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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第三章 リューウェンへの降河と愛し子の工房巡り

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第七節 リューウェン工房巡りと双子枠に入るリドル

「ルクにーぃ、工房回りってどこから行くか決めた? 安定の魔道具工房? 勢いのある魚粉工房?」


『いつの間に工房巡りをすることになったんだっけ? おまけに呼び方が双子と同じになってる。グレアルさんが変な言い方するから……』


「えーと、魚粉工房も捨てがたいんだけど……魔道具工房にしようかな。メルカド領の魔道具工房を立て直す方向性も考えたいし……」


 またもやニロンにお願いして二人は騎乗して街中に繰り出した。


「リベランさんいますかー」


 リドルは勢い良く工房に突撃していった。


『ヤベえ、カンコールさんの工房に突撃していった双子と行動パターンが同じに見える。ていうか、五歳と考えると……幼くなった?』


 ルクレイは双子とリドルが似た位置に収まりつつあることに気が付いた。何気に弟属性に弱いのかもと考えながら工房に入った。


「これはリドル様、お久しぶりですな。それと……もしかして愛し子様ですか! よう参られた! おい! 愛し子様が来なされたぞ!」


『なにごと?……テンションめちゃ上がってるんだけど! ていうか愛し子って広まりすぎだろ!』


 リベラン工房主の反応に心の中で膝をついていた。


「メルカド伯爵領の落とし人でルクレイといいます」


 心は折れかけたが、ルクレイは落とし人寄りに挨拶をした。奥から女性が現れお茶を配膳しそのまま席に着いた。


「愛し子様、本日は工房に訪れて頂き感謝に堪えません」


『これは一体どういうこと?』


 ルクレイは縋るようにリドルに視線を向けた。


「あっ、そうか。ドワーフ族は海に興味はないの。でもね、なぜか落とし人に優しいんだ。加えて、創世の女神様が好きだから……愛し子は……ねぇ」


 ルクレイは絶望の表情のまま固まった。


「リベランさん、ルクにぃはそういう扱いに慣れてないから普通にしてあげて。普段通りの方がルクにぃもゆっくりできるよ」


 リドルの言葉にリベラン工房主と奥さんはコクコクと頷いた。


「今日伺ったのは、昨日、造船工房に行ったところアルフォンスさんから丸投げされた魔道具で少し困っていたので相談に来ました」


 ルクレイは昨晩作った基盤を二つ荷物から取り出してテーブルに並べた。


「小型推進魔道具と吹飛頑強魔道具の二つで基盤を作ってきました」


 ルクレイは聞いた話と断りを入れ、小型推進は推進補助魔道具を最適化して小型化したのだが、本体の強度が低くバストリアから届いたと話した。


「強度は単純にバストリアで手に入る木材のほとんどが弱い木だからのようです。造船工房で材料を変更して試作しています」


 リベラン工房主には試作で必要になる基盤の提供をお願いした。費用に関してはアルフォンス案件なのでノルド家で引き受けるとリドルが伝える。


 吹飛頑強魔道具は用途不明のまま放置されていると話して済ませた。アルフォンス案件の陣図として工房で持っていて欲しいとだけお願いした。


「この小型推進魔道具の基盤は愛し子様が作られたのでしょうか?」


『愛し子様呼びが外れてない!』


「はい、実物は試作に使ってるので陣図を覚えて再現しました。木製の筒で動作確認はしてあります。筒は造船工房に頂きました」


 リベラン工房主は顎に手を当て「ふむ」と唸った。


「凄く丁寧に描かれた陣図ですな。どこにもムラというか歪みもありません。愛し子様はどちらかに師事したのでしょうか?」


「えっと、王都のバルモン魔道具工房で教えてもらいました。船舶風壁魔道具の基盤で卒業検定を受けています。器用さと集中力は褒められました」


「ルクにぃ、船舶風壁の話をして良かったの?」


「グレアルさんに言っちゃったし隠しきれないって思ったから良いかな。外装を習ったらメルカド伯爵家の連絡船に搭載するし」


 固まっていたリベラン工房主が再起動した。


「船舶風壁の基盤で卒業検定ですか! しかもバルモン殿の工房とは……。あの……基盤を作って頂けないでしょうか?」


「リベラン何かトラブル抱えてる? 抱えて父上に相談してないとかないよね?」


 リドルが目を細め厳しい顔でリベラン工房主を見つめた。


「申し訳ありません。トラブルは抱えておりません。魔道具師のひとりが酔って海に落ちまして寝込んでしまい生産に穴ができて思わず……すみません」


