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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第一章 落とし人から拾われ人に進化した
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第五節 メルカド伯爵邸に入り可愛い双子に出会った

 メルカド伯爵領の海沿いにある港町〈レベナ〉の波止場に、ノルド子爵家所属の大型連絡船『オランド号』が入港した。


「船長さん、お世話になりました!」


「おう、楽しかったぞ。名前、思い出すか決まったら手紙で教えてくれ。それと、リューウェンに来た時には顔を出してくれると嬉しいからな」


 メダル船長は少年をギュッと抱きしめ、頭を撫で手を振りながらオランド号に戻っていった。少年も、姿が見えなくなるまで手を振っていた。


『メダル船長にずいぶん気に入られた? とっても良い人だし、ちょっとだけ親父に似てた気がする。親父は早くに亡くなったから、記憶は少ないけど』


 少年は年嵩の船員とレベナの代官屋敷に向かい、代官に挨拶して一泊した。


 翌日、年嵩の船員は代官と今後の予定を組む必要があるからと分かれ、少年は領主館に向かう伝令の馬に乗せてもらい領都〈リガレア〉へ向かった――。


 平原の中に通る一本の街道横を北進する、伝令の騎士は若く会話は弾んだ。


 若い騎士はこの春から伝令隊に所属となり、今はレベナの伝令分隊に所属し毎日往復していると話した。


「伝令だからな、騎乗技術を磨かないと。そのために毎日駆ける。馬との信頼関係を築くことも大事だ。信頼関係が築ければ愛馬になってもらえる」


 休憩の度に丁寧に手入れをするので、少年は手入れの方法を教えてもらった。ただし、馬の手入れには手を出さなかった。


「坊主は、何ていうか、しっかりしてるな。手入れ、馬と俺の邪魔しないように水汲みとかをしたんだろ? ありがとうな」


 騎士と握手して分かれた。


「誠に申し訳ありませんが、旦那様、奥方様が不在のため本館に招くわけにはいきません。連絡は受けていますので、旦那様が戻るまで離れの滞在となります」


 本館の玄関先で執事長により立ち入りを断られた。


「分かりました! しばらく厄介になります」


 少年はペコリと頭を下げる。


 執事長は控えていた侍女に指示を出し本館の中に消えていった。


「案内致しますね。付いてきてください」


 少年は「はい!」と答え侍女の案内で離れの来客用の建物に入る。


「えっ?……デカくないですか? 色々広くて落ち着かないんですが……」


「こちらでお願いします」


 侍女は目を細めクスッと笑いを零し、席を勧めお茶の準備を始めた――。


「基本的な利用方法は以上となります。何か質問はありますか?」


 侍女からは、食事の時間、湯殿の時間、動いて良い場所の説明を受けた。加えて、離れの設備は壊さない限り自由に使って良いと説明された。


「えっと、身体を動かしたいときは、どこなら大丈夫?」


 侍女から鍛錬場の場所を教えてもらった。騎士たちは模擬剣や模擬槍を使うため、常に安全を確認するよう徹底して欲しいとのことだった。


 侍女はホッとした空気で「旦那様が戻られるまで……」と言葉にして固まった。


「すみません、お名前を聞いてませんでした」


 少し赤い顔で名前を確認してきた。


『あぁ、まだ接客の練習中なのか』


 少年は侍女の態度が腑に落ちたので練習に付き合うことにした。


「落ちたからか、名前や年齢とか思い出せないの! だから何でもいいよ? ここに来るまでは坊主って呼ばれてたんだ」


 侍女は目を丸くして少し哀れみの気配が浮かんだ。


「分かりました、旦那様が戻られるまで『坊っちゃん』と呼ばせて頂きます。すみません、叱られないギリギリの呼び方がこれしか思いつきません」


 少年は「はーい、それで大丈夫!」と両手を挙げた。


「それでは、旦那様が戻られるまで専属となるアユナと申します」


『おいおい、専属侍女って本気か? まぁ、監視も兼ねてるとは思うけど……』


 少年は「よろしくねー」とペコリとお辞儀した。


「そう言えば、こちらの方々は、なんと呼べばいいのでしょうか? 伯爵様は伯爵様で大丈夫ですか?」


 アユナは執事長と相談するため保留を申し出た。


 そしてアユナは、伯爵家の家族構成として当代の伯爵、伯爵夫人、長女、長男、次男、そして先代の元伯爵夫人の六名であると説明した。


