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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第六章 二人は婚約して冒険デートに出かけたい

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第二節 リガレアへの帰還と報告して婚約した

 ルクレイとヴィオナは戦闘方法を話しながら来たルートを戻り村へと向かった。


「ヴィーの風壁パンチは威力が高いから、相手の強さに合わせて軽めにパンチした方が体力の温存に繋がると思う。左右のステップも動きが大きかったよ」


「えー、だってレイに良いとこ見せたかったからつい力が入っちゃったんだよ? レイがチラチラ気にしてくれてるのが嬉しかった」


「ヴィーの風壁パンチはとっても可愛かったよ」


『始まった……戦闘の話でなぜ空気が甘い方に自然と歪んでいくの? やっぱり呪いなのでは……。なぜパンチを繰り出す仕草で甘さが増すの?』


 戦闘侍女はユミナに頼まれたこともあり二人を観察していたが奥歯の奥が痒くなってきた。騎士リーダーを見れば悟った顔になっていた。


「あっ、ディアが出てきたね。ヴィー、棒で軽く頭を叩いて。気絶したら僕が血抜きして樵たちが運んで村に持ち帰ろう」


 ヴィオナが「分かった」とルクレイに笑顔で答えた。


『おかしい、これはディア狩りよね? なんだか森林デートにしか見えなくなってきた。……どんどん血抜きされたディアが増えていく』


 周囲の空気と目に映る現実の乖離に戦闘侍女の思考が崩れていく。視界には叩きどころが良かったと褒められ撫でられている少女の笑顔が見えていた。


「これ以上は持てないから角持ちだけ攻撃してきたら殴って気絶させよう」


 ルクレイは狩りの終了を宣言した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ルクレイたちが村に戻ると村長が近づいてきた。後からついてきた男性たちに村長があからさまな警戒感を滲ませていた。


「彼らは領都所属の樵たちです。後で迎えを回すので村で面倒見ること。樵たちは迎えが来るまでは周囲の森林調査とディア狩りをすること」


 ルクレイは村長と樵に指示を出した。


「ディアを減らすので頑張るように。獲物は村の資産とします。村長は頭数を管理して後で報告ね。討伐報酬は後で集計して支払うので樵たちは頑張ること」


 ルクレイが「良いですね?」と村長と樵たちに声を掛けた。村長と樵たちは顔を引きつらせながら頷いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ルクレイとヴィオナを乗せたニロンは隊列を先導して南下した。街道の脇を南下していくと領都リガレアの防壁が見えてきた。


 ニロンたちはそのままリガレアの北門に向かっていく。門を通り街中に入ると伯爵邸マナーハウスに向かう道すがら騎士リーダーと戦闘侍女に指示を出した。


「騎士リーダーは騎士団に戻り騎士団長たちに情報を伝えて。場合によっては緊急出動があるかもしれないから騎士団長に顔を出すように伝えて」


 騎士リーダーは「了解しました」と答えた。


「戦闘侍女は本館に先触れに向かって。ヴィーは身支度するので手配をお願い」


 戦闘侍女は「畏まりました」と答えた。


 ルクレイが指示を出し終え騎士リーダーと戦闘侍女が動こうとしたタイミングで後方から聞き慣れた声が聞こえてきた。


「「「ルクにーーーーぃ」」」


 ルクレイが振り向くと騎乗したマルセリオとフィリクス、そしてリドルの三人がいた。ルクレイは満面の笑みを浮かべて三人に声をかけた。


「リオー、リクー、リドルー、ただいまーー!」


 騎士リーダーと戦闘侍女は指示に従い先に移動を開始した。


「「ヴィオ姉様! おかえりなさーい!」」


 ルクレイがニロンからエスコートしてヴィオナを降ろすと双子がヴィオナに飛び込んだ。ヴィオナはニコニコしながら双子の頭を撫でた。


「ただいま。リオとリクはレイと仲良くなったのね。お姉さんはとっても嬉しいわ。さっ、お家に帰りますよ。王都のお土産もあるからね」


「「やったーー!」」


 伯爵邸マナーハウスまで遠くはないのでルクレイたちはゆっくりと歩いて街中を進んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ルクレイたちは伯爵邸マナーハウスに戻るとヴィオナだけ身支度に送り出し四人はラウンジに向かった。途中執事に伯爵夫妻と前伯爵夫人に集まるよう頼んだ。


