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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第四章 メルカド伯爵領に見つかる問題とノルド子爵家との繋がり

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第六節 コロコロの力とリューウェンと肩を組もう

 翌日は早朝から四人の男の子が波止場の貴族専用桟橋で騒いでいた。


「「リドにぃ」」「お腹冷やしちゃ」「ダメダメだよー」


 双子のマルセリオとフィリクスは心配顔でリドルに助言した。


「いやいや、僕はお腹を冷やしたことないって」


 双子からの冤罪に反証しようとするリドルは必死だった。


『リドルが朝からくしゃみしただけで腹出し疑惑事件になっている件』


 ルクレイはくしゃみひとつが大事件のように大騒ぎになっていることを不思議に思った。三人は真剣に話しているだけに止める機会を失っていた。


「リドル様、乗船を許可します。ヘラムと一緒に上がって来てください」


 船べりからメダル船長が顔を出してリドルに乗船許可を通達した。これは、厳密にいうとオランド号がアルフォンス所有船になっているためである。


「じゃ、行って来るねー」


 リドルは渡し板を上がりオランド号の船内に入っていた。ルクレイたちは桟橋を戻りオランド号から距離を取った。


 オランド号の船尾楼にリドルが顔を出し手を振ってきた。ルクレイたちも元気に手を振り返した。


「「「良き風に出会えますようにー」」」


 ルクレイたちは船乗りが掛ける無事を祈る言葉をオランド号に向けた。オランド号は展帆して風を掴みスルスルと桟橋を離れ外洋に向かって行った。


 レベナの港は海岸航路の港の中では一番小さい。貴族専用桟橋は二本、通常の桟橋が四本となっていた。湾は狭く工夫した形で桟橋が設置されていた。


 立地の関係で結果として他の港と違い全ての桟橋が陸風に依存せず出港が可能だった。おかげでリューウェンのように早朝に混雑することはない。


「「ルクにぃ」」「朝食を」「食べよー」


 ルクレイは双子に「分かったー」と返事し三人で代官屋敷に向かい駆け出した。


 朝食が終わったルクレイたちは町中を徒歩で移動していた。最初の目的地は棒を入手するため木工工房である。少し海から離れるが棒は必要だった。


 看板に『ベリーナ木工』と書かれた工房に三人は入って声を掛ける。


「すみませーん」「「たのもー」」


 ルクレイは「えっ?」と双子の方に視線を流した。


「はいはーい、……これはこれはいとし……ルクレイ殿、よくぞ参られた」


『話は流れてるみたいなんだけど……参るって……』


「ダメですよ。二人は伯爵家の子息です。挨拶をしないというのは流石に看過できません。順番は問いませんが挨拶をしてください」


 男性は気が付いて顔を青くして深くお辞儀した。


「マルセリオ様、フィリクス様。本日は当工房にわざわざのお越し誠にありがとうございます。当工房のベリーナと申します」


「「よろしくー」」


 ルクレイは挨拶を見届けたのでベリーナ工房主に要件を切り出した。丸い棒が欲しいことを伝えて直ぐに出せるものがあるか確認した。


「丸い棒ですか。在庫というか見習いがテーブルの足に仕立てる前準備が終わったものであれば十本ほどあります。仕立て前なので少し太いですが……」


「仕立てには使わないのですか?」


 ルクレイは首を傾げ念のため確認した。


「見習いで作る範囲ですから時間は掛かっても技術には繋がりますので問題ありません。イゴルトのことは聞いています。ぜひお持ちください」


 ルクレイは礼を伝えイゴルト製糸工房への配達をお願いした。


「もちろんです、棒といえど十本ともなると荷車を使わないと大変ですからな」


 ルクレイたちは工房を後にしてテクテクと歩いていた。するとガヤガヤと荷車を引く集団も歩いていた。集団がルクレイに気がつくとお辞儀をした。


「あのー、みなさんはどちらに向かうんですか?」


 ルクレイはお辞儀され気になったので声を掛けた。


 集団で体格の良い男性が「あっあ……」と言葉に詰まって固まった。


「僕は落とし人のルクレイ、こっちはリオとリクだよ。言葉遣いは気にしなくていいよ。僕たちお忍びで来てるんだよね〜?」


 ルクレイがマルセリオとフィリクスに笑顔で目配せした。


「「僕たち忍びし者だよー」」


『いやそれ、意味合いがかなり変わってないか? 覆面するのか?』


