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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第六章 二人は婚約して冒険デートに出かけたい

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第三節 スライム触感の水壁とタスクが冒険デート

 翌日の早朝にルクレイは鍛錬場の横にあるガゼボで紅茶を飲んでいた。手元にはメモが並び積み残されている作業の洗い出しを行っていた。


「何とか『爽快の実』は一袋を確保できて良かった。ニロンが七袋なんだけどね。確保分は狙われる前に乾燥だけしておこう。粉末は都度だな」


 ニロンとの交渉は難航したが領地で早生の実を確保する取引で何とか一袋を確保した。爽快粉末はヴィオナも気に入っているのでルクレイは頑張った。


「製糸工房は双子とリドルに任せることになったと。魔道具はカンコールさんだよね。魔道具の外装は木工か鍛冶だから今は保留と……」


 ルクレイは工房関連から整理を始めた。即席魚粉は下拵えで終わったので未着手に等しかった。これは漁師たちに任せる方向で考えた。


「グランゾさんに浸け汁の基本レシピは貰ったから手順は明確になってる。たぶん女性陣を巻き込めば下地は作れると思う……時間は掛かるけど」


 次に硝子工房を考えた。リドルからカンコール工房主の兄である鍛冶師のブカゾール工房主が協力を名乗り出ていると聞いていた。


「ガラスに協力してもらえるのは助かる。理由が『愛し子』という点に罪悪感を感じるけど助かる……。原料はリューウェンで手配済みなのも助かった」


 先ずは透明なガラス片を作り撥水糸の準備を進めることにした。ガラス片は原料の珪砂などを溶かせれば比較的簡単に作れる。


「硝子工房は製品を作る職人だから初期からの参入は頼まない。ガラス粉を作るだけだから溶かす工程だけで水で急冷すればいけたはず……」


 前世の記憶にガラス細工でスタートアップしようとしていた若者を支援したことがあった。デザイン性に特化して軌道に乗って独り立ちしていた。


『彼はデザインセンスと技術が抜群だった。製作工程は見ててとにかく楽しかった。彼も楽しそうに作業してたな。デザイン画はイラストみたいだった』


 ふと彼の作品を妻にプレゼントした時の笑顔が思考をかすめた。ルクレイは妻に笑顔をもたらす起業は利益を度外視したものが多かった事に苦笑した。


『今世はヴィーの笑顔をたくさん集めないと。そうだ、ガラス細工を作ろう。ヴィーの個人色を再現してストックするのを最初の目標にしないとだな』


 ガラス粉を作る目標はあっという間に色ガラスにすり替わった。記憶の中には習いながらも上手く作れていない物が多数あるにも関わらず……。


「レイ! おはよー。起きた時にユミナからレイのいる場所が聞けるって嬉しい。今日もいい天気でわたしの気持ちを受け取ってもらえたみたい」


『ヴィーのテンションがまた少しおかしくなってる』


「おはよー、ヴィーは今日も可愛いね。可愛いドレスを纏って髪留めで少し髪を上げてるなんてお洒落。午前中は馬術と武術だけど参加する?」


「参加する! 風壁パンチの調整したいし風壁を駆ける鍛錬も始めたいの。ソフィすごいの、ばら撒いた風壁を使って空中を駆けれるんだよ?」


『空中立体機動! 風壁はかなり凄いしソフィア王女の運動神経も凄い!』


「凄いなぁ。風壁って万能すぎるね。でも、そこに挑戦するヴィーの向上心が素敵だな。でも、駆ける時は乗馬服にしてね。ドキドキしちゃうから」


『もう始まった……。なぜ戦闘訓練の話がそう流れるのか理解できない。二人でにこやかに談笑している姿は遠めだと小動物系で癒やされるはずなのに……』


 ユミナはにこやかに話してる内容がガリガリに武術の戦闘技術にも関わらず頬を染めながら話すヴィオナを見ているとよく分からなくなってきた。


 ルクレイは会話の流れで水属性と土属性で風壁のような物を考えていた。気になったルクレイはヴィオナに相談する事にした。


「んー、リサの話だとリュミエールさんは水壁というのを完成させたみたい。柔らかい状態だと触り心地が良いって言ってた。少しひんやりするんだって」


『発想の原点が壁というより膜ぽい気がするな。水の壁はイメージできるし水の膜みたいなのはアニメで結構見てる。土属性は保留してで水属性で試すか』


