第五節 製糸工程を皆で考えメダル船長と再会した
今日の査察を終わらせたルクレイたちが代官屋敷に戻ると代官が報告に現れた。
ラウンジに全員で移動して代官からの報告を聞いた。
「本日、貴族専用桟橋にオランド号が入港しました。メダル船長からルクレイ様への手紙をお預かり致しました」
代官は事務官に持たせていた手紙をルクレイに渡す。
ルクレイは「失礼」と断りを入れてメダル船長からの手紙を黙読した。
『内容的には私信のみだな。それにしても気にしてもらえて嬉しい』
ルクレイは内容的に私信のみと伝えオランド号を訪問する予定を伝えた。
「「ルクにぃ」」「オランド号」「乗ってみたい」
ルクレイは苦笑して「確認するね」と伝え、代官に訪問はリドルも含めた四名とした先触れを頼んだ。
「それじゃ先に魔道具の件を話そう。カンコールさんの提案は乾燥と加熱魔道具だけど、僕も魔道具に関してはこの二つに賛成する」
ルクレイは少し真面目な顔になった。
「魔道具は魔石を使います。なので多くの製糸工房が魔道具を入れられなかったと思いました。状況は変わり、魔石の入手手段が増えてますので今なら大丈夫です」
カンコール工房主が「魔石の入手経路?」と首を傾げた。
「魔石は採集に近いと聞きました。今は洞窟といった場所で魔物から入手する経路が増えています。ただ、これは国策に属すので王宮行きの案件としましょう」
リドルが「王宮を巻き込むの?」とルクレイに聞いた。
「製糸工房の件は結局のところ王宮の案件になると確信してる。ノルド領とメルカド領で製糸工房の件が顕在化したのは必然です。セトリアナ大河が近すぎる」
「そうか、厄介草対策はセトリアナ大河が中心。その両岸に領地を持つうちとメルカド伯爵家の製糸工房は他より負荷が高かった可能性ってことですね」
ルクレイの話を受けリドルが答えた。
「王宮側が魔石の利用量を考えて割り当てを調整してもらえば良いです。製糸工房が買わなくても魔道具を設置できそうな気がします」
カンコール工房主が「えげつない」と若干引いていた。
「カンコールさんは魔道具を設置するとして既存の魔道具を置きますか?」
「最適化した方が良いな。思ったんだが煮込んで絡まった草を解きながら並べてたろ? ありゃ釜がダメだ。厄介草に特化した釜と加熱魔道具はアリだろ」
ルクレイは作業を思い出して「確かに」と賛成に回った。
「乾燥魔道具も同じ理由で特化させちまった方が良い。数は出ないが改造自体は難しくないんだからやっちまった方がいいぞ」
魔道具の方針が決まったので試作することにした。費用はルクレイが負担することにして改造に必ず参加させてもらう権利を付けた。
「次はリオとリクの感想で棒で叩くところだったよね」
「「ルクにぃ」」「あの棒は」「重すぎー」
ルクレイがリドルを見ると頷くので「重いかー」とこぼした。
「あの形の物理的な物は魔道具に向いてない」
カンコール工房主は念を押すようにルクレイに話す。
「叩いてるのは外皮を砕いて形を壊してるよね」
ルクレイはラウンジの隅に置いた工程毎のサンプルをテーブルの横に持ってきた。最初の乾燥工程を済ませたものと乾燥魔道具で乾燥させたものを並べる。
「やってることは上から潰してるだけ……」
『あっ、押し潰すだけならローラーで挟んでクルクル回すと潰れるのなんかの番組で見たな。ていうか、工場ってローラーのない現場って見たことない気が……』
「ちょっと荷物取ってきます。良さそうなの思いつきました」
ルクレイは立ち上がり声をかけて用意された客間に戻り荷物から二本の棒を取り出してラウンジに戻った。
「「ルクにぃのコロコロ棒だー」」
ルクレイは「えっ? そんな名前なの?」と双子に答えた。
ルクレイはテーブルの上に布を敷いて乾燥させた厄介草を置き棒をコロコロと少し力を入れて転がした。
「「コロコロしたー」」
「あっ、表皮が割れてる。叩いてる途中な感じですね……叩くより手軽です」
