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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第六章 二人は婚約して冒険デートに出かけたい

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第五節 冒険デートの準備と手配と忘れ物

 ルクレイとヴィオナは昼食を取り再びガゼボに戻った。冷却保管箱で冷やした紅茶を飲みながら午後の予定を話し合っていた。


「午後は少し木工工房と製材工房に行って来ようと思ってる」


 ヴィオナは「工房に行くの?」と首を傾げた。


「お義父さんに馬車を提供してもらったんだ。修理が必要だから基本的な修理のやり方を聞いてくる。製材工房は丸太が少ないと聞いたから話を聞きに行く」


 ヴィオナは意図が掴めず「馬車を修理するの?」と聞き顎に指先をつけた。


「いざという時のために修理に関する知識を学びにね。実際に修理する馬車があるから実践すれば知見も得られる。ヴィーと冒険に行くなら必須だよ」


「ふふ、準備に時間が掛かるのはそのせいなの?」


 少し頬を染めヴィオナはルクレイに問いかけた。


「あと残るのは湖を渡るための準備かな。今考えてるのは板に乗って渡る方法だね。板の浮く力を確保できればイケると思ってるので材料を見てくる予定だよ」


「板だと落ちそうな気がするわ」


 板に乗る姿を想像したヴィオナは不安げな表情になった。


「そこはある程度完成したところで確認かな。上手く行けば利用範囲が結構広い道具になると思う。実は追加で検証したいこともあるんだよね」


 ルクレイは席を立ち『コロコロ棒』と双子が命名した棒を手にした。この棒はルクレイとヴィオナが戦闘で使用している武具である。


「ヴィーも戦闘で使ってるけどこの棒って軽いでしょ?」


 コロコロ棒をヴィオナに見せて問いかけた。


「とても軽くて硬い棒だと思うわ。たまに自分に当たるとかなり痛いもの。前にレイは北方の木で作られた棒って言ってたよね?」


「そうそう。この棒を僕の分析で確認すると名前が『樫?』って分かるんだ。名前以外にも棒の情報として『頑丈』と『軽量』というのも分かる」


 ヴィオナは「それって?」と難しい顔で首を傾げた。


「言葉通り頑丈で軽量ということだと思う。魔力を流してコロコロしてただけなんだけどね。これの再現性があるのかをちょっと試したいなって思う」


『この頑丈や軽量はテンプレで言えば付与みたいなものだと思うんだよね。魔力を流せば誰でもできるかは検証が難しい。僕自身の再現検証だけ進めよう』


「分かった。わたしは風壁の範囲を確認して調整するから工房巡りが終わったらお茶を一緒にしようね。見るのだけでなく魔力を感知できるように頑張る」


 ヴィオナは握り拳を作りフンスと気合を入れた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「すみませーん」


