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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十九章 アスグレイヴ侯爵家訪問と魚との戦い

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第三節 実演は騒乱となり浜焼きは満腹になった

 アスグレイヴ侯爵領の港町リベルグにある代官屋敷の玄関前に多くの人が集まっていた。従僕たちは荷馬車の荷物の最終確認を進めていた。


 リドルは侍女たちに簡素な箱馬車に乗るように指示を出し侯爵家の馬車に子どもたちを詰め込んだ。レグルスの姿はなくオランド号に騎乗で先行していた。


「それでは工房での実演と浜焼き場の確認作業に行ってきます。ルクにぃがバタバタして色々と予定が崩れていますが諸々の連絡をお願いします」


 リドルがオスカー侯爵子息に話し掛けた。今回の訪問の実務責任者にリドルが割り当てられていた。ルクレイの無茶振りだがリドルは平然としていた。


「あぁ……本当に俺は行かなくていいのか?」


「ハールベン伯爵領でもまずは僕たちで話を持って行く形にしています。オスカーさんが先に行くと提案でなく指示になってしまうのでこの方が無難です」


 オスカーは難しい顔でリドルの説明を聞いた。実演内容と提案内容は晩餐後に聞いているので指示でも良いような気がしていた。


「あなた、ここはルクレイ殿の判断に任せましょう。正直なところ私たちよりルクレイ殿とヴィオナ嬢の方が歴戦と言って良い程に差があります……」


 エリオット侯爵長男夫人がそっとオスカーの二の腕に手を添えた。


「それは俺も感じてる。ヴェルナーも軽々誘い出してるし……これは父上と話そうと思う。リドルくんに負担を掛けてしまうがよろしく頼む」


 オスカーはエリオットの行動に目を丸めたが深い息をしてリドルに頭を下げた。


「ルクにぃと関わると基本的にそうなります。まだ先があるし届く努力をしようって思うんですよね。これから長い付き合いになりますから一歩ずつです」


 リドルは苦笑いを浮かべオスカーたちに軽く頭を下げ相棒のヘラムに騎乗した。先に動き始めている馬車の前に出て街中を港に向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「おぃおい……ルクレイは魔物討伐に行ったのかよ。現場の視察とかあの二人が出たら視察で終わらんだろ。……リアンもそう思うだろ?」


 オランド号の下甲板でレグルスはメダル船長とリアルに予定の変更を伝えに来た。早朝からルクレイたちは既にリベルグを出て現場に向かっていた。


「そうね……ヴィオナちゃんから前に聞いたけど二人は普通に魔物を討伐してますから。……取り敢えず私たちは実演の準備をしちゃいましょう」


 リアンは悩むだけ無駄と近くで様子見していた従僕に工房への実演をする事を伝え準備をお願いした。船員数名にはレグルスに同行するよう指示した。


「実演が終わってレグルスたちが出たら街中を散策するか」


 メダル船長が役割をリアンに奪われたので手持ち無沙汰になった。後でリアンを誘って街歩きを楽しむ算段をし始めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 リドルが厄介草を乾燥魔道具で乾燥してマルセリオに渡した。受け取ったマルセリオは半分をフィリクスに渡し二人でコロコロ棒を使い外皮を剥がした。