「分かりました! 最後に、アユナさんは、アユナさんと呼んで良いですか?」


 アユナは「本来、侍女は呼び捨てですが……」と眉を寄せ、この件も保留とし確認のため退室した。


「やっぱり貴族家は色々大変なんだなぁ」


 少年は唯一の荷物の荷袋を引き寄せた。オランド号を降りるときにメダル船長が渡してくれた。中には、一緒に遊んだ棒も入っていた。


 少年はメダル船長から贈られた棒を持って鍛錬場に向かった。


 少年は開けた空き地のような場所に着いた。空き地では数人の男性が剣や槍の素振りをしていた。


『一周で200mぐらいか?……先ずは体力測定しないと話にならないな。持久走のイメージで回れるだけ走ろう』


 少年は黙々と鍛錬場の回りを駆けていく――。


『何か、疲れがほとんど出ないぞ』


 すでに五十周は回っているが疲労感が表に出てこなかった。お昼が近いのか、騎士たちも鍛錬を終わらせて少年を見ていた。


「おーい、もう昼だから離れに戻っておいた方がいいぞ」


 騎士の一人が声を掛けてきた。


 少年は「はーい」と返事をし、手を振って鍛錬場を後にした。そのまま軽く駆けながら離れへと向かっていった。


 離れに戻るとアユナが待っていて、そのまま湯殿に連れて行かれた。そして湯殿の使い方を説明すると湯殿を後にした。


「お湯が出る魔道具もあるんだ。給水と加熱魔道具ってそのままだよね。これ、グラナム号でお水をもらうときに使ってたやつと同じ魔道具だ」


 少年はササッと身体の汗を流し、指定されていた食堂に向かった。用意された昼食を取り、紅茶を入れてもらい一息つけたあと鍛錬場に向かった。


 午後もまた黙々と走り百周を超えた頃に声が掛かる。


「お前は誰だ?」「誰だ?」


 鍛錬場の横にある木立から小さな木剣を構えた小さな影が二つ飛び出してきた。


 少年は『双子の兄弟か』と、ふたつの人影を認めると駆けるのを止めた。


「こんにちは、今日からお世話になってる『落とし人』です」


 双子は「「おとしびと?」」と声が揃い、同じ角度で首を傾げた。


『へー、揃うときは綺麗に揃うもんだ』


「落とし人は知らない言葉ですか?」


 双子は同時に頷いた。


「説明は簡単ですが、立ってするのもなんですよね」


 少年はキョロキョロと見回し、休憩スペースに使えそうなガゼボを見つけた。


「あのガゼボでお話しませんか?」


 少年が双子に視線を向けて提案すると、双子は同時に頷いた。


『なんか、僕の頭を撫でていたメダル船長たちの気持ちが分かる?』


 ガゼボに向かいながらふと『お付は?』と気が付いた。


『いくら敷地内でも、こういう時って侍女なりが付いて回るよね?』


 ガゼボに到着すると給水魔道具がテーブルの上に置かれていた。二人に席を勧め、木製のコップを三個持ってテーブルに並べていく。


「先に確認したいんだけど良いかな?」


 双子は同時に頷いた。


「もしかして、侍女さんか執事さんに見つからないように来た?」


 双子は同時に目を見開き固まった。


『うんうん、これってあるあるだよね。とすると、侍女さんが駆けてくるな』


 ガゼボから出て周囲をキョロキョロと見ていると女性が駆けていた。少年は手を挙げて注意を惹き、手招きをした。


 駆けていた女性は、駆けるのを止めてお淑やかな雰囲気を出して歩いてきた。


『あー、駆けてるのを見られたら怒られちゃうんだな』


 少年は小さな声で「双子さん?」と、近づいた侍女に話し掛ける。


 侍女は「はい」と小さく答え、ショボーンとした。


「このガゼボに居るから、お世話をお願いしていいかな?」


 侍女はパッと顔を上げて「勿論です」と笑顔で答えた。


 ガゼボに侍女と入ると双子は視線を逸らしソワソワし始めた。


「お二人に、お水をお願いします。できれば僕にもください」


 侍女は「畏まりました」と答え、静かに給水魔道具から水をコップに注ぎ、双子の前にそっと置き、少年の前にもコップを置いた。


「落とし人だけど、二人は侍女さんから隠れて離れて迷子になったことない?」


 双子は同時に目を見開き、彷徨った視線が逸らされた。


『彷徨った視線は別方向に向いても、左右対称である意味で揃ってる』


「ふふ、その時の二人は迷子、もしくは迷い人というわけだ。もし、誰も二人を見つけてくれなかったら、どうなるかな?」


「「こまっちゃう!」」


 双子はうるうるした目で少年を見つめた。