「これから暑くなっていくからひんやりは最適だね。ヴィーが快適に過ごせるように水壁を試してみるね。日常で使うなら使い慣れないと危ないからね」


 ヴィオナは「嬉しい」とウルウルした目でルクレイを見た。


『よし、魔力くん。ヴィーの風壁は魔力を見たからイメージは大丈夫だよね? 水壁だから先ずは柔らかめで……スライムぽいヤツでいくよ!』


 ルクレイはシングルハンドセイリングが多く独り言が癖になっていた。独り言を減らすようにしたら魔力くんとの自然な会話のようなものが増えていた。


「最初は発動タイミングを知らせるために言葉を発するのが良いらしいよ? わたしもリサに言われて言葉を出したら風壁が起動したの。リサは先生ね」


 ヴィオナは発動のヒントをルクレイに話した。


『なるほど、確かに馴染むまで短縮詠唱はテンプレのひとつだった。魔力くんもタイミング分かった方が手伝いやすいよね。声出しは協調作業の基本だね』


 ルクレイは手の前にふわふわ触感の水の膜をイメージしながら目の魔力を活性化したつもりになり「水壁」と呟いた。


 ルクレイの手の前に水色の板が出現した。


「すごーい! レイもわたしと一緒で一回目から発動に成功したわ。それにとっても綺麗だわ。水壁に陽の光が入り込んでキラキラしてる〜」


 ルクレイが発動した水壁をキラキラした目でヴィオナは眺めた。そして悪戯心で水壁をツンツンと突いて目を丸くした。


「うそ……すごくふわふわしてる。うわー、これ感触が気持ち良いよ? 波紋ができてキラキラがさらにキラキラで可愛い」


 ヴィオナは指先から手のひらでペタペタと触り方を変えた。水壁の裏側から触ると目に見えるのに抵抗なくすり抜ける事に驚きの表情を浮かべた。


『ヴィーの仕草と表情が可愛すぎる。クリクリした目がさらにクリクリになったり細めたりずっと見てられる。このふわふわ水壁は良いものだ』


 ルクレイはヴィオナの反応を見て魔力くんと水属性に感謝を捧げた。調子に乗り反対の手の前にも水壁を発動してみた。


『おかしい……この二人はおかしすぎる。魔法の習得は祝福の儀から魔力を認識して何度も発動言語を唱えて習得するはずなのに……』


 ユミナは魔法をひょいひょい発動する二人を見ながら首を傾げていた。甘い空気はずっと漂っているのですでに気にならなくなってきていた。


『そもそも壁系なのに柔らかいという意味が分かりません。防御魔法の壁系は硬くて動かないという常識に全面戦争を吹っ掛けています……』


 ユミナの知識ではヴィオナの風壁パンチもルクレイの水壁も常軌を逸していた。その風壁パンチの生みの親がソフィア王女と聞き沈黙を守っていた。


 ユミナがボーッと見ていると気がつけば水壁を空中に並べ始めていた。ヴィオナが身ぶり手ぶりで空中の設置場所を指示して並べていた。


「すごーい! 風壁だと同じように並べてるのに存在感がないのに水壁は綺麗に見えてるー。ソフィが『ずっこい』って言ったの分かる〜」


 風壁が透明すぎ並べても存在感が皆無なのに対し、水壁は陽の光でキラキラと反射する水色の綺麗な板になっていた。


「あっ、乗ろうと思ってたのにドレスでした……。レイ、この板に最初に寝転ぶのはわたしですよ? リオとリクに強請られても最初はわたしですからね」


 ルクレイは「分かった」と笑みを浮かべてヴィオナに返事をした。


 朝食の準備が整ったと侍女が声を掛けに来たのでルクレイがエスコートする形でヴィオナと食堂に向かい歩みを進めた。


「そう言えば風壁の船舶用は抵抗を変えてたよね? ヴィーは教えてもらった?」


「聞いてないよ? 風壁が発動できた後はソフィと武術鍛錬になっちゃったの。ソフィの身体能力はすっごいの。目指すはソフィって感じよ」


 軽くパンチの素振りをしながらヴィオナはルクレイに答えた。


「なるほど。リサリア嬢は氷属性なんだよね。アルフォンスさんたちが扱える属性は特異属性を含めて五個ってすごいよね」


「リュミエールさんだけで三属性ですもの。でもわたしたちだって二人で三属性だから多いわ。それに戦闘は棒か拳ですから問題ないでしょ?」


 ルクレイは「問題ないね」と空いている手でそっとヴィオナの頭を撫でた。撫でる感触がルクレイのマイブームになっていた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 食堂に入ると双子とリドルが席に着き話をしていた。ルクレイとヴィオナは三人と朝の挨拶を交わしテーブルを囲む。


