まれていた。双子の教師陣は伯爵家都合で退職となっている。


「在地の上位貴族から睨まれたら王国は住み難くなるわ。わたしの時は帝国にでも行けばと彼らには言葉で伝えたから出国したかもしれませんね」


 ヴィオナはクスッと笑った。


『教師の横暴とかはファンタジーのアルアルだけど……無謀の極みだよな。子どもの虐待に参加する侍女とかも破滅志願者にしか見えなかったもんだ』


 ルクレイにとって貴族社会という仕組みは、あちこちに地雷が埋まった社会と前世の記憶から感じていた。面子という機雷原を航行したいとは思わなかった。


「話は戻るけど、水を温めたり冷やしたりする魔道具はある。加熱魔道具や冷却保管箱が代表的だよね。暖房や冷房の魔道具もある。なぜ温水がないんだろ……」


「そうね。数年前に魔導冷却機が王宮から渡されたの。バストリアで魔導暖風機と魔導冷風機が発売されたときは画期的でお父様が購入したわ」


 ルクレイの言葉にヴィオナは魔道具を並べていった。


「そう言えば、部屋に置いてある魔導双風機って切り替えて使うんだよね? 暑くも寒くもない感じだから起動したことないんだけど……」


「そうよ、魔導双風機は低価格で販売されたから結構な数を買ってるわ」


『暖房と冷房に冷却という感じだからアルフォンスさんが絡んでる気はするんだよね。特に、魔導冷却機が王宮から供与されたとか流れが不自然だし』


 ルクレイはアルフォンスの影を感じたが軽く流した。


「僕は何となくだけど水属性で温かい水や冷たい水は作れるような気がしてる。カンコールさんが給水魔道具を見てビックリしてたからこれから出るかもね」


『この辺りは隙間時間にでも試して行くのが良い。作業として詰めてやるのは馬車と歯車の二つ。それに防水した帆布を手に入れてキャンプギア作りだな』


 ルクレイはタープやキャンプ椅子はなるべく早く作りたかった。


 ルクレイはヴィオナに断ってブカゾール工房主が持ってきてくれた基盤や歯車を離れに取りに行った。結構な量が置いてあったので歯車と鉄棒だけ運んだ。


 マルセリオとフィリクスがリドルと一緒に休憩用としたテーブルを囲み冷たい果実水を飲んでいた。ヴィオナは別のテーブルでルクレイを手招きした。


「あのテーブルは占拠されたのでこちらを使いましょう。これで休憩用、魚粉用、工作用に別れますから分かりやすいです」


 ヴィオナはクスッと笑い「わたしは鍛錬もしますよ?」と真面目な顔になった。


 ルクレイは「僕は工作ね」と魔力が見えるように魔力くんに頼んだ。すると、すでにヴィオナは小さな半球状の風壁をテーブルの上に作っていた。


 ヴィオナは発動した風壁をコンコン叩いたり強度を確認していた。


『何かの実験みたいでヴィーが先生役なのかな? 確かに風壁は透明すぎて教材にするのは難しそうだな。水壁だとどこにあるか一目瞭然だからな……』


 ルクレイは木箱から基盤素材の歯車を取り出した。ブカゾール工房主はなぜか同じ大きさの歯車を基盤として結構な数を作っていた。


『歯車の場合は用途を考えてもあまり同じ大きさは使わないけど……まぁいいか。まずは歯車のサンプルになる簡単な構造を作ってみよう』


 歯車は基本的に動力を伝えるための部品である。本来は歯車単体に意味はないが巻上魔道具では意味が生まれる。歯車本体に陣式を描き込むからである。


 ルクレイは鉄棒に歯車を一つ通した段階で思い出した。バタバタと離れに戻り魔石を入れた袋を持ってきた。そして歯車を磨く作業を先に行うことにした。


 最初にテーブル上に円形の水壁を発動した。滑り難い表面にして歯車を置いた。そして円形の水壁を基準に半球状の水壁を発動する。


「レイ、それは何ですか? 土台の水壁に蓋をしては密閉状態になりませんか?」


 ルクレイの作業を横目に見ていたヴィオナが疑問を質問した。


「風壁って裏側は壁になってないでしょ? それは魔法としての特性と理解してるんだ。派生の水壁も反対側は壁にならないと信じて発動してみた」


 ルクレイは手を半球状の水壁に突っ込んだ。ルクレイの手は抵抗を感じることもなく半球の中に差し込まれた。


 ヴィオナは「はぁ?」と目を丸くした。声が聞こえたのか双子とリドルも工作テーブルに集まってきた。


「リオ、リク。水壁の中にある歯車……デコボコしてるの摘んで外に投げ出して」


 ルクレイは手を抜きもう一つ歯車を半球状の水壁内部に転がした。


 マルセリオとフィリクスは「「うわー」」と水壁に手を突っ込んで楽しそうに歯車を摘んだ。双子はルクレイに視線を向けたので頷いて促す。


「「あー! またルクにぃにだまされたー」」


 双子がポイッとなげた歯車は水壁にぶつかって転がった。


「いやいや、騙してないよ? 投げてみてってお願いしただけだよー。結果を先に言ったらつまらないから黙ってただけだよ?」


 ルクレイはボカボカとじゃれつく双子に言い訳をした。


「なるほどねー。半球状の表が壁って思ってたけど……逆にしても別に良いということね。何かを逃さないための囲いって考えれば合理的だわ」


 ヴィオナは手を入れて試してみることで理解した。手を入れて指を曲げて引き抜いても指が引っ掛かることがない点に目を丸くした。


「ヴィー、粉末果物を作るときの粉砕魔道具を思い出して。あれって粉砕した物が飛び散らないように風壁が展開されてるよね? あれと同じ仕掛けだよ」


 ヴィオナは「騙された〜」と目を手で覆い声を上げた。


「「ルクにぃが」」「ヴィオ姉様を」「おとしいれたー」


「いやいや、陥れてないよ? 参考にした魔道具を教えただけだよ? ヴィーだってたくさんの粉末果物を作ってるよね?」


『真面目にやってると見てましたが……呪いが発動し始めました。ヴィオナ様の口角が上がり過ぎです。楽しくて仕方ない表情ですよね?』


 アユナが浸け汁を作る指導も手が空き隅で観察していたユミナが空気の揺らぎを検知した。明らかに糖度が上がりそうな気配である。


「ほら、これから工作するから破片とかがヴィーの方に飛んだらダメでしょ? ヴィーを守るための水壁を発動しただけだよ? ヴィーの安全が第一だからね!」


 アワアワしているルクレイを指の隙間から堪能しているヴィオナはクスクスと小さく笑っていた。――双子に纏わりつかれルクレイは言い訳を色々していた。


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