 三人は慣れたもので製糸工房の人にもやってもらった。


 製材工房主は従僕が乾燥魔道具で輪切りにした間伐材の生木を乾燥させる手際に愕然としていた。従僕は乾燥させた丸太の輪切りを工房主に渡した。


 製材工房の従業員を手招きし乾燥魔道具を五台並べ生木の乾燥をやらせてみた。五人に一台をずつ割り当て一本の木材を乾燥させた。


「パキッ」「バキッ」


 木材から割れる音が響いた。従業員が「「あーー」」と悲痛な声を上げる横で割らなかった従業員がドヤ顔でからかい始めた。ムキになって乾燥を始めた。


「すみません。レンデールでも実演を予定しているので生木の輪切りと木材を手配してもらえませんか? あれはたぶん止まりませんので……」


 従僕は少し煽り過ぎたかなと思いながら製材工房主にお願いした。従僕はレガリアの製材工房でも全く同じ光景を見ていたので早々に諦めた。


「任せてくれ! お前ら! 乾燥魔道具と丸太を持ってこい! 一番上手く乾燥させたヤツには俺が酒を奢るぞ! お前は手空きの連中を呼んでこい!」


 製材工房主は従業員たちに指示を出し乾燥させている従業員に順番に試して選抜しろと指示を出した。乾燥魔道具をかき集めろと激も飛ばした。


「なんか……この街の工房主ってノリが良い? 製糸工房の方は厄介草を取りに行かせてるよ? わざわざここまで持って来なくても良いと思うんだけど」


 リドルは流れが完全に暴走を始めた事にドン引きしレグルスに小さい声で話しかけた。レグルスは「あれ楽しいからね」と口を濁した。


 ふと二人は魚粉を担当する事になった従僕の方に視線を向けた。漁師ギルドのギルド長が従僕の肩をバンバン叩いて「任せてくれ!」と叫んでいた。


「これちょっと収拾つかない感じだね。一息ついた辺りで工房主たちの矛先をオスカーさんに逸らそう。ヘブラナでもエレーネ夫人に丸投げししてたし」


 リドルは手の打ちようがないとレグルスに伝えた。レグルスは頷きその辺りの調整もいい経験になるとリドルに免罪符を手渡した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「本当に参ったよね。盛り上がり過ぎて港湾事務所が怒鳴り込んで来るとは思わなかった。製糸工房主が製材工房が集めた乾燥魔道具持ち逃げしたのは笑った」


