第六節 浜焼き場の確認と移動の雑談はお洒落と体験
空中を駆けるルクレイはオランド号を目指した。一際大きいオランド号は静かに桟橋に佇んでいた。しかし船員たちは朝から動き回っていた。
「メダル船長ー、ヴィーたちはもう出るとこ。見込みの薄い西側を見てから東側を見てくるねー。船員さんたちも開催できたら楽しんでね〜」
船尾側にメダル船長とリアンがいたのでルクレイは空から声をかけた。リアンが小さく手を振りメダル船長は「おう」と応えた。船員たちも手を振っていた。
ハールベン伯爵領の領都は横に広い湾の西寄りの小さな河口を抱き込む形で作られている。西側に貴族専用桟橋が四本設置されていた。
オランド号は四本の桟橋で一番東側に接岸していた。ルクレイは海上に出て西側の岬を見ながら岬の付け根に向かう。
「場所は悪くなさそうなんだけど少し狭そうなんだよね。潮あたりが見込めないから海水浴向け?……海水浴もいいなぁ。リランにめちゃ期待!」
駆けながらニヘラと笑ったルクレイは上空から岬の付け根を見下ろした。小さな砂浜と岩場があり波の当たりも弱くまさに海水浴向けだった。
「この形はレベナには見当たらない。これ海水浴に良いと思うから違う形でレイチェルに話しとこう。絶対にキャンプしたら映えるよね」
ルクレイは踵を返し湾内を東に向かい駆けていく。貴族専用桟橋の先には一般用の桟橋が続いていた。連絡船より小さい船が数隻停泊していた。
一般用桟橋を越えて少し進むと岩場になっていた。西側の拡張性はここまでとなる。湾はまだ先もあるので別の拠点が必要になるかもしれなかった。
「潮の流れは西側の岬から入ってきて岸寄りを東に抜けてるのか。流されるとちょっと厄介な気がする。潮あたりは強めだけど広さも十分に取れそうだ」
ルクレイが上空から見ていると下から指をさす子どもに気が付いた。ルクレイは手を振り岩場に降りて子どもたちのところに降りた。
「こんにちはー僕はルクレイ」
ルクレイは笑顔で声を掛けた。子どもに話を聞くと漁師の子どもでエビを獲りに来ていた。ルクレイはざっと浜焼きの話をしてエビを獲るのを頼んだ。
「「「えぇー」」」「領主様たちが来るの?」
「リューウェンだと浜焼き場は多くの人に支えられてるんだ。そこでは君たちのようにエビとか獲れる子たちも頑張ってるから君たちも挑戦してみない?」
四人の子どもたちにルクレイはお手伝いの提案をした。
「「「……」」」「やるー」
子どもたちの中で一番小さな子が名乗りを上げた。残った三人は目を丸くして手を挙げた子を見た。この集団の力関係が何となく見えルクレイは笑った。
「桟橋に戻るんだけど海岸沿いを抜けていけば大丈夫?」
念のためルクレイが訪ねると四人がこくこくと頷いた。
ルクレイは水壁を展開しながら「エビ一杯食べたいな〜」と声を掛けて手を振り空中に飛び上がった。空中にできた通路を桟橋に向かって駆け出した。
◇ ◇ ◇ ◇
ルクレイがオランド号に着くとヴィオナたちは到着していた。上甲板でメダル船長やエレーネ伯爵夫人たちがお茶をしていた。
ルクレイはべガンを見つけ浜焼き場の場所を伝える。エレーネが手配した荷馬車がべガンの指示で動き出した。船員も半舷交代で浜焼きに参加する。
「エレーネさん浜焼き場の候補地は東側ですね。広さが取れるので街寄りを最初に使うと決めればやりたい人が進めてくれます。管理の手伝いは必要ですけど」
上甲板に上がったルクレイはエレーネに声を掛けた。
「ヴィー、荷馬車は先行したけど僕たちが入るとバタバタするからもう少し待機ね。漁師の子どもがいたから食材確保のお願いしたから上手くいきそう」
ルクレイはヴィオナの横に座り状況を説明した。ヴィオナはニコッと微笑んで頷いた。実はイヤーカフで状況は伝えてあるため周囲へ伝える行為だった。
「漁師の子どもたちですか?」
「ちょうど岩場にエビを獲りに来ていました。浜焼きするので協力をお願いしてあります。もともとエビを獲りに来ているのでその場で売れれば良いかなって」
エレーネはこの短時間に場所を確認した上にたまたま会った子たちと交渉を済ませているルクレイに呆れた。行動力があり過ぎると首を振る。
「僕は岩場に竈用の石を出して来るね。後で水中散歩してみようね。ここは潮の流れがレベナと違うから海の中も確認しておきたいかな」
「了解。水中散歩は楽しみにしておくわ」
ヴィオナはルクレイの予定の話に満面の笑みで答えた。
ルクレイはサッとヴィオナの髪にキスを落として空中に駆け上がり東に向かっていった。ヴィオナは赤くなりながらも嬉しそうだった。
『本当に自然にイチャイチャしてますね』
さらりと髪にキスをしていくルクレイにエレーネは目を丸くした。
「リオー、リクー。岩場で釣りをしてみるみたいよ。釣具をまとめておいてね」
ヴィオナが突然マルセリオたちに釣具を用意するように声をかけた。エレーネの方に顔を向けたヴィオナは釣り繋がりでお願いを口にした。
