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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第六章 二人は婚約して冒険デートに出かけたい

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第四節 冒険デートの馬車入手と魔力を見たヴィオナ

 朝食が済むと双子とリドルはレベナに向かう準備を行うため自室に戻った。準備が整ったところで出発するとのことで今日の授業はなくなった。


「レイはどうするの?」


 ヴィオナは予定が飛んだことでルクレイに確認した。


「んー、冒険デートの準備に時間が掛かりそうだから手配を進めようかな。移動に使うのは馬車だからその確認と湖を渡る手段の検討を先に始める」


 ルクレイは腕を組んで考えを話した。


「んー、わたしは風壁の調整よりも防御用としての風壁を先にする。リサからお勧めを聞いたからそっちも進めてる。ガゼボにいるから後で来てね」


 ルクレイは「分かった」と答えヴィオナの頬に軽くキスを落とした。そして手を振りながらバルテア伯爵を探しに通路を歩いていった。


 真っ赤になったヴィオナはニヘラと表情を崩しスキップしながらガゼボに向かった。その後をついていくユミナは上がり続ける糖度に歯が痒かった。


『なんのてらいもなく糖度がどんどん上がっていくのはやっぱり呪い? ルクレイ様のあの自然すぎるキスとかほぼ無意識としか思えません……末恐ろしいわ』


 無意識に近い形で頬にキスをやらかしたルクレイは『浮かれ過ぎ』と一人で反省会をしていた。と言っても嫌われない範囲を探すという有罪思考だった。


 バルテア伯爵の執務室をノックし名乗り入室を許可されたので執務室に入った。


「どうした、伝え忘れでもあったか?」


 ルクレイは冒険の準備をするに当たり馬車を調べたいので修理が必要な馬車がないか確認した。馬車は比較的壊れやすく予備を用意するものと聞いていた。


「ん?……冒険と馬車が上手く繋がらないが修理が必要というか壊れた馬車があるぞ。直すかどうか考えてるうちに忘れてたやつなんだが……処分も忘れてた」


 バルテア伯爵は雑談しながら少し離れた場所にある倉庫まで向かうことにした。


「なぜ修理が必要なんだ?」


 道すがらルクレイに話しかけた。


「グラナム号は船員たちが静索の修理を行ったので港に戻れました。馬車は船ほどシビアではありませんが修理する技術は得られるなら得たいと思ってます」


 バルテア伯爵は「なるほど」と相槌を打った。


「僕の場合はヴィーを抱っこして駆ければ移動できます。でも馬車は荷を積む空間でもありますから直せるなら直したいですね」


 さらりと抱っこ移動を当然のようにルクレイは話していた。


「ルクレイは最悪の事態から逆算して準備する感じなんだな。いや、少し違うか。普段の言動から可能な限り事前準備して対応力を上げる方か」


「そうですね。対処できる可能性は広げるように考えますね」


 バルテア伯爵はうんうんと頷き到着した倉庫の扉を開け中に入る。ルクレイも後について倉庫の中に入った。倉庫は暗くバルテア伯爵が灯光魔道具を起動した。


「この馬車だ。良い馬車なんだが車軸が壊れたときに無理して全体的に歪みが出てる。車軸は交換したが今ひとつ操縦性が悪くてな馭者からダメが出たやつだ」


 ルクレイは馬車の周囲を回ってざっと観察した。


「この馬車を外に出して修理をしてみて良いですか? 魔道具の灯りだと少し暗くて作業に少し支障が出そうです。ちょっとした空間があれば嬉しいです」


 バルテア伯爵は「んー」と考え思い出した案をルクレイに出した。


「ルクレイの工房というか離れは馬車止めが併設されてるだろ? あそこの空間だったら作業には向いてそうだし工房の横なら便利だと思うぞ」


 ルクレイは「それは便利です」と答え倉庫の扉に近寄り全開にした。そして車輪止めを外して馬車を引き始めた。


 バルテア伯爵が「はぁ?」と目を丸くしてルクレイと馬車を見た。


「確かに少し歪みを感じますね。引くときの感触に違和感があるかな。少し左側に引っ張られる感じですから常に左に曲がろうとするのかもしれません」


 ルクレイはそのまま馬車を引いて離れまで移動した。途中で呆れたバルテア伯爵は手を振って本館に戻っていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「さて、これで冒険で使う馬車は確保できた。修理は必要だけど、修理というより改造を目指そう。折角の空間だから良い練習になるぞ」


