第三節 小箱に転がされたルクレイは目が痛い
「ふぅ、少し休憩しようか。ダルン、先に戻っていてくれ」
ユリウス公爵子息はダルンたち冒険者にこの場を離れるよう指示した。
「あと、今日の間引きは予定外だろ? ぜんぶ持ち帰ってノルド子爵家の連絡船に渡しておいてくれ。料金は俺の方から後で渡す。頼んだぞ」
ダルンは「了解しました」と答え、周囲に声を掛けて宿場街に向かった。
ユリウス公爵子息は席を立つと紅茶を淹れる準備を始めた。ある程度は習ったと声を掛けるが、冒険者として慣れているから問題ないと断られた。
『うーん、ユリウスさんの態度の変化は正直なところ心当たりがない……というか……イヤーカフが原因なんだろうなぁ……』
「おっと、難しい話ではないから雑談してていいぞ。リドルは目がキラキラしてるし聞きたいんだろ? ただ、それが出た理由は誰にも分からないぞ」
リドル子爵子息は「そうだった!」と声に出し会話を始めた。
「イヤーカフが出た理由は、リサ姉さんもアル兄さんも分からないんだった。話の中核だと思うけど、それと似たイヤーカフはアル兄さんたち四人が持ってる」
ルクレイは「えっ?」と驚いて声が止まった。
「ユリウスさん、今までの情報収集でも出てないんですよね?」
ユリウス公爵子息がお茶を注ぎながら「おぅ」と軽く答えた。
「つまり、その二つで合計六個のイヤーカフが存在することになるんだ。僕は純粋にリサ姉さんが嬉しそうに触って自慢してくるから、覚えててビックリした」
リドル子爵子息は「ちょっと情けない」と肩を竦めた。
「俺は少しひねてるから、『なぜ?』という疑問が大きかったな。最初に開けた小箱から出てきたということは何らかの意味があると考えるだろ?」
紅茶を配膳し、お茶菓子で乾燥果物をテーブルにおいてユリウス公爵子息が言葉をつなぐ。席に一度座り、思い出したように席を立ち小箱の袋を持ってきた。
「ただ、そのイヤーカフがどういう意味かはまったく不明だ。アルフォンスたちが隠してるとしたら、ヤバい機能となるが、普通にまだ判明してないと考えてる」
ユリウス公爵子息は「隠す意味がないからな」と肩を竦める。
「アルフォンスたち四人はとにかく強い。桁違いとかそういうレベルとは違って根本的に戦いにならないレベルで強いんだ」
『つまり、機能は分からないけど、アルフォンスさんたちと同じ物が出たという点での警戒?……少し違う気がするな。どちらかというと興味か』
「俺は焔隼の翼という冒険者パーティーのリーダーをしてる。亀裂は冒険者で管理する予定だから、俺のところに管理の話をアルフォンスが持ってきた」
ユリウス公爵子息はため息を吐いて頬杖をついた。
「もし、そのイヤーカフだけど、機能が分かって危険そうなら教えて欲しいとお願いしておくね。小箱は公開するから危険な物が出るなら規則を作る必要がある」
ティーカップに口を付け一口飲んで言葉を続けた。
「今回の検証で『恋人のプレゼントが出た』という点は公開する可能性を知っておいて欲しい。恋人へのプレゼントなら、恐らく危険な物は出難いと思いたい」
『うわー、何ていうか、アルフォンスさんの容赦のなさが凄い。亀裂の管理はユリウスさんに振る必要性はたぶんない。適任そうだから振ったってことだよね』
「分かりました。このイヤーカフはとても素敵です。ヴィーに付けて欲しいです。たぶん、淡藍色がヴィーのです、これ絶対に似合います」
ルクレイは綺麗な淡藍色の石をそっと撫でた。
「言い忘れた。その色はたぶん個人色だ。同じ色でぶつかるのかは分かっていない。アルフォンスたちもそれぞれ色を持っている」
ルクレイは「個人色……」とユリウス公爵子息の言葉を反芻した。
「とっても素敵な考え方です。僕のは海にちなんで濃青色だったら嬉しいな」
リドル子爵子息が「その色だと」と言葉を入れてきた。
「海は海でもどちらかというと深い海の色って感じがする。こんな言い方は嫌かもって思うんだけど、ルクレイが拾われたかなりの沖合の色に近いかもね」
ルクレイは「リドル凄いな」と言葉を聞いて驚きを返す。
「俺もその発想は凄いなって思ったぞ。そうだよな『落とし人』だから海が由来か。こんな言われ方も嫌かなと思うかもしれないけど、良い家庭を作ってくれ」
『良いこと言ってるはずなのに言い方! おまけに十歳に言うの違うから! 嫌でも言うとかこの二人はストロングスタイル過ぎるだろ』
「よし、一息ついたし続けようか」
ユリウス公爵子息の軽い言葉に、ルクレイは『まてー、続けるって何?』と混乱した。そのまま袋から小箱を二個取り出してルクレイの前に置く。
『ちょっとまてー。目の前に二個置くとか、また開けるのか? 本気か?』