 ルクレイは街中を移動してリゾリカ木工工房に到着し声を掛けた。


「これはこれは、愛し……ルクレイ殿ですな。工房主のリゾリカと申します。わざわざお越し頂いて光栄です。本日のご要件はどのようなものでしょうか?」


 ルクレイは苦笑いを浮かべた。


「この工房で馬車の修理を行っていると聞いたんだ。今日は馬車を修理したいのでリゾリカさんにお願いに来たんだ」


 リゾリカ工房主は目を丸くし「修理ですか?」と呟いた。


「馬車の修理はうちの工房で請け負っています。新規の馬車は木工の技術だけでは作れませんので新規の製造は受けておりません」


「修理が必要な馬車を手に入れたからバラす手順など覚えたいんだ。傷んでいるのや重い木材を交換していく感じ。あと歪んでるからその辺りの調整かな?」


 ルクレイはやりたい事をリゾリカ工房主に説明した。


「分かりました。手順の説明は実際に馬車を使って説明致しましょう。説明できる従業員を伯爵邸に伺わせるので何時が都合宜しいでしょか?」


「明日の午前中からでお願い」


 ルクレイは修理のお願いが終わったので次の話に移る事にした。


「リゾリカさんのところは魔道具の外装も請け負っていますよね?」


「最近は注文が来てませんな。勿論カンコールと付き合いはありますぞ。……そう言えば最近はカンコールの工房が騒がしいと聞きました」


 リゾリカ工房主は魔道具工房からの依頼を受けていると話した。


「カンコールさんが着手している魔道具はたぶん鍛冶に頼むかな。別口で船舶風壁魔道具の外装をいくつかお願いしたいの。参考になる外装を明日渡すね」


 ルクレイがお願いを伝えるとリゾリカ工房主は頷いて明日の訪問は自分が伺うと予定を変更した。


「ルクレイ殿が修理したいのはもしかして車軸が折れて破損した馬車ですか?」


 ルクレイは「多分それ」と答えた。


「私もあの馬車の作りに興味がありました。あの馬車は古い型ですが組み方が少し独特なのです。良い機会なので見分に参加させて下さい」


 ルクレイは了承して工房を後にした。


 街中を移動していると相変わらず挨拶が周囲から飛んできた。手を振りながらルクレイは呼び方が殿にほぼ統一された事に情報伝達の凄さを感じた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「すみませーん」


