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海の落とし者と釣り竿  作者: うにまる
第十八章 釣りがブームで最初の訪問はバタバタ

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第四節 子どもの交流は楽しく領地の状況は厳しかった

 ハールベン伯爵領の伯爵邸マナーハウスにあるガゼボは数台の灯光魔道具で照らされ多くの子どもたちの笑い声が響いていた。


 ガゼボの傍にはヘキサタープが張られ焚き火台で焚き火がゆらゆらと小さな炎を揺らしていた。お土産で受け取ったローチェアにレイチェルも座っていた。


 晩餐も終わりローチェアでぎゅうぎゅうになりながらも八人の子どもたちがマシュマロを焼いていた。既に焼けたり溶けたり大騒ぎになっていた。


「アルフォンス殿が来た時もガゼボで晩餐をしました。同じガゼボの晩餐でも雰囲気がまったく代わりますね。レイチェルの笑い声は結構珍しいのです」


 エレーネ伯爵夫人は子どもたちのローチェアグループを眺めていた。


「それは……一人で笑い続けたら危ないですから。あのマシュマロって凄く溶けやすく燃えやすいんです。無言なのは油断すると直ぐにダメになるからですね」


 言葉を受けたルクレイの返事は少し変だったが状況の説明にはなっていた。


「なぜルクレイ殿は今回の顔合わせを企画したのですか?」


 エレーネは今回の訪問を不思議に思っていたので探りを入れてみた。


「ルクレイで良いですよ。……企画した意図はそれほどありません。元々、グレアルさんからリドルを連れ回して欲しいと頼まれたのがあります」


 ルクレイの認識では何となく回るという話が元からあった気になっていた。


「その時に例としてレンデールの名前は出ましたね。帆船の旅で知らない領地を回るのは楽しそうだなと思っていたので企画というよりは流れですかね」


 帆船で回るという点のみがルクレイの中で重要になっていた。


「レイチェルを見ているとこうやって会う事は大事というのが分かります。特に年代が近く領地的にも近いので訪問を受けて十分に意味があると思いました」


 エレーネの感覚では貴族家間ではよほど仲が良くない限り親同士も含め子どもの行き来も行われない。同い年なら三歳の時に王宮で会うぐらいである。


「僕もそう思います。リオとリクはリドルと会ってずいぶんと変わりました。初めて会った時は侍女から逃げて僕は不審者として誰何されましたよ?」


 ルクレイの軽い返しに「プフッ」とヴィオナが軽く吹き出した。


「元々王都で活動していたリドルだけでなく今ではリオとリクも領地のために活動しています。三人で考えて王宮に製糸工房の改善案を提出しています」


「それが信じられません。リドルくんは五歳でマルセリオくんとフィリクスくんは四歳です。工房の立て直しを実践して王宮に資料を出すなど……」


 五歳のレイチェルを見てきたエレーネにはとても信じられなかった。


「真剣に取り組めば出せますよ。結局は蓄積したものが文字になるだけの話ですから。文章として拙くとも言葉として話せれば最終的に文章になります」


 ルクレイの答えは経験の蓄積だった。考えるだけでなく実践が伴うことで経験となり蓄積することで言葉になるとエレーネに伝えた。


「レイはとにかく経験を重視してます。危険な部分は言葉で伝え経験で学ぶべきところは綺麗に言葉から外して経験させます」


 横からヴィオナがルクレイの徹底してると言って良い経験主義を話した。


「あのマシュマロも溶けたものは熱く焼けたものは食べれないと話しました。でもそうならないようにするコツは話しませんでしたよ」


 何気に面白そうな部分をルクレイは徹底的に隠すと暗にヴィオナは語った。そしてレジン糸を作る工程でも沢山の失敗を体験させていたとバラした。


「体験と言えばテントをお借りして良かったのかしら? レイチェルは楽しみに来てますがヴィオナ嬢のテントなのですよね?」


 貴族令嬢の持ち物を借りるのは心苦しいとエレーネは思った。


「大丈夫です。冒険デートで使う予定で買った物ですし間に合せです。婚姻後のレイとのテントは何人も立ち入り禁止にしますが」


「えっ?……僕たちの子どもも許可制?」


 ヴィオナのズレた返事にルクレイが上乗せしてズレた話に転がした。二人が真っ赤になって「子どもは入れます」と小さく呟いたりしていた。


『あぁ、これがレグルスくんの言ってたやつですね。言ってから赤くなるのはどうなのかしら。これって単なるダダ漏れという感じですね』


 エレーネは真っ赤な二人を生暖かい目で眺めた。心苦しく発した言葉で勝手に二重衝突したような状況である。フォローのしようもなかった。


「そういえば先触れにあった実演は明日行うのですよね?」


「……えっ?……あー受け入れに問題がなければ実施します。ちなみに製糸工房と製材工房ってどうなってるかお聞きしても良いですか?」


「先触れを読んで確認しました。ハールベン伯爵領は大きな河川がないので大丈夫でしたが……厳しいのは確かなようでした」


 ルクレイの質問にエレーネは自領内の製糸工房に人を派遣した。その結果としては決して良いものではなかった。


「製糸する中で繊維を取り出すまでの面倒な部分を改善する案なので製糸工房にそれなりの余力が生まれるはずです。生産性も上がるので収益も改善します」


