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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第五章 ドタバタ続きで王都再訪したら陛下が爆走

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第一節 二度目の王都とヴィオナとの共同作業確定

「ニロン、このペースならガルディオスに予定通りに着きそうだね。ザルム町は二回訪れたけど昼食のみだからゆっくり町を見てみたいよね」


 ニロンはブルルと鳴いた。


「確かに果物が結構あったね。小麦の産地って習ったけど果樹園も多いのかも。あの黄色くてシャクシャクする果物は美味しいよね」


 ニロンがチラリとルクレイを見てブルルと鳴いた。


「大丈夫、結構買ったの見てたでしょ? ほとんどニロン用だから楽しみだよね。あれ、乾燥はイマイチだけど粉末にすると紅茶に合うんだよね」


 ルクレイは風味が良く匂い立つ香りが気に入ってた。粉末にした時にニロンが睨んだけど後悔はしていなかった。


 ニロンは憮然とブルルと鳴いた。


「今日もニロンは厳しいなぁ。ニロンの分は粉末にしないよー。あの果物の木って苗木とか売ってないのかな? 特産だと難しいとこだよね」


 ルクレイとニロンは呑気な雰囲気で駆けていたが状況は呑気ではなかった――。


「呼び戻してすまない。ルクレイから糸の搬出に関する指摘で調べ直した。案の定というか数値を改ざんして誤魔化してた」


 バルテア伯爵は疲れた顔で俯いていた。


「状況を整理しましょう。数値になってるのは厄介草の伐採量と製糸量のふたつということですよね? レベナとのやり取りは数値になってませんか?」


 ルクレイは一人歩きし始めている数値類の整理を確認し始めた。


「レベナとの間も数値にしているが正確性が全く分からん。数値だけ見ると辻褄合わせで正しく見えるのが厄介すぎる。拠り所がハッキリしない」


 バルテア伯爵は肩を落としたまま答える。


『これは典型的な改ざん案件だな。数値を握ってる産業局が改ざんしてるなら外部の数値を持ってくるしかない。救いは王国法の案件ということだ』


「内部の数値は諦めましょう。製糸法に興味が出て読んだ範囲では伐採と製糸は産業局の外ですよね。そこの搬入出に関する数値を取り寄せて詰めてください」


「なるほど、確かに伐採の委託先と製糸工房は数値を持っていて産業局は書き換えられない。厄介草の搬出前の在庫も調べ直せば確定値が出せるな」


 バルテア伯爵は情報収集ができる可能性に気が付いた。道筋として良くはないが事態を把握するために必要な措置と理解した。


 双子のマルセリオとフィリクスは静かに二人のやり取りを見ていた。


「王宮に出してる書類の写しも疑うしかない状況だと思います。こちらの確認はどうなってますか?」


 バルテア伯爵は「動けてない」と力なく答えた。


 ルクレイは製糸法の中身を思い出す努力を進めた。ダメなことシリーズで風変わりな内容から興味を持ち製糸法は一通り目は通していた。


『王宮に提出した書類は公文書だ。公文書偽造は伯爵様の任命責任に繋がる。出陣期間は一月だからこれを利用するしかないのか?』


 ルクレイは責任逃れというか軽くする方向に思考を逸らして検討を始めた。


『いや、それは窮地まで行かないと手札として弱い。森林管理に関する通知まで握り潰してた。こっちは出陣してなければ検知できたはずだな』


「伯爵様、これは王宮に説明に出向いて話を仕切り直すしかありません。出陣から戻って二週間ほどですから名分が立つところもありそうです」


 バルテア伯爵は「名分?」と目を細めた。


「不正に気が付かなかった点は……どうしようもありません。ここを問題として王宮が処罰するならば諦めるしかありません」


 バルテア伯爵は頷いた。


「ここで考えるべきは気が付いてからの対処する動きです。ここは伯爵様の努力の部分です。僕が祝福の儀を受ける頃には対処を始めてましたよね?」


 バルテア伯爵は「始めていたな」と答えた。


「昼食で本館に呼ばれたのは伯爵様が戻って三日後だったはずです。つまり、戻って直ぐに異常に気が付いて対処を始めてます」


 ルクレイは話の整理を始めた。


「もうひとつはカリスタ夫人が王都にいた件です。ヴィオナ嬢が言ってましたが予定では彼女だけ王都に移動して王立学園に入学手続きをしていたはずです」


 本来なら領務を担う伯爵夫人の不在が対処の遅れを招いたとした。


「重要な点は、王立学園閉鎖にアルフォンスさんとシグヴァルド公爵子息が関わっていることです。ユリウス公爵子息から聞いたので間違いはないでしょう」


 不在の原因に王家そのものが関わっていると指摘した。


「王立ですから王家が関与する学園です。そこの不手際で入学年齢の子を持つ貴族家が右往左往しています。場合によっては処罰の軽減を上奏する理由にできます」


 バルテア伯爵は目を見開き絶句した。


「強引ではありますが嘘は含まれていません。森林管理の件もですが王宮ですら気が付かずに長らく放置した結果です。そこは王宮に認めさせる必要があります」


 バルテア伯爵は「さすがにそれは……」と言葉を絞り出した。


「恐らく言えば王家は認めます。だから最初から言う必要はないですし言う必要も恐らくありません。これは王宮に向かうときの心を静める呪文みたいなものです」


「なぜそれほどに断言できるんだ?」


 バルテア伯爵は心から不思議そうな顔でルクレイに聞いた。


「行き着くところはアルフォンスさんという存在です。彼ほど特異な存在はいません。それを普通に受け入れている王家は恐ろしく懐が大きいと感じてます」