 ゴリゾン製材工房に到着しルクレイは声を掛けた。


「これはルクレイ殿。わざわざの――「いつも通りで」……っはい。工房主のゴリゾンです。本日はどうなされました?」


 ルクレイに挨拶したゴリゾン工房主は用件を聞いた。


「丸太の製材予定を予測値で三年分ぐらい出して欲しい。ある程度は数字にしてるよね? 数字でどうこうはないよ。ない丸太はどうにもならないから」


 ゴリゾン工房主は「畏まりました」と頭を下げ答えた。


「北方の丸太は出来るだけ正確にお願い。外洋船の修理がレベナで行えない件は重要だからね。伯爵家の面子もあるから協力しあって乗り切ろう」


「助かります。伝を頼って聞き回ってますがダメです。領主様の後支えは心強いので頑張ってみます」


 ゴリゾン工房主は目を見開き頭を下げ感謝を口にした。


「ふふ、製材工房に丸太は生産出来ません。ゴリゾンさんが頑張るのは製材するところだよ。注文の確認不足で無駄が出ないように注意してね」


 ゴリゾン工房主は「分かりました」と少し空気が軽くなった。


「丸太を見せてもらってもいい?」


 ルクレイは許可をもらい入荷した直後の丸太を見るため置き場に移動した。


『魔力くん、水分含有量を調べたいんだ。計算方法は丸太の重さから完全乾燥した時の重さを引いて、その結果を完全乾燥の重さで割って百を掛けるんだよ』


 ルクレイは魔力くんに計算までさせる暴挙を画策した。ルクレイにとって魔力くんはどんな存在なのか甚だ疑問を感じるが本人は気にしていなかった。


『最後のね百を掛けるのは割合っていう数字を出すのに使うの。単位はパーセントなんだけど、この世界だとどういうか知ってる?』


 魔力くんに真面目な顔をしながら教育を始めた。はたから見ると丸太をジッと見つめている変わった男の子なのだが本人は気がついていなかった。


『よし! 丸太の基本情報と水分含有量が知りたい!』


 ルクレイは目の魔力を活性化させたつもりでジッと見た。


『杉? 長さ16m、重量380kg、乾燥時160kg』


 ルクレイの頭の中に情報が浮かんだ。魔力くんは計算は行わなかったようだが完全乾燥時の重さを出してきた。ルクレイは目的は達したと頷いた。


「伐採時で百四十ぐらいか。後は追加乾燥させる直前と直後を確認しておけば目安は取れるな。馬車も補修前提なら杉で十分だと思う」


 ルクレイは独り言が漏れたまま移動していく。ルクレイが調べた範囲の水分含有率は自然乾燥で三十五付近、追加乾燥で二十八付近だった。


『追加乾燥が甘いけど加熱しての乾燥だから燃料でかなり薪を使うし湿度を上げてないから限界なのかもしれないな。二十程度まで乾燥できると良いんだけど』


 ルクレイはゴリゾン工房主に確認したいのと馬車を修理するため木材をいくらか融通してもらい届けるよう手配した。合わせて枝打ち後の枝も頼んだ。


『うーん、製材工房で扱ってる丸太だとSUPを一枚板で作るのは無理だな。全長の4m以上は大丈夫だけど全幅は80cm以上欲しいし厚みも15cmは欲しい……』


 ルクレイは形を思い浮かべながら根本的な板状にする方法と軽量化を考えていた。軽量幅広にして安定性を確保しているSUPを木材で再現しようとしていた。


『木材の工作道具は明日見れるとしてトリマーや丸ノコはあるようには見えなかった……。インパクトもないだろうしネジ切ってるのかな……』


 ルクレイは前世の記憶にある電動工具は身近なツールと認識していた。ヨットはとにかく壊れる。場当たりでも対処することが必須で工具は重要だった。


『壊れると言えばオーパイが壊れた時はハイドロベーンに助けられたな。結構高くてDIYで付けるのもドキドキだったけどマジ神だったっけ』


 ルクレイはメダル船長に聞いた進路安定魔道具を思い出していた。安定はするが舵に負担を掛ける微妙という評価だった。


『そう言えばウインドベーンやハイドロベーンのような仕組みって使ってるのかな。風向きがある程度は安定してるなら楽ができそうだよね』


 壊れる流れから前世の記憶に引きずられ、自動航行の方向に逸れたことを考えながらルクレイはヴィオナが鍛錬している鍛錬場のガゼボに戻ってきた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ヴィオナは空中をテケテケと駆けていた。魔力を見てないとまさに空を駆けているように見えた。ルクレイは魔力を見えるようにして納得した。


『円形に配置してぐるぐると回ってるのか。ところどころ高さを変えてるから結構難しい配置だな。真剣な表情で駆けてるヴィーは凛々しく可愛い……』


 ルクレイはガゼボに入りカラフェから二つのコップに紅茶を注いだ。ヴィオナから視線が通るタイミングで手を振るとヴィオナがガゼボに駆けてきた。


「お帰りなさーい。見えるようになったから駆けるのが楽になったの。感知するのはまだ無理だけどね。空を駆けるのがとっても楽しい!」


 ヴィオナは受け取った紅茶を飲みながら笑顔で報告した。ルクレイは席を勧め二人が座る部分に柔らかい水壁を展開した。


「わー、座ったときにふわっとして気持ち良い。それに少しひんやりしてるのも良いわ。レイの水壁は優しい水壁だよね〜」


 座り心地を堪能しながらヴィオナは満面の笑みを浮かべた。


 ヴィオナは頬を緩めながら「工房はどうでした?」と話しかけた。


「馬車は明日の午前中から解体を始める。色々教えてもらうから冒険デートで困らないよう頑張る」


 ヴィオナは笑顔で「楽しみ」と答えた。


「丸太はやっぱり不足してるね。予定の数字を出すように頼んだ。外洋船の修理用に在庫がないとちょっとまずいからここはお義父さんと相談だね」


 ヴィオナは「大丈夫かな?」と心配顔になった。


「領地間で在庫の調整は必要かも。そこは王宮に入ってもらった方が良いと思うな。後は……あっレオナールさんの魔道具の件があった」


 ヴィオナも「……巻上魔道具?」と思い出した。


「そうそれ、資料を読んで当たりはついてるから後でカンコールさんとこに顔出してくる」


「ふふ、気をつけて行ってきてね」


 ヴィオナは目を細めて見送った。――ヴィオナはルクレイが言っていた抵抗と硬さの調整が出来ないか残りの時間はガゼボで色々と試し始めた。


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