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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第七章 DIYは工具が命でガラスの溶かしすぎ注意

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第一節 大型馬車は装甲馬車でバラすのは楽しい

 早朝の伯爵邸マナーハウスに笑い声が風に乗って聞こえてきた。人気のない鍛錬場を男の子と女の子が追い掛けっこをしていた。


『早朝から鍛錬は偉いと思います。思うのですが……私はなぜお二人の楽しそうな追い掛けっこを見させられてるのでしょうか……。あれは鍛錬なのでしょうか?』


 ガゼボの席に座りユミナは鍛錬場の上空を見ていた。上空を駆け回っているルクレイとヴィオナを眺めているが今は溢れる笑顔でヴィオナが逃げていた。


「きゃっ」


 ヴィオナが足を踏み外したのか落ちてきた。追い掛けていたルクレイが前方に飛び出しヴィオナを抱えて地面に降りた。


「レイったらズル〜い。足元の水壁を消したよー」


 ヴィオナはルクレイに横抱きにされたまま口を尖らせ苦情を告げた。


「ちゃんと踏む前に消したよ。ふわふわにしたら怒るから仕方ないよー。それよりも冷たい紅茶を飲んで身支度しようか。そろそろ朝食の時間だよね」


「えー、踏んだと思ったんだけど……レイはギリギリを狙いすぎだよ〜」


 頬を膨らませプンプンしているヴィオナにルクレイは手を差出してエスコートを申し出た。プンプンしながら口角を上げたヴィオナは手を添えた。


 ガゼボに入りルクレイはそっとヴィオナを席に座らせた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 朝食を取り終えたルクレイはガゼボでヴィオナの鍛錬を眺めていた。


 本館から駆けてきた従僕からリゾリカ工房主が訪ねて来たと報告を受けルクレイは工房の離れに連れてくるよう指示した。


ルクレイは離れの馬車止めに向かい歩いていく。修理を行う馬車は大型で六人が乗れて侍女一名が待機できる空間を持っていた。


『しかし大きいな。車体は全長が5m程度あるし幅は2mぐらいで車輪が出っ張ってるから実質2.5mぐらいある。客室も長さが3m程度だからかなり広い』


「ルクレイ殿、おはようございます。この馬車は点検で見ただけですが……やはり大きいですな。正直なところ大き過ぎるという気もします」


「おはよー。リゾリカさん来てくれてありがとう」


 ルクレイは馬車からリゾリカ工房主に視線を移して挨拶した。


「僕もこの馬車は大きいと思う。しかも見た限りほとんど北方の木材で作られてるよね? 絶対重いやつなのに良く馬たちが引けるなって思う」


「この馬車は六頭引きですからな」


 リゾリカ工房主は解体するための基本的な手順をルクレイに説明した。基本的に客室は内装を外し隠れている金具を外す作業を最初に行うと話した。


 内側に張られた板は四隅の四角い棒を抜き取ると外すことができるとリゾリカ工房主が簡単に実演した。簡単に客室後方の内装板を外していた。


「客室の外装板は横に並べています。四隅の支柱に溝が掘られ差し込む形ですぞ。そのため上から順に抜く必要があります。そして抜くには天板を外します」


 リゾリカ工房主の説明によると最近の馬車は横木を通し金具で外装板を固定すると教えてくれた。また、使用する木材も南方の木が主流と話していた。


『そりゃ、全体がオーク材とか重すぎるよ。この馬車って客室だけで400kgを超えてるのでは? 車体入れたら軽く600kgは超えてると思うぞ……』


 一通りの説明を聞いたルクレイは礼を伝えた。作業としては木材は重いが簡単に解体できそうと少し安堵した。


 ルクレイはリゾリカ工房主に船舶風壁魔道具の外装を渡した。同じ物を十個ほど頼みリゾリカ工房主は離れを後にした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 一人になったルクレイは離れで飲み物や軽食を用意した。馬車止めの傍にテーブルを置き休憩する場所も用意した。従僕に頼んで大きめの敷布をもらった。


