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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第四章 メルカド伯爵領に見つかる問題とノルド子爵家との繋がり

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第二節 ルクレイは双子と再会で喜び暗雲が顔を出す

「カーン、カーン、カーン」


 レベナの波止場に入港を示す鐘が鳴り響いた。時間帯としては混雑する時間より早く波止場にはゆったりとした時間が流れている中での入港である。


 連絡船が桟橋に接岸し船員が管理事務所に向かった。ルクレイとリドルはニロンとヘラムを引きながら渡し板を渡り桟橋に降りた。


 桟橋を歩いていくと前方に男性が佇んでいた。


「ナンダル船長! 久しぶりですー」


 待っていたのはグラナム号のナンダル船長だった。


「久しぶりだ、坊主は元気……そうだな。グラナム号の修理が終わってレベナに戻って二日だが坊主……ルクレイに決まったんだったな」


「そうだよ、ヴィオナ嬢につけてもらった」


 ルクレイは笑顔で答えた。


「そうそう、ナンダル船長というかグラナム号にお土産あるよ。王都で買った粉末果物セットとグレアル子爵様がくれた小ホルン肉ね。かなり美味しいよ」


「おー、ホルン肉の噂は聞いたことがあるぞ。以前、リューウェンの街中で振る舞われて、とても賑わったと聞いて羨ましかったんだ」


 ナンダル船長はガハハと笑いながらルクレイの肩を叩いた。


「そう言えば、なぜナンダル船長は僕が入るの知ってたの?」


「ノルド子爵家から打診があったみたいだ。で、昨日、今日の船で入るって連絡きたんで顔出したわ」


 ルクレイは小首を傾げた。


「ナンダル船長、訛りはどこいったの?」


「まぁあれだ、ルクレイは伯爵家の客人になってるからな。別に訛らんでも話せっぞ。これでもうちのグラナム号はメルカド伯爵家筆頭の連絡船だかっな」


 ルクレイはくすくす笑ってリドルを手招きした。


「リドル、彼が僕を海から拾ってくれたグラナム号の船長ナンダルさん。ナンダル船長の船が裏打ちで停船しなければ僕はここにいなかったんだ」


 ルクレイはニコッとリドルに笑い掛ける。


「みんなに会えて僕は本当に創世の女神様に感謝だよ。なぜ落ちたのかは分からないけど、拾われてからは楽しいし幸せかなって思ってる」


 リドルはジッと話を聞いて「僕も会えて良かった」と返した。


「ナンダル船長、ルクレイを拾ってくれてありがとう。ルクレイは僕の兄みたいな感じで『ルクにぃ』って呼んでるんだ」


 ナンダル船長は「家族が増えていくな」と目を細めガハハと笑った。


 ナンダル船長に暇の挨拶をしてルクレイとリドルは相棒と共にレベナを後にし領都リガレアに向け駆け出した。


『さてリドルとヘラムの相性だけどリドルが背に乗った感じは悪くない。リドルの指示にも嫌悪感は浮かんでない。やっぱり拗ねてるだけかな?』


 ヘラムに騎乗するリドルは少し硬い顔をしていた。


「リドル、ヘラムの機嫌は悪くはないよ。もっとリラックスしてヘラムに任せる感じで騎乗して。リドルの緊張をヘラムが感じるとヘラムも緊張しちゃうよ」


 ルクレイは静かな声でリドルにヘラムの機嫌を伝えた。


 森林地帯の街道を速度を落とし気味で抜け出ると小高い丘が見えてきた。


「あの丘を越えるとリガレアが見えるよ。さすがに平地にある街だからリューウェンのような景観ではないけど良いところだよ」


 だいぶ緊張が解けたリドルが声に反応して振り返る。


「ルクにぃ、ヘラムが落ち着いて駆けてくれて嬉しい。ここ最近は僕も緊張しちゃったんだけどヘラムも動きがぎこちなかったんだ」