「ルクレイ! 今度こそ手袋だよ! 手袋! 手袋! 手袋!」
『何でそんなに手袋を推す。なんか手袋に思い入れでもあるのか?』
「リサ姉さんがね手袋付けてから手荒れがなくなったって言ってたよ? 女性陣に大人気なのにはきちんとした理由があるんだよ! ヴィオナ嬢の手を護るんだ!」
ルクレイは「手袋こい!」と口走り祈りを捧げ始めた。
ルクレイは祈る振りをしながら『どんな手袋?』と手袋のデザインが決まらずにいた。悩んだルクレイは『魔力くんお願い』と魔力くん頼みに走った。
ルクレイは意を決して小箱を開けた。
「これは……手袋? 妙に薄くてペラペラって感じだけど…って手袋だ」
「あっ、そのタイプが出たんだ。その系統は『殴る系』ってソフィ姉さんが言ってた。そのタイプを最初に出したのもソフィ姉さんだったよ」
『殴る系? 殴るって拳士タイプじゃん!……えっ、ヴィーに向いてる……』
「ふと思ったんだけど、ソフィア様ってどういう感じなの?」
「えっ? ソフィ姉さん? そうだなー、明るくて、気さくで、ムードを作るのが上手くて、めっちゃ美人さんって感じかな」
『最後の美人さん以外は系統が似てる……ヴィーは超可愛い系だからな』
「そうなんだ。何ていうか、ヴィーと気が合いそうな気がするかな……」
「あと、最近は剣をやめて拳にした武闘派?」
リドル子爵子息は首を傾げて武闘派と追加で情報を押し付けてきた。
『美人さんの王女様がガチ拳士だった件』
「そうなんだ……、実はヴィーは拳士なんだよね……ははは」
『ヤバい、これ絶対に旗が立った! どういう旗かは分からないけど……立った』
紅茶を飲みながら会話を眺めていたユリウス公爵子息が手袋を指差した。
「その手袋も個人色だね。ルクレイは濃青色の方を着けてみなよ」
ルクレイはユリウス公爵子息に言われて試しに手袋を着けてみる。
「あれ? この手袋、手の甲の部分が広めになってるよ? ペラペラだからからか、あまり着けても違和感がないんだね」
ユリウス公爵子息が「魔力を流してごらん」と軽く指南する。
「えっ? これ魔力流せるの?」
ルクレイは手袋に魔力を流し込んでいく。流れ込んでる感覚はあるが、どんどん流しても変化がないためルクレイは首を傾げた。
少し不安になったルクレイは、手袋に魔力を流しながら目に近づけてマジマジと観察した。すると、頭の中に『飛竜の皮膜』と浮かんできた。
ルクレイが固まり『飛竜って異世界物のワイバーン?』と考えた瞬間、手袋が濃青色の光を放った。
「目がーー痛ーいーーーまたかよー」
目を押さえてルクレイは椅子から落ちてゴロゴロと転がった。ルクレイは、グラナム号に救助された直後に直射日光で目を焼かれそうになった事があった。
転がり芸にユリウス公爵子息は我慢できず大笑いし始めた。ただ、眺めていたユリウス公爵子息とリドル子爵子息も目にダメージを受けていた――。
「いやー笑った笑った。ルクレイは転び芸もできるんだね。それは置くとして、それは手袋というより、既に手甲って考えた方がいい感じだね。サンプル増えたよ」
「ルクレイ、そのタイプをソフィ姉さん着けてるけど、ちゃんと手荒れは改善してたから大丈夫だよ」
『このタイミングでその情報っ! 嬉しいけど……微妙』
「やったー、ヴィーに早く渡したいな。まだ、進学に関する方向が決まってないみたいで、王都で情報収集してるんですよ」
「あー、王立学園は閉鎖中だからなぁ。学園長が生徒のアルフォンス襲撃を事前に対処してれば、王立学園は閉鎖にならなかったんだが……」
『学園閉鎖もアルフォンスさんが関わっている件』
「育成学校はやっぱり方向性が違うって聞いたけど、ユリウスさんは知ってる?」
リドル子爵子息がユリウス公爵子息に尋ねる。
「んー、なんだろう。育成学校は実技重視で悪くはないはず。ただ、技術といっても多岐に渡るだろ? それを網羅できてるわけでもないからなぁ」
ユリウス公爵子息は「悩むと思う」と苦笑いを浮かべた。
ユリウス公爵子息は「よし」と席を立ち、宿場街に戻ろうと声を掛けた。そして、小箱の入った袋をルクレイに渡した。
「ルクレイはヴィオナ嬢と一緒に洞窟か亀裂に入るだろ? 入る前とかに必要そうなら開いてみてくれ。出たもので危険なものは教えてくれよ」
思わず受け取ったルクレイは頬がピクピクと動いていた。
『まだ検証が終わってなかった! でも、助かるは助かるか……』
ニロンに遅いと小突かれ、ルクレイは謝ったが粉末果物を要求された。ルクレイは粉末果物屋で『お試しセット』を買って三セット持ってるとバレてる気がした。
明日にはリューウェンに到着するはずである。なんか、予想外に手間取ってるように感じたが、ルクレイは諦めて流されていくことにした。




