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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第三章 リューウェンへの降河と愛し子の工房巡り

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第四節 丸焼きのストロングスタイルと胃の隙間

 翌朝、船止まり宿の食堂でルクレイが朝食を食べているとリドル子爵子息が食堂に現れた。顔色は悪く、動作も重い感じで席についた。


「いや、小ボアの丸焼きをルクレイに食べさせてごめんね。まさか……あんなに多いとは思わなかった。昨日から胃が破裂しそうでもがいてた……」


 ルクレイは「あー」とリドル子爵子息の不調の理由に気が付いた――。


 昨日の夕食も食堂で食べていたが、そこにユリウス公爵子息とダルンが顔を出し加わった。ユリウス公爵子息は小ボアの丸焼きを全員分頼む暴挙に出た。


 ユリウス公爵子息はお酒も飲みながら冒険者たちの動きを教えてくれた。冒険者たちは各地で魔物の調査や討伐を行っていた。


「いやー、アルフォンスが冒険者ギルドの失態を引き出してくれたから王都の冒険者ギルドも協力的で助かってるんだよね」


 ユリウス公爵子息は広まっていない事実を話す。


『アルフォンスさんにボコられ涙目の冒険者ギルドの件』


 ルクレイはアルフォンスの活動範囲と影響範囲が広すぎて、どう進んでもぶつかることを半ば諦めて趣味のタイトル作りに役立てていた。


 ユリウス公爵子息は『移動する問題検知器』だと話して笑っていた。


『森林地帯や山岳地帯でも、目的地に向かって真っ直ぐ直進という脳筋思考が招くトラブルって……。ていうか、魔馬ってなんだろ……』


「気になったんですが、魔馬ってなんですか?」


 ルクレイの軽い質問に重そうな答えが返ってきた。


 魔馬は馬の姿をしているが馬なのかは不明。速力は軍馬の倍以上。とても長命で、王国唯一だった辺境伯家は六代続いて愛馬がバルムスだと教えられた。


『リオの愛馬バルムはバルムスから取ったと言ってたけど思いの外バルムスは大物だった……。そして、アルフォンスさんには魔馬が寄ってくると……』


「アルフォンスとリュミエール嬢は相棒のフリックとリトルと行動してる。そこにオンジとハイジの二頭の魔馬が加わってるから目立つんだよな」


 ユリウスは何気ない一言を口にした。


「ハイジは友誼を結んだマリシアさんのところにオンジと向かいましたよ。リア姉さんがハイジと話せたと喜んでました」


『それー、ダメなやつ! ユリウスさんの目に真剣味宿った!』


「ハイジはリュミ姉さんに全力で守るって言われて断ったんだって。リュミ姉さんの全力だと相手が殲滅されちゃうからだってさ」


「……それは断って正解かな」


 ルクレイは諦めて会話に答えた。


「リドル、オンジとハイジってフリックの両親だよな? フリック置いてマリシアのところに向かったのか? 母上が討伐隊を編成して動いてるのは聞いてるけど」


『ん? ユリウスさん、情報の開示を進めるつもりなのか?』


「フリックはアル兄さんと共にいるから大丈夫ってことらしいよ。ここのところ、王都の情勢は結構動いてるから、ユリウスさんも戻った方が良いと思う」


「そうだな。俺は亀裂に潜っててアルフォンスと会えなかったのが痛いな。あいつ、アルデン領に向かってるんだろ? ちょっと状況確認を怠ってた……」


『でも、魔馬って会話できるんだ。そう言えば、ニロンって言葉分かってるよな。馬って頭が良いと聞いてたけど本当に凄いな。友誼ってのも特別な話みたいだ』


 ユリウス公爵子息は食事の手が止まっているリドル子爵子息に、小ボアの丸焼きを食べるように勧めていた。


『いや…それ無理なやつだよ。今の時点でリドルの顔色が悪くなってるじゃん!』


「ユリウスさん、それ無理です。五歳で食べ切れたら逆にまずいです」


 ユリウス公爵子息は「えっ? そうなの?」と理解していなかった。