 バルテア伯爵は「ふー」と息を吐き出した。


「話の内容はすべて私も頭に入ってる内容だな。『発想の転換』というのは見方から固定観念を外すということか。助かった、頭がスッキリして考えることができる」


 ルクレイは「それは良かったです」と笑顔を見せた。


「私は領地に誠意を見せることにしよう。悪いが王都にはルクレイが行ってくれ。改ざんされた資料は集まってるから持っていって良い」


 ルクレイは「えっ?」と笑顔が凍りついた。


「領内の問題点を洗って対処するのは私しかいないだろ? 今ならギリギリでカリスタが王都に残ってるはずだ。相談して王宮対応を進めてくれ」


 ルクレイは「えっ?」と困惑の表情に変わっていった。


「ただ、カリスタが王都を出てこっちに向かう時期は明言されてなくてな。もしかしたら王都から出てる可能性はあるんだ。その時はヴィオと相談してくれ」


 ルクレイは「ちょっ?……ヴィーと?」と脳内が混乱信号を発した――。


「あっ、ガルディオスが見えてきた。ニロンもう少しだよー。前に来たときは名前なしでヴィーとも出会ってないときだよね。なんか随分前に感じる」


 ニロンはブルルと鳴いた。


「そうだね、ニロンとは出会って一緒に駆けていたよね。……少し立ち入るけど、ニロンはお祖母様をどう思ってるの? 前は乗せていたんだよね?」


 ニロンは返事をせずにただ駆けていた。


「リオとリクがお祖母様の表情が変わったって言ってたんだ。ヴィーはお祖母様とニロンが和解して欲しいと言ってたけど、そういう話ではないんだよね?」


 ルクレイは返事がないことを気にせず質問を続けた。


「僕は何となく人が抱いてる感情がふわっと分かるんだよ。ニロンが僕の相棒になってくれて王都から戻ったときから、お祖母様の僕に対する感情が変わったんだ」


 ルクレイはくすくすと小さく笑った。


「ふふふ、変な言い方だけど『ニロンが認めたなら認めてやろう』的な感じかな。双子との距離感には少し眉が寄ってたけど許された感じだったよ?」


 ニロンはブルルと鳴いた。


「そうなの? 良かったヴィーの超可愛い笑顔が見れそう。楽しみ」


 ニロンはぶすっとした雰囲気で速度を上げた。ルクレイは速度の変化に応じて騎乗姿勢を変化させて落とされないように対処した。


 瞬間的に置いていかれた三名の騎士と戦闘侍女が追従するため速度を上げた。


 ガルディア伯爵領の領都ガルディオスに入ったルクレイたちはメルカド伯爵家が定宿にしている宿に入り夕食を食べていた。


「明日の渡し船はまた混雑してるのかな。渡し船って長閑だけど乗るまでの喧騒にビックリしたよ?」


「そうですね。知り合いは『改善案の話は出るけれど纏まらない』とボヤいてました。渡し船は多いですから纏めようがなさそうですね」


 前回、知り合いを見つけた騎士が教えてくれた。


『それもそうか。あの喧騒だからやれてる人もいるか。改善のつもりで組織化しても、組織は力だから一種の暴力装置になっちゃうもんな』


 ラビのステーキを切り分けながらルクレイは考えていた。


「これはルクレイ殿! こちらで会えるとは思いませんでした」


 突然名を呼ばれたルクレイは見上げると最初に出会った斥候の男性だった。


「あっ、初めて領都に向かう時に同行してくれた斥候さん……すみません名前を聞いてませんでした」


「いえいえ、実は名乗ってません。騎士団は多いですからあまり名乗りません。隊長や師団長ともなれば名乗りますが、下っ端は名乗らないのが決まりです」


 ルクレイは目を丸くした。


「そう言えば、騎士の人たちは名乗りませんし……侍女の方々も名乗らないですね。侍女で知っているのはアユナとユミナだけでした」


「専属侍女の場合は関係性を考えて名乗ります。ユミナはヴィオナ様の専属ですから名乗ったのですね。アユナの姉というのもあると思います」


 騎乗できる侍女として同行していた戦闘侍女の女性が説明してくれた。


「もう少し説明しますと距離感の問題もあります。近しい関係は良いことではありますが、他家の方が見た場合に認識のズレが問題を引き起こす場合があります」


「あー、何となく分かった気がします。僕の呼び方でアユナが執事長に相談してました。距離感を考慮して『ぼっちゃま』でしたけど微妙ですよね」


 話を聞いていた騎士たちが吹き出していた。


「斥候さんはなぜここに?」


 ルクレイは咳き込んでる騎士は無視して斥候の男性に話しかけた。


「そうでした! ルクレイ様に書簡を届けるため移動していました」


 斥候の男性は上着を脱ぎ抱え袋から書簡を取り出しルクレイに渡した。


「あっ、ヴィオナ嬢からですね」


 周囲に断りを入れてルクレイは黙読でヴィオナからの手紙を読み進めた。


「あー、間に合わなかったか……。カリスタ夫人は今朝王都を出たようです。ということはヴィオナ嬢と対応を進めないとダメな案件になったか」


 ルクレイは苦笑いを浮かべて書簡を丁寧に閉じて小箱に入れて仕舞った。


「侍女さん、カリスタ夫人は出たようなので、ヴィオナ嬢の付き添いをユミナと相談してください。王都のお仕事が重めになったので帰還の時期は未定です」


 戦闘侍女は「畏まりました」と答えた。


「斥候さん、このまま領都に向かってください。伯爵様に『二人で頑張ります』と伝言をお願いします」


 斥候の男性は「了解しました」と答え略礼を取った。


 当初予定していた王宮対応にカリスタ伯爵夫人を前に出す方針は廃棄となった。ヴィオナと二人で場当たり的な対処を行うことになった。


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