リドルが表皮の欠片を摘み感想を口にした。
「「ルクにぃ」」「僕たちに」「やらせてー」
ルクレイは苦笑いで双子に棒を一本ずつ渡した。
「「おぉぉぉ」」「コロコロすると」「パリパリで気持ちいい」
リドルと双子は棒を使って乾燥させた厄介草の表皮を剥ぎに掛かった。
「すげぇ、あんなにバンバン叩いてたのと同じ効果かよ。少なくとも力が弱くてもこの作業はできるな。目で見ると納得するが発想できるかっていうと無理だな」
『こういうとこは前世の記憶ってチートだよな。でも、確かに思いついたらこの方法は簡単に真似できる。真似できるものは注意が必要なのはテンプレか』
「リオ、リクー。ちょっと違うやり方を試してみるから棒をちょうだい」
「「えー、僕たちやりたいー」」
「僕とカンコールさんでやってみてから試して。というか別の作業をお願いなんだけどダメ?」
「「いいよー」」
双子から受け取った棒を二本まとめルクレイは端を持つ。反対側の端をカンコールさんに持ってもらう。
「うぉ、この棒の質感、めちゃ硬え。北方の木なのは分かるんだが硬え」
「カンコールさん分かるの?」
「魔道具師は外装作るのに木工細工するからな。装飾優先なら木工師に頼むが普段はちまちまと木を削って外装作るぞ? こんど木工の授業だな」
ルクレイは「お願いします」とお願いをしておいた。
「リドル、乾燥させたやつを適当な束にしてこっちに来て。それで厄介草の端をこの木の棒の間に入れて」
リドルに指示してルクレイは双子を呼び寄せる。
「カンコールさん、二本の棒で厄介草を挟んだ状態を維持しますよ。あまりギュッとしなくて良いです。加減が分からないので感触を見ていてくださいね」
カンコール工房主は「おぃよ」と厄介草を挟んだ状態にする。
「リオとリクでそこから出てる厄介草を引っ張り出してみて。リドルは引っ張られた分を送り出す感じ。厄介草をロープだと思って」
「「任せてー」」
双子は厄介草を慎重に引っ張り始めた。厄介草は棒に挟まれパリパリと音を出しながら引き出されていく。双子は「うんしょうんしょ」と引っ張っていく。
「「引っこ抜けたー」」「僕たちの」「勝利だー」
『いつの間にか実験が勝負になっていた件……あっ滑車忘れてた』
「うわっ、かなり綺麗に外皮が取れてる。リオとリクが慎重に引っ張ったから力もそれほど掛けてないはずなのにすごい」
リドルは持っていた端から持ち上げて残った外皮を振り落とした。
「「リドにぃすごい」」「めちゃ」「きれい」
「いや、僕は摘んでただけだよ。引っ張ったのはリオとリクだよ」
リドルたち三人は綺麗に剥がれた繊維糸を振り回しながら話してた。
扉がノックされ「先触れの返答が参りました」と声がかかる。ルクレイが入室を許可して報告を受ける。
「オランド号のメダル船長より訪問を歓迎するとの返答を頂きました。夕食も一緒にと言付かっております。馬車の準備は終わってます」
ルクレイは礼を言いカンコール工房主に出掛けると伝える。
「ワシは酒場に行くから気にするな。海には興味ねぇが、レベナの魚料理のツマミは美味いからな。明日戻って試作の準備するから声かけろ!」
ルクレイは「分かった」と答えラウンジを後にする。
四人は馬車に乗りオランド号が停泊している貴族専用桟橋に向かった。
「リドル、急で悪いんだけどリューウェンに一度戻って今日の情報を届けてもらえないかな? 両方でやれば案がどんどん良くなると思うんだよね」
三人は目を丸くして驚いた顔になった。
「あと、思ったよりイゴルトさんが元気だから、新しい糸を作れるようにする段取りをお願いしたい。あのコロコロが魔道具として形になるのは先になると思う」
リドルは真剣にルクレイの言葉を聞いて頷いた。
「「リドにぃ」」「戻ったら」「遊ぼうねー」
双子はリドルに抱きついて甘えん坊になっていた。
