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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第一章 落とし人から拾われ人に進化した
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第三節 管理事務所の手続きとオランド号への訪問

 夕日を浴びるハールベン伯爵領の領都ヘブラナが擁する港に数隻の連絡船が停泊していた。そのうちの一隻は大型連絡船だった。


 二隻の小型船が掛け声とともに櫂を漕ぎ、沖に停まっているグラナム号に接近してきた。小型船はグラナム号を桟橋に接岸させるため出てきた誘導船である。


 グラナム号からは小舟が降ろされ、ナンダル船長と年嵩の船員、そして少年が小舟に乗り移っていた。


「よりにもよってオランド号とは……」


 少年は「どうしたの?」と問い掛けた。


「あー、……オランド号はノルド家保有つう話したっろ? 王都でな、オランド号の所有者が変わったつう話を聞いたんや」


 話の筋が見えない少年は「ノルド家から?」と繋ぎの問い掛けをする。


「らしいっちゃ、らしいんやが……御座船やろ? あり得んって話なんやろけど。オランド号は、連絡船の頂点に立っとるんや……」


『同型艦の頂点か……。何となく分かるような気もするけど、あの異質さは不可解だな。何でか聞いてみたいけど、他家の船だから触れないのが平和だな』


「オランド号と所有者って何か関係あるの?」


 ナンダル船長はハッと少年を見た。


「えっ?……関係?……ないな。ん? なっして悩んだっけや……」


「新しい持ち主って知ってる人?」


 少年はよく分からず首を傾げた。


 ナンダル船長は「いや、誰かも知らん」と首を振った。


 黙り込んだナンダル船長を横目に、少年は港を眺めた――。


 管理事務所に入ると、男性が受付の男性と話していた。ナンダル船長は、少し上の空で受付を見ていた。


 少年は『他にも人いるのに』と考え、手隙そうな男性に近寄った。


「ねぇ、受付ってひとつなの?」


 男性は「へっ?」と少年を見て、その背後の男性二人に気がついた。


「こちらでお伺いします」


 ナンダル船長はハッと気が付き話し掛けてきた男性に向き直った。


「メルカド伯爵家所属のグラナム号、船長のナンダルだ。沖合で暴風に巻き込まれ、リューウェンからレベナに向かう予定がここまで流された」


 ナンダル船長の言葉が詰まった。


「静索に損傷を受けた、ヘブラナで修理を申請したい。造船工房との繋ぎを頼む。連絡要請で停泊中のオランド号に先触れを出したい。注意事項は何かあるか?」


 少年は背後の気配が動いたのに気づき振り返る。


「グラナム号のナンダル船長ですか?」


 受付にいた男性がこちらに近づき声を掛けてきた。


 ナンダル船長は「ん? 君は?」と怪訝そうに問い質した。


「オランド号の船員です。レベナへの連絡を希望という事でしょうか?」


『船員なのに言葉遣いが丁寧すぎないか? 領地か船の差?』


 オランド号の船員は、明日出港するため手続きに来ていたと話した。出港の準備は終わっているので訪問を受けることは可能だと説明した。


『船員が判断して良いことなのか? 基準が分からなくなったぞ。まるで、オランド号の異質さと同じぐらいの異質さを感じるんだが……』


 受付の男性が話に加わり、三人で暴風の情報を精査し記録を作成し始めた。特に、グラナム号がレベナを超えてヘブラナまで流された点に話が集中した。


 オランド号の船員もメモを貰い、必要そうな点をメモに書き込んでいた――。


 波止場の桟橋をオランド号に向け歩いていた。


「ねぇ、オランド号って持ち主が変わったの?」


 少年は子どもの振りで質問してみた。横では、ギョッとしたナンダル船長が少年を見ていた。


「はい、現在はアルフォンス殿が持ち主になっています」


 船員は何の躊躇いもなく持ち主を明かした。


「えっ?……アルフォンス殿? もしかして『異変の英雄』のアルフォンス様?」


『えっ? 何その異世界転生ぽいの』


「あー、そうですね。そちらの方が有名でした。ノルド家には数年前からアルフォンス殿との縁が深く、西方探索のイメージが強いですから」


『西方探索! 凄く良い響きだ!』


「なぜまた、御座船のオランド号がアルフォンス様に?」


「うーん、端的に言えば、子爵様がアルフォンス殿を気に入ったからでしょうか。お嬢様の婚約者ですから婿殿という意識もあるみたいです」


「あのー、話を聞いた側ですが、話して良いのですか?」