 レグルスは騎乗で移動してるリドルとマルセリオとフィリクスに話しかけた。結局四人は騎乗にしてのんびりと浜焼き場候補地に向かっていた。


 現場の混乱は港湾事務所の職員によって制圧された。工房主たちはすごすごと工房に戻った。その時に乾燥魔道具持ち逃げ事件が起きたが結果は不明だった。


 気を取り直してクラムたちも騎士の前席に収まり馬車は代官屋敷に戻した。あの騒動の後で馬車は正直なところ狭苦しかった。


「まぁ……予定より早く実現も終わったし実演は大成功だったから良いよね」


 リドルが前向きな成功として処理する事にしたので全員が頷いた。


「少しお尻が痛くなってきた!」


 静かに騎士の前席に座っていたレイチェルが発言した。急遽二人乗りの鞍に付け替えたアスグレイヴ侯爵家の騎士にレイチェルは乗せてもらっていた。


 リドルたちはレイチェルの周囲に集まりレイチェルの姿勢に修正を入れ始めた。しかし感覚が分からない状況だったのでクラムと場所を交換した。


 レイチェルが乗った馬の騎士はレイチェルに馬の名を伝えた。そして馬にレイチェルは初心者でこれから慣れていくところだと説明した。


 移動を再開し騎士はレイチェルに馬の気持ち良い乗り方こそが重要と話した。馬ごとに癖はあるがこの馬は耳に感情が出やすいと説明した。


 レイチェルは初めて聞く事に驚きながらも話題として楽しかった。撫でて良い場所と良くない場所を聞き声を掛けて撫でたりもした。


「メルカド伯爵家ではあのような指導で教えているのですか?」


 アスグレイヴ侯爵家の騎士がマルセリオに恐る恐る尋ねた。


「基本的にはそうだけど……君に話しても意味はないよね?」


 マルセリオは少し考えて騎士に答えた。騎士は「申し訳ございません」と謝罪を口にした。マルセリオは謝罪は特に触れることなく話を続けた。


「乗馬技術は伝聞だと効果も出ない。君が興味を持ったという事はこの話は少し広げる価値がありそうだ。オスカーさんに話を持って行った方が良いね」


 マルセリオは騎士に答え「リクはどう思う?」と話を振った。


「場所的には中央も絡んでたと言っても南部だけで魔物討伐が出来なかったよね。お父様も騎乗から交流を持つのは賛成すると思うかな」


 フィリクスは交流を支持する意見を出した。


「リドにぃは海が主力だからレグはどう思う?」


 陸上の話なのでマルセリオはレグルスに振った。


「中央南部はアル兄たちの話ではそもそも無理だったみたいだけど……陛下に言って騎乗技術の交流を進める仕組みを作れば良いと思うかな」


 レグルスはサラリとヴァルディス国王を巻き込もうと提案した。


「えぇー、陛下に上げるの?」


 飛ばされたリドルがレグルスの飛躍に驚いた。


「事は武力に関わるからね。なんか悪戯を仕込むとは思うけど話を通さない選択肢がそもそもないよ。それに騎乗技術なら公爵家を入れた方が効果あるし」


 レグルスは貴族家の武力連携は王宮を通さないと面倒な事になる点を伝えた。そして何より武門筆頭のマクシミリアン公爵家も含めるべきだと説明した。


「そうだった……うちってどうしても陸上戦力を軽く見ちゃうんだよね。騎士たちは船上戦闘も鍛錬してるし騎乗鍛錬もしてるけど意識は薄いな」


 リドルは騎乗技術の交流は確かに王宮の許可が必要だと理解した。


「ノルド家やメルカド家は陛下も信頼してるからね。武門でない貴族家も異変の対応で痛感してるみたいだしまずは騎乗技術交流は良い機会だと思うよ」


 レグルスはこれが進めば確実にアルフォンスの負担は減ると考えていた。溢れを潰すのは王国の騎士団が主軸にならないと王国である意義が薄れると思った。


「その辺りはルクにぃが戻ってからオスカーさんと話し合おうか」


 マルセリオは決め手に欠けた状態なので先延ばしにした。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 浜焼き場候補地の視察自体は問題なく進んだ。このリベルグの海岸線が岩場は放置して後は桟橋を設置していたからである。


 湾の東岸は岩場以外はかなり整備されていた。リドルたちの結論は浜焼き場の分散だった。比較的大きな岩場が湾の口に近く街から遠い点も集中を阻害した。


「基本的にレベナの浜焼き場で使ってる部分ぐらいの規模が基準になるよね。候補地は五箇所だから全部が稼働するとリューウェンと同じぐらい?」


 フィリクスが大きさの確認をリドルに振った。


「どうだろ。管理を考えるとリューウェンのように大きい方が良いけど使う側から見ると分散しているのも良さそうだよね。ただ漁師の入ってない岩場は大変?」


 リドルもフィリクスたちと入り浸ったが大きさはあまり覚えていなかった。最近では薪置場と竈用石置き場の増設が決まったと聞いてはいた。


「その辺りは漁師ギルドが調整してくれるよ。ていうかルクにぃはなんであんなに漁師ギルドに好かれてるんだろ。初めて来た地のギルドなのに不思議だよね」


 マルセリオにしてみればルクレイに対する漁師ギルドの熱烈歓迎が面白くもあり不思議でもあった。レンデールはどうかがすごく楽しみだった。


「漁師ギルドは基本的に弱小ギルドだからねえ。ルクにぃと女神様が被ったのかなぁ。ヴィオナ嬢と並ぶと愛し子って僕でも思うからね」


 リドルがルクレイの中性的な童顔をネタにした。二人並ぶとまさに癒し系なのだが冒険派を騙るガチの武闘派だと常日頃から思っていた。


 ちなみに試験運用として子どもたちはたらふくエビやカニを浜焼きで食べていた。近くにいた人や漁師や子どもたちも混ざり浜焼き談議を繰り広げていた、


 その結果として帰路は馬たちにゆっくり歩いてもらっていた。


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