 ルクレイは「客室からバラすぞー」と気合を入れ馬車の解体作業を開始した。


「内装用に板が張ってあって……これは杉か。四隅の角棒を抜くだけで内装板が外せるようになるのは楽だな。変に釘とかで固定されてると面倒だもんな」


 内装板をすべて外し資材置き場と決めた敷布の上に置いていく。


「四隅の角棒は……『桃花心木?』って何だっけ? ていうか名前が長いよ……。これも杉で良いだろ。しかし名前が思い出せないのはモヤモヤする」


 内装板を外し終わりルクレイは隠れていた金具を外していく。外側の横板を縦木に密着させているだけで固定されているわけではなかった。


 天板の金具は背が届かず踏み台を離れに取りに行ったりと黙々と作業を進めていった。天板は雨漏り対策で板同士の分離が少し面倒だったが全て外した。


「天板は……オークで厚さが20mmとか厚すぎだろ」


 ルクレイは少し気になり天板の一枚をジッと見て魔力くんにお願いした。


『樫? 長さ2m、幅200mm、厚さ20mm、重量6.0kg、乾燥時5.2kg』


「天板って十五枚だから……90kgかよ。え? 周囲の板で300kg超えないか?」


 ルクレイは呆れながら側板を抜いていく。この馬車は進行方向の左側に出入り用の扉が付いていた。一般的には両側に存在する扉が片側のみとなっていた。


「人数を増やすため片側にした感じだな。ざっと3m幅で四名座ると750mm間隔だから十分だよな。扉は後ろ寄りだから前側が二名で700mm間隔で後部は侍女だな」


『樫? 長さ3m、幅200mm、厚さ15mm、重量7.0kg、乾燥時6.1kg』


「んー、やっぱり重い……。右側で70kg、左側は50kgぐらいだよな。すでに210kgを超えてるよな。床板はたぶん天板と同じぐらいと考えると300kg以上か……」