「だよねー。だから、出かけるときは人に伝えないと危ないんだよ? 今、お父さんとお母さんが家にいないでしょ?」


「「いないのー」」


「どこ行ったか知ってるかな?」


 二人は顔を見合わせ首を傾げ、うなずいた。


「出陣してるの!」「姉様と王都なの!」


『どっちが言うか視線で会話した? すごくね?』


「ほらね、お父さんとお母さんはちゃんと出かけるの教えてくれてるでしょ?」


 双子は同時に頷いた。


「もし、どこに行ったのかも知らなかったら、どんな気分かな?」


「「しんぱいー」」


 双子はうるうるした目で少年を見つめた。


「うんうん、そうなんだ。行き先が分からないと心配になるよね。二人は、お父さんやお母さんの真似をして、行き先を伝えてみたらいいかもね」


 双子は同時に頷いた。


「そう言えば、二人はクッションの山に潜ったことある?」


「「くっしょん?」」


 少年は侍女に顔を向け「知らない?」と首を傾げる。


 侍女は「ふわふわくんですよ」と、双子が知ってる名前で伝えてくれた。


 少年は『えっ?』と思ったが、ニッコリと双子に視線を戻す。


「「ふわふわくん! 知ってるー」」


「沢山のふわふわくんに潜ったことは?」


「「あるよー」」


「沢山のふわふわくんに潜って寝ちゃったことは?」


「「あるあるー」」


 双子は顔を見合わせて首を傾げ「「寝ちゃうよね〜」」と答えた。


「あれは、気持ちいいからねー。だけどね、二人が起きたら小高い丘の木の下だったらどうかな?」


 双子はうるうるした目で少年を見つめた。


「こまっちゃう? 悲しくなっちゃう? また寝ちゃう?」


「「悲しくなっちゃう!」」


『うわっ、アイコンタクトもなしで同じ答え!』


「だよねー、でも、二人は大丈夫だよ? 木の後ろからお父さんとお母さん、お姉さん、お祖母ちゃんがお菓子を持って来てくれるから」


 双子は同時に目を見開き、「「やったー」」と声を上げた。


「二人が寝てる間に、こっそり馬車でピクニックだったんだよ」


「よかったー」「ドキドキしたー」


「目が覚めたら、夢だったんだけどね」


「「えーーー」」


 双子は頬を膨らませてプンプンし始めた。


「ふふ、お父さんとお母さんが帰ってきたら実現させようね」


 双子は「「絶対、ピクニック!」」と両手を挙げて声を上げた。


「僕はね、木の下ではなくて、海のど真ん中で目が覚めたんだ。それがね、落とし人というものなんだよ」


 双子は目を見開いて固まった。少年は、双子に視線を向けニコッと笑った。


「僕をね、助けてくれたのは、ナンダル船長たちだった。グラナム号のナンダル船長って知ってるかな?」


 双子の目がうるうるし始め「「知ってる……」」と小さく答えた。


「ナンダル船長たちが海に浮かんでた僕を助けてくれた。そして、ここ伯爵邸まで僕は辿り着くことができたんだ。そして、二人に会えたんだよ」


 双子は「「でも……」」と、ポロポロと涙を零し始めた。


 少年は席を立ち、二人の傍に寄りそっと抱きしめ「会えて良かった」と、小さく声を掛ける。


「落とし人はね、突然、前触れもなく落ちて来るんだ。でもね、それは仕方がない事なんだ。だから、助かった後に出会った人との縁はね、大事にしたい」


 少年は二人の体温を感じ、『温もりってこれか』と感じていた。


「ここに来るまで、選抜しちゃうけど、ナンダル船長とオランド号のメダル船長には一杯感謝してる。そして、二人にも感謝したいな。受け取ってくれる?」


 双子は「「うん……」」と、ポロポロと涙を流す。


「じゃ、涙はバイバイ、ニッコリ笑顔で僕とお話をしない?」


「いっぱい」「するー!」


 双子は、涙は残っていたが笑顔で少年に抱きついた。少年は、そっと二人の頭を撫でた。そして『自然と手が出て撫でるものなのか』と理解した。


「離れにいるから、身支度終わったら遊びに来て。グラナム号とナンダル船長、オランド号とメダル船長の話、聞きたくない? 凄かったよ!」


「ぜったいー」「聞くー」


『えっ、それどうやって繋げてるの? テレパシー?』


 少年は侍女に二人の身支度をお願いし、二人に「待ってるよー」と手を振り離れに向かって歩き始めた。


 少年は歩きながら『落とし人の説明って難しいなぁ』と考えていた。今度、落とし人を習うための教材を見せてもらおうと思った。


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