「触れ合う時間が必要だったんだよ。ヘラムもリドルが王都に行って寂しかったんだろうし。当分は毎日乗馬して手入れをして一緒に遊ぼう」


 領都リガレアの門に到着し身分を名乗る。


「ノルド子爵家のリドル様、ルクレイ様、お疲れ様でした。先触れを送りましたので領主館に向かって頂いても問題ありません」


 門を警護していた門兵の礼を受けルクレイとリドルはリガレアに入った。


 街中をゆっくりと騎乗したまま移動していく。通りは夕方の喧騒に包まれ王都のようにはいかないが賑やかさが伝わってきた。


 メルカド伯爵家の伯爵邸マナーハウスが見えてきた。門扉に小さな二つの姿が見えた。ルクレイはその姿を見るとニロンから飛び降り駆け寄っていた。


「ただいま! リオ! リク! 戻ってきたよー」


「「ルクにぃお帰りー」」


 ルクレイは双子を抱えるように抱きかかえクルクルと回った。双子は「きゃー」と叫びながら楽しそうにケラケラと笑った。


 「リオ、リク。僕の名前はヴィオナがつけてくれてルクレイってなったよ」


「「これからもルクにぃだね」」


 ルクレイは再び双子を抱きしめた。背後でニロンがブルルと鳴いた。


「そうだった、リオとリクに紹介したい男の子がいるよ」


 ヘラムに乗ったままのリドルにルクレイは手を伸ばし降りるのを手伝う。


「さて、お互いに貴族家の子息だ。リオ、リク、本当は門の前で挨拶するのもなんだけど挨拶しておこう。リドルもいいかな?」


 双子は「「問題ないよー」」とルクレイに笑顔を向けた。


 リドルは頷き双子に向き直った。


「ノルド子爵家長男のリドルです。以後、よろしくお願いします。


 リドルは軽めの礼を取り双子に名乗りを上げた。


「メルカド伯爵家長男のマルセリオです。以後、よろしくお願いします」

「メルカド伯爵家次男のフィリクスです。以後、よろしくお願いします」


 マルセリオとフィリクスは軽く礼を返した。


 ルクレイは三人を見つめ「では最後に」と声を上げる。


「メルカド伯爵領の落とし人でルクレイといいます」


 双子は「「ルクにぃ」」と声を上げ飛びついてきた。


 ルクレイは二人を縦抱っこしてリドルに声をかけて館の中に入った。


 本館の玄関前には執事長が待機していた。ルクレイは戻ったことを伝えリドルを紹介する。


「承っております」


 執事長は頷き本館の扉を開きリドルを招き入れた。ルクレイは双子を降ろして本館の中に入っていく。ニロンがブルルと鳴きヘラムを連れて馬房に向かった。


 ルクレイたち四人は身支度のため一緒に湯殿に向かった。湯殿からは笑い声が外に響き待機していた侍女たちも笑顔を浮かべていた。


 身支度が終わった四人はラウンジに移動し寛いで話していた。


 ラウンジの扉がノックされメルカド伯爵が入室してきた。ルクレイとリドルは席を立ち軽く礼を取った。


「ノルド子爵家長男リドルと申します。突然の来訪を受けて頂き感謝いたします」


 リドルは深めの礼を取った。双子はそんなリドルをジッと見ていた。


「メルカド伯爵家当主バルテアだ、まだ五歳と聞いているが丁寧な挨拶痛み入る。ゆっくりと滞在してくれ。できれば息子たちと親交を深めて欲しい」


 リドルは「承りました」と返答し礼を戻す。


 マルセリオとフィリクスは思わずパチパチと拍手をしてしまった。


「さすが王都で当主名代をしてただけありますね。リドルのその立ち振舞はとても素敵でした。グレアルさんが外に出すことを躊躇わないはずです」


「ふふ、ルクにぃに良いところを見せれてなかったから頑張りました」


 バルテア伯爵は一瞬目を丸くしたがガハハと笑い出した。


「ルクレイは王都を往復しただけで弟ができたのか。執事長の話だとリオとリクもあっという間に『ルクにぃ』と呼ぶようになったと聞いているぞ」


「「ルクにぃは」」「僕たちの」「お兄さん」


 双子は満面の笑みを浮かべてリドルの手を両方から握った。