『鉄木? 長さ2m、幅200mm、厚さ20mm、重量9.5kg、乾燥時7.3kg』


「なんで横板にオークとアイアンウッドが混ざってる? これ……北方枠で同じ扱いしてる? 名前とかも適当だし。自分で作るなら種類は揃えたい……」


 ルクレイは微妙に雑な状況にため息をついた。


「それにしても、オークやアイアンウッドを使って厚さを20mmや15mmで外側を固めるとかどう考えても装甲馬車だろ……。何かと戦ってたのか?」


 最後に後面を解体していくが側面よりも薄い板になっていた。


『樫? 長さ2m、幅200mm、厚さ10mm、重量3.0kg、乾燥時2.6kg』


「後ろに荷物を積むための箱状の備え付けがあるから薄いのか? この辺りは重量を気にした? すでに手遅れなほど重いだろうに……」


 客室の横板はすべて外され四本の支柱と座席などの付属品だけとなった。座席も簡単に外れ客室はほぼ解体が終わった。


「ふぅ、釘とかないと楽なんだな。ある意味、この組み方ってかなり合理的といえるわ。でも、この身体だからサクサク進んでるけど重労働ではあるな」


 ルクレイは少し軽食を摘み冷たい紅茶を飲み休憩を取ることにした。


「基本、オークやアイアンウッドは残して杉板で組み直そう。溝への嵌め込みはどうするかな……横木で金物でも十分という気がする……」


 ルクレイは横板を固定する方法の検討を課題として残した。


「むしろ天板だな。200mmぐらい下げて屋根に荷物を積めるようにするか? 天井収納も捨てがたいし内装はキャンピングカー風にしたいところだな」


 ルクレイは馬車の内部にギャレーやトイレと可能ならシャワールームを設置しようと考えていた。将来的にヨットを考えているので練習台と考えていた。


「灯りは魔道具を入れるけどサイドスリットも計画に入れよう。あと、停車時のタープとか色々と試そう。後は便利魔道具を考えていかないとだよね」


 作業を再開したルクレイは客室を取り外すためチェックを始めた。


「この床板だけど客室の構造材と一体化されてるの変だよな……。補修の気遣いがここだけストロングスタイル。まぁ、客室を外して降ろすか……」


 客室と車体を繋いでいる場所を調べて気が付いた。


「客室を車体に固定してない! なんか見えないところで客室を浮かせてるみたいだ……。話に出てないから誰も気が付いてない仕組みかもしれないな」


 ここまで解体する行為を普通は行わない。客室と車体を外す場合は客室全損といった作り直しをする場合ぐらいに限られていた。


「これは隠す意思を感じるな。床板が一体化されてるのも解体の意欲を削ぐため? 支柱込みだと余裕で100kgを超えるからな」


 ルクレイは馬車の下に入り込み客室の構造材を持ち上げた。敷布の傍まで移動し厚い水壁を発動して客室の構造材をそっと置いた。


「マジか……。明らかに板バネを隠して付けてる。四個の板バネで客室を浮かせてる。まてよ……この構造で左に傾くとかナシだろ……。どういうことだ?」


 客室を外したので車体を検分すると一目で板バネの存在に気が付いた。そして違和感を確認するため車体を引いて動かしてみた。


「何ていうか歪みが消えた。客室を降ろしたのが理由だよな。とすると交換した車軸に問題があるってことか。それで使われなかったのはもったいない?」


 重しがなくなり正常ということは車軸が原因と考えた。


「いや……この馬車は重すぎ。馬たちの苦労を考えたら仕舞ってあって正解だな」


 ルクレイは馬たちの安寧を優先した。


「車軸交換は馬を噛ませて作業する感じか。持ち上げるのに工房だと荷役桁を使うらしいけど……。ここは力技で馬を噛まして済まそう」


 ルクレイはリゾリカ工房主が置いていった馬用の木材を車体の四隅に置いた。そして一本ずつ車体を持ち上げて噛ましていった。


「あれ? この馬を噛ますところというか柱を水壁でやれば簡単では……。まぁ、もう噛ましちゃったし機会があれば試すことにすればいいか」


 ルクレイは車輪を外し車軸を抜いた。車軸を滑らすための油はすでに駄目になっていた。ルクレイは綺麗に拭き取った。


「前後の車軸だけど重さが全然違う件……」


 拭き取っている時にルクレイは重さが違うことに気が付いた。


「あー、後ろの車軸はオークで鉄芯入り。前は『桃花心木?』で鉄芯は端の方だけ入ってる……。これ、明らかに手抜き?……これって詐欺に近いよな」


 修理で新しくした車軸は材質含めて別物になっていた。


「この後の車軸……鉄芯を木で包んでるんだけど……なぜスライド分離方式なんだ? ここだけ技術がおかしい。両端はキャップになってる……」


 車軸の鉄芯は端のキャップを取りスライドさせるとオークのカバーが半分に別れ取り出すことができた。明らかに車軸で使う技術ではなかった。


「二分割できるのによくまあ車軸として機能してたもんだ……。確かに鉄芯を木で包むのは大変だけど解決方法がおかしい」


 ルクレイは普通に鉄棒で良いだろとボヤいた。


「とりあえず鉄芯は同じ物をブカゾールさんに作ってもらうか。杉にしたら鉄芯なくてもいけそうな気がするけど……鉄芯なら再利用できるだろ……たぶん」


 ルクレイは前輪用の車軸を頼むことにした。


「どうせなら板バネもコピーしてもらうのアリだな。ついでに鉄芯を多めにお願いしてチョキチョキしてコロコロを作るか。なんか楽しくなってきたぞ」


 馬車はほぼ解体された。ルクレイは車体に対する改造は保留として改造のプランを昼食後にヴィオナとする予定を確定とした。


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