 製糸工房の収益改善をルクレイは強めに押した。


「それは助かります。派遣した報告を見る限り製糸工房の人たちの努力だけで回していたようなものです。収益も改善すれば彼らの生活も楽になります」


 ルクレイの言葉にホッとため息を吐き出しエレーネは答えた。


「加えて今回は見本だけですがレジン糸という新しい糸も生まれています。アルフォンスさんたちが作り出した糸なので作れる体制もお願いしたいと思います」


 もう一つ先の未来の話もルクレイはエレーネに伝えておく事にした。


「新しい糸ですか……アルフォンス殿が関わっているのであれば対応する準備を始めます。情報はメルカド伯爵家に伺った方が良いでしょうか?」


 情報の連携はメルカド伯爵家が入るのかをエレーネは確認した。


「いえ、この件はリューウェンのナンニル製糸工房のナンニルさんが活発に動いてるので工房間で話を進めます。一息ついたら製糸工房から派遣してください」


 エレーネの懸念をルクレイはバッサリ切った。この件に貴族家の関与は不要と言い切り工房間で情報のやり取りを確定事項として伝えてきた。


「端的にレジン糸に関してはナンニルさんのところが防波堤になってます。できればナンニルさんの負担を減らす形でレジン糸の生産を増やしたいです」


 レベナでもレジン糸の生産を始めていた。しかし王都からの引き合い圧力が強すぎる状況にありリューウェンが防波堤としてレベナの立ち上げを支援していた。


「リドルとリオとリクの結論としてレジン糸と既存糸の生産を手分けする方向にするそうです。当面はリューウェンがレジン糸でうちが既存糸を担当します」


 ルクレイは双子たちの結論を確定事項として領の方針にすると伝えた。


「動きが早いですね。この件はかなり切羽詰まっている事を理解しましたので早急にヘブラナも体制を整えリューウェンの防衛戦に参加させてもらいます」


 エレーネとしては功績を積み上げる機会と判断した。家内のゴタゴタでアルフォンスと王宮に迷惑を掛けた責任の取り方と切り替えて参加を表明した。


「それと製材工房ですが……状況はとても悪いです。製材は乾燥した丸太不足が見えてます。森林管理の正常化に向けた作業で間伐材が溢れて身動きできません」


 領内の森林管理は長年の予算横領で改善の道筋が行方不明になっていた。


「森林管理に失敗している貴族領はどこも似た状況のはずです。特にリューウェンは製材工房が止まっていたので製材業務で手一杯と聞きました」


 間伐材問題は王国内の問題になるとルクレイは視点を変えるよう促した。


「そこでメルカド領は間伐材の処理手順を変える事にしました」


 従来の方法では身動き取れない状況なので間伐材に対しては違う対応をすると話した。それは乾燥魔道具で強制的に乾燥させて製材に回す方法だった。


「乾燥魔道具ですか?……強制的に乾燥させて消費させるという事ですか?」


 ルクレイの言葉を咀嚼したエレーネは考えの根幹を掴んだ。


「消費させます。集まるものは消費しないと絶対になくなりません。メルカド領は造船という形で木材を陸地から切り離す事にします」


「陸地から切り離す?……海に浮かべるという事ですか。造船……海に浮かべる分には場所は取りますが航路外に沖止めすれば済むという事ですね……」


 ルクレイの方針にエレーネは不可能でないと結論を出した。陸地に残せば場所が不足するから海に浮かべるというのは無茶ではあるが無理ではなかった。


 エレーネは首を振った。


「その造船に関してもハールベン伯爵家として参画します。今は新規の建造が止まっているので余力があります」


 閉じた目を開いたエレーネはルクレイに造船にも参画すると表明した。


「それは助かります。レベナで建造している船は漁船です。レベナの漁師に乗ってもらう漁船をレベナで建造する方向で進めています。参加しませんか?」


 ルクレイは笑顔で頷いた。海岸航路の造船工房に活気が戻ると考えるとワクワクしてきた。そして色々な船が生まれていくのを楽しもうと思った。


「……漁船ですか?」


 エレーネは地元で作る地元の漁師のための漁船というのは筋が良いと思った。


 エレーネとしては当主であるアドミラ伯爵は王宮で森林管理の対応を行っているため領務を一手に引き受けた状態で対応能力がかなり落ちていた。


 そこに産業局長と騎士団長が罪人として王都に連行された。騎士団は副団長たちが立て直しを行っていてエレーネはそこに割く余力がなかった。


 産業局も局長不在となり副局長たちで立て直しをしている状況である。そこに間伐不足に狩人や樵が勝手に解雇され森林に対する対応能力が激減していた。


 現状は騎士たちや参加希望者と残ってくれた狩人と樵で森林管理を正常化するために奮闘してもらっていた。そして結果として大量の間伐材が溢れた。


 それがルクレイと話して生木の間伐材を木材に変え船にするという一本の道を提示された。問題はあるが道筋が見えた事の方が遙かに重要だった。


「今は櫂船を使ってるはずですがヘブラナの漁師にヘブラナで建造した漁船を提供するのですね。どうせ建造するならその選択はアリですね」


 そもそも選択肢をなくしていたエレーネは見えた道筋を選択した。


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