 ラウンジでテーブルを囲むとルクレイはリドルにリューウェンの話を促した。


「リューウェンは一先ずの手当を終わらせました。製糸工程は『コロコロ』までとしてます。その先は魔道具が関わりますのでカンコールに任せようと思います」


「了解した。バタバタと送り出してごめんね。オランド号がいたから丁度良いと思って慌てちゃった。製糸工房は一緒に立て直そう」


 ルクレイは頷いて立て直しを進めようと話した。


「ルクにぃ。それなんだけど……ルクにぃはすることが多いと思うの。僕が原因ではあるんだけど……。だから製糸工房は僕とリオとリクで進めたいと思う」


「「リドにぃ」」「一緒に」「頑張ろうねー」


 ルクレイは目を丸くして「どうしたの?」と三人に質問した。


「製糸工房の件はコツコツと進めれば解決に向かえるって判断したんだ。リューウェンとレベナはうちの連絡船を行き来させるから連携も良くなる予定なの」


 ルクレイは「助かる」とリドルに笑顔を向けてリオとリクの頭を撫でる。


 ラウンジの扉がノックされバルテア伯爵とカリスタ伯爵夫人が入室した。ルクレイは席を立ち王都から帰還した報告をしヴィオナは身支度中と伝えた。


 再び扉がノックされイゼルダ前伯爵夫人が入室し全員でテーブルを囲んだ。


「ヴィオナ嬢は身支度中ですし報告に関しては先に始めます」


 ルクレイは前置きをして任命責任に関する報告を行った。仲介役としてユリウス公爵子息に相談しその日のうちに国王陛下に報告した件を伝えた。


「ルクレイ……いきなり公爵家に行ったのか? ユリウス様と面識があるとはいえ……その選択肢は貴族ならあり得ないと理解しているのだろう?」


 バルテア伯爵は呆れ顔でルクレイに突っ込みを入れた。


「それは理解しています。でも僕は『落とし人』です。伯爵様たちに庇護される形に収まっていますが元々王宮案件の対象なので勝算はありましたよ?」


 バルテア伯爵は「はぁ」とため息を吐いた。


「結論としては、陛下は在地貴族を減らしたくない意向です。今回の件で考えている処罰は罰金か労役です。どちらも今起きている異変の復興に使うとのことです」


「陛下としては温情を見せるということか」


 ルクレイの説明を聞いたバルテア伯爵は顎に手を当て呟いた。


「少し違います。今回の件は王宮産業局にも処罰を考えているようです。つまり、不正に関与した者を徹底的に処罰し後は痛み分けといった感じでしょう」


「ルクレイ、聞いておきたいんだが王宮で誰に会ったんだい?」


「国王陛下と両妃殿下です。あと別件ですがソフィア王女とも会っています」


 質問したイゼルダ前伯爵夫人は「やっぱり……」とこぼした。


「王宮はこの件を徹底的に調べて対処すると決めたんだね。ヴァルディス国王陛下は凄い方だが両妃殿下もとても素晴らしい方たちだからねぇ……」


 イゼルダ前伯爵夫人は「ソフィア様が参加した理由は?」と追加で質問した。


「ソフィア王女の件はヴィオナ嬢の身支度が終わって合流してからにしましょう」


 イゼルダ前伯爵夫人は「そうかい」と頷き場をルクレイに戻した。


「産業局の動きですが昨日連絡したように異常と思える行動をしています。この件も僭越とは思いましたがユリウスさんに伝えて王家に伝えてもらう手筈です」


 バルテア伯爵は首を振って「打つ手が早すぎるぞ」と声が疲れていた。


「今回の樵や狩人の契約解除が埋もれると多くの領地で問題が発生して混乱が広がります。王家が動いたほうが全体的に統制が取れると判断してます」


 バルテア伯爵は「うむむ」と唸った。


「ルクレイの情報で昨晩から全ての村に査察官を送った。手が足りんから騎士団の事務方まで集めてるが報告に瑕疵があれば処罰すると言ってある」


 扉がノックされヴィオナが入室しトコトコとルクレイの隣に座った。


「えーと、話の途中ですが報告させて頂きます。僕とヴィーは婚姻を前提に婚約を結びたいと思います。ぜひとも承諾を頂きたく思います」


 ラウンジを沈黙が包んだ。


「あれ?……ちょっと待ってくれ」