「「リドにぃ」」


 リドルは少しだけ驚いたがニコッと笑い手を繋いだまま双子を抱きかかえた。


「落とし人は幸運を招くと聞いていたがうちの落とし人は縁を招いてるな」


 バルテア伯爵は執事長に合図を出し晩餐のため食堂に移動した。


 晩餐はルクレイが王都リヴェルナとの往復で感じたことを中心に話した。船止まり宿で焔隼の翼(えんじゅんのつばさ)のリーダーであるユリウスに会った話は盛り上がった。


 バルモン魔道具工房での修行が四日の話ではバルテア伯爵が遠い目をした。


 晩餐が終わりラウンジに移動してゆっくりと会話の場を作った。


「しかし、ノルド家から伝令の連絡船が来たときはビックリしたぞ。しばらくリューウェンに滞在するという連絡だったからなおのこと驚いた」


「ノルド家は連絡船を定期検査以外では常に出す運用を行っています。これは船舶風壁魔道具の習熟も兼ねていますが常に動くことで情報の伝達が良くなりました」


 リドルの返答にバルテア伯爵は驚きが隠せなかった。


「常に出すという発想はなかったな。我が家は連絡船が三隻と小さい世帯というのもあるが……。グラナム号の修理が無事に終わって戻りホッとしてるところだ」


 リドルがルクレイをチラッと見た。


「連絡船ですが船舶風壁魔道具を搭載しようと考えてますが良いですか?」


「ん? 話には聞いているがかなり待ち状態と聞いているぞ。我が家は空いた頃に付ければ良いと思っていたんだが。もしかしてリドルくんの紹介かな?」


「いえ、僕が基盤を作れます。リベランさんに外装は五個もらったので直ぐに付けることができます。ただ、調整が試行錯誤になるためそこに時間が掛かります」


 バルテア伯爵は「えっ?」と唖然とした顔でルクレイを眺めた。


「ルクにぃは船舶風壁魔道具の基盤を二個ほどリベランに売ってますよ」


 バルテア伯爵は「えっ?」とリドルに顔を向け混乱した。


「「ルクにぃ」」「魔道具」「作れる?」


「作れるよ。あの風膜魔道具は木工細工が必要と知って今直ぐは無理だけど、消臭や調湿、防寒はバルモンさんのところで覚えたし船舶風壁は卒業検定だったよ」


「「ルクにぃすごーい」」


「アルフォンスさんは水上で調整できると聞きましたが、僕はまだそこまでの技術はないので陸上げして設置と調整を行う形で搭載を進めたいと考えてます」


「おかしい、ルクレイが王都にいた期間で習得ってそういうものだったか?……いや、重要なのはそこではないか……」


 バルテア伯爵は視線をリドルからルクレイに戻して首を振る。


「魔道具が作れるなら搭載は任せる。定期的に陸上げしてるからナンダル船長と相談してくれ。無理そうなら無理して搭載しなくても大丈夫だ」


 ルクレイは「分かりました」とバルテア伯爵に答えた。


 そこからルクレイはリューウェンの工房で起きたことをバルテア伯爵に伝えていった。魚粉、製糸、硝子工房を将来的に動かす案を並べていった。


 バルテア伯爵は頭を抱えた。


「リドル、今なら分かると思うけど工房の立ち上げは時間の掛かる事業だよ。急げば必ず破綻するし時間を掛ければ情熱が続かない」


 リドルはルクレイの話を真剣に聞いていた。


「ただ、製糸工房をリューウェンのナンニル製糸工房のナンニルさんが危惧してました。製糸工房はレベナにあるのですよね?」


 バルテア伯爵は「製糸工房?」と眉を寄せた。


「製糸工房はレベナだな。確かイゴルト製糸工房といったか。危惧と言うと閉鎖とかの話か? 特にそんなほう……産業局か! しまったそっちも隠してたか……」


 バルテア伯爵はガックリと肩を落とし執事長を呼んだ。――メルカド伯爵領の産業局に問題が発覚し手当を進めていたが漏れている可能性が見えてきた。


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