 リドルの目に優しさが戻った。


「それは災難だったね。後で滋養のある食材を届けさせるから養生してくれ。それで、何個必要なの?」


『カッコ良いリドルがきたー。お父さんに立派な口上した時の双子みたい! 小さい子のカッコ良い姿は応援したくなるよね!』


 明らかにルクレイの中でリドルは双子と同じ枠内に収まりきっていた。


 リベラン工房主は「二つほど……」と恐縮しながら話した。


「ルクにぃ、二つなんだけど、いいかな?」


 ルクレイは「良いよ」と笑顔でリドルに答えた。


 ルクレイは基盤本体はまだ作れないためリベラン工房主に用意してもらった。集中して基盤に陣図を書き込んでいき鐘ふたつより早い時間で仕上げた。


「これは……なんというか……アルフォンス殿並みに早いというか……早すぎますし綺麗な仕上がりです。どれぐらい師事されました?」


 ルクレイは「四日です」と頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。


 リベラン工房主は「四日……」と呟き首を振った。


 奥さんが顔を出し昼食に誘われルクレイたちはご馳走になり工房を後にした。


「ニロンもたくさん食べたの? 口の端に果物の欠片が付いてるよ。果物も欲しかったら言ってね。まだ、貰ったお小遣いは残ってるから買えるよ」


 リドルを前席に乗せ騎乗で移動しながらルクレイは待っていたニロンを労い少しだけからかいを込め話しかけていた。


「ルクにぃはニロンと良く話してるよね。言ってること分かるの?」


「何となく機嫌とか分かるんだよね。乗馬の指導を双子にしたときは機嫌を双子に伝えて直していったら乗馬がどんどん上手くなったよ」


 リドルは少し考え始めた。今は浜焼きを見学しようと岩場に向かっていた。


「そう言えば、オランド号に乗ったときメダル船長が新しい形の帆を付ける準備してた。メインマストの前後に付ける帆って説明だったよ」


 考え始めたリドルにルクレイは雑談として話しかけた。


「聞いたことある! 三角の帆ってリア姉さん言ってた。ミレーユも絵を見たと言ってたけど僕は機会がなくて見てないんだよね」


 リドルは考えるのを止めて帆の話に食いついた。


「見てないのか。マストの後の方は帆桁が付いてた。荷役桁を使ったと言ってたよ。メダル船長もなんか楽しそうだったからリドルも加われば?」


「楽しそう、木材の水分含有量の課題は足踏みしてるから気晴らしにいいかも。メダル船長戻ったら……レブコンさんに聞いてみる?」


 ルクレイは知らない名に「レブコンさん?」と首を傾げる。


「製布工房の工房主。うちと付き合いあるから行ってみよう」


 ルクレイはニロンにお願いしてレブコン製布工房に向かった。


「レブコンさんいますかー」


「これはリドル様と……もしかして愛し子様ですか? ようこそ参られました」


 ルクレイは『ここもか……』と心で膝をついた。


「メルカド伯爵領の落とし人でルクレイといいます」


「レブコンさんは、アル兄さんがやってる三角の帆って知ってる? ルクにぃはオランド号でメダル船長に教えてもらって見たいんだってさ」


『あれ?……俺が見たいって話だったっけ?』


「おー、やってますぞ。三角形と少し歪な四角帆ですな。数値は決めたから最初の本帆を作る準備に入ってます。ただ、使う糸で迷ってるところです……」


「ルクにぃ、作ってるって。レブコンさん図面って見れる?」


 ルクレイはリドルが進める展開にクラッと来たが、「糸ですか?」と気になる言葉に反応して質問をしていた。


「あれ? もしかしてアル兄さんたちの糸?」


『なにそれ! アルフォンスさんたちは糸までやってる?』


「それですな。この間、糸ならと布を作ってるうちに持ち込みました。王都で生産準備をレオナール様がしていると聞きましたよ」


『ここでレオナールさんかよ……丸太どうした!』


 レブコン工房主は奥に戻り図面を取ってきて二人に見せた。オランド号に付けたイメージ図までありルクレイは目が釘付けになった。


『めちゃ上手い。これは見たら海に浮かべたくなるやつだ。アルフォンスさんのセンスはやっぱ良い。さすが僕の帆船仲間だけのことはある!』


「こっちの糸が撥水性のある糸で生産できるなら帆に使いたいと思ってます」


 ルクレイは「えっ?」と我に返った。


『撥水性の糸!……なんでそんなのが出てくる?』


「撥水性というと水を弾くんですか? なぜそのような糸が製布工房に?」


「アルフォンス殿の置き土産です。遊んでたらできたそうでリュミエール殿たちに強請られたらしく、融合魔道具の基盤も預かってます」