「配慮ありがとうございます。俺らはこれから漁に出るところです」


「「漁師さん?」」


「はい。レベナには漁師ギルドがないので元締めみたいな感じの責任者をしてるビットと言います。基本的に湾内で漁をしますので出港時間帯を外しています」


『ラッキー、漁を確認したかったから良い機会だ。漁船や漁具を調べておけば釣りする時に準備しやすい。やっぱりスズキやシイラとか釣りたいなぁ』


「船を見てみたいのでついていきますね」


 ルクレイは有無を言わせず集団に混ざって海岸に向かって歩き始めた。流れのままルクレイは漁のやり方を尋ね情報収集を始めた……そして愕然とした。


『糸は厄介草の糸なのは想定してたけど竿を使わずカッタクリは……まぁ漁船ならアリとしよう。問題はオモリが石……サルカンもなく釣り針に返しがない……』


「この漁をする道具ってどこも同じ感じなの?」


「同じです。レベナに漁具を扱う工房がないためリューウェンで買っています。リューウェンの湾は大きく深さも結構ある場所も多いので糸の長さは違います」


 ビットは苦笑いを浮かべた。


「レベナは比較的浅い場所が多いので一巻あれば四個は仕掛けが作れます。針がレベナで入手できればいいのですが鍛冶工房は領都で針は作ってません」


 ルクレイは頭の中で頭を抱えた。


『メダル船長から貰ったアルフォンスさんの作った釣り針は返しがあった。このズレは何だろう……。リューウェンで売ってると言ってたから確認かな』


 集団は漁のための船を置いている場所に着いた。場所は湾から少し川に入った場所で簡易な桟橋に係留している河川船だった。


『漁に使う船が……河川船。いや、河川船といっても河口付近ならそれほど問題はない……ないけど……明らかにオールが二本では遠くに出れないだろ!』


 ルクレイはリューウェンの漁業を視察することを心に決めた。


 ルクレイたち三人は元気に漁に向かう漁師たちに手を振りながら歓声を送った。


「「ルクにぃ」」「あのひとたち」「何を釣るのかな?」


「あー、何を釣ってるのか聞き忘れたね。魚を売ってるお店に聞いてみようか」


「「あいあいさー」」


『えっ? その掛け声はどこから出たの? オランド号……なのか? かしこまりは出処が分かってるんだけど……って、あいあいさってどんな意味だっけ?』


 ルクレイは少しだけ悩んだが双子が魚屋を見つけて駆け出したので後を追った。


「「ルクにぃ」」「お魚さん」「いないよ?」


「あのー、魚って売ってないんですか?」


 魚屋の店主は頭を搔きながら入荷待ちだと教えてくれた。


「リオ、リク。さっき猟師さんを見送ったよね? まだ漁から戻ってないからお店に魚がいないんだよ」


「「そうだった!」」


「お昼頃には一度戻ってきますので楽しみにしていてください。ただ、最近はあまり獲れないようで入荷数はあまり多くありません」


『んがー、こっちは漁獲量が減ってるって……あっ、森林管理の予算をちょろまかしたやつじゃん。森が荒れたら漁獲に影響するってのは……常識だ』


 ルクレイは双子と手を繋ぎ製糸工房に向かった。


『だから森林管理の失敗はまずいんだよ。元に戻す努力を年単位でコツコツやらないとダメなんだから。魚探ないから資源量の確認すらできん……』


 ルクレイは前世の記憶の中にある人災天災で森が荒れ海産物に被害が出たニュースやドキュメンタリーを思い出していた。


『いやまて、記憶に引きずられるな。危機的な状況はたぶん大きく外していないと思う。ただ、原因が必ず同じという規則性などない』


 ルクレイはイゴルト製糸工房の入口を通り工房に入る。


『まずは起きていることを伯爵様と情報を共有して方針が出せるものから進めていくしかない。どうせ数年掛かる案件ばっかり目白押しだ』


 ルクレイは緊急対応が長期的に対応する案件の邪魔をする場合があると理解していた。何度も緊急対応に走るメンバーを引き止め考えさせた記憶があった。


 ルクレイと双子はイゴルト工房主に挨拶し、ルクレイは一部の作業を効率化して少し時間を稼ぐと伝えた。


 干場に従業員を集めるよう頼みルクレイたちは先に干場に向かう。


「「ルクにぃどうするの?」」


「まずはコロコロを伝授して積み上がってる厄介草を減らすの良いと思わない?」


「コロコロで厄介草減るけど」「糸はできないよ?」


「うん。昨日、搬入量が少ないって話もあったでしょ。たぶん糸を頑張って作っても領都で処理できない可能性があるんだ」


「「んー、むずかしいよ?」」