「釣り針が欲しいようなので手配をお願いして良いでしょうか?」
「釣り針ですか?……鍛冶工房だったはずですが……漁師ギルドに聞いた方が良いかもしれませんね」
ヴィオナのお願いにエレーネは少し考えて答えた。それを聞いたヴィオナは少し言葉を止め少し考え頷いた。
「鍛冶工房と漁師ギルドにも声を掛けて浜焼き場に呼びましょう。……そうね。造船工房にも声を掛けて話があるので責任者に顔を出してもらいましょう」
「……分かりました。ちょっと侍女に指示を出して来ます」
ヴィオナからの依頼を受けエレーネは席を立ち侍女を呼び寄せ話を始めた。本館から侍女や従僕を追加で呼び寄せ各工房への伝達の手配をした。
『今のヴィオナ嬢は少し話し方に違和感がありましたね。そう……まるでルクレイ殿と相談して流れを整えているような空気を感じました』
エレーネはルクレイとヴィオナが事前の相談はしていたと思っていた。しかし突発的な動きをヴィオナが持ち出す事に二人の関係性で一つの疑問を持った。
◇ ◇ ◇ ◇
「さてエレーネさんそろそろ移動を開始しましょう。移動は馬車と騎乗になります。荷馬車は戻って来ますので侍女たちはそちらで移動させます」
ヴィオナがエレーネに声を掛けた。席を立つとマルセリオたちにも声をかけ移動の準備に入った。レイチェルも一緒にオランド号から下船して桟橋を移動した。
オランド号の渡し板はヴィオナがエレーネをエスコートして桟橋に降りた。エレーネはこの時初めてヴィオナがドレスでない事に気が付いた。
『ヴィオナ嬢の服は乗馬服ですね……。考えてみれば騎乗移動してました。ルクレイ殿のエスコートが自然すぎてドレスと認識していましたわ』
エレーネは淑やかに移動からエスコートに入った時に乗馬服と気が付いた。ドレスで渡し板を降りるのはかなり怖い。その時の裾捌きが男性的だった。
「ヴィオナ嬢のその服は乗馬服なのですね。ルクレイ殿のエスコートを受けている時はドレスそのものでしたから気が付きませんでした」
「そうです。これは『ドレス風乗馬服』とレイが案を出して名付けた服です。わたしが小道から離れられないのを見て考えてくれたんです」
ヴィオナは頬を薄く染めフニャとした笑みを見せた。
「それは素敵な贈り物でしたわね。とても良くできてますし仕立ても凄いですね。その『ドレス風乗馬服』はメルカド伯爵家で作っているのですか?」
惚気の部分は生暖かく対応しお洒落な乗馬服にエレーネは興味があった。
「うちの服飾師が手掛けてます。型紙などはマクシミリアン公爵家に送ってますので王都でも広がっていくと思います。特に武門には絶対に受けると思います」
ヴィオナの答えにエレーネは「公爵家ですか?」と話が飛んだ事に驚いた。
「祖母がヴァルデン辺境伯家と縁戚なので送りました。武門筆頭のマティルダ様に是非とも使って欲しいと張り切って……今は母と王都に出ています」
「なんというかメルカド伯爵家は活発に動き始めてますね」
エレーネは引き篭もっている間の動きに多少の危機感を感じ始めた。
「レイのおかげです。塞ぎ込んでいた祖母も昔のように活発に動き出しました。リガレアやレベナはとっても活気が出ています」
桟橋を出るとマルセリオたちがワイワイ騒ぎながら待っていた。ヴィオナはふと考える仕草をして指示を出し始めた。
「リオとリクはバルムたちに騎乗しなさい。レイチェルくんも良いですか?」
ヴィオナがエレーネに尋ねると「大丈夫ですよ」と答えた。
「レグルスくんはニロンの後席で前席にレイチェルくんを乗せて。ニロンは二人をよろしくお願いね。わたしはエレーネさんと馬車に乗ります」
ヴィオナが移動時の配置を指示して騎士に先導させて出発させた。
「お洒落関係の話にレイチェルくんを巻き込んでは可哀想ですから。うちから王都に幾つか出してるものがあるので宣伝を兼ねてお伝えしようかと思います」
ヴィオナはエレーネに王都で流行りそうな物を伝え二人は情報交換を始めた。
「リオとリクは僕より年下なのに馬に乗れていて凄いなぁ。僕も乗馬の訓練をお母様にお願いしようかな。お父様が不在だからダメかなぁ……」
「僕たちはルクにぃに教えてもらったよ」
フリムに騎乗しているフィリクスがレイチェルの話に答えた。
「えぇー、ルクレイさんは教えられるの?」
自分では騎乗できないためニロンの前席に座る
「ルクにぃは教えるの上手いよ。ただ体験主義だからちょくちょく謀られるんだよね。そこはそこで面白いし意味があったりして困るんだけどね」
グリムに騎乗しているマルセリオが苦笑いを浮かべレイチェルに答えた。
「今日は新しい実演がないから分かり難いかもしれない。でも実演にレイチェルも参加してみると何か掴めるかもしれないよ。新しい事を覚えるの楽しいし」
レグルスはルクレイの本質は実際に触れ一緒に動く事で強い影響を発生する事だと思っていた。とにかく自発的に動きを誘発させると感じていた。
だからこそ自分から動く事をレグルスも意識するようになった。