 ルクレイは修理した馬車でそのまま冒険に出る積もりだった。私的な冒険デートに伯爵家の馬車は使えないと前世の記憶に引き摺られて考えてしまっていた。


 貴族家の考え方として娘の移動で使う馬車を用意するのは当然の行為である。伯爵家ともなれば稼働できる馬車は最低でも五台はマナーハウスに用意していた。


 メルカド伯爵家としては家人は六名だが双子は一人で換算し五台となっていた。予定として一台追加する計画も既に決め単純に双子が五歳の頃を考えていた。


「雨除けの帆布が欲しかった。まだリオたちは出発してないかな? ちょっと確認して帆布を調達する伝言をお願いしてこよう」


 ルクレイは本館に向かって駆け出した。


 リドルたちは既にレベナに出発していた。ルクレイは鍛錬場の横にあるガゼボに向かった。鍛錬場ではヴィオナが何やら不思議な動きをしていた。


『ヴィーが不思議な動きをしていて可愛い……って、あれは風壁の状態を確認してるのかな? 魔力くん、魔力見るからお願い!』


 ルクレイが魔力を見ると考え魔力くんにお願いすると風壁が見えた。


『やっぱりヴィオナの個人色は綺麗だなー。淡い藍色ってベースは青で赤と緑をアクセントで加える感じなのかな。あの淡さを表現するのが難しそうだな』


 ルクレイはヴィオナの個人色をガラスで再現するための思考に入り込んだ。ペタペタと風壁を触って範囲を確認しているヴィオナに近づいた。


「あー、レイが来てくれた。ねぇ、風壁を展開できたけど大きさとかが分かりにくいの。大きさの確認に時間が掛かるんだけどどうすればいいかな?」


 ルクレイの接近に気が付いたヴィオナは助けを求めた。


「んー、少しお茶にして話をしようか。あっ、ちょっと僕のカラフェを取って来るね。この後は気温が上がりそうな気がするから冷たいのも用意しよう」


 ヴィオナは「分かったー」と答えペタペタ触るのを切り上げてガゼボに向かった。ルクレイは離れに置いてあるカラフェを取りに向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「展開した風壁は透明すぎて見えないというのは利点と欠点が同居してる。アルフォンスさんとソフィア王女はばら撒いた風壁を駆け抜けているんだよね?」


 ルクレイの問いかけにヴィオナは頷いた。


「僕はアルフォンスさんたちは視覚に頼らず風壁を見てると思ってる。ヴィーは身体の中の魔力は認識してるよね? たぶん、その認識を体外で使ってると思う」


『魔力感知とかはファンタジーで鉄板だし大きく外してないと思う……』


「体内の魔力は分かるわ。それを体外にも適用……ってどうすれば良いと思う? ちょっとイメージが湧かないの。わたしには無理なのかなぁ?」


 ヴィオナは少しションボリしてウルウルした視線になった。


「ヴィーならできるよ。アルフォンスさんたちが実現しているなら個人の特殊な能力ではない。得手不得手はあったとしてもヴィーなら普通にできるよ」


 ヴィオナは言葉を聞いて目を瞑り考えを深め始めた。


「僕のやり方は以前話したよね。魔力くんに魔力が見たいとお願いして見れると信じて目に力を入れる感じかな。やり方に決まりはないけど()()()()()()()


 ヴィオナは目を瞑りルクレイの心地よい声に浸りながら出来ると信じた。常に信頼してくれるルクレイを思い浮かべ『魔力ちゃんお願い』と願った。


「うわっ、わたしの身体が少し光ってる!……淡い藍色ってこの色だったの? 恥ずかしいけど綺麗な色だわ。イヤーカフの石より薄く感じる?」


「イヤーカフには石の台座があるから石の色味の方が濃く感じてるんだと思う」


 ルクレイは笑顔でヴィオナのイヤーカフをそっと撫でた。


「レイは光ってない!」


 赤くなったヴィオナがルクレイを見て目を丸くした。


「僕は魔力が漏れてないんだ。ヴィーの漏れているその魔力が馬と距離を感じる原因でもあるんだ。でも魔力が漏れてるのは悪い事ではないと思ってる」


 ルクレイは意識的に手の平の上に魔力を作り出した。


「あっ! 手のところに濃い青色が浮かび上がった! 綺麗!」


 ヴィオナがルクレイが手の平に作った魔力を見て歓声を上げた。


「魔力が見える状態のまま風壁を発動してごらん。風壁の魔力が見えて大きさが把握できるよ。意識して魔力を見ながら色々と試してみてね」


 ヴィオナは頷き鍛錬場に風壁を発動した。


「見える!……綺麗に半球状になってるのが見える。やったー。レイありがとう」


 ヴィオナは感極まってルクレイに抱きついた。そして胸に顔を埋めて「嬉しい」と小さく囁いた。ルクレイはいつものように頭を撫で撫でした。


『いったい何をしていたのか分からなかったわ。一喜一憂している姿しか見えないもの。魔力を見るとか話していたけど……魔力って見えるの?……意味不明だわ』


 何やら話し、何やらドタバタした結果として抱き合っている二人を、必死に無表情で見る待機していたユミナは頭の中では騒いでいた。


 ルクレイはヴィオナの頭をポンポンと軽く叩き席に誘導して座らせた。そして、冷却保管箱からカラフェを取り出しコップに注ぎヴィオナに渡した。


「おいしー。この爽快粉末を溶かした紅茶って冷やしても香りが凄く良いし味も良いわ。これは果樹園に期待できそう。果樹園の話は聞いてる?」


 ヴィオナが爽快の実で作った粉末を溶かした紅茶を美味しそうに飲んでいた。


「お義父さんに調査をお願いしてあるよ。実そのものを食べても美味しいけど粉末にしたときは凄いよね。収穫量によっては外に出せる品になるよね」


 ルクレイは「ただねー」と話を続けた。


「ニロンが爽快の実をかなり気に入って一袋しか確保できなかった。下手に粉末にして売り出す計画をニロンに気づかれると睨まれる気がするな」


 ヴィオナは目を丸くしてくすくすと笑い出した。


 その後は、魔法と魔力、そして魔力くんに関してお互いに思ったことを話し合った。正直なところ説明できる自信もないため当面は内密という話になった。


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