「ごめんごめん。コロコロすると繊維糸になって量が少なくなるんだ。厄介草を積んでおくよりは繊維糸を積んでおいた方が扱いやすくなるんだ」


「「んー、確かに小さくなる!」」


「場合によっては繊維糸を領都に送って煮込んでもらってもいい。今は邪魔になってる厄介草を減らしちゃおうかなと」


「減らすと」「仕事なくなる?」


「鋭いね。そもそも厄介草の搬入ってどこから持ってきてるのかも確認したいかな。場合によってはコロコロはそっちでやるとかね」


「「んー、なんとなく」」「分かったような」「分からないような」


「大丈夫、僕もまだハッキリとは分かってない。でも繊維糸にしておけばカンコールさんの魔道具で上手く糸にできる可能性もあるでしょ?」


「「あー、ルクにぃが口にしてた時間稼ぎ?」」


 ルクレイは「まぁ、そうだね」と頭を掻いて苦笑いを浮かべた。


 気が付くとイゴルト工房主と作業員が集まり三人の会話を邪魔しないように静かにして待っていた。三人の真剣味を感じ取り泣きそうな者もいた。


 ルクレイは気持ちを切り替え双子が命名した『コロコロ』の伝授に着手することにした。工程は乾燥魔道具での乾燥、棒でコロコロして繊維糸にする部分である。


「集まってくれてありがとう。全体の工程を最適化するには時間掛かるので出来ることから始めます。まずは積み上がった厄介草を減らします」


 干場に出せていない厄介草を含めるとかなり積み上がっていた。この不良在庫を煮込む前の繊維糸まで加工して嵩を減らすことを目指すと伝えた。


 ルクレイは届けてもらった棒を手に取りリオとリクに渡す。


「リオたちが命名した『コロコロ』を仮名とします。乾燥が終わった厄介草の外皮を取り除く作業を行います。リオ、リク、頼んだよ」


「「かしこまりー」」


 マルセリオとフィリクスは乾燥した厄介草を適当に束にして置いた。そして、地面に座って棒をコロコロと転がす。何往復かすると外皮が綺麗に取れる。


 双子は座る位置を変えてコロコロ工程を繰り返す。


「「ルクにぃ」」「コロコロ」「完了したよー」


 双子が束の処理が終わると声を上げてルクレイに飛びついてきた。ルクレイは受け止めひょいひょいと双子を縦抱っこして振り返る。


「棒でコロコロすると外皮が取れます。ある程度は積み上がってる厄介草を減らす作業中心でお願い。手が空いてきたら糸にしてください」


 ルクレイは少しの間、糸の搬出は止められる可能性を話した。領都で状況の確認が終わったタイミングで今後の予定が話し合われると説明した。


「実は厄介草とは違う糸の生産も予定されています。今あるものは掃除して次の新しい糸の受け入れ準備をお願いしますよ」


 作業員たちは「やってやるぞー」と気合を入れた。


 作業員たちは作業場所を開けるための片付けなどで散り話し合いながら作業に取り掛かった。


 ルクレイと双子はイゴルト工房主を誘い工房のテーブルを囲みお茶を飲みながら話し合いをした。


「あのコロコロは画期的です。見ていて目を疑いました。あの画期的な方法をルクレイ殿は考案なされたのですか?」


「発想の転換です。他の方法を含めて魔道具化を進める予定です。ナンニルさんのところにもリドルが情報を伝えるために向かってます」


 イゴルト工房主の驚きを隠さなかった。


「製糸は両家にとって喫緊の課題になってしまっています。共同歩調を取り手を取り合ってこの難局を乗り越えましょう。味方は多いほうが頑張れます」


 ルクレイは仲間がいることを協調して伝えた。


「コロコロで外皮が取れ辛い作業が軽くなりました。現場の雰囲気はとても良いです。積み上がった厄介草が減ればさらにやる気が漲ります」


 イゴルト工房主は力こぶを作り声に張りがあった。


 ルクレイは目に優しさを込めた。


「僕は今回の件で製糸を立て直していけば、製糸法を作るしかなかった王太子の悲願を叶えられるのではないかと考えています」


 イゴルト工房主は「悲願ですか?」と難しい顔をした。


「王太子は製糸する道筋を作ることはできました。しかし、楽でない作業に存続の危機感を持っていたと思います。だから在地貴族に義務として押し付けた」


 イゴルト工房主は考えたこともなかった話をジッと聞いた。


「製糸法は厄介草対策を継続するための苦肉の策だと思います。王太子は製糸法などなくても厄介草を御して欲しいと考えていたと僕は思っています」


 イゴルト工房主は「押し付けない製糸……」と考え始めた。


 ルクレイは双子の頭を撫でながら笑顔をイゴルト工房主に向けた。


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