 バルテア伯爵がカリスタ伯爵夫人を隅に呼び内緒話を始めた。イゼルダ前伯爵夫人はニヤニヤと二人に視線を向けていた。


 マルセリオとフィリクスは目を丸くしてヴィオナを見つめていた。リドルは目を瞑り空気を演じていた。ルクレイは『やっぱり』と遠い目をした。


 ヴィオナは頬を染めながらキラキラした目でルクレイを見つめた。ルクレイは見惚れながらもニコッとヴィオナに微笑みを見せた。


「あー、婚約と婚姻に関しては許可しよう」


 内緒話が終わったバルテア伯爵は頭を掻きながら席に座り許可を口にした。


「「ルクにぃが!」」「ほんとの!」「にいさん!」


 双子はルクレイに飛びついた。ルクレイは双子を受け止めそっと立たせた。


「リオ、リク。これからもよろしくね」


 双子の頭を撫でて席に座るように指示を出した。


「ヴィー、許可を頂いたよ。僕のお嫁さんになって末永く一緒に生きていこう」


「はい。わたしはレイのお嫁さんになる」


 ヴィオナは溢れそうになった涙をルクレイに抱きつくことで隠した。


「まあ、及第点は軽く超えたかね」


 イゼルダ前伯爵夫人はやれやれと首を振りバルテア伯爵に向き直った。


「今回、カリスタが王都に行ってたから意思疎通が滞ったのは仕方がないと思うが手際が悪いよ。ルクレイを王都に送り込むとき意図ぐらい伝えときな」


 バルテア伯爵は眉を下げルクレイとヴィオナに顔を向けた。


「いや済まない。ルクレイにヴィオとの婚約を打診するつもりだったが手順がおかしくなってしまった。まさかこの状況になるとは思わなかった……」


「実はこうなると思ってました。ユリウスさんも婚約の打診をセシリアさんの両親に申し込んでポカーンとなったそうです。僕もそうなると釘を刺されました」


 ルクレイはバルテア伯爵に答えヴィオナに顔を向けた。


「ヴィーにイヤーカフと手袋をガゼボでプレゼントしたのはこの空気で渡すのは避けたかったからなんだ。あのとき渡して良かったと安堵してるとこ」


 ヴィオナは見渡して「確かにそうね」と言ってくすくすと笑った。


「これの効果が薄れたけどお父様とお母様に見せますね」


 ヴィオナは侍女のユミナから書簡を受け取りテーブルに広げた。


 バルテア伯爵とカリスタ伯爵夫人は書簡に顔を近づけ内容を悟るとヴィオナを愕然とした顔で見つめた。


「ヴィオ、これって婚約許可書と婚姻許可書……陛下の署名入りじゃないか。あと、なんでルクレイが十二歳の届け出になってるんだ?」


「陛下がヴィーと同い年の方が良いだろうと修正してくれました。あくまでも祝福の儀で十歳以上が確定しただけなので問題ないそうです」


 バルテア伯爵は言葉を失って呆然としていた。


「フッハッハッハ。相変わらず陛下は悪戯で手を抜かないね。二人が十二歳なら三年後には成人の儀になるね。楽しくなってきたよ」


 イゼルダ前伯爵夫人はからからと笑った。


「これでルクレイの王都での噂は否定できる物はなくなりました。ルクレイは二つ名が三つになるので言動には注意しなさい」


「お母様、ルクにぃに二つ名があるのですか?」


 珍しくマルセリオだけで質問した。


『あっ、カリスタ夫人はバラす気満々……』


「ルクレイは短い王都生活でしたが『女神様の愛し子』と『魔道具の申し子』、そして『露店広場の英雄』という三つの二つ名が鳴り響いてますよ」


「「ルクにぃ! カッコ良い!」」


 両手を上げピョンピョン跳ねる双子を見てルクレイはガックリと肩を落とした。


 こうしてルクレイとヴィオナ伯爵令嬢は正式に婚約が結ばれる事となった。二人の耳元にはイヤーカフが優しく光を反射し煌めいていた。


 ラウンジにいる誰もが思いもしない事態が王都で起きていた。


 王都で有名な『露店広場の英雄』とお相手のヴィオナ・メルカド伯爵令嬢の婚約が整ったと既に事実として流れ社交の場で盛んに消費されていた。


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