「婚約に関しては、王宮でお披露目したと聞いてます。ソフィア王女殿下やマリーニュ男爵令嬢との婚約も国王陛下が発表されたそうなので大丈夫です」


『リアルハーレムやん! ヤベえ、異世界転生の主人公が先にいた件!』


 オランド号の渡し板まで到着したところで船員が伝えるのでと、三人で待つことになった。


「まさか、オランド号の持ち主がアルフォンス様とは……」


 少年は「有名な人なの?」と小首を傾げた。


「あー、有名だ。平民なんだが、とにかく有名で謎の多い人物だな」


『テンプレキター』


「と言っても、謎なのは仕方がないか。会ったこともない人だからな。今何をしてるかなんて、全然分からんからなぁ」


「船長さん、言葉が普通?」


「あー、さっきの船員が貴族的な話し方だったからだな。俺も一応は教育受けてるからな。船で気が緩むと方言やら船乗り言葉やら混ざるからな」


 船上から「上がってください」と声が掛かった。


 ナンダル船長を先頭に、少年は年嵩の男性に続いて渡し板を登っていく。


『何だ? 渡し板の感触が板と違う? 滑り止め? 渡りやすいんだけど……なんで板と違うんだ? どういうことだ』


 少年は渡し板の違和感に気が付いたが、違和感の正体は全く分からなかった。


 オランド号の側舷に男性が待っていた。


「ようこそ、オランド号船長のメダルです。本船への乗船を許可します」


「グラナム号船長のナンダルです。突然の訪問、お受け頂き感謝します」


 メダル船長とナンダル船長は握手を交わした。


『あっ、握手の文化はあるんだ』


「話は場所を用意してるので、こちらにどうぞ」


 メダル船長が船首側に歩き出す。


『うわっ、これバウキャビンじゃん。ヨットのとは全然違うけど凄い空間……って、巻き上げ機を入れとるやん。えっ? マジかー、隠したんか』


 横扉から船首室を覗き込んだ少年は船首区画に作られた空間に絶句した。


 先に進んだ三人に気づき、慌てて追いかけようとしてスロープに気が付いた。


『スロープ? 濡れる場所にスロープはナシだろ。どういう……えっ?……これ被せたスロープか!って、この板、枠からして……サイドハッチの止水板!!』


 少年は、機能性と合理性の塊のようなギミックに興奮した。そして、『まて、臭いがない……』と船首室を覗いたときに異臭がないことに気が付いた。


「坊主、迷子か?」


 ナンダル船長の呼び声にハッと気が付き少年は駆けて上甲板に上がった。


『うわっ、ひっろ。めちゃ広い空間だ』


 甲板の上にテーブルと椅子が置かれ、すでに三人は座っていた。少年は空間に気を取られかけたが駆け寄り席についた。


『えっ? なんか暖かい? 潮風もなくなった?』


 ナンダル船長はメダル船長にグラナム号は修理が必要になった点を説明していた。メダル船長は頷きながら、暴風を抜けて港に戻った事を褒め称えた。


「素晴らしいです。最低でもレベナからヘブラナまで流された暴風をほぼ無傷、巻風は運が悪かったと思いますが、静索二本の損傷で戻れたのは凄いですな」


 ナンダル船長は「恐縮です」と、頭を掻きながら答えた。


「アルフォンス殿は明日には陸路で王都に向かうので、王都で会ったときにこの話をするのが楽しみです。アルフォンス殿はこういった話が好きですから」


 ナンダル船長は「と言うと?」と問い掛けた。


「冷静な判断、熟練した技術と言った人の手によって成された偉業を諸手を挙げて称賛してくれる方です。職人気質もありますが、気持ちの良い人なのです」


『英雄ってイメージと少し外れてる主人公?』


「少し気恥ずかしいですが、船員たちと乗り越えたと言う点は誇らしく思います。あと、この少年は、巻風で停船した時に拾った落とし人です」


 メダル船長が「ほぉ」と目を細め、少年に視線を向けた。


「この少年もレベナに届けて頂きたくお願いします」


 少年は「えっ?」とナンダル船長を見つめた。


「落とし人をここに滞在させるのは、あまり良くありません。伯爵家への保護を先ずは優先したいと考えてます」


 ナンダル船長の話にメダル船長は頷いた。


「同じ立場であれば、私も同じ判断をします」


 メダル船長は請け負った。


「坊主、お前はオランド号に送ってもらい、先にリガレアの伯爵邸に向かってくれ。俺たちは修理したら向かう。あっちでの再会を楽しみにしてるぞ」


 ナンダル船長は「荷物ないからここでお別れだ」と、席を立ちメダル船長と握手をして一人、オランド号を降りグラナム号に戻った。


 年嵩の男性は「連絡係だ」と言葉少なく、船員に船首室へ案内された。


 少年は、メダル船長と船首に残された。メダル船長が合図すると女性が近づきお茶の準備を始めた。


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