「「ルクにぃ」」「リドにぃと」「レベナに行ってくるー」


 双子の宣言にルクレイは目を丸くした。


 話を聞くと、連絡船が当面は定期運航するので厄介草の在庫を見ながら交流を深めること。新しい糸の製作体験をリューウェンで行うことを説明された。


 確認と手配のみなので一泊予定という話で伝令が同行して向かう予定であること。帰りも伝令がと行動を共にする予定と双子が説明した。


「新しい糸は魔力を流すと固まる不思議な白い粉だったよね? 手配できたら領都にも運ぶようにお願いしておいて。糸以外の活用方法も見てみたい」


「「かしこまりー」」


 双子の久しぶりの掛け声にルクレイは頬が緩んだ。


「あっ、あとビットさんに時間のある時に領都へ顔を出して欲しいって伝えておいて。即席魚粉は漁師さんの協力なしだと先に進まないから」


「「かしこまりー」」「うすみーあじー」「いたみーさばー」


「当面、魚粉で使うのはサバかな」


「「あいあいさー」」


 双子はメモを取り出して二人で相談しながら書き出した。見ているとリドルが横から字の間違いなどを指摘してお手本を書いていた。


『リドルは弟属性と兄属性のダブルか!……いや、普通にお兄ちゃんしてるだけなんだけど。リサリア嬢と二人姉弟だから弟は欲しかったりするんだろうな』


 食堂の扉がノックされ伯爵夫妻と前伯爵夫人が入室して朝食になった。食事中だがヴィオナは気になったことをルクレイに話しかけた。


「レイ、製糸工房に関わってる話は聞いてたけど魚粉ってパラパラする魚粉よね? レベナで作る話になっているの?」


「何となくね。リューウェンの魚粉工房のグランゾさんが広げたいみたいでレシピとか色々と手配してくれたんだ。その流れで作る感じ?」


 話の流れにヴィオナが目を丸くした。


「とりあえず、素材の魚が必要だから漁師のビットさんに声掛けようかなと。工程が下拵えして煮て浸けて乾燥させて粉砕だから当面は片手間かなぁ」


 ルクレイは小さく始める方向で考えていた。


「リューウェンに行くときは漁業を見させてもらおうと思ってる。レベナは不漁気味だから漁具も確認しておきたいと思ってる」


 ヴィオナは「いつごろ行けそう?」と上目遣いでルクレイに質問した。


「数日かなって思ってるけど伯爵様はどう思いますか?」


「ん? その様は微妙だな。バル義父さんでどうだ? カリスタはどう思う?」


「普段は家族だけじゃろ、そんなのは『義父さん』と『義母さん』で十分だろ。ルクレイ、私は『婆さん』でいいぞ」


 あまりにイゼルダ前伯爵夫人の案は雑すぎるとルクレイが主張して『お義父さん』、『お義母さん』、『お祖母様』に決まった。


「なぜ私だけ様なんだい?」


 イゼルダ前伯爵夫人の問いかけに「響きが好きだから」とルクレイが答えた。するとるイゼルダ前伯爵夫人はケラケラ笑って了承した。


「あぁ、村の状況だったな。やることは決まってるからルクレイは無理に顔を出す必要はないぞ。相談はするかもしれないぐらいだな」


 ルクレイは頷き「ガラスの原料はどう?」とリドルに話を振った。


「キメランが乗り気で連絡船に積み込むと言ってたから数日ぐらいで届くと思う。添加物も集めてるみたいでちょっとキメランの話す勢いが怖かった」


 リドルは勢いに押されて疲れたと苦笑いを浮かべた。


「レイはやる事が沢山ですね。他にも予定しているものはあるの?」


 小首を傾げたヴィオナに聞かれた。


「あとは……さっきみたいな魔法の検討というか検証かなぁ。特に土属性の様子を見ておきたい。それと魔道具の外装と棒の検証とかかな」


 ヴィオナは「やっぱり多い」と少し唇を尖らせた。


『少し拗ねちゃったけど表情が可愛い……』


「あとで冒険デートに出掛ける時期も後で検討しましょうね。リサが勧めてくれた『深緑の湖』にしましょう。とっても楽しみ」


 ヴィオナはスネ気味の声で話し始めたが声のトーンが上がり笑顔になった。


『ぐはっ。めちゃ楽しみな顔でウキウキされたらダメとは言えない。移動手段を大至急なんとか考えないと……荷物あるから馬車と湖を渡る道具……だな』


 バルテア伯爵が「冒険デート?」と首を傾げた。


「最近見つかってる洞窟や亀裂の探索許可をもぎ取ったから入れるの。陛下のサインも入ってるから正式な許可書なのよ」


 ヴィオナは胸を張ってバルテア伯爵に自慢した。


「また……陛下のサインか……。ソフィア王女とリサリア嬢が親友というのに驚いたが……すでに色々とやらかして手に負えない……」


 バルテア伯爵は肩を落とした。


「まぁ、ヴィオは手遅れな『冒険派』ですから致し方ありません。ソフィア様たちも洞窟は六層までソロ踏破しているとリーズ側妃様に聞きました」


 カリスタ伯爵夫人は諦めの視線でヴィオナを見た。


「とりあえずヴィオはルクレイの言うことは守るように。ルクレイと一緒なら何とかなるでしょう。ただし、探索予定は報告するように」


 釘を刺されたヴィオナは「はい」と真面目な顔で答えた。――あっという間に冒険デートが決まりルクレイは準備で忙しくなった。


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