 レブコン工房主は苦笑を浮かべた。


『これもかー! 遊んでたらできたって……アルフォンスさんやらかしすぎたよ! そして全てを丸投げするストロング過ぎるスタイルだよ!』


 ルクレイはアルフォンスの手加減無用の丸投げストロングに戦慄を覚えた。


「ルクにぃ、行くよー」


 リドルの声に「へっ?」と間抜けな声をルクレイが漏らした。見るとリドルとレブコン工房主が工房の入口でルクレイを見ていた。


 慌てて席を立ち追い付くと二人は雑談しながら街中を歩いていく。ルクレイは慌ててニロンに声をかけニロンと並んで二人の後に付いていく。


「ニロン、なんか良く分からない状態で歩いてるけど何か知ってる?」


 ルクレイは乾燥果物を渡しながらニロンに話しかける。ニロンはモグモグしながらブルルと鳴いた。


「だよねー、僕が分からないのにニロンも知るわけないよね。でもさ、工房を回るとどこでもアルフォンスさん出てくるんだよ。凄くない?」


 ニロンは興味なさげにブルルと鳴いた。


「ニロンは今日も厳しいね」


 前を歩いていた二人が建物に入っていった。気がつけば同一層だが街の外れまで来ていた。ルクレイは看板を見ると『ナンニル製糸工房』と書いてあった。


 ルクレイが工房に入るとすでにテーブルを囲んでいた。


『まるで段取りしてあったかのような風景な件』


「魔道具があるので糸は作ってみてます。配合もメモを見て試そうとしてますが、全自動なので上手くいかず同一品質で進めてます」


「全自動の魔道具なのですか?」


 リドルが驚いて男性に問いかけた。


『挨拶が終わってて僕が浮きまくりな件』


 ルクレイは流れに乗れず漂流し、趣味の思考が漏れていた。


「はい、どうやら全自動製糸魔道具というようで起動すると糸ができるまで放置できます。バストリアの技術はすごいですね」


『全自動……。これもアルフォンスさんか?……いやバストリアと言ってたな』


「その魔道具はアルフォンスさんが作ったのですか?」


「その製糸魔道具はミレーユがレオ兄さんに頼んでたから違うと思う。たぶんグラナートさんだと思うよ」


『知らない名が出た!……てもレオナールさんの作品と言うにはイメージが合わない。彼はもっと合理的……って楽しそうで巻き込むタイプが横にいた!』


「この魔道具……レーネ嬢が噛んでそうな気がする」


「レーネ嬢を知ってるの? 確かに〈夢想〉って二つ名を持ってるからありえる。レオ兄さんとレーネ嬢は――「リドル?」……ごめんなさい」


「あの、もしかして愛し子様でしょうか?」


「メルカド伯爵領の落とし人でルクレイといいます」


 ルクレイはキリッとした顔で男性に答えた。


「すみません、ナンニル製糸工房のナンニルと申します。愛し子様の訪問を心より感謝します」


『認定が進んだ! しかも感謝ってなに?』


「先ほどレブコンさんから融合魔道具の話を聞きました。これを使って撥水性のある糸を生産するそうですが、問題でも起きてますか?」


 ルクレイは誤魔化すために話をゴリ押しで進めた。


「あっ問題というか、融合する粉末果物とガラス粉の分量が分からず試行錯誤になってるだけです。ガラスは硝子工房から安く融通してもらっています」


『ガラス粉は撥水性と考えるとたぶん正解だと思うんだけど、なんで粉末果物? そこに至る流れが全く分からない……』


「配合はアル兄さんのことだから忘れてたと思う。リア姉さんに問い合わせてみる。父上から話は来てませんか? たぶん丸投げされてるはず」


 ナンニル工房主は「いえ特には来てません」とリドルに答えた。


「僕の方で確認しておきます。ガラスが原料だと確認だけでかなりお金が掛かるはずです。至急、硝子工房を含めた支援体制を組みますね」


『おぉぉ、リドルがカッコ良いぞ! カッコ良いリドルは応援しないと。良く流れは分からないけど、ミレーユ嬢が関わってるならリドルの見せ場だ』


「ルクにぃ、融合魔道具の陣図も覚えて! 僕の支援をお願いするね!」


 ルクレイは苦笑いを浮かべながらも頷いた。融合魔道具は基盤のままなのでルクレイは陣式をなぞりながら記憶に残していく。


 なぜか全自動製糸魔道具も隠す気がないのか陣図を見ることができた。それに気が付いたリドルが覆いを外しルクレイに押し付けた。


『キラキラした目で押し付けるのは反則な件』


 リドルの上がったテンションを下げる気も起きず陣図をなぞって覚えていく。その横では融合させて撥水糸を作ろうとリドルがメモを片手に奮闘していた。


 双子に弱いルクレイは、同じ枠に入っているのかリドルにも弱かった。


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