 ルクレイは小ボアの丸焼きをモグモグと食べてるダルンに視線を飛ばす。


「ん? あー、ユリウス様、ルクレイくんの言う通りです。五歳でそれを完食できた兵は見たことがありません。というか、気が付かなくてすみませんでした」


 ダルンは状況を理解して場をまとめる作業に入った。


「今の時点でかなり食べ過ぎです。リドル様、ダメですそれ以上は危険です。ポイしてください。侍女さん、部屋で休ませてあげて下さい」


 侍女はダルンに会釈してリドル子爵子息を支えながら部屋に戻った――。


「ルクレイはよく食べて大丈夫だったね。僕はもう少し早く諦めておけば良かったよ。ベッドに寝ることすら厳しかった」


『いや、大丈夫ではなかったぞ? 二日間は夜の鍛錬がめちゃ進んだよ!』


「まぁ、自分が食べれる量はきちんと管理しないとね。僕は出たものは完食したくなる性分だから、結構頑張って食べたんだけどね」


 ルクレイは朝食が食べ終わり、リドル子爵子息は食べれなそうだったので連絡船に向かった。夕方にはリューウェンに到着する。


 ルクレイは連絡船に入り出港を見るため船尾に移動した。連絡船は船首から桟橋に接岸しているため後進して離岸することになる。


『リューウェンとか海岸航路の港だと船首を沖合に向け直すとリドルは言ってたな。ヘブラナでグラナム号に近寄ってきた小型船が誘導船ってことか』


 ヘブラナの入港では、貴族専用桟橋にオランド号が既に停泊していたので、ナンダル船長は沖止めを選択した。


 波止場からは空いた桟橋の利用許可は出ていたが船体の損傷もあり沖で止めた。その時、グラナム号に向かって来ていた小型船が誘導船とリドルに教えられた。


『ハーバーとかモノハルなら何とかなるけどカタマランだとバウスラスターは必須だったよな。そう考えると、ヨットってかなり強引な機能に支えられてたな』


 連絡船の船尾に船尾楼はないが嵩上げがされている。舵柄甲板と呼ばれていた。文字通り舵柄が占拠しているが、船長の作業場所でもあった。


『ホイップスタッフのためにクォーターデッキを設置してるんだろうけど、実物を見ると無理やり感があるよな。テコの原理を使わないと地獄なわけだけど』


 グラナム号ではゆっくり見れなかったが、この連絡船はゆっくり観察することができた。舵柄甲板に上がり船尾の端まで移動して水面を見た。


「誘導船は片舷四人の櫂船か。ヘブラナの時にチラ見したのと似た形だな。一隻で連絡船を引き出せるのかな?」


「船尾風壁を起動するから引き出せるよ」


 リドル子爵子息はルクレイについてきて舵柄甲板に上がってきていた。どうやら、動いた方が胃の負担を軽減できると気が付いたようだった。


「船舶風壁の船尾だけ起動するのか。確かに効果を聞いた後だと理解できるね。引き出すときに重いのは船尾の水をどかす抵抗だもん」


『抵抗を無くす事で強制的に水をどかすとか、騙されてるとしか思えないけど、魔法に文句は通じないよな』


「離岸するぞー! 舵中央! 船尾起動! 監視! 牽引指示!」


 船長の指示が出されるが船員は特に移動せず持ち場で監視を始める。舵もすでに中央で固定されていた。操舵手は舵柄甲板の下で作業している。


『ここかー、船長の指示待ちせずに先に船員が動き終わってる。いや、グラナム号は通常運航外だったからバタバタするのが普通だよ、グラナム号も優秀!』


 連絡船はグラッと揺れたがスルスルと桟橋から離れて後進していく。


『ぐはっ、なんだこのスムーズさは……やべぇ、押し出された水が凄い強烈な渦を側舷で作ってる……。抵抗なく押し出されるとこんな渦巻くのかよ……』


 ルクレイは側舷で生まれている渦を見てギョッとした。絶対にあの渦に巻き込まれたくないとルクレイは思った。


「よーし、回頭準備! 牽引船に準備指示出せ!」


 ルクレイはすでに桟橋から抜き取られているのに気がついた。


『うっそだろ……モノハルのヨットなら主機でイケそうだけど、カタマランなら主機を全速後進にしても無理だぞ……。てか、後進全速とか怖くてできねえよ!』


 ルクレイは離れていく桟橋を見て戦慄した。ルクレイはグイッと左側に押される感覚が走りバランスを無意識下で整え思考が復帰した。