「あとついでに、滑車の実験もしたいから滑車を持ってきて。こっちにもあるけど、リドルが滑車を持ってくるまでは実験しないで待ってるよ」
リドルは胡乱な目を向け「三日もあれば戻るよ」と呆れた。
馬車が止まり桟橋の入口に到着した。馬車を降りると一人の男性がいた。
「メダル船長! 久しぶりですーー」
ルクレイは駆け出しメダル船長に飛びついた。メダル船長はルクレイを受け止めると抱きしめて持ち上げ縦抱っこをした。
「坊主、元気してたか」
メダル船長は知っているはずなのに坊主と呼んできた。
「メダル船長、僕ね『ルクレイ』という名前をヴィオナにもらったんだよ」
「おぉ、ルクレイか。不思議な響きだけど良い名前だな」
メダル船長はルクレイの耳元で「ヴィオナは良い娘なのかな?」と小さく囁く。
ルクレイは「婚約するの」と小さな声で答え内緒だよって笑顔を見せた。
メダル船長は「祝福されたルクレイ」と声を上げ、ルクレイを縦抱っこから肩車にしてガハハと笑い出した。
リドルとマルセリオとフィリクスは目を丸くして唖然と二人を見ていた。
「リドル様、無視する形になってすみませんでした」
メダル船長がリドルに謝罪した。
「気にするな。こっちはメダル船長の信じられない姿を見てたから挨拶されても返す余裕は欠片もなかったさ」
リドルがメダル船長を揶揄りに入った。
「「メダル船長」」「オランド号に」「乗ってもいいです?」
「メルカド伯爵家のマルセリオ様、フィリクス様。さらに失礼をしてしまいました。なんとお詫びすればよいでしょうか。オランド号の内覧でお許し願います」
「「許すぞよー」」
ルクレイを肩車して空いた両手に双子が飛びつきぶら下がった。
リドルは我慢できず大笑いした。そして船べりから見ていた船員も笑い出した。
双子を先頭にオランド号を軽く内覧した。冷却室では双子は部屋から飛び出し、舵柄室は罠部屋と警戒し、船首室は広さでテンションが上がった。
そして、上甲板ではささやかながら歓迎会が開かれた。
双子はホルン肉のステーキやウル焼きに舌鼓を打ちミルクスープで大騒ぎしてたくさん食べ夢の中に沈んでいった。
「そうか、ルクレイは居場所を得られ、将来の伴侶も見つけたか。良かった、養子にと考えてもいたが大丈夫みたいだな。少し残念だが」
予備で置かれていた風寛魔道具を展開した上にリドルたち三人は寝ていた。メダル船長とルクレイは紅茶を飲みながらゆっくりした時間を共有していた。
「きちんとは思い出せないんだけどメダル船長ってお父さんみたいに感じてますよ。たった一日、一緒に航海しただけなのに不思議でした」
ルクレイは心情を言葉にした。
「リューウェンに行ったときには顔を出します。奥さんを紹介してくださいね」
メダル船長はルクレイの頭を撫でた。
「あぁ、妻も子どもはいないから少し期待させちまった。紹介させてくれ」
「とっても楽しみです。ヴィーとの帰路は陸路を予定してます。リューウェンに行くときはヴィーと一緒に行って名所を回る予定です」
「来るのを楽しみにしてるぞ。海に出ていても妻には会ってくれ」
「はい!……いてくれると嬉しいけど会いに行きます」
メダル船長はニコッと笑い「そうだった」と断って一度船尾に駆けて行った。
「これを渡そうと思ってたんだ。アルフォンス殿が作ってそのままオランド号に置いていった物だ」
ルクレイは木箱を受け取って戸惑った。
「ふふ、アルフォンス殿は特に気にしないぞ。もしよかったらそれで遊んでみてくれ。何かそこから生まれたらアルフォンス殿も喜ぶさ」
ルクレイは木箱を開けて驚きの表情を浮かべた。
「これ……釣り針のセット……大きさが色々あって凄い……。僕、釣りをやりたいと思ってたの。これを使ってたくさん釣りたい!」
「リューウェンだと刺繍糸で飾り立てた釣り針も売ってるぞ。結構な人気らしいな」
メダル船長はそっとルクレイを抱きしめると船員に声をかけ三人を馬車に乗せルクレイは代官屋敷へと戻っていった。