『船尾が上流に向かって動き出した? 面舵か! さっき回頭準備って船長が指示出してたやつか。回頭開始の声を聞き逃すとか、意識飛びすぎだろ!』


 ルクレイは呆然としている間に指示が飛んだのに気が付かなかった。


『いやまて、舵は……面舵になってる。誘導船も上流に向かって進路を変えて漕いでる。この回頭速度を考えると……舵中央から逸れたら桟橋にぶつかってる?』


「牽引船に切り離しを通達! 取舵一杯! 船尾最大抵抗! 出港するぞ!」


 目の前の舵柄が面舵から取舵に動き出した。舵柄に繋がった舵本体もギギギと多少の軋み音を残しながら左から右に振れ始めた。


 身体が先程より強く前のめりになる力を受け、ルクレイは無意識下でバランスを取り、視界の隅でよろけたリドルの身体を支えて転倒を防いだ。


「カーン、カーン、カーン」


 連絡船は三連鐘を打ち、後進が一気に止まり水流に押され前進を始めた。連絡船は前進しながら進路を左に逸らし、セトリアナ大河の下流に向かい出す。


 連絡船のメインマストの帆が展帆され風を掴んだ。


『展開が目まぐるしい。リドルが訓練を兼ねて連絡船の行き来を増やしていると言ってたのは、この操船を覚えるためってことか』


「ルクレイ、ありがとう。油断したよ、この胃のもたれに意識を取られてた」


 リドル子爵子息は転倒しそうになったことで顔が赤くなっていた。


「どういたしまして。それより、この出港を見ると練度が高いね。何をしてるのか、ビックリして少し追いつかなかった」


「ふふ、みんな何度も往復して鍛錬してるからね。操船技術はかなり高まったという報告が入ってる。アル兄さんの助言で始めたけど始めて良かったよ」


 リドル子爵子息は嬉しそうに笑顔で答えた。


 ルクレイはリドル子爵子息を誘って船首側の巻き上げ機の傍に移動する。途中で荷物から棒を二本取り出して一本をリドル子爵子息に渡す。


 棒を受け取ったリドル子爵子息は「これは?」と首を傾げた。


「手っ取り早く胃に隙間を作るなら身体を動かした方が良いと思う。で、動かすなら棒とかを振った方が効果あるかなって」


 その後、ルクレイは双子がやっていた鍛錬に近い形でリドル子爵子息の身体を動かさせた。思ったより身体のバランス取りが上手く調子よく棒を打ち込んでいた。


 リドル子爵子息の体力が尽きる前に休憩に入り、紅茶を飲んだり、リドル子爵子息が持ち出したホルン乾燥肉を食べたりした。


『ホルン乾燥肉って、まんまビーフジャーキーな件』


 リューウェンの洞窟三層にいるホルンはとにかく美味しいと暴露が始まった。


 情報を総合すると、洞窟と亀裂はひとつの層が広く、アルフォンスたちは魔馬で移動してると知った。そして、六層までは四人全員がソロの戦力で踏破したと。


『ソフィア王女様までソロの戦力で踏破って意味が分からない。リドルのお姉さんも含まれてるってのが複雑だ。リドルの話ぶりだと規格外で良いみたいだけど』


 ルクレイはリドル子爵子息の暴露は素直に受け取ることにした。これは、ユリウス公爵子息が気が付いても放置した事でルクレイは諦めたともいえた。


 話はリューウェンで起きたらしい変化に移った。王都にいたリドルも把握しきれてないとのことで、一緒に回ろうとお願いされたので了承した。


『魚粉と謎のウル粉はお土産で貰ったやつだよな。あれは美味しかった。伯爵夫人が料理長に使い方の研究を指示してたぐらいだし』


 身体を動かし胃のもたれが取れたリドル子爵子息は昼食を挟み鍛錬を続けた。適度に鍛錬し、水に粉末果物と塩を溶かした飲み物で水分補給し続けた。


 リューウェンの港が見えてきて鍛錬は終わり下船の準備に入る。街中は騎乗移動すると言われたのでニロンに馬具を付けた。


 ニロンはルクレイからカツアゲした粉末果物のお試しセットの味見をしてご機嫌だった。手すきの侍女さんにニロンの相手を頼んでいた。


 連絡船は帆を畳みノルド家の桟橋に滑り込んだ。


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